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千手院橋交差点から奥の院方面に歩いたところにあります
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お店の前の通りはみやげ物屋や仏具屋が並ぶ中、紫色の看板とのれんが目印です
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1階のテーブル席。2階より上には、団体さん向けのお座敷もあるようです
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精進料理コース(左)の他に、お魚や卵を使ったお弁当もあります(右)
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まずお茶と小さな和菓子(堅い粒)を出されます(上)。コースには食前酒(お茶も可)が付き、この日はざくろ酒でした。甘辛く味付けされた麩も付きます
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摩仁膳\6300の一の膳。見た目で楽しむお造り風のもどき料理(右上)や甘草などの珍しい食材を使ったもの(真ん中)など、大変な創意工夫を感じます
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二の膳。定番の高野ごま豆腐(左下)や上品に味付けされた酢の物(右下)、天ぷらには肉や魚に見立てた高野豆腐や湯葉が(右上)
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三の膳とデザート(上)。拡大図(下)。季節をあしらった見た目が美しい
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一の膳と二の膳の一部の料理拡大図。見た目で楽しませることを、高野山用語で目食(もくじき)というそうです
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二の膳の一部の料理拡大図。見た目も素晴らしいが、味と食感の繊細さは予想以上
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高野山の中心街を金剛峰寺から奥の院に向かう表通りは、山内巡回の路線バスの往来も多く
お土産屋などで賑わっています。そんな中、千手院橋の交差点から少し歩いたところにある、
紫色ののれんがかかった、高級感のあるお店がこちらです。高野山随一の、精進料理のお店です。
高野山を参拝される方は、お寺の宿坊に宿泊し、夕食と朝食はそちらで精進料理をいただくことが多いと思います。
しかし、日帰りなどで、昼食で精進料理をいただきたい場合、こちらのお店がおすすめです。
(理由は後述しますが、昼は宿坊よりもこちらがおすすめです)
お寺で法事などがある場合、こちらの花菱さんに料理を仕出ししてもらい、もてなす、といったことが多いようです。
全国から多数の偉いお坊さんをもてなす場で、こちらの精進料理がよく振舞われているのです。
つまり、高野山の、もっとも洗練された味の部類に入ります。
宿坊をもつお寺は、大抵精進料理のために、多数の料理人を雇っており、人気のある宿坊では、
料理長が、和食や懐石で経験のある板前さんで、何らかのご縁で仏道にゆかりを持った、そんな人であることも多いようです。
しかし、そんな板前さんは、夜だけ出てくることが多く、昼ごはんでは、経験の少ない人が担当することが多いこと、
また、お寺の昼食(仏教用語では「ちゅうじき」と呼びます)では、檀家さんやツアーの団体さんなどが中心で、
お寺の業務が忙しい昼では、接待を担当するお坊さんの方でも、一般客には十分なもてなしが出来ないことが少なくないようです。
このため、一般客の昼食は予約のみの宿坊が大半ですが、
それでも僕の知り合いの宿坊関係者には(ここだけの話ですよ)
