雁が、北へ帰る春。
例年より少し遅れたようだけれど、この街にも桜が咲いた。
この地で初めて迎える春。
延々と続く桜通り沿いの遊歩道。
どれだけ待ち遠しく思って、この並木を見ていたことだろう。
チラチラと風に舞い散る花びら。桜まつりで演奏される琴の音が流れてくる。
そぞろ歩く親子や老夫婦。
桜の枝を持って家路につく家族。
なにか、映画を見ているような、のどかな風景だ。
いざ望んでいた風景の中に身を置くと少し怖い。
シアワセをそのまま享受して味わい尽くす力が、まだ少し足りないようだ。
来年もまたこの美しい光景を見たいと、スマホのシャッターを押す。
途中で野点をしていて、赤い床几で抹茶とお菓子をいただく。
ふざけてお茶碗を回すお連れに私も少しテンションがあがる。
またすぐに夏がくる。
悩んでいるヒマはないのだ。