『スッポンあれこれ』シヌモノビンボーさんの日記

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こどもじゃあるまいし

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この秋、恒例の旅商いグランドツーリング実施中。

ドイツハノーバー~フランクフルト~上海~広州(佛山含む)~新嘉坡~香港間を、一時帰国しながら出たり入ったりしている。

移動が多く、出先では立ったり歩いたり商談したり実演販売したり・・・と、普段机の前でしている座り仕事とはまるで異なる働きをしているので段々疲労と倦怠が蓄積してくる。

行く先々で、按摩に掛かったり、長風呂に浸かったり、或いは酒精の力を借りて寝たりと、その解消に努めているが、結局しまいには口に入るもの、滋養をもってこれに当たる、というのが、当食べログに参加されている同輩諸兄に共通する感覚であろう。

さて滋養食、という事になると、みなさま何を想像されるだろう。

或いは血の滴るビフテキを想起される方がいらっしゃるかもしれない。

いや、医食同源の見地から、むしろ薬膳、粗食(ここでは粗菜食:菜っ葉中心の意味)に努めるべし、という向きもあろう。

いや、ジャガイモさえ食べていれば医者いらず、と、ドイツやベルギーのお医者様のような事を仰るフレンチフライ好きの方もいらっしゃるかもしれないし、ラーメン、カツ丼、カレーライスな「フツーの日本食」こそ、身体を休める一番の技、と主張する、商社関係の方もいらっしゃるかもしれない。

当方の場合はー特に中国大陸周辺を旅している間であればーここにスッポン料理をもってきたくなる。

先日、風邪をおして参加した上海の展示会では、開催中日に大閘蟹(しゃんはいがに)を名物としている酒家で思い付きで蟹黄甲魚(カニミソ和えのスッポン)をとり、その肉のちからで最終日までを倒れる事無く執務を果たす事が出来た。

戻って急に冷え込んだ東京下町では、塩味だけのごくシンプルな丸鍋が供する、まさに「生命の力」が凝縮した鍋汁と、その派生物である「雑炊」に、身体より寧ろ、気持が和らいだ。

その後突入した、毎年恒例「秋の広州交易会」では、仕入先さがし、情報収集、既存取引先との商談などで一日二万歩の走行を連日余儀なくされるが、ここでは遠く蘇州から空輸されたという触れ込みの天然甲魚(スッポン)のネギ、生姜炒めで、充実感溢れる肉身の歯ごたえと味わい、エンペラや各種関節の持つ、コラーゲン由来のゆるゆるとした良質な蛋白質を取る事により、疲労をずいぶん軽減する事が出来た。

いったいにスッポンというのは「ちから」の強い喰い物である一方、どちらかと言うと脂気は強くなく、「充実」は手に入るが、「過剰」からは逃れられるようなところがあり、これが、「お疲れちゃん」な、しかし代謝能力は決して高くない、中年男の身体には調和するのであろう。

そしてこの「充実」を、中国では主に肉身そのものに齧りつきしゃぶり、なぶりつくして我がものにするのに対し、本邦においては鍋にし、そこから抽出される「汁」の滋養をもって心身に「染み込ませ」る事に注力、さらにこれを飯を触媒とした「雑炊」によって徹底させようとするあたりに食生活、というより文化の違い、みたいなものが現われて面白い。

スッポンというと食べなれぬ人は、催淫食めいたイメージ、或いは、高価なゲテモノ的なイメージをもたれる事も少なくなさそうであるが、実際口にすると、力あふれる味わいと風味に富む一方、野卑なところはまるでなく、心身を補強し、食後豊かな気持ちになる事間違いのない、第一級の食材である事がご理解いただけると独断する。

この季節、やれジビエだ松露だ、ぶりだカニだとご馳走の溢れる時期であるが、偏見のない食通諸君には是非、スッポンの妙味を堪能していただきたいモンではある。

・・・尤もこのスッポンの味わい、いわゆる「インパクト」「調味料や油脂の多寡による強い味」志向の若い人にはピンとこないものであろうから、あくまで不惑以降の同輩、先輩諸兄にオススメする。

いや実際、本当に!

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