2回
2014/06 訪問
至高の芸術を体現したレストラン(3回)
2010年9月の利用以来、ランチではありますが、建替え後の新生ロオジエにやっと行くことができました。電話での予約では、水曜日のランチで開いている日の最短日、つまり本日6月11日となり、約3ヶ月待ちぐらいの状況でした。
全般的に新旧比較すると、ハード面は更にパワーアップし、これまでの狭隘なスペースを見事に克服し、高い天井と素晴らしい芸術的空間に生まれ変わりました。が、過去からの継続性は大事にしてほしかったかな。
料理面は、味は旧ロオジエ同様一級品的においしいが、クラシックよりになり、特にメインの料理の創造性に若干欠ける印象。サービスは残念ながら明らかに落ちたように感じました。
とはいうものの、新体制になってまだ1年も経っていない状況なので、これからの更なるヴァージョンアップを期待したいと思います。
○味・料理
料理は、最高の食材で複雑かつ緻密な味わい。連れは1万円、私は1.4万円のコースを注文し、シャンパン2杯+白ワイン2杯+赤ワイン1杯+ガス入りミネラルウオーターに12%のサービス料と消費税で、計40,656円でした。
アミューズは、山羊のチーズのババロア。これにオリーブオイルをちょっとかけて、いかにも夏らしいさわやかな料理。山羊が嫌いな人はちょっとキツいかも。でもここが一流のグランメゾンだということを認識できる素晴らしい料理。
前菜は、特に1万円のコースの「スペルト小麦と野菜のリゾット」は完璧です。ジロル茸・フォワグラ・サマートリュフなどのフレンチならではの食材とリゾットの固い食感とがふわっとしたスープの中で溶け合うような美味さです。
前菜のラングスティーヌ(赤座エビ、1.4万円の方)は、特にラングスティーヌそのものの太さが尋常ではない。最高の食材を使っているのでしょう。更にアイスの冷たい食感が驚きの与えるという一風変わった料理。
本カサゴのロティ(1.4万円・魚メイン)は、もうちょっと半生状態の方が美味いのでは。ただ、一見野暮ったく感じる人参入りのスープは、見た目と違って実に濃厚で複雑な味。本格フレンチならではです。
メインのブルターニュ産仔牛(1.4万円・肉メイン)は、うーん、素晴らしい肉質。きめ細かくて適度の柔らかい食感にシンプルなソースをかけて味わう。副菜のアスパラは野生のアスパラで、独特のねっとり感。先日の「レストランアイ」で初体験したアスパラ。
もう一つのメインのシャラン産鴨は、これも胸肉のデカさが尋常ではない。相当立派な鴨なのではないでしょうか? これも肉質と見事なピンク色は素晴らしいが、同格の他のフレンチと比較すると肉質の密度やピュアな感じでは若干落ちる印象。料理自体の創造性ももうちょっと頑張ってほしい。
ロオジエのもう一つのメインは、デザートとも言われる。この後、アヴァンデセール→グランデセールとなり、卓上のお茶菓子にワゴンのお茶菓子が追い討ちをかけるという強力なレパートリー。
最初のデザートでさっぱり感を出し、グランデセールで季節のデザートをしっかり味わってもらうというストーリーですが、グランデセールは、サクランボのパルフェグラッセとタイムのシャーベットで、これは、クリエイティブで実に美しいデザート。
そして、個人的に気に入ったのは、卓上の小皿に乗せられたチョコレートの小菓子とピスタチオの小菓子。一口に頬張ると双方ともふわっと口の中にチョコレート(ピスタチオ)の香りが広がり、ああ「至福の瞬間」。
○サービス・雰囲気
レセプションの対応と最後のお見送りは、気持ちいい気分。特にエントランスから、階段を下りてレストランに向かうその演出は、ニューロオジエならではで本当に気持ちよい。
イエローで統一された内装は、コンテンポラリーな絵画や、アジサイの見事なフラワーアレンジメントと相俟って、芸術的空間。座っているだけで気持ちが高揚してきます。
サービスで、もうちょっと頑張ってほしいなという部分は、テーブルのずらし方、お客さんの鞄のヘルプ。化粧室戻り時のナプキンの処理。例えば帝国のレセゾンだと、化粧室から戻った後には、もっと長くいていいですよ的に何気に飲み物が交換されているなどの配慮があります。
