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夜の点数:4.9
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¥20,000~¥29,999 / 1人
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料理・味 4.9
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|サービス 4.9
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|雰囲気 3.5
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|CP 4.9
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|酒・ドリンク 4.2
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[ 料理・味4.9
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| CP4.9
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| 酒・ドリンク4.2 ]
なぜ『傳(DEN)』が世界を魅了するのか?/ 守破離
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2023/07/16 更新
こちらのお店のレビューを見渡せば、「楽しい!」「美味しい!」というワードが沢山。
食べログはあくまで個人×2の感想ですから美味しいお料理のレビューはそれで充分!と思う一方で、個人的にはそれは『傳(DEN)』の魅力の表層的な側面だけでは?現在の食べログポイントは適切?と思い、銀座『すきやばし次郎』や銀座『よしたけ』にレビューして以降全く予約できなくなり、自分自身が随分困っていますが、それを覚悟に記述してみます。
2016年より移転して今は外苑前にある『傳(DEN)』。
こちらの物件には今は北海道に移転した素敵なフレンチ『ル・ゴロワ』があったので記憶に新しい方も多いはず。
オーナーシェフの長谷川在佑氏は1978年東京生まれで神楽坂『うを徳』で修業後あっという間に神保町にて独立し、2011年にはミシュラン二つ星、2018年にはアジアベストレストラン2位、世界ベストレスラン17位→2016年より現在の外苑前にて2021年現在世界TOPレストラン11位と輝かしい功績。
ずっと世界のTopランナー。
ただ、海外評価とは裏腹に日本では、一部の料理人やグルメンの方々から結構「キワモノ」扱いされるお店でもあります。
それは当然ですよね。
豊富な食材や日本独自の文化を大切にした「新しい形の日本料理」を体現/日本料理の新たな領域を体現/ 各国の有名シェフと積極的にコラボレーションした型に囚われない和食などと評されればそうなります。
日本が世界に誇る超ハイレベルな料理人の方々が日々しのぎを削る料理の世界ではえてして苦労知らずにも映るからです。
しかも近年の心理学や脳科学実験においては、妬みやシャーデンフロイデ(独: Schadenfreude)は男性のほうが強く感じることが証明されているのですから尚更です。
ただ、長谷川シェフのお料理を頂いたら理解できるはず。
味覚嗅覚が鋭利なグルメンは判るはず。
シェフの全身とお料理から滲み出る確かな芯の強さ/優しさ/誠実さは、若い頃から苦労していない人間が出そうと思って出せるものではないからです。
それはひとの良い人の優しさではなく、芯の強さに裏打ちされた優しさは、苦労して自己を確立研鑽してきた人のみが獲得し醸し出せる特権です。
長谷川シェフのお料理は愉しい。
シェフのコースの裏テーマは「子供の頃のプレゼント」とでもいいましょうか、あのプレゼントの包装紙を開けるときのドキドキ感ワクワク感が各お皿に演出されています。
そしてそのお料理を全力でサポートして居心地の良い空間を最高レベルに演出しようと試みる優秀なスタッフの方々。Serveの方向性が『傳(DEN)』のお料理とちゃんと同質です。
だから『傳(DEN)』のお料理は愉しくて美味しい。
シェフのお料理のある意味一番の理解者でもある他言語を流暢に操る優秀なスタッフ達のサポートもあり、見事な総合力となっています。
チームワークの大切さを唱える料理人は多いですが、とはいえそこには雇う者と雇われる者との間に絶対的な線引きがあるのが普通ですが、長谷川シェフのお店にいると、本当に皆の関係がFlatなんだろうなと思います。
きっとそれこそがシェフの哲学で、きっと彼は誰に対してもどんなジャンルの料理に対してもそうなのでしょう。
そんな自分の立ち位置を常に自分でも正確に計りたい、でも人間は誰しも自分だけの感覚で自分の今の精神状態/立ち位置を正確に測るのは極めて困難、だからこその異なる料理人達との定期的なコラボレーションでもあるわけです。
さて、前置きが長くなりましたが、本題に入ります。
具体的な料理の話。
長谷川氏のお料理はあらゆるジャンルの垣根を自在に越えていきます。
そのスタイルを志し、そのスタイルを謳う料理人は数多くいますが、体現している料理人は非常に少ないのが現実です。どうしても意識だけが先行しがちになってしまいます。
なぜか?
