『Joker』Jackie_mさんの日記

レビュアーのカバー画像

東十条無頼/ランチ編

メッセージを送る

日記詳細

元日、2日と酒を飲んでいない。
で、毎年のことながら去年末もぶっ続けでがぶ飲んだので、そのくらいの方が良いなと思った。3日、クソ不味い中華屋で飯を食いながら杏子酒を二つやって、絶対出ないだろうと思いつつママに電話したら、出た。
なので帰るのはやめて移動。
最初のお酒が出てきたとき、そういえば年末、この店の仕事納めの夜、もうここ何年も、普段まったく顔を見せなくなっていた私にとって二十年来の仇敵が突如突っ込んできて、その場の空気が私にとって最悪な方向に一変。頭に来て酒にほとんど手を着けずに店を這々の体で飛び出したことをふと思い出し、ママに問うた。

「ママ、これ去年のやつとっといて(とっておいての東京弁)くれたんでしょ ? 去年のやつにサランラップかけてとっといてくれたんでしょ !?」
「あんたが勝手に飲まないで不貞腐れて帰ったんでしょう !!」

<H26.1.4 王子>

どこで飯を食ったらいいのかが分からない。
とりあえず北本通りを渡って三角公園付近を探索。お誂え向きにインドカレー屋があって、ほっとしつつ近寄っていったら窓にペタペタと張り付けられた品書きの中に“トンカツ”を見つけてしまい、空恐ろしくなって踵を返した

「big ben oji」

「LONDON」[注]の下。
それと屋号に殉じるように、BGMはビートルズ。
半地下で、それなりに雰囲気がある。煙草飲みの婆の姿を見ると、たまらなく下町を感じるのは、いったい何故か。
こちらは私の記憶の限り、そうとうに昔っからやっている喫茶店だが、入ったのは、初めてではないと思うがそれでも二、三回目だろう。食事をするのは、おそらく完全に初めてである。

私の隣の一番隅っこの卓に、例によって一杯飲み屋に多く見受けられる、席に対し真っ直ぐに座れずに身体を斜めにこちら側に構えた厳ついおじさんがいたので、こちらも無意味に険しい表情を意図的につくり、どっこいしょと席に着いた

注) ロンドン:
王子の連れ込みホテル。週末の夜は、いつもけっこうに満室なので注意されたい

“ハンバーグカレーセット” @850也。
スープ・サラダ・飲み物付き

カレーはレトルト(またはそれに準ずる)の優しいカレー。
若くガタイの良いフロア担当の彼と、キッチンの女性は親子であろうか。終始、仲良さそうに談笑しているが、お客さんを抜かりなくちゃんと見ているので、寧ろ清々しい。
また厳ついおじさんが入ってきて、わざわざ狭いとこ狭いとこ、さっきのおじさんと同じところに、まったく同じ体勢で着いたのには思わずニヤケてしまった。

さっき帰ったおじさんも競馬新聞を丸めて持っていたかどうかは、未確認である

深刻なことだが、観たい映画がない。
強いて観るなら、というのはあるが、どうもお金が勿体無い気がしてならない。酒をお代わりするのに躊躇はないが、そんなことにひどくナーバスになってしまうことに、我ながら滑稽さを覚える。仕方なく、いい年ぶっこいて「宇宙戦艦ヤマト」 を観るしかなかった。
人間として恥ずかしいことだとは思わない。ただ、新宿の集合映画館の切符売り場で窓口のお姉さんにそれを告げる瞬間、ちょっと恥ずかしい思いをすればいいだけだ。

その作品でのヤマトは波動砲の砲門に蓋をされていて、それでそこはかとなく寂しくなった自分の気持ちを説明しろと言われても困る。波動エネルギーを兵器に転用したことをスターシャに怒られて、蓋をされたらしいのだ。ちょっと、仁科明子に浮気を怒られて去勢させられた松方弘樹のことが頭をよぎった。
オリヂナルストーリーを幾分アレンジした、現代解釈版ヤマトのようである。

古代進の情熱、島大介の不言実行、真田さんの常である沈着冷静、ロボット、アナライザーの喜怒哀楽。スターシャ、森雪の、その崇高なる美しさ。
(あと、知らない若い奴らどもの熱血)

ヤマトの魅力ってやっぱり昔も今も、絶体絶命の窮地を打開するべく発動される知恵の“戦術”と、科学的にも物量的にも圧倒的な敵を前にしたときの、絶望を跳ねっ返すような戦略的、または攻撃的、或いはやぶれかぶれの“自己犠牲”だと思う

男にとって命というものは、トランプでいう“ジョーカー”のようなもので、的の外れたところで無駄に使っても意味は無いし、また後生大事に最後まで持っていても(執着していても)、それもまた意味は無い、とは石原慎太郎の言葉だったか、もう忘れた。

そしてその“いよいよ”の時に“カードを切る”という美学に現実酔いしれることが出来る瞬間というのは、組織人であれば、理不尽極まれり環境の中で「もうこんなとこやめてやるよ !!」と高らかに宣言する瞬間くらいであろうが、それがヤマトのように愛する者を守る為でも人類の為でもなんでもなく、実際のところ単純に卓袱(ちゃぶ)台ひっくり返して、そこから尻尾を巻いて一目散に逃げ出すというだけの行為に全く以て他ならないということだけが、それを何度も繰り返してきた身として、俺は心底情けない気持ちで一杯になるのよ ……

「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくおねがいします ♥」
「……。 うん」

で、その夜。
年始休業明けの飲み屋の戸をくぐり、待ちわびた女の子のそんな言葉と笑顔にやっとたどり着いて“うん”しか言えないこのひつじ年、今年年男(“としお”じゃなくて“としおとこ”ね)の俺ってやつはしかし ……
ページの先頭へ