タケマシュランさんのマイ★ベストレストラン 2018

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タケマシュラン

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マイ★ベストレストラン

レビュアーの皆様一人ひとりが対象期間に訪れ心に残ったレストランを、
1位から10位までランキング付けした「マイ★ベストレストラン」を公開中!

マイ★ベストレストラン

1位

ル・マンジュ・トゥー (牛込神楽坂、牛込柳町、神楽坂 / フレンチ)

1回

  • 夜の点数: 5.0

    • [ 料理・味 4.0
    • | サービス 4.0
    • | 雰囲気 3.5
    • | CP 4.5
    • | 酒・ドリンク 3.5 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥20,000~¥29,999 -

2018/12訪問 2023/01/24

徹頭徹尾、素晴らしい

日本のフランス料理界を牽引してきた谷昇シェフ。ミシュランガイド東京発刊以来2ツ星を連続で取り続ける実力派。オープンは1994年と、東京のフランス料理屋としては老舗にカテゴライズされます。

1Fが厨房で2Fがダイニング。入店してすぐにシェフの笑顔に迎え入れられます。もう、この時点で良い店だと確信。表情に雑味など一切なく、ただただゲストに幸せな時間を過ごしてもらおうとの意思がビンビンに伝わってきました。その他の料理人の笑顔も一様に素敵。働くならこういうお店だよなあ。

シェフ同様、サービス陣のおもてなし力も都内随一。加えて酒が安い。「今夜はあなたのお誕生日祝いなんだから、何でも好きなの飲んで」と、連れの気前は良いのですが、さすがにボトルワインは頼みづらい(あまりに高いのを選ぶとアレだし、かといって安いのを選びすぎると逆に気を遣わせる)ので、グラス主体で頂きます。ペアリングコース、というわけではないのですが、グラスはいずれも1,500円前後なので、料理に合わせてバンバンお出し頂くことにしました。

アミューズは4皿。トップバッターは函館の帆立を刻んだものに香草を混ぜ込み、トリュフで旗を立てる。軽い味覚ながら崇高。これは良いアミューズですねえ。シャンパーニュにもぴったりだ。

まさかの包子(パオズ)が出てきました。しかしながら内容物は豚肉のリエット(?)であり、きっちりと赤ワインの風味が漂います。単刀直入に旨い。これだけ30個ぐらい食べれそう。

カリフラワーのグラタン。緩めのベシャメルソースが胃袋に心地よい。アクセントにトリュフも用いられており、これがフランス料理だと言わんばかりの正統的な味わいでした。

ここでグラスの白。まさにブルゴーニュといった教科書通りの味わいであり、木樽由来のバターやハチミツ、ナッツの香りが先のグラタンにとても良くあう。

スペシャリテの蝦夷鹿のコンソメ。フォークに刺さったのは鹿肉の生ハム。見た目以上に鹿の風味が凝縮されており、表面的な流行店しか訪問しない港区女子なら尻尾を巻いて逃げ出すほどの逞しさが感じられます。あまりにも力こそパワーすぎるので、好みは分かれるかもしれません。もちろん私は好きです。

前菜に入ります。北海道から届いたばかりの白子をソテーし、ロックフォールと香草を用いたソースで香りを立てる。トロっと溶ける白子の食感がどこまでもセクシーであり、春菊の大人の苦味も堪らない。

パンは五穀米のパンに小さめのバゲット。料理のパンチ力に比べると控えめな味わいですが、ソースにたっぷり浸して食べるにはこれぐらいの素朴な味わいでちょうど良い。

旨味がメガトン級のイノシシが出てきました。焼いてからの燻製と念には念を入れた調理。味蕾を制圧してしまいそうな逞しい味わいなのですが、トリュフを旗手としたソース・ペリグーも全く負けていません。極めてオーソドックスで誇り高い一皿。2018年において最も美味しい料理だったかもしれません。付け合わせのヒラタケや苦味のある野菜まで、パーフェクトな味わいでした。

合わせるワインもちょうど良いですね。ラングドックのタフなシラーでイノシシに味覚の彩りを与えます。

オマール。こちらももう、素材の良さを引き出すどころの話ではありません。原型をしっかり留めたシンプルな海老なはずなのに腰を抜かすほど旨い。エキスがたっぷり溶け込んだソースのレベルは言わずもがな。圧巻はムース。ここまで美味しく調理して頂き、オマールもさぞや幸せじゃろう。つい先日、なんやようわからんオマールを食べたばかりだったので感動もひとしおです。

オマールに合わせる1杯はムルソー。今夜はブルゴーニュ特集だ。それでいて、これが1杯1,500円程度なんだから最高だよなあ。

メインは網どれの鴨。現代の狩猟は銃猟が中心ですが、コチラは網で無傷で捕獲したものです。銃でやっちまうよりも傷み辛く、鴨肉本来のおいしさが味わえるそうな。なるほど噛むほどに鴨の味わいが染み出てきます。しかしながら、何と言ってもソースである。赤ワインを主体としたソースは王道中の王道であり、これがフランス料理だと、皿から語りかけてくるような味わいでした。

デザートに入ります。洋ナシのコンポートにジュレ、ソルベ。お口直し向けの一皿なのかもしれませんが、その一口一口がいちいち旨い。

はぁとのメッセージプレートを携え、魅力的なデザートがやってまいりました。キャラメル主体の味わいにパッションフルーツのクリームの酸味が優しく響く。全体としてはキャラメル由来のビターな味わいであり、まさに大人の誕生日にふさわしい味覚です。

お茶菓子は柑橘系のゼリーにガトーショコラ。もちろん小菓子だからといって手抜きなどは一切なく、これ単体で立派なスイーツとして成立しています。

コーヒーの後に、さらにハーブティもお出し頂けました。「ゆっくりしていってくださいね」と、マダムの笑顔は聖母のように優しく明るい。

徹頭徹尾、素晴らしいお店でした。接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店です。客層も好きだなあ。予約困難性や高価であること、奇抜であることに価値を見出すゲストはひとりもおらず、健全な関係の男女が意味のある時間を過ごすためにこのお店を訪れています。私にとって大切なお店。今後も通い続けたいと思います。

■写真付きのブログはコチラ→ http://www.takemachelin.com/2018/12/le-mange-tout.html

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2位

レヴォ (笹津 / イノベーティブ、フレンチ)

1回

  • 夜の点数: 4.5

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    ¥20,000~¥29,999 -

2018/02訪問 2018/03/18

間違いなくS級

都志見セイジシェフと同時期に、日本初のゴ・エ・ミヨにおいて、今年のシェフ賞2017を受賞した谷口英司シェフ。ご両親も料理人というサラブレッドが富山で織り成すアートはいかほどか。

富山駅から車で40分ほど。リバーリトリート雅樂倶というリゾートホテルのメインダイニング。予約開始日に(カード会社のコンシェルジュが)必死で電話しまくったのですが、箱が広く空席もいくつかあり、それほど予約が困難というわけではなさそうです。

店内は思いのほかカジュアル。ミシェル・ブラストーヤジャポンとまでは言わないまでも、もう少しきちんとしたテーブルセッティングを想像していたのですが、風呂あがりの浴衣姿でもOKとのこと。

カトラリーとメニューは引き出しから。最近よくあるプレゼンテーションであり「あ、ラスだ」「あ、サッカパウだ」と口々に記憶を手繰る参加者たち。嫌な客である。

ワインリストがイマイチだったので、ワインペアリングは無いかとスタッフに問う。「あのー、えっと、まだ何をお出しするのか決まってないので~」と判然としない説明。つまりいくらなんだと改めて問うと「うーん、泡込みで8~9千円ぐらいだと思います」という不安になる受け答え。しかしながらグラスで出されたシャンパーニュはコチラ。悪く無いじゃないか。

手際良くずらりと並べられるアミューズ。5品もあってあげぽよです。メニューを見遣ると地元の食材ばかりを使った旨そうな料理名が並び「ああ、この店は大丈夫ですね。きっと旨いですよ」と、何も食べていないのに早々に結論を出す我々。

まずはビーツのマカロン。雛鳥のムースが挟み込まれており、若干の臭みがあります。メレンゲ部分は好きですが、ムースはイマイチでした。

こちらは黒ゴマのパイ。リエットが挟まっているのですが、これは実に美味しいですねえ。黒ゴマのパリっとした食感に、リエットの深みのある旨味。泡が進んで足りなくなります。

グジェール(チーズを混ぜた風味の良いシュー皮)は標準的なもの。

米でできた煎餅(当たり前か)にタピオカと甘エビを乗せて。甘エビと煎餅の取り合わせの妙と言ったら無い。タピオカは似たような食感で面白いのですが、若干カサ上げしている感は否めないので、甘エビだけで良かったかもしれません。

