2回
2016/10 訪問
感性と味覚を刺激される名店
この度、秋に気が置けない友人と共に再訪しました。
全国でも特に好きなお店の一つなので、心から楽しみにしつつ。
再訪しても前回抱いた感動は全く色あせず。
京都の山野の恵みを頂く喜びに満ちており、
季節を変えて再訪する楽しみがあると感じました。
(料理を俯瞰しての感想は、前回のポストをご参考ください)
この度、頂いた料理は下記の通りです。
八寸
ワラビの葉、モロッコインゲンのエゴマ和え、揚げ栗、クロカワの揚げ物、
枝豆といちじくの酢の物、銀杏、目刺しの焼酎漬け、落花生、素焼きの林檎、
チカのスモーク入り生春巻、ミョウガの押し寿司。
冒頭から八寸と言うのもグッと来るが、あまりにも多品種なところが魅力。
枝豆といちじくの酢の物は黄粉酢で合えており、印象的。
目刺しは焼酎漬けにする事により、良い意味で鰯のクセが強まっており、酒肴的に昇華。
チカのスモーク入り生春巻は、チカをスモークサーモン的なアクセントに使用している。
ミョウガの押し寿司は酢漬けミョウガの酸味と鱧の旨味が穏やかに調和。
クロカワの揚げ物はサクサク、カリカリに揚げ、塩気をやや強めに利かせつつ、苦味を活かしている。
料理好きとして、非常に刺激になる八寸である。
高級素材を用いた日本料理の対極に在って精彩を放つ八寸だ。
椀もの
ハロウィン前だから…とカボチャを用いた椀。
素敵なユーモア。
カボチャは京野菜の鹿ケ谷(ししがたに)南瓜。
炒り焼きにした種をまぶしており、香ばしい。
カボチャの椀と聞くと甘みを想像するが、主張し過ぎぬ甘みで、香りが芳醇。
出汁は塩気を強めにしつつ、味噌との塩梅が丁度良い。
白味噌の椀だと、大徳寺一久も美味しいが、こちらは椀種との掛け算が面白い。
鮎の焼きもの
上弦の月をイメージした皿。
子持ち落ち鮎の焼きもの、ソースはみかんのジャム。
むかごとみかんのジャムの取り合わせが興味深い(相性も良い)。
鮎はカリカリ、ふわふわに焼いており、卵はジューシィ。
頂いて、こちら出身の召膳 無苦庵のご主人の仕事(焼き方)に類似を感じた。
今年最後の鮎となったが、焼き方にも様々な方法がある事を学べた。
なお、鮎の脇の唐辛子は赤い方も万願寺。
鯉のお造り
こちらで驚嘆に値する一皿。
3ヶ月の間、地下水で浄化した鯉はクセが皆無。
そして、前に頂いた時よりも脂が強いように感じた。
旨味がねっとりと舌に絡み、味が濃い事によって薬味や調味料との一体感もアップ。
薬味、あしらいはとんぶり、ノビル、ハスイモ、芥子菜、花オクラと多様。
醤油と山椒の味の加減と香りのバランスが良く、実に印象的な逸品である。
煮えばな
炊き合わせ
蓮根餅、生小豆の蒸し焼き、蕪、キノコ、生姜。
蓮根餅はみっちりと力強い歯応えで、香りが抜群。
一見すると地味なフォルムだが、その実、香りの多重奏が箸を止めない。
各素材の香りが複雑に絡まり食欲をダイレクトに刺激し、匂いフェチには堪らない(笑)
もちろん、香りだけでなく風味も抜群だった。
牛肉の焼きもの
例によって笹鰈と選べたが、放牧牛をチョイス。
前回は北海道産だったが、この度は丹波篠山産。
ソースは万願寺のソースに加えて、アカヤマドリダケ(フランスのセップ茸)と面白い。
肉は脂が乗っているが、サッパリ。
付け合わせのエゴマの葉、山葵菜に加えて、マコモダケが甘みしっかりで美味しい。
こちらは野菜の引き立て方も魅力の一つ。
ちなみに、「ヤマドリダケ」がイタリアのポルチーニを指すとの事。
お浸し
野三ツ葉、モロヘイヤ、オクラ、椎茸、錦糸瓜。
圧倒的な椎茸の旨味に加え、出汁の加減も良い。
お食事
こちらのご飯は本当に美味しく、面白い(笑)
水菓子
みかんゼリーの上に鎮座するのは何とバジル豆腐アイス。
そして、更にバルサミコ酢を。
添えられた果物は生姜を利かせた梨、マスカットベリー、トマトの原種。
トマトの原種はホオズキっぽいけれどトマトの香りがあり面白かった!
