2回
2023/12 訪問
「とおの屋 要(よう)」さんは朝ご飯も抜群!
「とおの屋 要」さんの朝ご飯について、ご紹介します。
和食のメインディッシュであるご飯。
お米の品種は遠野一号で、炊飯器材の釜は南部鉄器製。
カリフラワーと紫キャベツの茹で胡麻油和え、ワカメと大根おろしの和えもの、虎河豚のナレズシなど。
虎河豚のナレズシとは嬉しい限りだ。
朝ご飯から独自あるいは郷土の発酵食品を頂けるのは本当に幸せである。
さらに、イワナの一夜干しと2016年仕込みの4年熟成の唐墨。
そして、デザートも個性的だ。
合わせているクリームが面白く、自家製どぶろくを酢酸発酵させた【どぶ酢】のクリームをスモークしたもので、スグリを添えて。
オーベルジュの朝ご飯は、泊まった人しか味わえない贅沢な食事。
朝の散歩で土地の空気を味わってから頂くと、喜びがひとしおである。
2023/12/26 更新
ブログより転載!
岩手県遠野「とおの屋 要(よう)」の魅力とは?
それでは、「とおの屋 要」さんの魅力をご紹介します。
ご主人の佐々木 要太郎さんは他店での修行経験はなく、ご尊父と辻嘉一氏の『懐石傅書』から料理技術を学ばれた方です。
著書である『遠野キュイジーヌ』によると、尊敬する料理人は「虎屋壺中庵」の岩本さんとの事。
そして、ご自身が作られる御料理のみならずお酒は、他の誰とも異なります。
御料理だけでなく、ご自身で造られる【どぶろく】も多大な魅力がある為、パートを分けてお届けします。
「とおの屋 要」の発酵の魅力
「とおの屋 要」さんの魅力については、発酵と「ここでしか体験できない世界観」に尽きます。
「世界観」の中には発酵も内包されますが、敢えて「発酵が魅力」と明言したくほどに御料理に発酵調理が馴染んでいるため特筆します。
ホタテ
初めてお伺いした時に頂いたホタテ。
ホタテのソテーにトマトのキムチを添えるだけでなく、どぶろくを酢酸発酵させた酢で和えた鰹の血合いを合わせる発想が凄いと感銘を覚えた。
佐々木 要太郎さんは、土地に根付いた発酵文化と独自の感性を組み合わせる事で、発酵食文化と日本の食文化のその先に進めておられる点が凄い。
初めて訪問した際に、語弊無く「偉業」だと感じました。
「型」があると「取り合わせの固定観念」や「(市場が定める)食材のクオリティ」に寄ってしまうところ、要太郎さんにはそれが無く、あくまでもご自身のセンスとバックボーンの文化に基づく御料理なので。
都会では市販の発酵調味料を使っているだけで「発酵料理人」を名乗る人がいますが、発酵は自分でゼロから生み出さなければ本物ではありません。
…このように述べると口うるさいと思われがちですが、言っている方が変に思われる世の中なので、口うるさくとも敢えて明言したい由。
さらに要太郎さんは集客のために発酵技術を採り入れるのではなく、場の環境を活かして発酵を行っている点も大きな違いだと言えます。
よって、個人的には、発酵の本質が分からないと「とおの屋 要」さんの魅力には気付けない気がします(実際に、レビューを見ると、都会の流行りの料理が好きな人はミスマッチを起こすようです)。
蓬麩とホヤの自家製味噌漬け
裏を返すと、味覚が鋭敏な方や、その土地ならではな御料理が好きな方、自らも個性的な御料理を作られる方、他では頂けない御料理が好きな方(=他との違いが分かる方)であれば、間違いなくヒットする筈です。
なにせイマジネーションを刺激されるのでワクワク感が高まり、味覚の裏切りにハラハラする御料理なので。
いわば「真に料理好きな人のための御料理」であると感じます(要太郎さんは決してそんな意図を持たず、ナチュラルに感性に従った作られているように思いますが)。
余談となってしまいますが、世の中の食文化が安易な方向に走った結果、発酵食品の魅力を感じ取るには、食の経験や確かな味覚が必要な世の中になってしまったように感じます。
分かりやすい例が、漬け物です。
もとは乳酸発酵が伴い、複雑な味覚と香りを楽しませてくれるものですが、現在は調味液に漬けた工業的で平板な味わいの漬け物が主体になっています。
それに伴い、乳酸発酵を行った真っ当な漬け物に苦手意識を持つ人が増えていますが、これは時代の変化ではなく味覚の退化に過ぎないのではないでしょうか?
漬け物以外についても顕著で、「強い旨味」と「強い脂」の足し算を好む人があまりにも増えすぎですが、「分かりやすい味」に感動はありません。
感動は奥深く複雑な味に宿るものです。
本質的に発酵食品は家庭にあるものなので、敢えて言語化しないといけない点が問題なのですが、最近のネット社会は「分かりやすい味」ばかりに注目が集まる為、意識的に脱却して「深みのある味」を探求する人が増える事を願うばかりです。
お店を訪問した時に「お店の料理の本質」ひいては「料理人の世界観」に触れるためには、自身の味覚と食の経験を相対視して、常に学ぶ姿勢が必須だと感じます。
最後に、佐々木 要太郎さんには好きな言葉があるそうです。
一流の料理人は最高な食材を使って、最高な料理をつくる。けれども、超一流の料理人は、そこにある食材で、最高の料理をつくる
『遠野キュイジーヌ』より
僕は食べ手として「超一流の料理人」の御料理こそ食べ続けたいと願うばかりです。
「とおの屋 要」の自家醸造【どぶろく】の魅力
そして、「とおの屋 要」さんを知る上で忘れてはならないのが、自家醸造の【どぶろく】です。
僕は初回訪問時に「最高に美味しいどぶろくだ!」と、感銘を覚えました。
今でこそクラフトサケ醸造所が脚光を浴びており、美味しいどぶろくが多数リリースされていますが、その頃は野暮ッたい昔ながらのどぶろくも多々ありました。
よって、お米の粒感=存在感をハッキリと残しつつ、甘味や酸味のバランスから「上品」あるいは「スタイリッシュ」と感じさせる「とおの屋 要」さんのどぶろくは、「ワインとも勝負できる銘酒だ!」と確信させてくれました。
期せずして、2017年にスペインで最も有名なレストランの一つ「ムガリッツ」で、「とおの屋 要」さんのどぶろくを用いたコースが新設されたと聞いた時は、心から納得しました。
本当にお米だけで造られているの!?と思うほどに良い香りで、味わいに雑味がなく、それでいて奥行きのある美味しさなので。
なので、「とおの屋 要」さんを訪問される方は頼むのをお忘れなく!
どぶろくだけでなく、新たな醸造酒も次々と造られているので、日本の醸造酒を知る上でも今後目が離せません。
「とおの屋 要」のコースの詳細
「とおの屋 要」さんは、現在は御料理のみの予約は受け付けておらず、一泊二食付きのご宿泊のみとのことです。
そして、価格については時価ですが、目安としては1人55,000円(税サ別)の模様です。
「とおの屋 要」のコースの詳細
遠野産天然イワナ
自家製パニール入り味噌じゃが
スペシャリテ:自家製納豆のスフォルマート
海鰻の焼きもの
豚肉の古漬け(2年モノ)
米糠漬けの帆立と鮑の天麩羅
豚肉のナレズシ茶碗蒸し
岩場の海胆
豚肉の藁焼き
お食事:自家製玄米の雑炊、鰹の内臓に漬け込んだ海老
御料理の詳細については、「すしログ」を検索して御覧ください。