牡蠣は思い切り揚げられているのですが、それでもこのポーションを保っているということは、生ではさぞや巨大であったことでしょう。衣の味付けが強く、牡蠣そのものの風味もすこぶる凝縮されており、非常に味の濃い一口。ややもすると居酒屋料理チックな味覚です。

神経締めの真鰯。恐ろしく新鮮であり、逞しい歯ごたえ。モリモリとアクティブな咀嚼感に爽やかな脂の旨味。めくみの大将は「最近はイワシが獲れすぎて困る」とボヤいていましたが、それならそうと、このように出してしまえば良いのです。

ソムリエが「このイワシにはシラー」と熱弁して去っていきましたが、1ミリも合いませんでした。ちょっと謎のセンスだなあ。我々はワインと料理の取り合わせに対して神経質な集団なので、このグラスは脇で休憩してもらい、瑞々しいイワシは水で食べました。

米粉のパンが唸るほど旨い。米粉のパンは言われるまで米粉と気づかないことが多いですが、これはまさに米であり、日本人としてのDNAが潤う心地。

ヤリイカ。火が通っているのか通っていないのか不思議な味覚であり、目を閉じて食べれば和食のように思えてきます。ホクホクとした銀杏も愛くるしいアクセント。

氷見のシャルドネ。ナリサワで何度か飲んだことのあるワイナリーのものであり、日本のワインとしてはトップクラスに好きなもの。料理も酒も地産地消。良い姿勢です。

ズワイガニが主題とのことですが、白子も負けじとたっぷり入っており、通風候補生としては背徳感たっぷりの料理です。カニの旨味がとにかく濃く、その旨味でクリーミーな白子を食べるという贅沢。出汁も野菜も申し分の無い完成度。参りました。

ソムリエが「カニにはピノグリだ」と自信満々で去って行ったのですが、先の前科から斜に構えながら口に含む。わーお、パーフェクト!これは完璧なマリアージュです。確かにカニにはピノグリだ。カニにはピノグリだ。大事なことなので二回言いました。

黒エイ。恐らく生まれて初めて食べる食材です。鶏のナンコツの魚版といった風情で、身はクリアな味わい、ナンコツがコリコリと面白い食感。白眉はソース。ジュラ地方の看板ワインヴァン・ジョーヌを用いたものであり、クミンやナツメグのような独特のスパイス感がベスト・マッチ。ややもすると東方的な味わいであり、記憶に残ったソースです。

「この料理には間違いなくこの日本酒だ」と胸を張るソムリエ。ずいぶんとヒネること。素直にヴァン・ジョーヌ出しときゃいいじゃねえか、と零しながら口に含むと一堂絶句。先の料理に恐ろしく良く合うのです。

通常は蒸米を掛米として投入するところ、すべて麹を使うという変態日本酒。外観はピカピカの金色であり、熟成した梅酒のような粘性があります。みりんのような甘さがあり、ナッツやスパイスなどの複雑な香り。恐れ入りました。

ノドグロ。なのですが、ノドグロ特有のジュワっとした脂の甘味を感じることができず、マダイに近い味わいです。フキノトウは大人の苦味を湛えており、酒粕のソースも全体の調和を演出する。

合わせるワインはブルゴーニュのピノ。1周まわってこれは全然ダメですね。ひねりにひねってストレッチで体を痛めてしまったぐらい合わないです。この料理こそ日本酒で良かったのに。やっぱり色々と試してみたくなっちゃうのかなあ。もちろんワイン単体ではとても美味しいので、料理は水で食べ、ワインは皿と皿とのインターバルにゆったりと楽しみました。

メインは鹿。これまでの趣向を凝らした料理とは対照的に、ど直球の正統派です。味わいも見た目の通りに美味しく、付け合せの仕上がりも万全。このような基本的な料理があたりまえに美味しいのは、シェフの実力の高さの証明でしょう。

ここまで出ていない地域であの料理と来れば、おそらくボルドーであろう、などと連れと推測していたのですが、出されたワインはイタリアのカベルネ単一しかもナチュール。冒険しすぎでわろてまう。ビオ香がビンビンであんまり好きじゃない。

デザートが秀逸。イチゴのアイスにジャムのような凝縮感があり、ゴロゴロとした果肉も食べ応えアリ。パウダー状のリコッタチーズも絶妙な演出。普段は左党の男性陣にも、「これは素晴らしい」と大うけでした。

ワインはミュスカ。ワインはブドウからできているのにブドウの味がしないという不思議な飲み物ですが、このワインに限ってはマスカット味が濃厚であり、甘味のレベルも先のイチゴと同等でバランスが良かったです。

お次はル・レクチエ(西洋梨)のパイ。クリームの美味しさはもちろんなのですが、とりわけパイの味覚が心に残りました。パイのような、どシンプルなもののレベルが高いのは実にプレシャス。パティシエも相当な手練れとみた。

食後酒がズラりと並べられる。MUKUかラタフィアかマールかで迷っていたのですが、「全部召し上がって頂いて結構ですよ~。もちろん追加料金なしで」という大盤振る舞い。連れのヲタクは「あのラタフィアはめちゃレアで、僕が買うの凄く苦労してるのに。。。」と複雑な表情。

図々しくも全種類頂いたのですが、見立て通りMUKUかラタフィアかマールの3つが横並びで素晴らしかったです。ここまで来ると完全に酔っ払いである。部屋飲み用に酒を買い込んでいたのですが、それらに一切手を付けることなく眠りに落ちてしまいました。

いや~、素晴らしい料理ならびにワインでした。お会計は料理が1万5千円にワインが9千円と、このクオリティにしては破格。都心なら5万円取られても文句なしのレベルです。

前衛的な地方料理ながら何を食べているかきちんと理解できる調理がいいですね。この皿の主題は何かと直感的に認知できる。ワインのチョイスは蛮勇そのものであり、所々ずっこける場面もあるのですが、記憶に残るという意味で意図的なのかもしれません。ワイン・ペアリングなんてのは、ちょっとはみ出すくらいがちょうどいい。

人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店です。決して田舎効果(アクセスに苦労すると何もかもが良く思えてしまうこと。今、考えた)に惑わされているわけでなく、これまでの飲食経験に照らし合わせて間違いなくS級。次回は季節を変えてお邪魔したいと思います。オススメ!

■写真付きのブログはコチラ⇒ http://www.takemachelin.com/2018/02/levo.html

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3位

ナベノ-イズム (浅草(東武・都営・メトロ)、田原町、蔵前 / フレンチ)

1回

  • 昼の点数: 4.5

    • [ 料理・味 4.0
    • | サービス 4.0
    • | 雰囲気 4.0
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 4.0 ]
  • 使った金額(1人)
    - ¥15,000~¥19,999

2018/03訪問 2023/01/24

何をどう考えて、何を主張したくて、何をどう調理したか

恵比寿のロブションのエグゼクティブシェフを11年務め、在任中はミシュラン3ツ星を堅持し続けた渡辺雄一郎シェフ。2016年、満を持して浅草の地で独立し、以来、レストラン業界の数多ある賞を総ナメ中。

カフェ風の外観の建物に入ると、真っ先に目に飛び込むのがガラス張りのキッチン。手術室のように清潔で、使い込まれた美しさを放つステンレス。美しいものが美しいのではない。美しく使われているものが美しいのだ。

彼は厨房はもちろんのこと、調理技術やレシピなども気前良く公開し、パイを取り合うのではなくそもそも大きくしようよ、という姿勢です。

ダイニングは変わった構造で、螺旋階段で多層階に分かれています。隅田川に面した壁は一面ガラス張りであり見事な眺望。「ウチの店で一番いいのは景色ですから」と屈託の無い笑顔で語るシェフ。プレゼンテーションプレートにあるロゴマークは渡辺家の家紋とのこと。

ランチなので健康的に泡1本で通します。アカデミー賞公式シャンパーニュに採用されたこともある名編。外観はまさにゴールドといった色合い。香りは完熟したフルーツにブリオッシュなどと濃い。泡は繊細でクリーミー。3つのブドウがバランスよく配合されていつつもコクの強い味覚という印象。

見目麗しいアミューズが到着。中央はガスパチョ。質の良いトマトに若干のオレンジ風味で夏そのものみたいな味がします。意外にも底が深いグラスであり、量がたっぷりあるのが嬉しい。