それは、その今風で高尚な想いを体現するにはとてつもなくハイレベルな「基礎」と「センス」の両方がとても大切だからです。
これは分野関係なく、上のレベルにいけばいく程その基礎の重要性が高くなります。
さらに世界で戦う料理人には、絶対的な自分の生きる哲学やアイデンティティの確立までが求められます。
千利休は物事/芸事の習得プロセスを3段階の「守」「破」「離」という言葉で表しました。
「型があっての型破り、型が無いのはただの形無し」という表現も同じです。
では、その基礎が和食のお店では、そして、外苑前『傳』においてはどこに最も強く現れているのでしょうか?
それは終始一貫して色々な形で使われる『かつお出汁(だし)』です。
ひとくちすするだけで舌の根本から上咽頭を強烈な天然のグルタミン酸(昆布の旨味成分)×イノシン酸(鰹節の旨味成分)×グアニル酸(干し椎茸の旨味成分)が駆け上がります。そして頭に浮かぶのは脂身のほとんどない筋肉質でよく身の締まった鰹(かつお)の姿。
その中でも特に身が網や船板で傷んでいない特級品を特級の燻製師が鰹節にして、それを最適にスライスして香りを閉じ込めなくては、そしてその鰹節を惜しむことなく大量に使わなくてはこうはなりません。
そして、そのままでも充分に使える鰹出汁に、あと少しのまろやかさやふくよかさを演出するために、シェフは季節の野菜の皮や身を僅かに使用します。
季節の〜と申し上げたのは、旬のお野菜というのは冬であれば身体を温め夏であれば発汗を促したりして身体を涼しく冷やすなど、人間がそのときの季節を快適に過ごせるような成分を兼ね備えているからです。
そのため、シェフのお出汁は季節ごとに微妙に異なります。
ただ、私を含めて来店者達は、季節毎の自分の体調の変化には気付かず『傳(でん)』のお出汁はいつも安定して美味しいと思うわけです。
ちなみにまぐろ節であろうとも、鰹節であろうとも、魚の節×昆布(時にはさらに×干し椎茸)の組合せに他の野菜を入れるのは伝統的な日本料理では御法度とされています。
ただ、そのお出汁ですとどうしても長谷川シェフ自身が創りたい料理との親和性が理想的に高まらない、なのでこの出汁にこだわるわけです。
まず最初は
・定番のパッケージングされた最中フォアグラ。
今回は西京味噌漬けされたやり過ぎじゃない?と思わせられるほどの厚みのあるフォアグラに一緒に挟んである安納芋のペーストの甘味と柴漬けの塩味が良いアクセントになっています。
次が
・表面にアサツキ?がいっぱいに散らされた椀物。
ここで出てくる鰹出汁が先に申し上げたように素晴らしく美味しい。中央には同じ鰹出汁で引き伸ばされ牛乳や豆乳を加えてゆるく葛?か何かで緩く固められ、中にランダムに切った湯葉をアクセントに入れ小麦粉をつけた揚げ物が入っています。しかもそこにはまさかのブルーチーズの香り、、、。どれかの味や香りが前に立ち過ぎることなく全体に見事に調和しています。私はついお出汁をそのまま6-7割頂いてから中の揚げ物を崩して最後は茶碗蒸しのようにして頂きます。
そして
・傳の鶏唐揚げ、DENタッキー
長谷川シェフのお写真が印刷された赤白の紙箱の中には紅葉の葉が敷き詰められ、その中に1本の鶏の唐揚げ。その鶏肉の中には極上の舞茸いっぱいを鰹出汁と共に炊いたおこわ。これを柿の葉で持ってかぶりつくので手を汚すことなく熱々で頂けます。当然、流れを分断させないために胡椒などのスパイスの使用は皆無。
からの
・お刺身
本日は駿河湾で取れた鰆(サワラ)を3日間熟成させそれを醤油漬けにしたもの。そこに岩海苔を出汁や三杯酢で割ったタレとワサビで頂きます。クモノスカビ特有の香りさせることなく見事にタンパク質をアミノ酸へと変化させた熟成、岩海苔も海苔の風味を意図的に少し抑え、出汁や三杯酢と調和するように適切な配分で合わせてあり、単体ではキツ過ぎる山葵をしっかり混ぜると、新たな美味しくお刺身を頂く調味料になっています。
で、いよいよ
・焼き物の鰻の醤油焼き
皮裏のゼラチン質をしっかり焼き落としてパリッと香ばしく何度も醤油をかけ流して焼き上げたもの。普通でしたら鰻はこの半分の量で良いところをお腹と尾の両方でしっかり我々を満喫させたいからでしょう、この量です。盛り付けに高さを出すため下には積み重ねた焼き茄子、上には万願寺とうがらし。この2つにもしっかり傳の鰹出汁で下味がつけられています。
