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芦屋の『コシモ・プリュス』と共に、以前から行ってみたかった『オテル・ド・ヨシノ』。何せ引きこもり体質なものですから(笑)、なかなか遠出できないもので…。しかし、今回はちょっと特別な料理にお誘いをいただいて、初めての和歌山へ。
12時過ぎの予約なのに、家を出るのは朝9:30。朝メシに困りますな。でも、夜だと今度は帰りがしんどいんですよね~。いつも関空方面しか行かないので、日根野駅で違う方向に行くのはドキドキします。特に、あの仙台での乗り遅れ事件(?)の後だったもので(笑)和歌山~大阪間が電車乗り換えナシなのが、せめてもの救い。
和歌山駅からタクシーで1メーターほど、県民会館みたいな施設の最上階という、何とも不思議なロケーションにお店があります。隣のカフェではブッフェもやっているらしく、お店の前には日曜のお昼という事もあって人がいっぱい。まぁ、フレンチレストランへのアプローチとしては、けして良くはないです。
シャンパンを軽く頂きながらグジェール。
何気に、このグジェールが温かくて風味も立ってて旨い。
・人参のムース、由良のウニ添え
さて、ここからの料理ですが、通常のコースではなく、同行者の方にクラシックな料理をお願いしておりました。
それぞれも、合わせても美味い。これが定番、そしてフランス料理の美味しさ。たとえそれぞれが美味しくても、全体がおいしくなければダメ。一皿という世界のすべてに目が届いているか、それがとても大事な事。この小さな一皿からも、シェフの素晴らしさがわかります。
・ガスパッチョ キュウリのゼリーの上に
この緑のジュレが運ばれてから、ガスパチョが注がれます。少しピリッと辛味の利いたスープで、二人ともワインもパンも忘れて、一気に食べてしまったくらい。やっぱり夏のフレンチって、僕は好きです。この後にもう1皿あったのですが、ちょっと個人的事情で内容・画像は割愛。出てきた瞬間に「お~!」と声が出、食べても驚きの美味しさでした。
・和歌山産オコゼのポワレ サフランのソース
ぷりぷりの身に、香りの良いソース。野菜が少しオイリーな気がしますが、それもまた旨い。油って美味しいよなぁ…と、フレンチでは本当に思います。もちろん、素材の美味さ、調理の上手さがあってこそなんですが。
そして、ここからが本日のメイン。というか、コレを食べに来たんです。
ぷっくりと見事に膨らんでいます。さて、中身は…ぷすっと割ると中から丸鶏!
ブレス鶏のヴェッシー包みです。割った瞬間に香る、何ともいえない香り。トリュフはもちろんですが、肉自体の香りも、そしてフォンも。どれもこれもが素晴らしく、渾然一体とはこの事か!これを切り分けてもらって、まず出されたのが胸肉。たっぷりのトリュフとソースはシュプレームの変形、アルブフェラの2種で。トリュフはこの時期ですから南半球のものですが、最近はもうフランス産とほぼ差がないという気がします。実際、その品質が認められ、数年前より値段も上がっているとか。
それにしても見事なまでにしっとりとした火入れには驚かされます。これがヴェッシー包みという調理法なのですね。いままで食べた鶏料理の中でも、間違いなくNo.1。肉もですが、個人的にとても好きなのが、皮と肉の間に挟まれたムース。フォアグラなどを使ったものらしいのですが、これがめっぽう旨い。肉料理を超えた肉料理、って感じです。
そして、丸鶏ですから、もう一皿。キュイ(腿肉)は酸味の利いたソースでサラダ仕立てに。
レバーなども添えて。これも旨いなぁ。少しレア気味で、弾力のある腿肉。ソースの酸味とレバーの苦味の両方が旨みになる。しかし、さすがに丸鶏を二人で分けると満腹満腹♪
今回、このヴェッシー包みを食べるためだけに和歌山まで来たのですが、やっぱりクラシック料理は美味しいですね。個人的にはモダンなフレンチよりも。
じゃぁ、何がおいしいのか?
って言うと、「わかりません」って言います(笑)
だって、このヴェッシー包みにしたって、科学的に言えば代替法がないこともない。そもそも、真空調理がなかった時代の調理法ですし、現代なら、包み蒸しにするためのフィルムみたいなのだってあります。むしろ、火加減が見られる分、透明なフィルムの方が合理的なハズ。
ヴェッシー包みって、中が見えない、火の通り具合がわからないものに、経験と勘だけで、一人が付きっ切りで、ひたすら1時間近くも湯煎して、お湯をかけ続けるという、言ってみれば非生産的な調理法なんです。
なのに、あえて何故ヴェッシーなのか。もちろん、豚の膀胱ですから、その内臓的な野趣ある香りがつくということもあるでしょう。
でもね、何ていうかその見えない、まだ科学的に分かっていない部分にこそ、フランス料理が積み重ねてきた歴史、そして美味しさの秘密があるんじゃないかな、と。
僕はどちらかと言うと、限りなく合理主義者な方ですが、それでも料理の神は、見えないところにいる、という気がします。
・フロマージュ
せっかくなので、フロマージュも。日本にしてはずいぶん大きな塊のものばかり。フロマージュって日本では難しいのに、シェフのフランス愛が感じられますねぇ。2大好きなチーズ、コンテとエポワス。旨かった。
・ライムのムースとグレープフルーツのグラニテ
さっぱり。肉で満腹なので嬉しい。
・ガトー・マルジョレーヌ
デザートまできっちりクラシーク。ヴェッシーと共に『ピラミッド』のスペシャリテでしたっけ?バターは少し軽めにしてある気がしますが、プリンのように滑らかでもあり、(あんまり飲めないけど)食後酒のような甘さと旨さ、そして爽快感まである。このシンプルな形に、フランス料理の歴史が詰まっています。
・プティフール
デザートやプティフールまで、まったく勢いが衰えることなく終幕。今回、クラシックなメニューをお願いしていたのですが、まったくもって見事。夏らしさ、地域らしさ、そしてクラシックさ。期待通りであり、予想以上の料理たち。
関空からそう遠くないとはいえ、わざわざ東京の方がここまで来られるのもわかる料理。また、シェフとお話していると、とても楽しい。けしてものすごくお喋りというわけではないのに、熱い思いが感じられます。それも特にクラシックな料理への熱情。このヴェッシーも面倒な料理だけど、きっと楽しんで作ってくれたんだろうな~。
「(クラシックな)料理なら何でも作りますよ!」と仰っていたので、また他の料理も食べてみたい。でもコレももう一度食べたい。古典料理が食べたくなったら、また和歌山まで小旅行しましょうかね。