右上は2種のオリーブのマリネ。シンプルで素材そのものの良さがひしひしと伝わってきます。

右は「駒形種亀最中のカナッペ」。老舗のモナカの皮をベースに塩昆布やアーモンド、丹波の黒豆、フレッシュチーズなど。スガラボでも思いましたが、フランス料理と最中の生地というのは相性が良いのかもしれません。

右下は「大心堂雷おこしとフランスの出会い」。浅草名物にフランスの発酵バターが実に合う。アンチョビの塩気と旨味が心地よく、うっかりシャンパーニュに手が伸びてしまう。

江戸ソバリエ(江戸蕎麦の通人を表す民間の資格)でもあるシェフが胸を張るスペシャリテのそばがき。両国のミシュラン星付き蕎麦屋「ほそ川」の蕎麦粉を用いています。

ちなみに私が今日ここに来ようと決めたキッカケはこの料理。日仏スターシェフ5人が1人1皿を担当するパーティでこの料理の豪華版を頂いたのですが、それが気絶しそうなほど旨かったので、すぐさま我が心の行きたい店リストの上位に記しておいたのです。その旨シェフに告げると「いやぁ~、あのイベントはほんと大変で、250人同時提供とか初めてでしたよ!でも、ホテルのシステマティックな調理工程を拝見させてもらえて凄く勉強になりました」

料理に比べるとパンは拍子抜けするほどシンプルでした。しかしロブション時代にはあれだけ凝った多種多様なパンを山ほど用意していたことを考えると、何か考えがあってのことなのでしょう。

「日仏食文化の融合」と称し、和の食材としてミル貝・赤貝・ホタテ貝など春の貝類に、フキノトウ、金柑、立川ウド。コンフィや炙りなどなど、貝類ひとつひとつの調理が全て異なる手の込み方。それぞれの肝をパテにした味覚は日本酒を呼ぶ圧倒的な存在感。仏の食材としてはホワイトアスパラガスにタプナード、ミモレット。単に奇抜なだけでなく、それぞれの食材の存在価値が明確で、整合性の取れた素晴らしい一皿でした。

フランス南西部の港町セートの料理を当店風に。ヤリイカを用いて創ったビスクのような液体の旨さに悶絶。イカの香りと濃厚な旨味。頭を抱えてしまう美味しさです。たっぷりのホタルイカに、こごみ・タラの芽・行者にんにくなど。春の山菜は若干ビターで大人の味わいです。アーティチョーク独特の嫌な風味は微塵も感じられず、全体として密度の高い料理でした。イカ墨スポンジパンて丁寧に皿を拭い、1ミリも余すところ無く完食。

メインには天然のイサキをチョイス。しっとりとポワレし、そら豆・スナップエンドウ・タケノコなどの春野菜をあしらいます。白眉はソース。なんと醤油を使っているとのことであり、目をつぶって食べれば和食とも捉えられ兼ねない攻めの味覚です。しかしこのレベルにまで到達すると日本料理かフランス料理かを論じるのは野暮であり、ナベノイズム料理と言うべきなのでしょう。インカのめざめの揚げニョッキも名脇役。

連れは和牛ほほ肉。この素材の名前を聞くと、自動的に赤ワイン煮込みを想像してしまうのですが、今回はポトフのイメージ。肉は純米酒でマリネし、ブイヨンソースには生黒胡椒を用いるなど刺激的な構成です。ほんの一口味見させてもらったのですが、どこか中華料理を彷彿とさせる興味深い味わいでした。

デザートは席を移動し、隅田川を望みながら。この眺望は当店の美点であり、大切な料理のうちのひとつと言えるでしょう。

デザート1皿目。シャンパーニュのソルベにヨーグルトのメレンゲ、フランボワーズ。ドンパッチ的な弾けるキャンディが楽しく童心に帰ります。ここで木の芽を使うのが挑戦的な試み。

2皿目はデコポンのシブースト。シブーストとはカスタードクリームとメレンゲのあいのこのようなムースであり食感が実に滑らか。シャルトリューズ(修道院の薬草酒)のソルベとソースが複雑性を持たせます。

連れのお誕生日が近かったので、プレートで工夫してもらいました。左上の薔薇やパールは飴細工でありもちろん食べることができます。バラはかなり頑丈に作られているようで、専用のケースに入れて持ち帰らせて頂けました。

ミニャルディーズ。左はカヌレ。黒糖ときな粉を用いており、江戸とフランス料理の融合が徹底しています。

中央はクッサン・ド・リヨン。マジパンで絹織物のクッションを象るリヨンの銘菓なのですが、ここでも抹茶を生地に忍ばせガナッシュは黒糖仕立てと強いメッセージ性。右の生キャラメルには地元の名店カフェ・バッハのコーヒー豆が用いられてるとのこと。

〆のコーヒーも当然にカフェ・バッハのコーヒー豆で。1968年創業の自家焙煎珈琲の草分けであるだけにまことに上質。おいしゅうございました。

ロブションで食べた彼の料理、イベントで食べた彼の料理から演繹するに、恐らく好きな方向性であろうと予測はしていましたが、期待以上にドンズバでタイプな料理でした。革新的だが根本的に美味。また、美味しい・不味いの二元論だけではなく、何をどう考えて、何を主張したくて、何をどう調理したかが手に取るようにわかる構成がすごくいい。世界観がきちんとある。

独立時にはロブションの流れとは異なる革新性のため賛否両論あったようですが、先導するより追従する方が快適な料理界に一石を投じたシェフに、私は惜しみない拍手を送りたい。次回は夜にお邪魔させて頂きます。

■写真付きのブログはコチラ→ http://www.takemachelin.com/2018/03/nabeno.html

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4位

いち太 (外苑前、表参道、乃木坂 / 日本料理)

1回

  • 夜の点数: 4.5

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    ¥20,000~¥29,999 -

2018/11訪問 2019/08/30

フランス料理

私の大好きなワインバー「apero.WINEBARAOYAMA」などカッコイイ飲食店やオフィスが入居するビル「AOYAMA346」。洗練された雰囲気の建物の1Fに、青山らしいファサードの1ツ星和食店が誕生。

佐藤太一シェフは1980年北海道生まれ。調理学校を卒業後、ホテルの中華部門へ就職したの後に和食へ転身と変わった経歴です。直近では新宿御苑前「大木戸矢部」の料理長を務め、2014年9月に独立。笑顔が素敵な大変物腰の柔らかい方で、和食店にありがちな威圧的な空気感は全くありません。

ブラウマイスターで乾杯。薄張りのグラスで口当たり抜群。ビールサーバーのメンテナンスもばっちりです。

まずはワタリガニと春菊。ケチケチすることなくドッサリと盛られたカニの肉。まさにカニといった味わいであり旨味に溢れています。春菊はジューシーで滋味あふれるエキスを湛えており、最初の一口に最適な一皿でした。

太刀魚の唐揚げ(?)。わおー、こりゃあ迫力満点ですね。厚さ2~3センチはあろうハードコアな太刀魚はザクりザクりとした食感。こいつは食べ応え抜群だ。ゴマダレとの相性も100点であり、ある意味担々麺的なわかり易い美味しさがここにはあります。

連れが持ち込んだ白。イタリアのシャルドネで、トロっとした黄金色の外観に、南方系の果物とバターやキャラメル・ハチミツの香り。ふくよかでパワフルな味わいとバランスの良さ。まるでモンラッシェのような味わいです。

鯖の棒寿司。肉厚の鯖とギュっとしたシャリでお腹を落ち着かせます。パリっとした海苔の磯の香りが良いですね。そうそう、当店はリズムがあるというか、料理を出すテンポが非常に良いです。私のようにせっかちな人間にピッタリだ。

お椀は海老芋と車海老。海老芋は一旦ペースト状にして(?)から揚げられており、ザクっとした外皮の食感と滑らかでムチっとした内側との対比が楽しいです。他方、エビは直球勝負の海老味。ピンポン玉サイズをムシャムシャと至福のひととき。スープには聖護院蕪が擦りこまれており乙な味。

カンヌキ。カンヌキとはサヨリの特大サイズのことで、両開きの扉の戸締りに使う閂(カンヌキ)に例えられそのように呼ばれています。透明感のある外観に特有の旨味が乗って実に美味。圧巻は卵黄を用いたソース。淡泊になりがちな白身にドヤっとコクを与え、奥行きが増しました。ポン酢のジュレとの食べ合わせもグッド。

ところで、サヨリは細身の流線形であり魚の中では飛び切りの美人とされていますが、お腹の中は真っ黒です。「彼女はサヨリみたいな女だ」との評は、「美人だが腹黒い」という意味なのでご注意を。そのような小話は上記のマンガに詳しいです。アマプラ会員は無料で読めるのでお暇な時にどうぞ。

