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発酵アイスクリーム
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鯖のなれずし
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鮒のお造り 子まぶし
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琵琶湖産ホンモロコ 飯のソース
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すっぽんの蒸し
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琵琶湖産稚鮎の天ぷら
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山菜の天ぷら(右上はたらの芽、真ん中奥はこしあぶら、左は山ぶどう、右下はもみじがさ、左下は失念)
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琵琶湖産稚鮎の煮あげ
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自家製からすみとその天ぷら
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いのしし
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鍋に入れる花山椒
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熊猪鹿のつみれ鍋 花山椒を入れたところ
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熊猪鹿のつみれ
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鮒のなれずし 蜂蜜がけとパンで挟んだもの
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漬物
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鍋のスープで作った雑炊
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紫霞の湖(300ml辛口、冷酒)
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駅からの道程はこんな感じ
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滋賀県は余呉にやってきました。
琵琶湖の北に隣接して周囲7キロ程の余呉湖という湖があるんですが、その湖を臨む高台にこのお店はあります。
琵琶湖との間には合戦で有名な賤ヶ岳もあったりして、田舎町にも関わらず観光目的のハイキング姿の人達をよく見かけます。
平日は分かりませんが、週末の昼について言えば2ヶ月くらい前に予約の電話を入れて最も早い空きのある日がこの訪問日。
こちらも予約は早いに越したことはないようです。
本来は余呉駅までご主人が車でお迎えにきてもらえるらしいのですが、予約から既に数ヶ月が経ってとうにそんな事は忘れてしまっている私は、余呉駅を降りてノンビリと田んぼ道を2〜30分歩いてしまいました。
先に送迎で到着していたお客さんとともに既に予約分のセッティングがされている席に着席です。
どうも接客対応は奥さまがほぼ全て行い、厨房はご主人を筆頭に息子さんとお弟子さんの計4人という構成。
あまり細やかな接客を求めるべきではないかもしれません。
お昼は8千円と1万円の二種類があるようですが、どうも量の違いではなく質の違いだとのこと。
そんなことを言われるとせっかくだから1万円としか言いようもなく、今回は1万円のコースをお願いしていました。
それに地酒の冷酒、紫霞の湖(しがのうみ)をつけてもらいました。
【鯖の熟鮓】
鯖を寝かせているようで、ここにトマトのソースと細かくフワフワに削ったチーズが添えられていました。
この組み合わせにも驚きましたが、鯖が予想していたよりもずっと食べやすいことにも軽い驚き。
しかもしめ鯖よりむしろ食べやすいというか、味にも深みが感じられて美味しいです。
トマトのソースとチーズも思っていたほど濃い味でもなく、トマトのソースなどは言われなければ分からないほど。
この大胆ながら繊細な組み合わせ、最初から実力の一端を見せていただきました。
【鮒のお造り 子まぶし】
私が子供の頃は、泥臭い鮒は甘露煮のような濃い味にしか向かないという考えで、実際そういう調理しか見ることのない素材でした。
ただこの鮒は全く臭みも何もなく、言われなければ鮒なんて到底分かりません。