またお伺いするのが心から楽しみになるお店です。
本記事は下記のブログをベースに投稿しております。
すしログ:https://sushi-blog.com/
【2016年3月】
こちらは京都で心から訪問したかったお店の筆頭です。
かつて「京都で最も予約が取れない」と言われ、実際に予約のハードルが高く、
なかなか訪問出来ずにおりました。
この度、気合と運で予約を勝ち取り、念願の訪問となりました!
こちらのお店のスタイルは、ご主人自らが山に入り食材を採る「摘草料理」となります。
ご主人・中東久雄さんは毎朝大原に山野草や野菜を採取に行かれており、
その日の食卓には新鮮で鮮やかな草花が踊ります。
「摘草料理」と言うと渋い料理をイメージされるかもしれませんが、
こちらの料理とストーリー性(料理の構成)はさに非ず。
実にバリエーションに富み、サプライズを盛り込んで構築された料理の流れは、
ご主人の闊達なトークと相まって、華やかでテンポの良いものとなっております。
野菜だけでなく、魚も肉も使われ、
最後にはお竈さん(おくどさん)で炊いたご飯と、目刺し、香の物で〆る。
料理の一品一品にもてなしの心を感じ、強く印象に残る創作日本料理だと感じます。
素材は一級品ではありませんが、調理技術とセンスによって唯一無二の料理に仕上げる仕事。
僕はそのような職人仕事を感じさせる日本料理が大好きなので、
こちらのお店は徳山鮓以来の大ヒットとなりました。
昨今の日本料理店に無い魅力を持っている名店かと思います。
お店は銀閣寺の門前と言っても過言ではない場所にあり、店構えは質素。
いや、質素というよりも京都ならではな鄙びた気品があります。
店内に入ると、美しく磨かれた漆のカウンターと、
漆喰とコンクリートを合わせた懐かしくも何処かモダンな内装が迎えてくれます。
店内に入り、清浄でキリッとした空気が心地良く感じました。
そして、着目すべきところは、客席と板場の高低差。
昨今のカウンター割烹ではフラットなお店が多いですが、こちらは板場が数段下にあります。
ですので、料理風景を余すところなく眺められる空間です。
まずは、料理を待つ間にお茶が供されます。
このお茶が旨味抜群で驚きました。
舌の奥にじゅわっと強い旨味が広がります。
とは言え、料理に合わせてお酒を頂きました。
まずは、齊藤酒造の英勲。
英勲の後は、次Bクンね!うちのCクンはご飯にも合うよ!などと軽快なオススメを頂き、
ついついBクンこと山本本家の神聖、Cクンこと松井酒造の神蔵と計2.5合飲む事になりました。
八寸
こちらの八寸は見た目に美しく、味のバリエーションに富んだ逸品。
一品一品が滋味に富み、少しずつ頂く喜びに満ちております。
一口一口、季節を頂いているかのよう…
菜の花は湯がいておらず、香りが抜群!苦味も爽やかで素晴らしい仕事。
大原の生蒟蒻は今日び珍しい蒟蒻の力強い味わいを楽しませてくれる。
蒟蒻の揚げ物には素揚げしたユキノシタとニワトコがあしらわれ、
山野の香りが優雅に香り、風景が頭に浮かぶような演出。
黒豆の煮しめを酒粕と揚げ唐墨をまぶしたものは芳醇な香りとコクで、
可愛らしい丸く小さな形状ながらに喉を喜ばす。
山椒をまぶした猪の焼きものはジャーキーのように旨味を凝縮、
堀川牛蒡の時雨煮と頂くと力強い野趣を楽しめる。
赤蕪と白蕪を使用した糊こぼし椿は、頂くのが勿体無い程に可憐。
炒り玉子の甘みと優雅な酸味が実に合う。
そして、最もサプライズがあったのが、蛤の飯蒸し。
貝を開くと、土筆が顔を覗かせ、餅米に蛤の旨味が滲み、金柑が蛤の苦味を受け止める。
最後は山葵の葉をかじり、キリッと〆る。
全体として味覚の多様性と視覚的趣向に富んだ、素晴らしき八寸でした。