ねっとりとした卵黄ソースから一転、酢の物で味変します。青森県産の繊細なもずくに海鼠子(このこ、ナマコの卵巣を干したもの)で合えたアオリイカを盛り付けます。イカのネットリとした食感に、このこの強烈な旨味が堪らない。この味覚は間違いなく日本酒だ。

お酒はコチラから。米の旨味がビンビンに感じられる迫力のある液体。しかしながら口当たりは円やかでありキレも良く、食事中に楽しむにぴったりです。雲子(白子)。いったんフリット状態にした後に、ウニをトッピングし青のりのソースを流し込む。これがべらぼうに旨い。だらしなくなりがちな白子の味わいをギュっと引き締め、さらにウニで奥行きを添加。濃厚な青のりの磯の香りでフィニッシュです。

熊本のあか牛。これまでの練り上げられた料理とは一転してシンプルな調理。もちろん美味しくはあるのですが料理というよりも素材であり、これまでの皿に比べると影が薄く感じました。

非常に華がある香りであり、ソーヴィニョン・ブランを感じさせる方向性です。フランス人めっちゃ好きそう。とりわけ綺麗な酒質であり、私も大好きなお酒でした。

焚き合わせは甘鯛。こちらもバリっと皮目に食感を与えた後に、マッチョな魚肉の味わいとイクラの塩味、柚子の香り。今、何を食べているかが手に取るようにわかる直線的な味わいです。

宍道湖の天然ウナギを焼いたもの。フワッフワの食感で、一旦蒸しているのかと思いきや炭火で焼いただけとのこと。なるほど食材がこの域に達すれば人間などちっぽけな存在であり、焼いただけなのにこれ以上は手の施しようがないほどの完成した味わいでした。

お食事は蕎麦。蕎麦割烹で修業した店主の言わば主戦場であり、店内の石臼で挽き、十割で手打ちという本格仕様。この蕎麦が実に旨い。普通に旨いというレベルを超越しており、行列のできる蕎麦の名店に比肩するレベルです。

大食漢の私を見かねてか、温かい牡蠣のお蕎麦までお出し頂けました。牡蠣のエキスが上質なスープに溶け込み、見事な味わいを演出しています。ぷっくりと太った牡蠣とネギを口に含み、日本酒で喉を鳴らす。

ここのところ私は牡蠣アレルギーになったのか、約3割の確率でお腹を悪くするのですが、明日の百より今日の五十、矢でも鉄砲でも持って来いとばかりに通常ポーションを2セットも平らげてしまいました。

連れのチョイスはキノコそば。ベースのスープは同じとのことですが、牡蠣とはまた違った滋味に溢れており美味。菊の花の彩りも良いですね。これが日本の美意識だ。

蕎麦湯も出ます。日本料理屋で蕎麦湯が出るのは日本広しと言えども当店だけではなかろうか。いわゆる蕎麦湯というよりは蕎麦粉をさらに加えて風味を増し少々の味付けを行い、締めのスープ的なポジションとなる逸品。一口飲むごとに私の胃袋は結んで開いてを繰り返す。

デザートは和栗のババロア。トップを飾るクリのホッコリとした食感と、ババロアの滑らかな舌触りのコントラストがいいですね。兎にも角にもクリの風味が強く、心に残ったデザートでした。

いやあ、旨かった。そして満腹。とても好きな方向性の和食店でした。刺し身の出し方からもわかるように、純粋な和食というよりは足し算の料理。ややもするとフランス料理的に感じました。

料理人には2通りのタイプがあり、自分の目指す料理のために食材を集めるアーティストタイプと、目の前にある旬の食材を高めようとする料理人タイプに分けられると言われています。どちらが良いというわけではありませんが、私は後者のタイプのほうが断然に好みであり、大将の芸風はまさにここに分類されるように感じました。

■写真付きのブログはコチラ→ http://www.takemachelin.com/2018/11/ichita.html

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5位

てんぷら 成生 (新静岡、日吉町、静岡 / 天ぷら)

1回

  • 夜の点数: 4.0

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    ¥20,000~¥29,999 -

2018/11訪問 2018/11/23

ミスター・テロワール

行きたい行きたいと言い続けていると本当に行けるものですね。板前てんぷら成生。日本で予約の取れない天ぷら2大巨頭の片翼(もうひとつは最近名古屋から四谷に移転した「くすのき」)。今、まったく会いに行けない天ぷら屋です。

最寄駅は静岡鉄道の新静岡ですが、JR静岡駅からも徒歩10分程度。品川からドアドアで1時間程度なので、東京からの日帰り客が多い。確かに都心から八王子のほうに行くよりも心理的に近いかも。

お鍋の真ん前のアリーナ席を確保。これぞ天ぷら屋というべき静謐な空間。2つの銅鍋につき、ひとつは高温用でもうひとつは低温用。まずは高温の鍋でガリっと衣を固め、その後じっくりと低温で蒸していく手法のようです。

志村剛生シェフは東京農大卒業後オーストラリアに留学し、帰国後は焼津の日本料理店に勤めたそうな。天ぷらは独学に近いらしいです。

落花生のスープ。初めて食べる料理ですが、これは驚きの美味しさですね。土の風味が感じられる、は言い過ぎかもしれませんが、それほど落花生の滋味に溢れた極上の一品でした。

クエのお刺身を軽く油に通したもの。いい具合に熟成が進んでおり、また、熱を加えることにより凝縮感に溢れています。あまり天ぷら屋の教科書には載らない調理だとは思いますが、すこぶる旨いことは間違いない。

ところで、大将と2番手との息がピッタリなのが見ていて気持ちいいですね。大将は揚げに徹しており、魚の下ごしらえなどは完全に2番手に任せています。あれこれとうるさいことは指図せず全幅の信頼を置いているように見受けられました。ひとりのスーパースターだけが活躍するのではなく、チームで働いているお店です。

粗めにおろした山盛りの大根に天つゆを注いで待っていると、大将が直で太刀魚を置いていきます。衣の粒は大きめ。油で揚げたとは思えないほどのフワっとした太刀魚の食感が印象的。

ちなみに鮮魚は焼津の老舗鮮魚卸「サスエ前田魚店」からの仕入れ。世界中から注目されている卸であり、極上の魚を世界中から取り合っているとのこと。
銀杏。これは普通の銀杏です。さすがは成生!と唸らせる明らかな特長を見出すことはできませんでした。

アジ。こちらも先の太刀魚と同様に、水分を瑞々しく湛えているのが印象的。片方は塩でガブリとやり、もう片方は天つゆで。麻布十番「よこ田」のように食べ方についてあれこれ言われないのが気軽でいいです。

レンコン。泥がついたままのレンコンを洗わず布巾で処理し、皮付きのままでじっくりと揚げます。鍋から上げたあともしばらく休ませ予熱で蒸していく。池波正太郎の「天婦羅は親の仇のように食え(揚がったらすぐ食べろ)」との言葉に真っ向から反する取り組みです。

食べて驚き、納豆のような糸が引く。レンコン特有のジャクっ!ザクザクッという食感は程々であり、あくまでマイルドな歯ごたえ。仄かな土の香りが記憶に残るアクセント。

海老は銀杏と同様に一般的なものでした。芯のある食材を2つの温度帯で揚げ分けるという意味で、もっと極太で特大の海老にチャレンジしたものを食べてみたい私は。

脚と味噌も個別に揚げられます。味噌をこのような形で食べるのは初めてであり興味深い。

アジ。先程のアジとは打って変わって妖艶でエロティックな個体です。見た目が美味しそうな料理は大体美味しいものであり、この料理もそのルールにしっかりと則ります。とにかく魚の味が濃く、ねっとりとセクシー。こんなアジを食べるのは生まれて初めてである。

サラダは一筋縄ではいきません。葉を揚げたり魚の素揚げが入っていたりと、箸を進めるたびに発見のある一皿。野菜の味が濃くかすかな苦味も感じたりと、多種多様な味覚を楽しむことができる逸品。

タマネギ。こちらも揚げたてではなく、早めに油から引き上げ、予熱でベストな状態へと仕上げます。甘い一辺倒ではなく、逞しい旨味なども感じられ、まさにテロワールを感じる味わいでした。

イカの赤ちゃんを丸ごと揚げたもの。ちょっとグロい断面ではありますが、グロいものとは総じて旨いものである。清澄な身質の味わいはもちろんのこと、ちょっと苦くてヌルっとした部分がグッドです。

サツマイモ。これにはもう、犯し難い価値がありますね。蜜に漬けたかのような甘さながらも少しもクドくない。外皮はカリカリ、内側はホクホクねちゃり。こんなに美味しいサツマイモは中々ないぞ。