ただ、お客さんの質問で知らない内容については、真摯に調べて回答してくれるなどの誠実さは、とても好印象でした。
最後に個人的には、あのアールデコの階段とエレベーターは残してほしかったな。いいものはそのまま活用して、更に新しい意匠を加えていくなどのデザインの過去からの継続性こそが、そのお店の歴史や品格を形作っていくものだと思うからです。
でもカトラリーは、ちゃんと建替え前のロオジエのものをそのまま使用。この点はさすがです。だからこそデザインもそうしてほしかったな。
以下は、旧ロオジエ(建替え前)のレビューです。
妻の記念日に2年ぶりの再訪。改めて「ロオジエのフランス料理とは至高の芸術を体現した料理」といってもよいほどの感動を受けました。
値段は高いですが、料理や芸術などに少しでも関心のある方なら「お値段以上」の体験を味わえることを保証します。そしてここのレビュアーの方々同様、この気持ちを他の方にも伝えたくて、こうやってレビューを書きたくなってしまうお店です。
建物建て替えに伴い、来年の3月に一次閉店。2013年秋に再オープン予定とのことで、必ず復活してほしいお店です。
●味・料理
ここの料理の凄さは、今まで食べたことのない食材の組み合わせ・味でなおかつ最高に美味いということ。
更には、盛り付けも食器も芸術的。全くもってパーフェクトな料理。フランス料理の可能性と奥行きの深さに感銘を受けました。
<再訪時>
今回もコースに鴨のコンフィを含むコース「市場のジュネ」25,000円をチョイス。このほか、シャンパン2杯、バドワ(炭酸水)1本で62,944円でした。
鴨フォワグラのコンフィは前回と違い、チョコレートを薄く上塗りされたスモモの茶つねとセットされています。酸味・甘さとフォワグラの組み合わせは、これまた新たな発見の味でした。
スープ「テールメール」は、ちょっとタイ料理っぽい味とコンソメと甲殻類とハーブの味がブレンドされたなんとも不可思議な味。これも新しい味。
魚のメインの赤座海老は、これまた10種類以上もの味のオンパレードで、その組み合わせがこれも新しい味。
肉のメインの乳飲子羊は、独特の羊の味そのものを「美味」と思わせる料理。これも新しい味。外の粘りのある部分と中のパサパサ感一切なしの肉の組み合わせも絶妙。
チーズも、豊富です。今回はウオッシュタイプを2種類(マンステール、エズイサンドレ)、ブルーを1種類食しました。
エズイサンドレは、なんとも香り高く、口の中にふわっとその香りが広がる感じ。水を飲むとその後味がいつまでも残ります。
デザートは、ご存知の通り、量も質も豪華絢爛です。
特に私が気に入ったのは、クリームブリュレ。ロオジエのブリュレは、1時間かけてじっくりと火を通して造るそうです。これも口当たりの滑らかさと香りの拡散具合が素晴らしいブリュレ。私が食した中でも圧倒的ナンバーワンのブリュレでした。
メインのデザートも凄い。ちっちゃなタワーの中にマンゴー、パイナップル・・・・、とにかく使っている食材の豊富さ、そのうまさ、そして見た目の芸術的な美しさ、パーフェクトなデザートです。
<初回利用時>
一番気に入ったのは、枇杷と組み合わせたフォワグラのコンフィ。といってもテリーヌ風ですが、今まで食したことのないフォワグラのねっとり感と枇杷の香りが不思議な組み合わせででこれまでで一番美味なるフォワグラ料理でした。
2番目に気に入ったのは、真鯛のポッシェとそら豆とグリーンアスパラ添え。じっくり焼き上げたと言う真鯛の火の通り方、そら豆のほどよいざらつき感のある食感、ピリッと口に感じる胡椒の刺激、ちょっとあっさり目ですが実に素晴らしいお料理です。
●サービス
<再訪時>
初回訪問時とほぼ同じ印象。みんないい意味でのフレンドリー加減で、リラックスして食事ができます。
システマチックで組織的なサービススタイルは前回と変わらず、卓越もののサービスです。