蕗の薹の白和え
蕗の薹の苦味を大豆の甘みと香りが心地良く包み込み、
椎茸の旨味が底を支えている。
平たい蒟蒻が食感のアクセントとなり、ぷりゅぷりゅっと気持ち良い。
なお、器は伊勢の半泥子廣永窯のものを使用されており、料理を引き立てる。
椀
出汁と白味噌のバランスが絶妙な椀。
頂くと出汁が立ち、白味噌の甘みが鰹の旨味と協奏し、その後塩気が引き締める。
実にリズムのある白味噌の吸い物。
和芥子を少し使用しているところも良い。
具はトチ餅で、美味しんぼを思い出しました(笑)
岩魚の焼きもの
見返り岩魚。部位ごとに調理法を変えている。
調理法を変えることで、頭の香ばしさや苦味、皮の酸味、身の甘みを顕在化。
部位ごとの味わいの違いを提示しており、面白い。
付け合せは芽キャベツ、紫蘇、堀川御坊抹茶、芹、一口こがねみかん。
一口こがねみかんに出会えるとは少し感動。
鯉のお造り
身、揚げたウロコ、煮凝り、辛味大根、ナズナ、ノビル、酸葉(スイバ)。
寝かせて旨味を引き出した鯉は一般的な鯛の洗いを凌駕する魅力。
全てを混ぜて頂く、という方法を提案されるも勇気が無くて逡巡(笑)
しかし、ままよ!と試みると、これが凄い。
個々で頂くよりも遥かに圧倒的な世界観の広がりを提示される。
噛み締めた時に感知する味覚、食感の数が桁外れ。
豪奢な料理ではないのに、この感覚には驚かされました。
煮えばな
ここでインターミッション。
お竈さんで炊いたお米を、柔らかくなる直前の状態で試食。
いわば、お米のアルデンテ。
水分含有率も高く、これ自体だとたくさん食べられないが、
初めて見るお米の表情がある。
僕は自宅で南部鉄器、もしくはフランス製の鋳物琺瑯鍋でお米を炊いているが、
土鍋も欲しくなってしまう(笑)
筍の炊き合わせ
干した一年モノの花山椒をあしらう。
筍の産地は物集女。ブランドとなっている山城の筍を超える産地。
柔らかさと気持ちの良い歯ごたえが同居し、噛みしめると甘みが漂い、
幼い苦味が心を翻弄する。
合わせているのは大根に餅粉か米粉をまぶして揚げたものか?
筍にうっとりし、伺うのを失念してしまった。
野生牛の焼きもの
笹鰈の焼きものとの二択でしたので、北海道の野生牛を(笑)
僕は常々、日本料理店で出す肉の立ち位置についてやや否定的な立場を取っているため、
如何なものかと検証する気持ちで頼みました。
頂いてみると、炭火でミディアムレアに仕上げられた牛肉は、
どっしりした旨味と力強い香りがあり、味わいはさっぱり。
食している草のせいだろうか。
爽やかな酸味が一連のコースの中にフィットしている。
また、付け合せの和芥子が秀逸で、キレのある辛味にすっと消える香りが上品。
賞味期限8時間ほどの手製芥子とのこと。
紫人参、白菜の菜の花、ミカンジャムを添えた蕪も良き箸休め。
以上、冒頭の目論見は「モノと調理法によっては、十分に有り」という結果に。
畑菜、ほうれん草、干し蕨、黄かせゆばのお浸し
出汁が素晴らしく、各素材の異なる食感が織りなす妙に一度リセットされる。
この後はお待ちかねの食事だが、綺麗な出汁で心穏やかに。
お食事
まずはセッティング…
香の物、鹿肉の赤ワイン煮そぼろ、古漬けの大根と煎った大豆。
立ち込める香りが堪りません。
その後は、目刺しに続き、例のお竈さんで炊いたご飯が登場し、スターが勢揃い。
いやはや、もう、美味しいの一言。
和食の根源的な構成なのに、贅沢さを感じさせるのはお店の実力。
しかも、その後、更に異なるお米の表情を見せられる…
フランス製おこげを中東製のオイルとイギリスの塩で
意味はオヤジギャグなので、勘の良い人はすぐに分かるかと(笑)
山椒オイルと塩で頂くおこげが美味。
そして…
ニューヨーク!