アマダイ。ふっくらと膨らんだ食感に、ウロコのカリっとしたコントラスト。もちろん美味しいのですが、これまでの野菜たちの刺激的な味わいと比べると若干見劣りするような気がしました。

イカ。こちらも当然に美味しいのですが、東京の人気店でも食べることができる味覚であり、野菜ほどの驚きはありません。ネガティブな意味ではなく、このあたりが魚介類の天ぷらの最高到達点なのでしょう。

カブ。水をそのまま揚げたかのようなジューシーさです。やや強めに揚げられた外皮と水分量との対比が面白かった。

ゴハンが炊きあがりました。天ぷらと同じく蒸らしの時間が非常に長かった気がします。一粒一粒が真珠のように輝き、これは食べる前から美味しいぞと判断。天丼・天バラ・天茶から選択できるのですが、私は天バラを。

駿河湾のフグ。すぐに下関に流れてしまうが、実は駿河湾ではフグが山ほど取れるとのこと。筋肉質な個体を骨ごと揚げて凝縮させます。ムチっムチっと一口ごとに食感が弾け至福のひととき。

お漬物も野菜の滋味に溢れており素晴らしい出来栄え。たった今、削られたばかりの逞しい鰹節が、それに負けじと頼もしい旨味を放っています。

連れの天丼。ツヤツヤとしたお米にどっしりと鎮座するかき揚げ。飴色の輝きを放つタレ。見るからに極上の1杯です。

私は天ばら。麻布十番「てんぷら前平」で頂いてからすっかりハマってしまいました。人差し指を折り曲げたサイズの海老がゴロンゴロンと打ち込まれており、これは〆の1杯というよりも天ぷらとしての立派な一品です。圧巻はお米。ヘンな表現ですがハリボーのような弾力があり、噛むごとに米の味わいが滲出します。ここまで美味しい白米は日本料理店を含めて中々見当たらないことでしょう。

中盤以降は鰹と昆布の出汁をかけて天茶にしてくれます。が、こうすると前述のコメの美点にやや陰りが見えたような気がしました。天ばらのまま一気呵成に食べきってしまったほうが良かったかもしれません。

お茶ももちろん静岡産。まずは水出し。旨味が強く、我々が一般的に飲んでいる緑茶と同じジャンルでは語れない力強さがありました。

デザートは作りたての葛餅。なのですが、まあ、葛餅は葛餅です。葛餅業界ではハイレベルな味わいなのでしょうが、個人的にはもっと派手な甘味が欲しかった。

二煎目はお湯でしっかりと。カテキンが舌の上でザキザキと暴れ、赤ワインを飲んでいるかのような引っかかり方。大人の味。

「こんなの初めて!」という体験の多い、非常に興味深い天ぷらでした。特に野菜がいいですね。あの揚げ上がってからの待機の時間。私のような導火線の短い人間には到底真似出来ない曲芸であり、大将は相当に我慢強い方だと思います。他方、魚介類についっては一般的な天ぷら屋のそれと大差ないように感じました。

私は天ぷらについてそれほど詳しくなく多くは語れませんが、ベーシックからはかけ離れた、何でもありの場外乱闘系の天ぷらに感じました。「楽亭」「みかわ」「山の上」といった王道中の王道とはもはや別のジャンルの料理と考えた方が良いでしょう。ベーシックな天ぷらを一通り知った上でお邪魔したほうが楽しめるお店。予約困難だからという理由だけで訪れては気づきが少ないような気がします。

何が何でも素材コンシャス。地産地消を徹底するミスター・テロワール。好き嫌いは別れるかもしれませんが、清濁併せ呑んで天ぷら業界の未来を指し示した、存在意義として極めて重要なお店です。

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6位

アルゴリズム (白金台、白金高輪、広尾 / フレンチ)

1回

  • 昼の点数: 4.0

    • [ 料理・味 4.0
    • | サービス 3.5
    • | 雰囲気 3.5
    • | CP 4.0
    • | 酒・ドリンク 3.5 ]
  • 使った金額(1人)
    - ¥10,000~¥14,999

2018/10訪問 2023/01/24

ハッシュタグを井桁と呼ぶタイプ

銀座レカンやカンテサンスで腕を振るい、2017年にルビコン川を渡った深谷博輝シェフ。どの駅からも死ぬほど遠い陸の孤島にカウンター8席のみのフレンチレストランをオープン。

席につくと提示されるのはiPad。店のコンセプトなどを動画で説明し最後に料理名が表示されるのですが、このような演出や「フレンチ方程式」を標榜するあたり、若干こじらせてるのかと不安になる。

ワインペアリングは3杯4,500円~。最後にキッチリ明細を出してくれるのですが、このクラスのワインを1杯1,500円で提供してくれる計算です。飲まなきゃソンソン。

アミューズはクルマエビに「もものすけ」というサラダカブ。海老の濃密な甘味とカブのシャクっとした歯ざわりがベストマッチ。トッピングされた海老の殻(頭?足?)も特長的な風味を主張。サローネのあの一口を惹起させる美味しさです。

サワラに石川早生(サトイモ)、タマネギのコンフィにミル貝の肝のソース。サワラへのバランスの良い火入れに大地を感じさせるサトイモの味わい。それを取り巻く肝のソースが抜群に美味しく、肝のソースはアワビだけの専売特許ではないことを再認識。

このリースリングが抜群に良かったです。南方系の果物を感じさせる豊かな香り。酸は控えめで甘味が鋭くボリュームを感じさせる味わい。私はリースリングに目がない、という人種ではありませんが、この1杯は確実に心に響きました。

香茸のフラン。見た目はちょっとグロ系ですが味は確か。芳醇な山の香りに旨味が炸裂。その味わいは甘くもありまた鋭くもある。昨今のトリュフ松茸ブームに一石を投じる一皿です。

外皮はパリっ、内部はしっとり小麦の深い味わい。シンプルながら本物のバゲットでした。

ハモは一般的に骨切りしてボヨンボヨンした状態で食べることが多いですが、当店のそれは、いわゆる魚の切り身を揚げた状態で供されます。シェフは魚を扱う手管に長けている。肉厚のピーマンにソースはスパイシーなピペラード(バスク地方にみられる伝統的な家庭料理)を起用するのもすごく良い。

スジアラ。ハタやクエに似た魚であり、少し熟成させているのか程よく筋肉が収縮しています。はっきりとした食感がスーパーボールのように弾む。滑らか、かつ、ネットリとした甘味が実にセクシー。じわりじわり溢れる旨味も見事。ローズマリーのソースも秀逸。ここ最近口にした魚料理の中で一番の味わいです。
メインは鳩。まさに不変のアルゴリズム。丁寧に火を入れる。それだけ。美食はシンプルから生まれるとばかりに鳩の素晴らしさを単刀直入に表現した一皿でした。大ぶりの落花生も味のある存在であり、てんぷら前平でのそれと同様に、落花生に食材としての可能性を見出した瞬間です。

ワインは濃密なソースにビタっと合わせてエルミタージュ。濃厚かつスパイシーな1杯が先の野性味あふれる鳩ならびにそのソースにベストマッチ。デザートに入る前にお口直し。野菜のコンソメなのですが、イチヂクの葉からもたっぷり出汁を取っており、ミントのような爽やかさ。後続車への期待感を煽る良い演出でした。

デザートはパリブレスト。フランスを代表する菓子のひとつであり、平たく言うとるリング状のシュークリームです。これが、旨い。サクサクとした触感にイチジクの後を引く甘味、プラリネ(焙煎したナッツ類)の芳醇な味わい。特にややこしいデザートというわけではありませんが、直球勝負に美味しかった。

小菓子も凝っており、ここでもイチヂクや柿など旬の素材が大活躍。お金があるからといって季節はずれのものを食べる意味はないのだ。

品行方正なエスプレッソで〆てごちそうさまでした。

以上を一通り食べて3杯飲んで12,500円。妙に安いと明細を読み込むと、なんと税金やサービス料、ひいてはミネラルウォーター代まで込みの料金でした。食べ物だけならコミコミ8,000円と奇跡の価格設定。前述の通りワインも割安。ここ数か月における食後感と支払金額のギャップにつき、最も隔たりがあったお店です。もちろん良い意味で。

冒頭に記した通り、「フレンチ方程式」とのお題目に若干の不安を頂きましたが、蓋を開けてみると、どクラシックな本物志向でした。シェフは意外にハッシュタグを井桁と呼ぶタイプなのかもしれません。ペアリングの方向性もすごく好き。日本酒など妙な取り合わせは一切出さず、フランス料理にはフランスワインだと実に説得力のある方程式。