逆に特徴らしい特徴は無くなってしまっているようにも思えなくはないものの、卵がまぶされた鮒をわさび醤油でいただくと昔の鮒の印象が払拭されていくようです。
醤油も煮切りをされているようで、これが実に美味しいお醤油です。
【琵琶湖産ホンモロコ 飯(いい)のソース】
希少な琵琶湖産ホンモロコ。
3尾のうち1尾は子持ちでした。
ホンモロコが旨いのは言わずもがなですが、この飯のソースというのがすごい。
どうも飯というからにはご飯を発酵させたものなのか、微かに感じる酸味と豊かな香りが絶妙な味。
正直このソースだけ舐めてみても塩分もほとんど無いと思われ、ほぼ味らしい味は感じないのですが、これをホンモロコに付けると付けないとでは全く違う。
正に素材を引き立てるためのソースといったところ。
横に添えられたもみじがさという山菜も肉厚な印象で美味です。
【すっぽんの蒸し】
いわゆる茶碗蒸しのようです。
蓋を開けるとフワッとくる生姜の香り。
出汁の風味の効いた茶碗蒸しは上に載ったすっぽんの身以外は葱などの薬味だけ。
香りはあるのに生姜の辛味は感じず、またすっぽんも強い味付けが施されているわけでもなく、まさに茶碗蒸しの風味で食べさせるような料理。
しみじみ美味しいです。
【天ぷら】
塩でいただくようですが、結晶が細かく崩れているようにも見え、焼いたりしているのかも。
この塩も旨みのあるもので、かなり良いものであることは言うまでもなさそう。
まずは稚鮎。
女将さんがおっしゃるには、稚鮎から小鮎に変わるくらいの大きさなんだそうです。
これは食べた瞬間に強い衝撃。
何度も稚鮎なんて食べたことはありませんが、この美しいほどの美味しさにはこれからの生涯で何度も出会うことはないだろうことは容易に想像がつくような味。
もちろん産地のすぐ脇という「地の利」と「旬」という、この上ない条件が揃っているからこそ、ではありますが、この天ぷらというジャンルでご主人の調理技術の高さを改めて実感。
ふっくらして噛むと微かな苦味を残して崩れるようになくなる稚鮎。
薄くカラッと揚がった衣は、まさにこの稚鮎を一番美味しく感じさせるためのもの。
素材を活かす調理技術をお持ちだと思いました。
念のために補足を加えますが、一般の鮎は川で孵化して海に下り3センチほどになるまで汽水域に生息した後、川を遡上して苔などを食べ成魚に育ちます。
それに対して琵琶湖産の稚鮎というのは少々特殊で、孵化した後に巨大な淡水湖である琵琶湖に下るのですが、何故かそのままそこに住み着いてしまうらしく、食べる餌も一般の鮎のように石についた苔ではないわけです。
そのためか大きくなっても7~8センチくらいのままで、『香魚』と呼ばれる一般の鮎のような香りがあるわけでもありません。
ちなみに琵琶湖の稚鮎を他の川に放流するときちんと成魚に育つとも言われているので、単に食べるものの問題かと思われますが、そういう意味では琵琶湖の稚鮎と一般の鮎とは違うものと認識しておかれた方が良いと思います。
そして山菜の天ぷら。
5種類あるようで一応名前も教えてくれましたが、コシアブラ、タラの芽、ヤマブドウ以外は忘れてしまいました。
写真を見返すと、残り2つのうち一つはもみじがさのようですね。
山菜にはこれまでの人生で興味を持ったこともなく、然程期待もしていなかったんですが、こちらの天ぷらは実に美味しい。
山菜という名前に対して勝手にイメージしていた、食べにくさというものとは全くの無縁。
若干のほろ苦さを感じるものはあれど、実に心地よいほろ苦さであって、嫌な苦さではありません。
稚鮎と同じく軽くカラッと揚がった衣は、素材の味を数倍美味しく感じさせてくれるようにも思えます。
【稚鮎の煮あげ 荏胡麻のせ】
今度のはかなり小さなホントの稚鮎。
これを酢を使って煮あげておられるようで、やや酸味のある仕上がり。
とても柔らかくて、よく形を崩すことなく煮あげたなぁと感心してしまうほど。
これも塩気はほぼ無くて、横に添えられた花山椒の香りや荏胡麻の風味で実に美味しくいただきました。
【自家製発酵からすみとその天ぷら】
ねっとりとしたからすみは極上の味わい。
これでお酒が何杯でもいけそうな濃厚さは他にあまり類を見ないような完成度。
一方それを天ぷらにしたという一品は、加熱して生まれる魚卵の粒の食感と、一層増した風味が極めて秀逸。
このタイミングを見誤ると逆に臭くなるんじゃないかという、ギリギリのところ。
からすみは正直なところそんなに好きなものとも感じていなかったんですが、これは別格。
実に美味しいです。
【猪肉 黒胡椒の実添え】
猪肉に黒胡椒の実を添えた一品。
猪肉は寝かせてあるのか、新鮮なものとはまた違った風味。
特別な味付けはされていないように思います。
脂も思っていたよりキメが細かくて、肉全体が甘く感じられます。
それ以上に黒胡椒の実が何かに漬け込んであったのか、ピリッとする中にちゃんと味を感じて実に鮮やかな風味です。
むしろこっちの方こそこの料理の主役なのかと思えるほど。
女将さんは、これだけでお酒が飲めるくらい、なんておっしゃってましたが、あながち間違ってないですよ。
