1回
2025/11 訪問
湖畔に溶ける秋──サンクチュアリコート琵琶湖『OZIO』で味わう、哲学という名のフルコース
『スパゲッティ 紅ズワイガニアラビアータソース』
『ジョスパーオーブンで焼き上げる近江牛ロースカカオビネガーソース季節野菜を添えて』
『トリュフとカボチャのニョッキ岡崎牧場近江牛のラグーソース』
『炙り鮪のタリアータと万願寺唐辛子スモークバーニャカウダ』
『伝助穴子のフリットとポルチーニ茸柑橘香るコンソメと共に』
『オシェトラキャビアメインカのめざめ』
『モンブランをOZIOスタイルで』
『ジュエリーボックスより 8種類のお茶菓子』を運ぶサカイさん
琥珀・翡翠・真珠を思わせる小菓子たちが整列する
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2025/11/10 更新
秋の色がいっそう深みを増した11月。
会員制リゾートホテル「サンクチュアリコート琵琶湖」にあるイタリア料理リストランテ『OZIO(オッツィオ)』でディナーをいただいた。
コースはその名も「秋のごちそうメニュー」。
名前だけで少し笑みがこぼれる。
“ごちそう”という言葉ほど、人を幸福にする音はそう多くない。
まずは、インカのめざめの個性を正に“めざめ”させるオシェトラキャビアで始まり、伝助穴子とポルチーニ茸、炙り鮪のタリアータ。
そしてトリュフとカボチャのニョッキに近江牛のラグーソース。
どれも、技巧よりも“余白”が美しい。
皿の上にあるのは、味の主張よりも、むしろ食材への敬意そのもの。
紅ズワイガニのアラビアータは、唐辛子の熱をほんのわずかに残し、次に訪れる近江牛ロースのカカオビネガーソースへと自然にバトンを渡す。
この流れは偶然ではなく、計算でもなく、もはや“構成美”と呼ぶほかない。
そして黒のベルベットのような静寂の中で、最後に運ばれてきたのは──
まるで宝石箱そのものの「ジュエリーボックス」。蓋を開けた瞬間、思わず息をのむ。
そこには、琥珀・翡翠・真珠を思わせる小菓子たちが整列し、一つひとつが“食べる芸術”として静かに輝いている。
味の記憶というより、視覚と感情に刻まれる体験。
食後の余韻を「満腹」ではなく「感動」で満たす、OZIOという名の美学を最後に見せつけられた。
──食後、料理長の野口将義氏がテーブルへ。
10年にわたるイタリア修行を経て、2024年にこの店の舵を取る人。
その口から語られたのは料理の蘊蓄ではなく、スタッフの育成や、料理への姿勢、そして未来への意志だった。
彼の言葉を聞きながら、ふと感じた。
“味”とは、素材でも技術でもなく、作り手の哲学が舌を通して伝わるものなのだと。
この夜は、いつもの仲間たちとともに。
ワインを傾けながら笑い合うその時間も、料理の一部のように感じられた。
おいしさとは、舌だけでなく、空気と人の温度で完成するもの。
そんな当たり前のことを、改めて教えられた夜。
琵琶湖のほとりに沈む夕陽が、最後の一皿のように静かに落ちていった。
五感のどこを切り取っても、記憶に残る“秋のフルコース”。
“食事とは生き方の写し鏡”という言葉が、妙に胸に残る。