デートにもってこいの雰囲気だし、何ならカウンター8席だけなので貸し切ってしまって友達同士でワイワイやるのもいいかもしれません。予約も今のところ取りやすい(「最近良いお店あった~?」と友人に尋ねられ当店を推挙すると、その週の土曜日に予約が取れたとのこと)。オススメです。

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7位

THIERRY MARX salon (銀座、東銀座、銀座一丁目 / フレンチ)

1回

  • 夜の点数: 4.5

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    ¥30,000~¥39,999 -

2018/04訪問 2019/08/30

なぜこれを合わすのか

ティエリー・マルクスとはフランスの大変高名な料理人の名前であり、フランスはもとよりオーストラリア・シンガポール・タイなど、国内外を問わずに活躍の場を求め、世界各国においてミシュランガイドの星を5度も獲得するなど「星の請負人」と呼ばれています。日本にも4年間滞在。柔道3段、柔術4段と武道の達人であるため、色々ちょっとこわぽよです。

当店は銀座四丁目交差点、時計台の真向かい日産の上という今世紀最高の立地。レストランのオーナーはJALUXという商社。かつては日本航空の子会社でしたが、紆余曲折あり現在の筆頭株主は双日。また、当店の総料理長はマルクス氏の右腕を長く務めてきた小泉敦子シェフ。

ワインの値付けがそう高いわけではなく、ボトルで行こうかなあとも考えたのですが、ソムリエの身体から自信が漲っていたのでペアリングをお願いすることにしました。ペアリングにシャンパーニュも含まれるのが嬉しいですね。

泡のお供に自家製のグリッシーニ。エビ味やアシタバ味など3種のフレーバーがあり、客を楽しませるひと手間を惜しみません。

こちらはバスク地方のパプリカを用いた郷土料理をパロったひと口。いよいよ料理の始まりです。まずはフォアグラ。覆いかぶさっているのはペドロヒメネスのジュレ。ペドロヒメネスとはシェリーによく使われるブドウ品種。ジュレの複雑な甘味とフォアグラの濃密なコクが絶妙にマッチします。

合わせるワインはペドロヒメネスの白ワイン。ペドロヒメネスの割に糖度は抑えられており、しかしながら特有の複雑性は保持しており、先のフォアグラにピッタリでした。

こちらはマルクスシェフのスペシャリテ。右は鶏肉のムースをパン生地(?)で挟み、その上にたっぷりとキャビアを流す。これは問答無用で美味しいですねえ。左はホッキ貝に、貝類の出汁(?)でとった泡泡ちゃん。ホッキ貝の独特の臭みなどは一切なく、歯ごたえと旨味という良いところを抽出した見事な料理です。

一般的にはキャビアに視線が行きがちな1皿ではありますが、個人的には左のホッキ貝の調理技術が心に残りました。

ここでもう一度シャンパーニュ。パスカル・ドケのミレジムものと、凄い泡をぶち込んできました。繊細な泡に複合的な香り、旨味と酸味のバランス。これは素晴らしい1杯だ。ソムリエも大変に思い入れのあるシャンパーニュであるらしく、もちろん入手困難品であり、それをペアリングの流れに乗せてくれるのは理屈抜きに嬉しくなる。

ブーランジェリー(パン職人)としても有名なティエリー・マルクス。最初に頂いたものはブリオッシュ。フランス料理で、このタイミングでブリオッシュが供されるのは異例ではありますが、バターの芳醇な香りに鼻がヒクヒクする。あっという間にペロリと平らげてしまいました。

焼いたホタテにカルダモンのソース。ホタテの味わいが見た目以上に濃厚であり、世貝中の旨味が凝縮されています。カルダモンの香りも爽やかであり、実に高貴な香りが漂う一皿でした。

合わせるお酒は日本酒です。お米の香りや味わいがはっきりと取れる面白い酒であり、味わいのバランスも素晴らしい。会社員の方が一念発起してクラウドソーシングで諸々を募り、実現にこぎつけたお酒です。

こちらもスペシャリテのもやしリゾット。モリーユ茸などたっぷりのキノコが内蔵されており、森の香りが漂う官能的な味わいです。ただ、香りや味わいは良いのですが、ここはモヤシである必要は特に感じず、普通にコメのほうがより美味しく頂けそうな気がします。

ワインはサヴァニャン。良いチョイスですねえ。ちなみにシェフソムリエは銀座ZURRIOLA出身であり、「あまり自分の好みを押し付けることはせず、とにかく料理がひきたつ、料理に寄り添うものを提案させて頂いております。ペアリングと名乗るからには責任重大です」と実に謙虚。ペアリングといいつつも、掃けさせたいボトルから適当にグラスで出すお店が意外に多い中、当店のようにきちんと料理に向き合ったものを出そうという姿勢は非常に好感が持てます。

魚料理は甘鯛のウロコ焼き。コチラは残念ながら独創性や革新性は見当たらず、あまり印象に残りませんでした。もちろん間違いなく美味しくはあるのですが、他の料理に比べると見劣りすると言わざるを得ない。

ワインはギリシャ・サントリーニ島の1本。なるほどシェフソムリエは様々な業態のレストランで研鑽を重ねて来ただけあって、ワイン選びに関する引き出しが多いです。

コチラはオリーブが練りこまれたパン。オリーブがゴロゴロと気前良く入っており、これ単体で料理として成立しうる美味しさです。

メインはアイスランド産の仔羊。これは素材が素晴らしいですねえ。優しい甘いミルキーな香りに、シルクのように肌理が細かい。繊維の1本1本まで柔らかく、全体として非常に丸みのあるラム肉でした。皮目は思い切って焼き目を入れ、肉とは異なる食感と味わいが楽しめるのが嬉しい。ソースも素材に負けずに地位を主張しており、シンプルながら見事な一皿でした。

〆はド直球のボルドーでフィニッシュです。これがボルドーだ、と言わんばかりの重厚感。やはり私はこの手のワインが好きである。

デザートはポケモンGOのようなボールがやって来ました。3段に分離し、カカオのラビオリには昆布出汁(だっけ?)を注ぎます。面白い試みではありますが、追いかける液体はもっと普通でいい。上質な素材を用いる場合、あまりこねくりまわす必要はないように感じました。

アイスは何だったっけなあ。あまり印象に残らず。アボカドのピュレが興味深い味覚で記憶に残りました。

こちらはカンノーロをイメージし、ブラッドオレンジで仕立てたもの。カンノーロとはシチリアでとっても有名なお菓子であり、小麦粉ベースの生地を筒状に揚げ、その中にリコッタチーズ主体のクリームをたっぷりと詰め込んだものです。その生地の変わりに果実を用い、実にフレッシュで華々しい味覚。第三のカンノーロである。

合わせるお酒はシャルトリューズ(薬草系リキュールの銘酒)を用いたカクテル。無理にワインに拘らず、あくまで皿によりそうペアリングがここにも。伸びやかな風味が先の第三のカンノーロにピッタリ。

ナスと八角を用いた一皿。これは面白い。ブラインドで食べればナスと答えられる人は極めて少ないでしょう。意外性がありつつも、きちんと美味しい。八角の風味も的確。先のカンノーロと同等に素晴らしい甘味です。

最後の1杯はマディラ。トータルで9杯のペアリングであり、途中での注ぎ足しも考えると中々の酒量。これで1万数千円という代金はお買い得であり、ナリサワやレフェルヴェソンスあたりのウルトラ高級店に比べると実に良心的でした。

食後のお茶はテラス席で。銀座四丁目交差点を一望できる、これぞ東京これぞ銀座といった眺望です。

素晴らしいレストランでした。料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事です。ソムリエの引き出しが豊富であり、「なぜこれを合わすのか」につき論理的に解説できる実力派。哲学がある。

当店を利用する際は「ワインペアリング」と「食後のテラス席」をお忘れなく。テラス席はお隣のビストロと共用であり席数が限られるので、予約時に絶対に利用したい旨を伝えておくと良いかもしれません。

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8位

銀座 しのはら (銀座一丁目、銀座、東銀座 / 日本料理)

1回

  • 夜の点数: 4.5

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    ¥30,000~¥39,999 -

2018/10訪問 2019/08/30

青い情熱

滋賀の名店「しのはら」が銀座へ進出。あれよあれよという間に超人気店へとのし上がり、今や食べログ日本ランキング3位(1位松川、2位さいとう)。ミシュラン1ツ星です。