「昼、忙しい時期に、昼食で前日とか直前に予約取られると、本当にしんどい」などと本音を漏らす人もいて、
やはり宿坊の料理を味わうなら、宿泊することがベストだと思います。
昼、高野山で通りすがりのお坊さんに精進料理のお店を聞くと、花菱を推す人が多いことからも分かるように、やはり昼は花菱がベストです。
今回、噂に聞いていたこちらに初入店いたしました。
基本は、お昼のみ、午後5時くらいまでの営業ですが、宴会などの予約があれば、相談に応じて夜も営業可能とのことです。
メニューには、精進料理の他に、卵やお魚を使った松花堂弁当風の和食メニューが2000~3500円くらいの価格帯であります。
しかし、こちらの本命は何と言っても、高野山伝統の精進料理ですね。
精進料理は2100円からあり、軽く体験したいのなら、こちらでもいいのですが、
5250円と6300円のコースになると、これに二の膳、三の膳、デザートと品数が増え、様々なバリエーションを楽しむことが出来ます。
宿坊での精進料理はグルメというより、仏道文化に触れる、修業の一環といった「体験」の位置づけが強いのですが、
こちらのお店では、純粋にグルメとして精進料理を堪能することが出来ます。
このため、本場の味を堪能したい人は、高いコースを味わうことをおすすめします。実際、値段に見合った価値がありました。
僕は、6300円の摩仁膳を注文しました。
最初に、お茶、おしぼりと一緒に小さな和菓子が出てきました。天かすより一回り大きい程度ですが、堅くてかりっとして、
上品な甘さでした。
食前酒(ジュースなどへの変更も可)。この日はざくろ酒でした。
量は少なく、度も高くなく飲みやすいです。
一緒に、麩を柔らかく、甘辛く煮たものがついてきました。柔らかいですが、食感が適度にもちもちしており、
味付けが強すぎないところからも、確かにお酒に合います。
一の膳と、同時に二の膳が来ました。
ご飯と漬物、味噌汁は一の膳に載っています。それ以外にあわせて七品付いてきます。
店員さんから聞いた説明によると、高野山用語で、目食(もくじき)と言って、目で楽しむ要素も含まれているそうです。
素材の色合いと盛り付けを考えています。
精進料理には「五味、五色、五法」という言葉があります。
つまり、調理法(蒸す、焼く、煮る、揚げる、生)と味わい(甘い、塩辛い、辛い、苦い、酸味)、
素材の色(緑、赤、黄色、白、黒)のバリエーションを使っているのです。
これを知ってから味わうと、実にこちらの料理は、それらがバランスよく配置されていることが分かります。
以下、料理の説明です。
※お料理の名前は全て僕が便宜上勝手に付けたものです。
お店の人に聞いた情報と、あとは実食の限りの感想なのですが、知らない食材も多いため、
雰囲気だけです、それ以外は参考程度にとどめておいてください。
・お造り(一の膳、右上)
刺身のもどき料理を使った、大変食感の上品なお造りです。五法の「生」がこれです。
お醤油ではなく、ゴマベースの特製たれにつけて食べるのですが、これが甘くなく、ごま由来の味わいと、ほんのりとした塩で上品です。
湯葉と、刺身に見立てたこんにゃく、があります。こんにゃくには、色と食感が異なるものが複数準備されており、
茄子など食感の面白い野菜も相まって、刺身以上の食感を楽しむことが出来ます。
・甘草の胡麻和え(一の膳、中央)
甘草という生薬を使ったお料理です。鶏肉のような面白い食感があります。
これをゴマのソースと、ねぎで和えているのですが、他の調味料は使っていないようで、素材本来の素朴な味です。
ねぎは太いもので、にらに似ており、ボリューム感があります。
にらやにんにくや玉ねぎのような匂いの強い食材は使わないのが精進料理ですが、食感はかなり再現出来ています。
ほんのり香るのはわさびでしょうか。奥深い味わいがあります。
・お野菜の煮物(一の膳、左上)
煮汁のだしが、昆布と甘草、そして炒り米だと伺いました。
それなら昆布が利かせてあるのかと思いきや、昆布は穏やかで強すぎず、むしろ、甘草でしょうか、ほんのり薬草のような香りがします。