ただし、前回より、若干テーブルチェックは甘かった印象があります。私が壁に向かって座っていたことも関係しているかもしれません。前回は、4名で伺い、真ん中の丸テーブルを利用したこともあってか、これ以上ないというほどのテーブルチェックだったので、しょうがないか。。。
<初回訪問時>
会社の同僚がお客様とスタッフの人数をチェックしたところ、約30名のお客様に10名のスタッフという、グランメゾンならではの人手のかかり方。
特徴的なのは、個人プレーに頼らない組織の力によるシステマチックなサービス水準の維持。通常、テーブルごとの担当が中心になってお客様に対応すると思うのですが、全てのテーブルを全てのスタッフが満遍なくチェックしているように感じてしまうのです。
素晴らしいのは、つかず離れずの絶妙なお客様との距離感をもって、お客様の引き立て役に徹した姿勢で、必要なときに必要なサービスが出来ること。これは本当に驚きです。
*具体例:その1
テーブルとお客様の席のポジショニングをさりげなくチェックし、修正。
*その2
お客様の食事の切れ目、会話の切れ目を見極めたうえでの絶妙なタイミングの給仕。
*その3
お客様の食べづらい様子にすぐに気がつき、さりげなくお皿やカトラリーのレイアウトを変更するきめの細かい対応。
*その4
お客さんの困った様子にすぐに気がつき、さりげなくアドバイスを送る親切心。
*その5
料理の説明は、フランス料理屋の定石どおり、丁寧かつ淀みなく説明。その上でお客様が食後の感想を述べると、その料理のコンセプトやシェフのポリシーをお客様に細かくきちっと説明するという、必要なときに必要な知識を披露できる能力の高さ。
*その6
お客様の会話に華を添えるように、ユーモアある一言を加えて雰囲気を盛り上げる会話のテクニックの高さ。
*その7
複数の人数の中で、私が会計目的で席をはずしたことをすぐに認知し、対応できる察知力の高さ。
例をあげるとこんなところでしょうか。3つ星の料理の水準もその通りですが、サービスにおいても3つ星だと思います。
●雰囲気
このレストラン、エントランスが豪華なので、初めての方は入りにくいかもしれませんが、中はとっても親和感のある空間。
他の本格フランス料理屋と比較すると、席間スペースが狭隘なのは、残念な点ですが、最初は緊張してもすぐにリラックスできるよう、スタッフの対応は、スマイリーできめ細やか。かといって、洗練された雰囲気は、グランメゾンならでは。
スタッフによると、最近の本格フランス料理の潮流は、本場フランスでもフォーマル基調からカジュアル基調に変わってきているとの事。ソムリエさえもが、お決まりの黒ジャケットに前掛けをつけたスタイルもしないお店が多いとの事。
ロオジエでも明るい基調のスーツで、軽やかなスタイル。さすがにソムリエの方は例の服装ですが。。
不安な方は、ロオジエのHP内の「Films(映像)」で、ロオジエのヴァーチャル体験ができるので、利用する前にみてみるのも手かなとは思います。もちろん感動を高めたい方には、事前に観ない方がいいかもしれませんが。
●内装
内装については、ミシュランでの解説どおり、1920年代から30年代にかけて世界を席巻したアールデコを基調としたデザインです。
詳細はロオジエのホームページhttp://www.shiseido.co.jp/losier/top.htmに譲りますが、ダリの絵画からリモージュの食器まで、全てに渡ってレストランオーナーの資生堂が凝りに凝ったレストランです。
銀座の象徴である「柳=ロオジエ」をデフォルメしたデザインがあちこちに散りばめられています。エントランスの各種金属細工から始まり、カーペットからテーブルクロスまで、よく見ると、何かしら柳をイメージしたデザインになっています。
リモージュ焼の食器も柳をモチーフとしたロオジエオリジナル。この食器、本当にお洒落ですね。
中でも気に入っているのは、エレベーターを囲む金属製フレームや螺旋階段の手摺りの細工。「これぞアールデコ」という抜群にオシャレなデザインです。これは建て替え後も残してほしい!