お米、おこげ部分、紫蘇ふりかけ、大根おろしの茶漬け。
感慨無量の〆でした。
一連の国籍ギャグをアメリカ人にも言い続け、失笑させた瞬間にご主人に惚れました。
水菓子
朝採りの苺、生麩入り白酒。
以上、お酒を2.5合で10,800円。
信じられないコストパフォーマンスです。
東京の高級日本料理店が見落としている日本料理の美点が存在するのは間違い無いです。
日本料理の「根幹にあるもの」をセンスを以って再解釈されているのは偉業。
突き抜けた個性、変態性はいつしか芸術の領域に入ると再認識させてくれました。
ここ一年で伺った鮨店以外のお店だと、
前述の徳山鮓に加えて、縄屋、食堂ヤーンに並んで感銘を覚えました。
本記事は下記のブログをベースに投稿しております。
すしログ:https://sushi-blog.com/
八寸
椀
鮎
鮎
鯉
炊き合せ
牛の焼きもの
お浸し
お食事
水菓子
外観
八寸
蕗の薹の白和え
椀
岩魚の焼きもの
鯉のお造り
筍の炊き合わせ
野生牛の焼きもの
畑菜、ほうれん草、干し蕨、黄かせゆばのお浸し
お食事
水菓子
外観
お竈さん
2021/05/05 更新
初めて「草喰なかひがし」さんに伺った時の鮮烈な印象は忘れられません。
「摘草つみくさ料理」と言う手法で、山谷の恵を美しく表現する料理があるなんて。
しかも、なんて美しく、美味しいのか…
八寸に込められたストーリーは冒頭から心を動かし、「メインディッシュ」のご飯は日本人に生まれて良かったと感じさせる。
「草喰なかひがし」さんの御料理は実に日本らしく、単に美味しいだけでなく、深層心理にある日本の原風景や遠い日に山の辺で感じた香りを蘇らせてくれる気がする。
間違い無く、日本で訪問すべき名店の一つだろう。
草喰なかひがしの中東久雄さんとは?
「草喰なかひがし」は1997年(平成9年)にオープンした日本料理のお店で、ご主人は中東久雄さんです。
中東久雄さんは京都の花脊(はなせ)にある老舗料理旅館「美山荘」のご次男です。
料理担当のお母様と14歳年上のお兄様(中東吉次さん)から、高校生の頃には料理のご薫陶を受けられていたそうです。
しかし、お兄様が55歳と言う若さでご逝去されたため、中東久雄さんは「美山荘」で総料理長を務められました。
そして、お兄様のご子息である中東久人さんが修行先から戻られるのを待ってから、45歳で銀閣寺のそばに独立されました。
つまり、以上の経歴より、「中東家の味」と「ご自身の感性」で独自の世界を構築されている料理人と言えます。
中東久雄さんは縦横無尽に冗談を飛ばしながら御料理を作られる異色の料理人です。
冒頭の八寸を頂いた後、少しでもお話を伺えば自由な発想をお持ちであるのはすぐに分かります。
そして、僕は、日本人として根源的に大切な精神をお持ちの料理人だと感じています。
すなわちそれは「お米への憧れ」。
白ご飯を食べてホッとしたり、湯気を立てる炊きたての御飯を崇高だと感じたりする、純粋な憧憬。
それが中東さんの御料理の根底にはあります。
現在アラフォー以上の方なら記憶に残っているかと思いますが、1993年(平成5年)に深刻なコメ不足が起きました。
国産米は買い占められて入手が出来なくなり、タイからの緊急輸入米が市場を席捲しました。
その際に、中東さんは陶芸家の中川一志郎さんのご飯用の土鍋と出会われて、お米の偉大さを痛感したそうです。