ここで
・サラダ
こちらも傳(DEN)のスペシャリテの1つ「畑の様子」で、日本料理の美味しい炊き合わせのように、12-20種類程の旬のお野菜が、揚げたり煮たり生であったりとそれぞれに下味が丁寧に別々につけられており、それを見事なバランスで盛り付けられているのでずっと飽きずに頂けます。あえて申し上げますが、伝統的な日本料理には「サラダ」なる物は存在しません。
このサラダでいったん箸休め/スピード緩めて胃調整させて、
いよいよ、
・鴨肉のお碗
ここで出てくる椀物はメインディッシュの位置付けなので、鴨肉もあえてしっかり噛ませるように肉厚の塊がこれもまた鰹出汁に入れてあり、歯応えが総て均質なネギと旬の茸(キノコ)がたっぷり入っています。北関東から東北にはわざわざ名前をつけないまでも素晴らしく美味しい食用茸が沢山ありますが、そういった旬の茸を判断に入れて、ネギの食感と茸の食感が歯と耳に心地よく、途中に入ってくる合鴨の肉肉しい噛みごたえと野趣溢れる合鴨×ネギ×茸のお味を鰹出汁がしっかり支えて別のお料理として調和させています。
〆に、
・ご飯物とお味噌汁
この日はいくらご飯でした。
各席にイクラがいっぱいの炊き立ての土鍋ご飯を長谷川シェフ自ら持ち寄られ、炊き立てのご飯と生温かいいくらの美味しさをお伝えしたいとの意図通り、粘り気の少ないササニシキ系?のお米を鰹出汁で見事なアルデンテの炊き上げ、そこに同じく鰹出汁で出汁漬けにしたイクラの濃厚さが見事にマッチ。ここでお米の炊き方が柔らか過ぎであれば、口の中での食感がイクラと同じになってしまうので、途端に単調になって愉しくなくなってしまいます。
つまり、総てのお料理が日本料理の形を残すものの独創性に富んでいて、尚且つ、その1つ1つのお料理がアイデア倒れに終わらず、「加減」「塩梅」が素晴らしいわけです。
最後に
・甘い物
この日は黒いちじくを丸ごと皮ごと使用し、ねっとり僅かに「あえて」粗さを残してジャリっとしたシャーベットにクリームチーズ系のソースをかけたもの。何度も固まらせてはかき混ぜて口当たり滑らかにした物ではなく、ミキサーで意図的に食感を残したこの加減。これが最初の椀物の中に入った揚げ物の中にあった湯葉を想起させ、物語が終わります。シャーベットにクセを抑え目にした万人に喜ばれるチーズソースが、焙じ茶ともぴったりでした。
コース料理という「物語」が途中で途切れたり中弛みすることなく、最初からロケットスタートでそのまま後半まで起承転結し、美しく終わります。
長谷川シェフ御本人は飄々としていて、柔和で優しい御方です。
ただ、前面には出ていませんが、そしてここまでの功績を踏まえれば至極当然ですが、お料理には静かな自信に満ち溢れています。
その証拠に、外苑前『傳』のお料理には、塩やお醤油といった、こちらのお料理に足りなければどうぞ的な調味料が全く付属しません。
各お料理にあれだけ使われているお出汁も、最初のお碗こそは全面に出汁の旨味を出されますが、あとは脇役裏方役として緩急つけて使われているので単調になりません。
特に最後のいくらご飯などは私は大満足ですが、よくここで味を留められたなと深く感心します。それは一緒に頂く糠漬けの糠の香りやその塩味と味噌汁の塩味、そして傳(DEN)の来店者達の味覚への強い信頼がなければ成立しない味付けです。
残念だったのは、この日の鴨椀の鴨肉をあの厚みあの大きさの塊ではなく、もう少し低温調理して柔らかくした上でのあの形としてか、あの2-3倍ほどの大きく薄い「面」で頂きたかったということくらい。きっとシェフはこのお碗が本来であればお肉が出る局面/メインディッシュになるため、その欲求を満たすように噛みごたえや食べごたえを最優先させたのでしょう。
そういう意味ではああいう形が総合的にはBestなのでしょうが、あの鴨肉でしたら大きな薄切りにして食べる直前に出汁で火入れしても良かったはずで、鴨肉の加熱とサイズ感にはより良い形があったはずです。
と、あら探ししてこの程度。
そして最後は1組ずつの来店者達を傳のチームで丁寧にお見送り。
長谷川シェフはもちろんのこと、各スタッフの方々が自分の持ち分の仕事の必要性を理解し、その仕事を自信持ってしっかりやりきっているからこそのこの笑顔、この総合力。
これを見事、これを世界TOPレベルと言わずして何といえば良いのでしょうか?