2回転の一斉スタート形式。時間ピッタリにならないと入店できません。気の早い人は軒先で待つことになるのでお気をつけて。

カウンター11席のみの小さなお店であり、当たり前にプラチナシートです。

名刺代わりにギンナンのお粥。度を過ぎた空腹をマイルドのさせる良い仕掛けです。ギンナンのホコホコとした歯触りが心地よい。

さっそく日本酒に入ります。今夜はお任せで6種ほどを楽しませて頂いたのですが、全体を通してストロング系の酒が多く、「この日本酒お水みたーい!」「白ワインみたーい!」のような透明性に価値を見出す方には重すぎるかもしれません。心配な方は好みをきちんと事前に伝えておきましょう。

野球ボールほどの真ん丸なナスのフタを開くと、ナスで模された素麺が入っていました。これは面白い。ナスってこんな風に切れるんだという驚きの食感に、ハッキリとした味付けの出汁。本日一番のアイデア賞です。

冬瓜と海老のひろうす(がんもどき)。スープは当然のように美味しいのですが、白眉は冬瓜。液体の中でしっかりと形は保ちつつも、箸を入れたとたんにトロンと蕩け、口の中でじゅぶじゅぶと蒸発していきます。こんなに旨い冬瓜を食べるのは初めてだ。

お刺身は本ボタンエビと本マグロのみ。この量と種類の少なさはむしろ好ましく思えました。最近、刺身や生魚は鮨屋で食べるものであり、割烹においては盛り付けを含めたトータルの料理を楽しみたいと考えるようになったのです。

本ボタンエビの味わいがやばたんまるですね。一般的なボタンエビとは異なる漁獲量の少ないものらしいのですが、その度を越した甘さと適切な歯ごたえに、秒で恋に落ちてしまいました。

イシカゲガイ(イシガキガイ)。甘味があり貝らしい風味もあるものの、若干生臭さを感じました。鮨さいとうでも同じような印象だったので、私はそれほどこの食材を好まないのかもしれません。

他方、アワビは全米が泣くほど美味しかったです。調味料は一切用いず、アワビの風味のみで炊き上げたハードボイルドな逸品。

八寸。ススキにウサギ、黄土色の丸い器と、秋を切り取ったかのようなプレゼンテーションです。見栄えだけでなく1品1品に手が込んでおり、それぞれが極上の酒のツマミ。サトイモにウニを詰めた1口が実に美味しかった。

八寸、続く。左はカニ、右はカツオ。カツオの凝縮感がいいですね。旨味が増し、余韻の長さに小さなカラシがスマッシュする。

4番サード松茸。当店は基本的に写真撮影は大歓迎の方針であり、むしろ映える瞬間などは店主みずから全席巡って撮影に応じて下さいます。ここまでは良いのですが、調子に乗ったマナーの悪い客がいるのも事実。遠くの席のオッサンがわざわざ我々の席の近くまで来、われわれの席の間がからニュっとカメラをねじ込んでくるのはグレイトな違和感。やはり年の功という言葉はまやかしであり、愚か者はいくら歳を重ねても愚か者である。

フォアグラマンゴー最中。これは最高品質のフォアグラですねえ。年間5トンのフォアグラを胃袋に収める私が言うのだから間違いありません。マンゴーのパンチのある甘さにパリっとした最中の触感も相まって、スペシャリテと評するに相応しい味わいでした。

マグロのべったら漬け?空耳かなあ、私には本当にそう聞こえました。べったら漬けとは大根の麹漬の一種。厳密な味覚の定義はさておき、迫りくるマグロの旨さといったらない。パリっと良い音のする、磯の風味が濃厚な海苔とともに、官能的な味わいを包み込むシャリの塩梅も見事。料理におけるラプラスの悪魔をこの一皿に見出しました。

松茸到着。余計な調理は行わいシンプルな出で立ちです。お尻のほうから少しづつ繊維を先、秋の香りをサイナスに満たす。食欲の秋がやってきた。

スッポンを炭火で焼いたもの。特大の唐揚げほどのサイズであり、圧倒的な存在感。野性味溢れる濃い口の風味が日本酒の消費を加速させる。本家たん熊で食べたどのスッポンよりも美味。

お次は鴨。スッポン・鴨とジャパニーズジビエが続きます。真っ赤な色合いが見るからに筋肉質で食欲がそそられる。

鴨とキノコのお鍋です。お出汁にはスッポンのスープも含まれているのか、見た目以上にコッテリとした味わいです。味と味が重なり合い、この皿に限っては足し算の料理。目玉は天然のマイタケ。こんなにブリンブリンと劇烈なる個体は初めて。

鮎のから揚げ。秋の味覚が連なります。ジューシーなアタックにホロっと苦い大人の味覚。子供もパンパンに詰まっており、鼻に抜ける香りも素晴らしかった。

食事は松茸ごはん。様々な調味料を加えて炊き込みご飯にするのではなく、シンプルに塩のみの味付け。ライスの炊きあがりがパーフェクトなのは当然として、その塩加減や松茸の香りの引き出し方が実に良い。松茸ごはんの未来を見ました。

当然というべきか、お漬物にも抜かりありません。漬物となった今でも大根の瑞々しさがグッドです。

おや、止め椀が出ないなと訝しんでいると、〆の鴨南蛮が出てきました。こんなに幸せな炭水化物ダブルパンチがあるか?先の足し算な味わいに食べ応えのある蕎麦が加わり、蕎麦屋では決して味わうことのできない豪華な1杯に舌鼓。

水ようかん。辛うじて形は保っているものの、舌に乗せた瞬間、人類補完計画のように全てがひとつに消失します。恐らく世界でも最も柔らかい固体でしょう。これは甘味だけでなく、食事の何かにも応用して欲しいところ。

由緒正しきお抹茶で〆てごちそうさまでした。

いやあ、旨かった。私は基本的に洋食贔屓であり日本料理の評価は相対的に低くなりがちなのですが、その価値観を打破するほどの勢いが当店にはあります。熟練した腕というよりも、青い情熱を感じました。

和食としては、「かどわき」や「龍吟」に並んでトップクラスに好きな味わい。支払金額の手頃さも嬉しい。日本最高峰の料理を銀座の一等地で食べ3.5万円。予約困難となって当然だ。

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9位

Ode (広尾、恵比寿 / フレンチ)

1回

  • 夜の点数: 4.0

    • [ 料理・味 3.5
    • | サービス 3.5
    • | 雰囲気 4.0
    • | CP 3.5
    • | 酒・ドリンク 3.5 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥20,000~¥29,999 -

2018/10訪問 2023/01/24

先進的、かつ、安定した味わい

広尾商店街を抜けた交番すぐ近く。北欧テイストな灰色のドアを開くとセンスの良いコの字型カウンター。フロリレージュをコンパクトに、カラペティ・バトゥバ!を薄暗くしたようなニュアンスです。店名はラテン語で「抒情詩」を意味するそうな。

カウンター席を横目に我々は秘密の個室へ。スタッフの男性比率が高く、無印良品で働いてそうな線の細い若くてキレイな男の子が多いという印象。その手のお姉さんには堪らない人員構成かもしれません。隊長の生井祐介シェフは八丁堀「シック・プッテートル(1ツ星、現在は閉店)」などで腕をふるったのち、2017年独立。

ペアリングはシャンパーニュも含んで9,000円。この1杯目がグレープフルーツのような香りならびに味わいであり爽快感抜群。客が不安になるほどタップリと注いでくれるのも嬉しい。

ドラ〇ンボールにてプレイボール。「一星球(イーシンチュウ)だ」と、我々ドラゴンボール世代は理解が早い。中にはオマール海老のビスクが詰まっており、コアントロー(オレンジ風味のリキュール)と共に合わせて食べる。笑みがこぼれる。

キュウリに生カラスミ、松の実、ディル、ライムなどなど。干し上げる前の生カラスミは円みのある味わいでグッド。他方、キュウリは青臭さが強く主張が強すぎたかもしれません。

リースリング。こちらは先のディルやライムなど、青系の風味にピタリと合う1杯でした。

フォアグラにサツマイモ。透明感のあるサツマイモの味わいに、控えめな味わいのフォアグラがベストマッチ。これは1口ではなく10個ぐらいムシャムシャと食べ続けたい美味しさです。

シェリー樽で熟成させた日本酒。米の香りが強烈な1杯であり難しい味わいです。初期の段階で料理と合わせる意図が分からず。普通に白ワインを合わせて飲みたかった。

スペシャリテの「グレー2018」。サンマの旨味から作ったメレンゲを解きほぐすと、中にはサンマ、尾崎牛のタルタル、黒ニンニク。やはりサンマは美味しいですね。コクのある旨味を受け止める玉ねぎの香りもすごくいい。スペシャリテと称するに値する素晴らしい1皿でした。