軽く煮た印象のリンゴが添えてあるのもユニークです。
【熊猪鹿のつみれ鍋 花山椒風味】
これを含めてちゃんとした料理名があるわけではないので、ネーミングは私が勝手につけてます。
毎年11月中旬に猟期に入るそうですが、この時期に出てくるのはその頃に獲ったものでしょうか。
熊と猪、鹿の肉を粗挽きで小さくギュッと固めたつみれを、一連の流れでは初めて濃い味のスープでいただきます。
そして食べる前に投入する花山椒の量が半端ない。
花山椒は山椒の実の香りを優しくして香りは豊かにしたような印象ですが、痺れはあまり感じません。
ただでさえ香りの良い花山椒をこれでもか、というくらい入れるので鍋全体が非常に華やぎます。
具はこのつみれと花山椒以外にはわらびとこごみだけですが、それだけで充分満足できます。
逆にこれ以上具を増やすと素材の味を損なうのかと。
この鍋の主役はむしろ花山椒とぜんまい、こごみであって、つみれは脇役と言ってもいいくらい。
雑炊を作るためにスープを3分の1残してお返しします。
【鮒の熟れ鮓】
雑炊を作ってくれている間にここで真打ちとも言うべき鮒の熟れ鮓が登場。
右のものは蜂蜜をかけて、左は更にそれをパンで挟んであるそう。
こちらのこだわりでもあり、店名に入れている「鮓」の極め付けとも言える料理かと思っていましたが、この食べさせ方が意外ではありました。
蜂蜜のかかった方は熟れ鮓の独特の臭みを比較的堪能できる一品。
それでも蜂蜜の存在が熟れ鮓のクセを幾分か中和してくれているようにも思われて、案外熟れ鮓がダメな人でも辛うじてイケる範囲かも。
パンで挟んだものは更に食べやすくて、軽くトーストしてあるパンの甘みと香ばしさのおかげで、やや酸味のある具、という感じに収まっています。
ここまでいくと逆に熟れ鮓を期待して訪問される方には期待外れとなる可能性もありそうですが、この熟れ鮓という万人向けでない難しい素材をいろんな手法で多くの人が楽しめるように提案するという発想は素晴らしい。
【雑炊】
つみれ汁のスープを使った雑炊にも花山椒を遠慮なくドッと投入。
これだけ入れても風味こそ良くはなれ、味を損なうこともないので非常に便利な素材だと思います。
ご飯がスープの旨みを軽く吸う程度に作られた雑炊は卵でとじたシンプルなものではありますが、あのつみれの旨みを吸ったスープの良さを存分に味わえます。
良いものには過剰に手を加えないのも、やっぱり素材の良さを充分見極めておられてこそだと思います。
そして付け合わせのお漬け物がまた美味いんです。
手前のものは素材は聞きませんでしたが、米粒らしきものがみえたりもしたのでこれまた発酵させた素材を生かしておられるのかも。
【発酵アイスクリーム】
発酵とアイスクリーム?となりますが、俄かには理解しきれない組み合わせ。。。
ちなみにこれについては特許を取っておられるようです。
詳しくは聞きませんでしたが、発酵させたものを冷やしてアイスクリーム状に固めたのかなぁと推測しました。
記憶は定かでありませんが、提供される際に「飯(いい)のソース」という言葉を聞いたようにも思いますので、ひょっとしたらホンモロコにかかっていたソース、あるいはそこに更に手を加えたものを使用されているのかもしれません。
舌の上で溶けると何だか新しい類のチーズのようなふくよかな風味が膨らみますが、これも私の拙い語彙力ではなかなか表現しきれません。
濃厚でありながら繊細な味わいのするアイスクリームでした。
【全体の感想】
ほぼ12時から始まった食事は、終了したのが14時40分。
時間の流れを全く忘れてしまうほど感動的な時間でした。
全てのものが想像を遥かに超える料理ばかり。
発酵させたものだけにこだわらず、その土地の旬のものを美味しいままに提供するという、いわば両極にあるものの良さを理解しておられることからもご主人の視野の広さを窺わせます。
またその素材を活かす表現手法としてのご主人の調理技術がかなり高いことも、料理の完成度の高さに大きく寄与しておられるのではないかと。
素材の良さを生かしつつ、むしろ本来の良さを超える良さを引き出しておられるのではないかと思うほど。
訪問前はこの不便な場所にあることが不思議でもありましたが、訪問してみて納得。
これは客を集めるための「地の利」なのではなく、あくまで良質な素材を入手し美味しいまま提供することができるための「地の利」。
その土地で採れた旬の素材を、美味しいままに調理して提供する。
至ってシンプルでありながらも理に適った考え方です。
実際ホンモロコや稚鮎、山菜などは、都会の名店と言われるようなお店でいくら高額な代金を支払っても絶対に味わえないような逸品ばかりでした。
おそらく私の舌ではこのお店の良さの半分も理解しきれていないとも思うのですが、それでもこの満足度たるや、驚くべきものがありました。
こちらは訪問する度にその旬の食材を使っていただける楽しみがありますし、2年後3年後に訪問した時には自らの感性の成長によってまた新しい発見を感じることができるお店だと思いますので、また今後も継続的に訪問していきたいものです。