貴重なお米を最大限美味しく食べて欲しいと言う想いで作られた一志郎窯の土鍋が無ければ、「草喰なかひがし」は無かったかもしれません。
少なくとも、おくどはん(竈)と土鍋で炊いた炊き立てのご飯に目刺しと漬物を添えたメインディッシュ、と言うスタイルは生まれなかったでしょう。
ちなみに、中東久雄さんの息子さん達も料理人です。
長男の中東克之さん(1979年生まれ)は現在、「草喰なかひがし」に勤務。
次男の中東俊文さん(1982年生まれ)は東京の「エルバ・ダ・ナカヒガシ」(最近「草片cusavilla」に店名変更)から摘草イタリアンを提案中。
中東篤志さん(1986年生まれ)はアメリカから和食の魅力を発信されていて、京都に「そ/s/kawahigashi」と「朝食喜心kyoto」を、鎌倉に「朝食喜心」をプロデュースされています。
草喰なかひがしさんの魅力とは?
最大の魅力は「メインディッシュ」のご飯ですが、コースで重要な要素は「摘草」です。
中東久雄さんは毎朝大原に山野草や野菜を採取に行かれているそうです。
その日の自然の恵みにご主人流の物語と加えた御料理、と言うのが抽象的に表現した「草喰なかひがし」さんの魅力です。
そして、具体的に魅力を表現すると、「摘草料理」と言う渋いイメージを与える御料理でありながら、老若男女問わず惹きこむ美しさやコースの起伏に富んだ構成などが「草喰なかひがし」さんの魅力です。
かつて「京都で最も予約が取れない」と言われ、人気を長年維持ししている理由は、間違い無く新しい若いファンが増え続けてきた証でしょう。
見た目に美しく、味に意外性のある「摘草料理」。
それが「草喰なかひがし」さんの御料理で、明確な料理哲学が込められていると感じます。
中東さんは高級食材を用いずとも、「贅沢な御料理」、「ご馳走」に仕上げられる点が非凡です。
日本料理の要諦である「妙味必淡」もしくは「引き算の美学」を守られながら、食事をエンターテインメントに昇華させる手腕には、訪問する度に感動させられます。
お店は銀閣寺のほぼ門前と言える場所にあり、店構えは質素です。
圧倒的な人気と知名度を誇る名店としては、素朴で飾り気のない外観。
しかし、風にたなびく大きな白い暖簾をくぐると、非日常を味わえる上質な空間が出迎えてくれます。
店内の床には打ち水が打たれ、黒々と光る床石は何処となく神秘的です。
美しく磨かれた漆のカウンターは紅色の微笑みでお客を迎え、板場にはおくどはんが鎮座します。
土間とカウンター割烹を組み合わせたような意匠ですが、上質な非日常感があります。
板場はカウンター席よりも低い場所にあり、料理風景を余すところなく眺められる点も、ライブ感のあるなかひがしさんらしい設計だと感じます。
草喰なかひがしさんの御料理の詳細
お昼のコースは6,600円と8,800円、夜のコースは16,500円~となります。
訪問する時はいつもお昼の8,800円のコースをお願いしています。
2021年2月に訪問した際の御料理まだまだ寒い日が続く2月に春の訪れを予感させてくれる御料理たち。
八寸
節分の桝をイメージした八寸。
熊笹の上に、氷見の寒ブリを用いたかぶら寿司、炊いた蒟蒻のあられ揚げ、鬼の金棒をイメージしたキュウリの漬け物と鬼の目をイメージした黒豆、酢漬けの赤蕪と干し柿と柚子で椿をイメージ、牡蠣の時雨煮と焼き菜の花、(節分なので)鰯のスモーク。