よそでは味わったことのない、優しい調合のおだし。高野山のある宿坊でも似た味で、これが高野山レシピなのかもしれません。
しいたけに、サトイモの薄切り、そして揚げ豆腐でした。このおわんは柔らかい食感を重視しているようですね。
・酢の物(二の膳、右下)
店員さんから酢の物だと伺いましたが、実際に食べてみると、酸味は抑え目で、ほんのりした甘い酢を使っているようです。
もしかするとかんきつ類の汁も入っているかもしれません。とにかく、強すぎない上品な酸味です。
こちらは、人参や大根など、固めの野菜が多いですが、食べやすいように程よい固さにゆでられています。
・ごま豆腐(二の膳、左下)
高野豆腐と並んで、高野山の名物豆腐です。沖縄のピーナツ豆腐のような、弾力性のある柔らかさが特徴で、
お土産物屋の人気品の一つにもなっています。
たれの方も、ピーナツ豆腐に似た、しかし甘すぎないものが敷かれています。
・野菜とひろうす(二の膳、左上)
素材ごとに煮たり、ゆでたりしているのでしょうが調理法の詳細は僕には不明です。
全体に調味料をあまり使わず、軽く塩とおだしだけで味付けられ、素材の味が楽しめます。
ひろうす(がんもどき)や麩、しいたけで柔らかい食感を楽しみつつ、ボリューム感のあるかぼちゃやサトイモも入っています。
・天ぷら(二の膳、右上)
抹茶塩で食べる天ぷらです。ごま油でしょうか、もしかしたら米油かもしれません。
上品な味わいの油で揚げられていました。
季節の野菜がメインで、さつまいもなどは小さめにしてあり、お腹がふくれすぎないように配慮されています。
れんこんが、からしれんこんになっており、ほんのりするからしの味わいがアクセントになります。
面白いのが、高野豆腐としいたけのしそ巻きです。お肉の天ぷらに食感ばかりか味もそっくりで、満足感がありました。
・ご飯、味噌汁、つけもの(一の膳、下)
一般的な味わいと思いきや、お味噌汁に湯葉が入っているなど、こちらも一工夫されています。
また、つけものの中の紫のものは、僕の知らない食材です。何か野草か生薬の一種でしょうが、こりこりした食感があり、
しそと塩で味付けられているのに、独特の香りがあるんです。
まさに、生薬を使ったお料理。お肉や魚を使わない代わりに、珍しい生薬でサプライズがあるのを改めて実感しました。
これらを食べ終わる少し前に、三の膳とデザートが運ばれてきました。
・小物の盛り合わせ
訪問は1月上旬、梅の花や門松を模した、見た目に綺麗なものです。
白い花は、山芋に梅のエキスで、赤い花は金時人参のような赤いにんじんです。
白と黒を、山芋とこんにゃくであわせたものもあり、さくさくと弾力性の調和に驚きました。
田楽にはからしベースのソースがかかっていますが、それほど辛くはありません。
田楽の上には、くわいという珍しい芋を飾ったものがのっており、これは縁起物だそうですが、変わった食感が楽しかったです。
全体的に、食感を楽しむもので、味付けは強くなく素材由来で、少しずつデザートに向けてクールダウンしていく性質のものです。
・デザート
甘さの強いメロンと、大粒でいちごですが、かなりクオリティ高かったです。
ごちそうさまでした。
高野山の伝統の受け継がれる精進料理、しかと「体験」いたしました。
まさに、食事をするのも修行の一環だという、仏教の精神を、五感で受け取ることが出来るお料理の数々でした。
最後に。高野山の宿坊での精進料理の裏事情をひとつ。
宿坊の厨房によっては、料理人がよく変わるところもあります。決して待遇の悪さが原因ではなく、やはりここは仏教のご縁がある場所。
よって、なにかの事情で人が入れ替わることがあるようで、
その結果、「毎年この宿坊に宿泊するが、来るたびにお料理の盛り付けが変わっている(味はいつもうまいけれど)」なんてところもあるようです。
しかし、仏教のご縁とはそういうもの。それは腕の立つ料理人さんでも、そのご縁の法則と無縁ではないようです。
一方、花菱さんは宿坊とは違い、レシピを確立しているため、訪問時期によって調理のポリシーが変わることはありません。
そういう意味でも、グルメとして味わいたい人には、このお店への訪問をおすすめする、という理由であります。