空間にもっと余裕を持たせながら、良きものは残すなど、資生堂さんには採算度外視で頑張ってもらって(今もそうだと思いますが)、建て替え後もさらに進化したロオジエを実現して欲しいものです。
●客質
お客様は非常にバラエティーに富んでました。ご夫婦と思しきカップル・お友達同士、親子、外国人カップル、場所柄ならではの同伴カップルなど、にぎわいがあって暖かみのある雰囲気でした。
特に今回は、フランス語を話す白人の方が目につきました。3つ星の影響かもしれません。
空間が狭隘なこともあり、居心地の良さが、その日のお客様のうるさい度合いに大きく影響されてしまうのは、このレストランの一番大きな弱点だとおもいます。
当然お店側は理解していると思いますが、再オープンのお店で、是非改善してほしい点です。
最後に苦言は呈しましたが、最高の文化を「レストラン」という形で具現化した、ある意味、資生堂が誇るべき最高の企業メセナのカタチ。個人的には帝国ホテルのレセゾンと双璧をなす最高峰のレストランです。
2014/06/11 更新
今回の記念日は、キャンセル待ちで予約しつつ、運良くキャンセルが出たとのことでお電話をいただき、10年ぶり4度目のロオジエを利用することができました。
かつて原則写真撮影禁止だったものの(私は記念プレートのみ建替前に撮影)、時代に合わせて撮影可能となったので、シェフのオリヴィエ・シェニョンさんとの記念撮影含め、料理と内装中心に撮影させていただきました。もちろん他のお客様&スタッフは写らないよう配慮の上で。。。
前回との比較では、圧倒的に改善されたのがサービス面。私が10年前にあげた課題はすべて完璧にクリア。さらにドアマンのお出迎えからレセプショニストの最後の見送りまで完璧な対応。その中でのちょっとした気遣いもあり、プラスアルファの好印象。
メンバー全員がもれなく、手際よく、絶妙のタイミングでサーヴする姿はさすがのグランメゾンと言ってもよい対応だし、各種、料理以外の個人的な興味に基づく質問にも的確に応答し、さらにこのレストランの奥深さを味わえるなど、気持ちよく客を過ごさせようとする配慮が伝わってきて素晴らしい。
オリビエシェフもテーブルを回って挨拶するなど、だいぶレストラン自体が「柔らかくなった」印象でした。
▪️料理・味
2名で伺い、22,000円のコースにシャンパン含むワイン各種5杯にミネラルウォーターでサービス料税込合計69,440円でした。
この10年間、ほぼ同じ水準で4万円から7万円になっているわけですが、実際にはコロナ後くらいからインフレになったでしょうから、高級フランス料理店でもスーパー同様の物価高を実感。これでもインバウンドには相当に割安に感じてるとは思いますが。。。
全般的な料理の印象は、いい意味での建替前の印象に完全に戻りました。
つまり、フランス料理の伝統を守りつつの創造性と地域性(日本という)を兼ね備えたパーフェクトなフランス料理に戻ったということ。したがって恐縮ながら評価をあげさせていただきました。
メニュー非表示のとうもろこしのスープは、夏のフレンチとしては定番ですが、これほど複雑系で濃厚なトウモロコシスープは、食べたことがない。しかもとうもろこしのあらゆる調理法がこの小さな一皿に盛り込まれている所が驚異的。
「北海道産毛ガニ:グリエした茄子のババロア 赤紫蘇のジュレ ブドウの軽いマリネにクリュスタッセのクーリと紫蘇のエミュルション」
これも超絶・絶品の料理でした。特に燻製仕立てにした茄子のババロアが「これこそが茄子のうまさ」と思わせてくれる味でこれに毛ガニとキャビアの塩味がぴったりハマります。
「宇和島産甘鯛のうろこ焼き:夏野菜のナージュ仕立て マリーゴールド」
日本の高級和食料理でありつつ既にフレンチでもスタンダードとなった甘鯛の鱗焼きですが、最高級の白甘鯛を使用とのこと。程よく火が入ったことで上品な白身の味が際立っています。そして焼いたウロコの香りが口の中に充満するよう。見た目軽い感じですが濃厚なフレンチならではのソースで味わえます。
「熊本県産あか牛のリブロース:金糸瓜のスパゲッティ≪バジル トリュフ パルメザン≫ペタルエシャロットのファルシコニャック香るジュ」
霜降りとはまた違った赤身の旨さを追求して育てられた熊本のあか牛を使用。それでも適度なサシは入っており、牛の脂ならではの旨みと肉そのものの旨みが肉だけをカットして食べると実感できます。
さらにソースをつけつつ、金糸瓜のスパゲッティと合わせつつ、エシャロットと合わせつつ、さまざまに味変をさせながら、この赤身肉を味わえるなど、フランス料理の強みである複雑系の食感と味を存分に愉しむできることができます。
などなど、これらにいつものふたつのデセールに2パターンのお茶菓子(これは他のフレンチではみたことない)でしめるなど、まさに究極の料理というしかない。
以上、最高峰のひとつでありながら確実に進歩している所が、さすがのロオジエ。オーナーの資生堂様に感謝です。