炊いた蒟蒻や鰯のスモークは香ばしさで食欲を刺激してくれる。
見た目が美しい”椿”は、柚子の香りを楽しんだ後に柚子の苦みとお酢の酸味が広がり、炒り卵と干し柿の甘みに包まれる。
かぶら寿司は非常にモダンな仕上げで、鰤の脂と身の柔らかさを表現している。
やはり、なかひがしさんは八寸が素晴らしい。
季節感、ユーモア、美味しさを兼ね揃える秀逸な八寸だ。
お凌ぎ
雪山をイメージした裏いなり寿司。
蕗の薹入りの暖かいいなり寿司でユニーク。
あしらいは早どれのつくし、中にはむかご、松葉を左馬にして大徳寺納豆を添えている。
実に美味しく、安らぎを覚える味だ。
椀
赤大根のみの出汁で、朝摘みの小浜産若芽と九州の筍。
春を先取りするような椀。
大根の甘みがしっかりと出ていて、若芽はジャキジャキと良い食感。
筍は甘みがあり、爽やかな香りで、軽い苦みと強い食感を楽しませる。
乾燥させた花山椒を添えて、春への期待を高めてくれる。
ヨコワの漬け焼き
ヨコワを盛り上げる脇役たちが楽しい。
ゆかりをまぶした芽キャベツ、堀川牛蒡、水菜、シャクジナ、柑橘はジャバラ。
非常に珍しい柑橘類のジャバラは、花粉症に良いとされるそうだ。
初春らしいヨコワ(関東ではメジマグロ)は野菜たちと合わさることで春らしさを装っている。
にえばな
「お米」から「ご飯」に変わる瞬間の状態。
なかひがしさんにお伺いする喜びを強く感じさせる一皿だ。
鯉の刺身
受験シーズン故に蛍雪の功を表現する一品。
鯉以外は、辛味大根、梅の天神様、醤油パウダー、芥子菜、ポン酢。
鯉は漬けにしているのか食感がねっちりで、噛みしめるとぷるぷる。
これは定番の御料理だが、以前よりも更に美味しくなっていてビックリ!
なお、器は楽入窯のもの。
炊き合わせ
炊き合わせ代わりの粕汁。
北海道産の新巻鮭に、聖護院大根、堀川牛蒡、金時人参と京野菜が目白押し。
お野菜は全て香りが良い。
汁は優しい塩気で、反対に酒粕は濃厚な香りとコクで、酒粕の甘みも楽しめる。
新巻鮭の香りと凝縮した食感が酒粕と言わずもがなの好相性。
同じく楽入窯の器。
モロコ
定番の北海道産放牧牛との二択だったが、時期的に間髪入れずモロコを選択!
付け合わせは菊芋のピュレ、摘み草クレソン、原木椎茸、黄色と紫の人参など。
調味料は野蒜酢のびるす。
モロコは今の時期らしい子持ちで嬉しく、ほろ苦さと卵の食感を楽しめる。
クレソンは実に香り良く、菊芋のピュレと相性が良い組み合わせ。
畑菜の芥子和え
お食事の前に芥子の風味とお出汁が口直しとなる。
続いて遂にメインデュッシュのご飯が登場。
冒頭に記載した通り、お店を始めるきっかけとなった一志郎窯の土鍋だ。
そして、これが日本人にとっての最大の贅沢。
目刺し、香の物、紫人参とおから、すぐき。
おからには煎った豆が入っている模様。
香の物
美味しいご飯で、ついつい進んでしまう。
そして、次は「パリ」に直行。
実山椒を米油でコトコト炊いた山椒油とマルドンの塩で頂く。
次は「ニューヨーク」なのだが、その前にオプションの卵かけご飯を初めて頂いた。
卵だけでなく自然薯と自家製唐墨をふんだんにまぶした豪華版のTKG。
とにかく濃厚な味わい!
そして、ニューヨーク。
お湯が掛かっているので…まあ、意味はそういうことだ(笑)
冗談(と言うかオヤジギャグ)の達人、中東さんらしいフィナーレ。
水菓子
摘草の朝採れイチゴ、ボンタンのゼリー、完熟キウイ。