日本料理の必須アイテムであるお出汁を現代人に合わせるために再構築した長谷川氏。
これは総ての国の伝統料理にいえることではありますが、誤解を恐れずに申し上げるのなら、伝統的な日本料理は、ときに床の間に掛けられた素晴らしい掛け軸のように鑑賞される極上の美術品のような存在です。
美しい掛け軸を眺める、ただそれだけでも審美眼のある者にとってはとてつもない幸福感を与えるもので、事実私はそういった日本料理とそこに携わる料理人の方々を敬愛して止みませんが、その鑑賞者と掛け軸の間には「床板」という「距離」があり、それがインターネット/スマホ/Google/YouTube/4K8K画質/Netflix /Amazonのサービスが当たり前になっている多くの現代人にとっては、その距離がもどかしく物足りなくなってきているのが、それを進化と呼ぶか退化と呼ぶかは別にして紛れもない事実で、その間(ま)を「愉しさ」「ドキドキ感」という感情で埋めようとしているのが、今は無きスペイン『エル・ブジ』以降の世界TOPレストランにランクインしているお店であり、それを日本料理という分野において成し遂げている第一人者が長谷川氏であり、『傳(DEN)』のお料理が世界の食通達を惹きつける所以だと思います。
ミシュラン星や食べログランキングではなく、世界TOPレストランへランクインするには、今の時代では当面はこの道筋のみ。
ただ、いつも申し上げておりますが、世界TOPレストランなどにランクインするレストランが唯一の最高峰で一番良いというわけではありません。芥川賞直木賞柴田錬三郎賞などといった文学賞にそれぞれの賞や出版社の個性が反映されるように、単純に採点基準が異なるだけです。
伝統的で素晴らしい日本料理の様々お店のお陰で、そして同じく他ジャンルの素晴らしいお料理のお陰で、長谷川シェフは自身のスタイルを見つけ出せたわけで、故に長谷川シェフ自身もそういったお店やお店の料理人達を心の底から尊敬し感謝して一緒に盛り上げていこうとしていることを同業者の方々も我々来店者達も見過ごしてはいけません。
ワインや日本酒も充実しており、お酒を頂いて税込25,000-30,000円/人と満足度を踏まえたら超リーズナブル。
かくして私は外苑前『傳(DEN)』にこの高評価をつけ、外苑前『傳(DEN)』が、海外の観光客が来る前にひたすら通わなくてはいけないお店の1つだと思うわけです。
もしフォロワーの方々が赦して下さるのであれば、「長谷川シェフ」と現代美術家「村上隆」を比較論評したいのですが、さすがにそれは長くなり過ぎるので次回に。
個室での会食利用はもちろんのこと、場を弾ませたい友人知人やデートに!
※入り口は大通り沿いにも関わらず看板がないので判りづらいです。
※食べログポイントとしては、内装は意図的とはいえ私の好みではないため3.5-3.6ptであとは限りなく満点の5.0ptに近いレベルです。
※内装はビシバシにCoolに決まった「意図的」に海外の方々が好む、海外の方々がイメージする日本食レストランのそれで、カジュアル日本仕様となっています。
※最高のパフォーマンスをとてもリーズナブルに提供下さっていますのでお酒を沢山飲んでその気持ちに応えましょう。