いつもの居酒屋で飲んでいた。
今日はシフトに入っていた女の子の一人が急遽休みのようで、店長とSちゃんの二人体制。頭上のテレヴィジョンには女子バレーの世界選手権、日本vsイタリア。イタリアのハイパワーな黒人選手が日本から見たら非常にやっかいな存在感を誇示しつつ、それでもシーソーゲームで試合は最終セットにもつれ込んでいた。なんでもこの試合、勝つか負けるかでメダルに手が届くかどうかが左右される試合となっているとのこと。
私 「日本とイタリアってどっちが強いの ?」
Sちゃん 「知らないよ。私バレーなんかやってなかったもん」
私 「こんなときゆきちゃんだったら教えてくれたのに ……」
Sちゃん 「(怒り気味で)じゃ~ゆきさんに聞けば !」
私 「LINEブロックされてるから聞けないもん ……」
Sちゃんは明らかに、バレーの話とは無関係に、二人体制で過負荷となった自分の怒りを私にぶつけていた。
―― もう嫌だ、独りでサンドバック役引き受け続けんの ……
【挿入画/いつかの銀座】
さんまとたけしの番組に食い入る。
目の前ではSちゃんが、(静岡)おでん[注]鍋の〆に入っている。酔えば酔うほど無口になる俺と(途中までだけどね、大人しくしてるの)、酔って財布を無くし鍵を無くす、まるでおっさんのようなSちゃん。そこに会話はないけど、でも俺はそれで十分に満足だった。
Sちゃん怒りの、ストロングな水割りが来た。まるでストロング小林のような。
こんなお酒を許容できる身体に生んでくれたことを、死んだ母に心底感謝している。ふつうの人間ならこれ一杯でひっくり返ってもおかしくないだろう。ジュースみたいな酒を飲んで粋がってる奴らを、俺の酒人生もう散々見てきた。べつにそんな奴らを軽蔑はしていない。ただ滑稽に思うだけだ。何故ならば、こんなことほんとうは言いたくないんだけど、ジュース飲んで格好つけて粋がっているから
注) 静岡おでん
おでんというものはポトフ同様本来スープ料理のはずであるが、その静岡おでんという物体はスープが黒く煮詰められており、別段濃いというわけでもないが“飲む”に値するものでもなく、またおでんそのものも美味くもないと同時に、具にちくわぶがないということが、これまた致命的。これみよがしに振りかけられるかつぶしを削ったときの副産物のようなおが屑が、その哀しさに殊更に輪をかける
※ あくまでもこの店での静岡おでんに対する私の評価であって、本場の静岡おでんというものを私は知りません
俺の横で店長が、またしても居ても立ってもいられずに、レジに向かって今夜の売り上げを確認してる。
ほんとうに“明日”の売り上げが心配だったら、それは“今”やる仕事ではないだろう。今夜来てくれた少ないお客さんたちに対して、全身全霊をかけてもてなして、それでもお客が減ってゆくのならそれは仕方のないことだと思うが、ただでさえ手薄となる二人体制において随所でアルバイトの女の子とのお喋りに耽り、(そんなことしても増えるわけじゃないのに)思い出したようにレジで売り上げを確認していられる神経が俺には分からない。
そしてもっと分からないのが、一本80円の串でやっていて、これだけお客が入っていないのに年収一千万ということが、もう金輪際分からん(笑)
―― あ~、トイレいって頭冷やしてこよ !