3回
2024/08 訪問
2024/08/20 更新
2018/02 訪問
息をのむ
2018/02/24 更新
2010/10 訪問
自分の不明を恥じてしまう、とんかつの佳店
どうも最近あたしの周囲で(正確には食べログを介して、ですけど)話題になって、訪問した人は皆一様に絶賛しているとんかつ屋があります。美味しんぼう次郎さんは享楽的タイトルをつけた掌編の中で絶賛し、yudaipapaさんは「判る人には判るマニア向けの店」と明言し、ルキウス偏屈王陛下に至っては二十年来のファンであると公言しています。ならば、あたしも違いの判るひとになりたい、と思ってしまうのも、無理からぬことなのではないでしょうか。ねえ。
普段動じないと言われているあたしでも、ごく稀にですが「息をのむ」ことがあります。以前息をのんだはいつだったか思い出せないくらいですが。それはひと言で表すならば畏敬なのだろうと思います。
暢気に地下鉄に乗り、この食堂へやってきたあたしの眼の前に、突然現れました(「上ロース定食を」と、注文しているわけだから突然でも何でもないのだけど)。確かに、先人たちのレヴューによってこの食堂のとんかつがやや小振りで揚げ色は濃いことは知らぬでもなかったのです。が、それは何と喩えたらよいのでしょうか。上述したように畏敬でもあり、そのゆえんはこの皿の上から発せられる気韻に撃たれたのだと思います。
かつそのものの味も極めてまっとうで収斂されたとでも形容したくなる味。塩、芥子、ソース、どれをつけてみてもほんのりとした脂質の甘みが引き立ち、我を忘れて白飯と交互に箸を進めてしまいます。キャベツもとても好みの切り具合だし、ポテトサラダも口に含んだ時のしっかりとした質感が嬉しく、しかしあくまで脇役に徹した存在であるのが素晴らしい。
年配の御夫婦は気負ったところなどまるでなく、さながら剣豪小説に出てくる、「普段はどうということのないてんぷら屋の主が、実は無外流の使い手で……」といった雰囲気すら感じてしまったのはあたしだけでしょうか。いやそうでないにしても、主人が丁寧にとんかつを仕上げていく様は、手元は見えないけれども実に楽しけでもあり、内儀の控えめながら的確な接客は見事と言うほかありません。
感心するとんかつはいくらでもありますが、感動するとんかつは、そうあるものではありません。
2010/10/04 更新
その後も何度か食べに行っています。
今日は上ロースかつ定食をいただきました。
どうして、このような寸分も狂いのない精緻な作り込みができるでしょうか。
賞賛もしくは畏敬の言葉しか見当たりません。
願わくばディジョンマスタードを……などと思うから、俗人の域を越えられないのでしょうか。
長く続けていただきたいものです。