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いやはや、世の中にはこれほどまでに奇縁というものが転がっているものか、
筆者のような下衆の見本市でも思わず首を傾げてしまう。
なんでも、このたび人形町から日本橋エリアへと移転した「磯田」。
そのご主人は、専門学校時代を共に過ごした荒木という御仁と同門の仲らしい。
しかも、その荒木氏が立ち上げた「鮨かみなり」が
新天地のビル階下に開店したというのだから、まさに“引き寄せ”の極みであろう。
対してわたくしめは「イラマチ男」などという不名誉極まるあだ名を冠され、
下衆、悪辣、お下劣の三重苦で業界から忌み嫌われがち。
引き寄せる女性は【蛭子能収さん】によく似た面立ちの方ばかり。
そんな宿命を恨む暇もなく、こそこそと「磯田」の暖簾を潜り抜け、
舌鼓を打ってきた次第である。
・お吸い物
序盤に供されるのは、大黒シメジや平茸、加賀蓮根、揚げ丸餅が泳ぐ“きのこのお吸い物”。
秋色の香りと出汁のやわらかな温もりに、
朝から重い我が身もほんの少し浄化される気がする。
・香箱蟹
例年この時期は蟹で街が埋まるほどだが、
「磯田」のセコ蟹は旨味がギュッと詰まっており、甲羅ひとつでも存在感が段違い。
指先まで蟹の甘やかさがしみ入り、つい顔がほころんでしまう。
・梭子魚の棒寿司
梭子魚の棒寿司に、濃厚なバチコと揚げたクワイのチップをあしらうとは。
ネタと酢飯の塩梅が極めて絶妙で、思わず出る言葉も失うほど。
これはもう、磯田の代名詞とも言える仕事ぶりではないか。
・鼈（すっぽん）の焼き物
酒と醤油のみという潔さで仕上げた焼き鼈が、
まるで竜宮城への入口のような深いコクを誇る。
旨味の塊とはこのことであろうと、うなだれるほどに感服だ。
・海老芋
海老芋がこれまた、噛むほどに甘みとホックリ感が倍増。
嫌な雑味など一切なく、頬が落ちる瞬間を自覚できるほどの瑞々しさ。
こうなると、もはや何も考えられなくなってしまう。
・小肌
鮨屋さながらにキュッと締められた小肌を大根おろしでいただくと、
「ああ、酢飯をくれ…」と内心叫びたくなるほど旨い。
さり気なく口直しとして出される一品に、
磯田親方の遊び心と粋が詰まっている。
・真鯛
この季節の明石鯛は白身に旨味が乗ることで名高いが、
「磯田」の真鯛はさらにひと味抜きん出た印象。
滑らかな舌触りと凝縮したコクに、じわじわと感動が押し寄せる。
・白子の御椀
白子と出汁、生姜の香りが絡み合い、
口に含むたび幸せの波が広がるよう。
思わず宙を仰ぎ見て感嘆してしまう、
この巧みな仕上がりには脱帽しかない。
・鰤の焼き物
富山の鰤をしっかり火入れし、鬼おろしの爽快さで脂を押さえる。
「鬼には金棒、ガードマンにはMY、大谷翔平には水原一平、鰤には鬼おろし」などと
妙に納得する言葉が浮かぶほど、相性は抜群だ。
普段ブリに興味のない筆者でさえ虜になる、誠に危険な一皿。
・甘鯛の栗蒸し
秋の実りである栗の甘みと、ふわりとほどける甘鯛の相乗効果。
それらをまとめる出汁が見事にバランスを取り、
まさに「磯田」流和食の真骨頂といった趣き。
京味の系譜を感じさせつつも独自に進化を遂げた逸品である。
秋香る至福
・締めの食事
最後は「磯田」の代名詞ともいえるご飯。
硬すぎず柔らかすぎず、口に運ぶたび弾む艶と甘み。
あまりの美味さに、10杯くらいお替りしてしまう輩もいるとかいないとか。
筆者もそのうちの一人であることは間違いない。
こうして新天地でも確かな存在感を放つ「磯田」。
唯一、筆者が和食店で先の予約を取る稀有な例といっていい。
次は2月、
またこの店の暖簾をくぐる日を心待ちにしている。
ご馳走様でした