レビュアーの皆様一人ひとりが対象期間に訪れ心に残ったレストランを、
1位から10位までランキング付けした「マイ★ベストレストラン」を公開中!
5位
1回
2015/06訪問 2015/07/09
「大事なことは、出したものが美味しいかどうか。美味しくなければ意味がない。」
The World’s 50 Best Bars 2014という世界のBARランキングでNo.9を獲得したのが当店だ。海外からのゲストが多いことが特徴である当店だが、バーテンダーとしてのサービス、技術、信念のどれもが一流の名店に違いない。
土曜の食事時、混雑する前を狙って、新橋から歩く。目指すビルはハイボールのロックフィッシュが入居しているポールスタービル。相変わらず行列ができているチェーンの寿司屋を横目にし、「なにを並んでいるのかと」冷やかな目線を送りつつ、早足で歩く。土曜日だからなのか、静まり返ったビル内は、薄暗く少し不気味。店の看板を見つけ、扉を開けると、想像よりもこじんまりとしたBARがそこにあった。
外国のゲストが多いと聞いていたが、この日も私以外はみんな外国人。どうやら外国からの旅行者が多い様だ。彼らが飲むのはジャパニーズウイスキーやそれを使用したオリジナルカクテル。意外にもカクテルを指定して注文する客は少ないんだそうだ。そして、サクッと飲んでサッと出ていく。私のように入り浸ったりはしないらしい。
さて、そんな旅行者たちのことは気にせずに、私は私のカクテルを。
この日のオーダーは、ブロンクス・テラス、マンハッタン、ウィスパーの3杯。
どれもこれも味が抜群に決まっているのは、確かな技術とバーテンダーの確かな味覚ゆえだろう。
非常に特徴的なのが、作っている最中に何度もテイスティングをしていること。規定量を混ぜ合わせ、おざなりのテイスティングをしてグラスに注ぐなんて真似はしない。納得できるまで調整を加える。その姿勢はまさしく一流だ。
また、通常のマラスキーノチェリーでは甘いだけで酒には合わないからと、ひと手間加えたものを使用している部分など、些細なところにこのBARのこだわりを感じることができる。
そして、最も印象的だったことは、「レシピは覚える必要ないと思ってる。」という店主の発言だ。およそ、プロのバーテンダーの口から出たとは思えない発言であるが、その理由を聞けば納得がいく。
「調べれば出てくることよりも、大事なことは、出したものが美味しいかどうか。美味しくなければ意味がない。」と真剣に語る店主の話を聞き、これがトップバーテンダーが持つ信念なのかと、感動を覚えずにはいられない。
そして、最後に「こんなこというと、スタッフまでレシピを覚えてくれないんですけどね」とユーモアまで忘れない。さすがである。
ちなみにこの日は、マンハッタン以外は、2番手のバーテンダーである倉上さんが作ってくれた。2014年のカクテルコンペで国内優勝をしてる腕はさすがである。クールなタイプかと思いきや、全くそんなことはなく、とても楽しくお話をしてくださるホスピタリティに溢れるバーテンダーだ。
煌びやかな内装も、驚くような演出もないが、そんな瞞しは、BARにはいらない。本当に必要なものが何なのか、それを教えてくれる本物のBAR。近々移転するそうだが、移転後は足繁く通う事は間違いない。
Bronx Terrac…注文すると「渋いですね」と言葉が返ってきた。バーテンダーにそう言ってもらえると、なんだか嬉しくなってしまう。食前酒に最適なカクテルだ。
Manhattan …ずっしりと重く、余韻が長いマンハッタン。私が飲んできた中でも最も美味しい部類だろう。2種のチェリーの演出も楽しい。
Whisper …レシピを調べて作っていただいた。"囁き"という名の意味深なカクテル。どんなシーン、どんな思いを込めて飲めばいいのだろうか。初めて飲んだが、かなり好みの味だ。スコッチ、ドライベルモット、スイートベルモットを同量で。
BARをメインに、たまにフレンチやイタリアン、居酒屋なんかを投稿しているが、振り返れば、今年は開拓よりも定着を重視していた一年だった。店にとってのその他大勢でいるよりも、得意客の"○○さん"だと認識されると受けられるサービスも変わってくる。
食べ飲み歩きは、料理・酒をバトンにした人付き合いだと実感している。
ベストレストランは、最も思い入れの強いBARジャンルから選ぶことにした。
選らんだBARは、そのカクテル、そのサービス、何よりもバーテンダーの姿勢に感動を覚えた店だけだ。だから中途半端に7店のみ。
孤独な時、疲れた時、はたまた浮かれている時でもいい、ここに訪れれば、心が癒され、幸福を味わう事ができるだろう。