ブルゴーニューのボリューム感あふれる白。程よい樽の香にシャルドネのパワーを感じる芳醇な香り。

多種多様なキノコのリゾットに白子。トップを飾るは白トリュフ先輩。リゾットの火の通りが私好みであり、森の旨味が溶け込んで実に旨い。白子もネットリと官能的な味わい。他方、白トリュフは期待していたほどのパンチを感じることはありませんでした。

パンはフォカッチャでしょうか。油分多めのコッテリ味であり食べ応えがあります。

真鱈にレンコン餅。銀杏に牡蠣のソース。真鱈が良いですねえ。クエのような弾力を感じる噛み応え。レンコン餅のネチャっと歯にひっつく粘着性も面白い。ギンナンのホクホクとした食感も小気味良い。

ここでピノグリ。悪くない味わいなのですが、そんなに灰色(グリ)が好きなのであれば、どうせなら先のスペシャリテ「グレー2018」に合わせたほうが楽しかっただろうになあ。

スープに潜む、フィンガーチョコレートのような物体の正体は、毛ガニと湯葉でした。スープも含め旨味が濃い。ちなみに外皮のキンキラキンは金箔。ちなみに人類がこれまでに採掘した金の産出量は50メートルプールたった3杯程度です。これ豆な。

ここでドライシェリー。前述の日本酒や後述のワインも含め、当店はややこしい合わせ方が好きなのかもしれません。直球勝負を好む私とはやや芸風が異なりますが、まあ、好みは人それぞれでしょう。

シイタケの香りがプンプンに香る料理。てっぺんの円盤を少し脇にどけると、中には秋鮭に山盛りのキノコたち。秋鮭が筋肉質な味覚で食べ応えがありすごくいい。キノコも秋真っ盛りな風味をグイグイと主張しわかり易い味わい。アサリの出汁と豆乳でつくったソースもぴったりです。

日本酒へ。なるほど先の秋鮭は和食に近似しているという意味で、このペアリングはありよりのありです。

メインは鳩。トップを飾るのはビーツではなく、赤く着色されたナスとのこと。

この料理にはぞっとさせられました。これまで食べてきた鳩料理とは一線を画し、良い意味で非常にシンプル、火の玉ストレート。肉の味そのものがビンビンに伝わってきました。ブラインドで食べれば鳩とはわからないほど清澄な味わい。本日一番のお皿です。

合わせるワインは2種を用意。こちらはアメリカのプティ・シラー。ベタベタに甘すぎて繊細な鳩の味を無力化してしまう。。。もう1杯の赤はローヌのシラー。うーん、やはり味の濃さとスパイシーな風味が全面に出ており、先の鳩料理には合いませんでした。普通にブルゴーニュでいいのにな。

デザートに入ります。巨峰にハーブ(?)のアイスを添え、シャンパーニュの泡で全体を整えます。クレソンのような苦味が感じられ、口腔内をリセットするにちょうど良い役者でした。

加賀棒茶(ほうじ茶)のアイスにアンズ、葛切り、大麦。アイスのノスタルジックな風味がグッド。葛切りの食感も楽しく大麦のカリカリも良いアクセント。今更ですが、当店の料理は食感をとても大切にしているように感じました。

マックヴァン・ド・ジュラ。トロリとした質感でワインそのものとしては美味しいのですが、はやり主張の強い液体でもあり、ほうじ茶アイスのような繊細な味覚に合うかというと疑問。〆のデザート。カカオニブの板を脇によけると、

中にはオペラ。オペラとはフランスの代表的なお菓子であり、Wikipediaの説明を借りると「グラン・マルニエまたはコアントローのシロップをしみ込ませたビスキュイ・ジョコンドという生地に、ガナッシュ、コーヒーのバタークリーム、もしくはモカシロップで層を作り、チョコレートで覆った物」ですが、平たくいうとチョコ風味のケーキです。当店のそれにはトリュフの香りも添えられているのが特長的。

食後酒としてスコッチでグっと内臓をヒートする。この演出は好きですね。ごちそうさま感が一気に高まりました。

ミニャルディーズ(小菓子)のレベルも高い。特に左の丸のままのクリが絶品。濃密な蜜の味とホクっとした食感。シンプルながら記憶にのこった一口です。

〆は山椒の香り漂う紅茶一択。ごちそうさまでした。

前評判に違わずグレイトなお店でした。私は何を食べているのかわからなくなるという理由から少量多皿は好まないのですが、当店の料理はポーションが小さくても何を食べているかがハッキリとわかるのが良いですね。これだけ種類を作れば2~3品はハズレな味も多いのが普通ですが、当店にはそれが全く見当たりません。

ワインについては前述の通り色々とややこしい組み合わせ方が多く、今風と言えば今風なのですが、私の好みには合いませんでした。加えて料理や酒の説明が難解で、ある程度の知識があることを前提に接してくる場面が多々見られたので、経験の浅いゲストは委縮してしまうかもしれません。

色々と書きましたがトータルでは大満足。先進的、かつ、安定した味わいを発出し続けるシェフは平たく言うと凄腕です。今度はランチに行ってみよう。オススメ!

■写真付きのブログはコチラ→ http://www.takemachelin.com/2018/10/ode.html

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10位

とんかつ マンジェ (八尾 / とんかつ)

1回

  • 昼の点数: 4.0

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    - ¥3,000~¥3,999

2018/05訪問 2018/05/19

トイストーリーマニア

八尾という街をご存知ですか?「八尾空港!?」とピンと来たあなたは立派な航空ヲタク。八尾空港は関西圏のゼネラル・アビエーション(軍事航空と定期航空路線を除いた航空の総称で、報道関係や社用機や自家用機の利用が主体)の拠点として有名です。

「とんかつ?」と即答したあなたは稀代のトンカツラヴァー。そう、八尾は大阪市の南東、電車で20分程のところに位置するのですが、そこから徒歩5分ほどの場所にトンカツの聖地とも言えるお店があるのです。

その聖地とは「とんかつマンジェ」。食べログ4.09で銅メダル(2018年5月)。「世界一行列する」と名高いトンカツ屋であり、この日は開店時間の3時間10分前の8:20に店先に到着したのですが、既に数十人の行列が出来ていました。平和な住宅街にそぐわない異様な光景。ポール・ポジションを取るには6時代に並び始めなければならないそうな。

ネット上に「9時に記帳台が軒先に出され、順次名前を書いていく」という情報が散見されたのですが、この日(2018年5月)は8:20に記帳が開始されました。私は2枚目の台帳の真ん中らへんにピットイン。「恐らく14時前後での案内。3〜4組前になったら電話するから、その頃には近くに戻っておくように」と店員。軒先でずっと待っている必要は無く、どこかへ遊びに行ってもOKです。

ちなみに夜(17:00〜)の予約もこの時点で記帳することができるので、大阪に宿泊する観光客はアサイチで夜の記帳をしてしまい、日中は奈良へ日帰り旅行するという作戦が有用です。法隆寺駅は八尾駅から30分ほどです。

「あと数組でのご案内」とのお知らせ電話が鳴り、再び店を訪れる。店内の待ち合いスペースでもう十数分待ちます。この間にメニューを熟読し注文を済ませておくという仕組み。カウンター13席のみ。

料理のラインナップが豊富。豚肉の銘柄だけで数種類あり、様々な部位ひいては魚介類や変わり種を含めると、数十種類はあるのではなかろうか。立地や待ち時間を考えると、そう何度でも通えるお店ではないので、皆が皆、競い合うように多くの料理を注文します。

席に着くと揚げ物以外のサイドメニューや調味料が並べなれます。手前の黒くて平たい皿には白トリュフソルトが撒かれており、「まずはヒレから食べて。断面を皿に置いて塩をつけて」と店主より指導が入ります。この店主がまことに良いアジを出しており、寡黙ながら実直に仕事をこなし、ゲストの幸せを最大化させることに生き甲斐を感じているプロの空気がにじみ出ています。

定食に付随するサラダ。シンプルなキャベツのコールスローですが、ドレッシングの味覚が実に真面目であり、オマケのサラダとは言わせないクオリティを感じました。トンカツ屋の良き風習にならっておかわりOKなのも嬉しい。

左はオリジナルソース。タマネギとリンゴが主体のフルーティーなソースであり、素朴な味わいながら光るものを感じます。

右はお漬物。大根やいぶりがっこなど、いくつかの素材がたっぷり盛り付けられており、トンカツ定食の脇役とするには惜しいほど高品質です。マグロの削り節により旨味が添加され日本酒を飲みたくなりました。

トンカツが揚がりました。私は「鹿児島黒豚&特上ヘレカツ」。単品注文で2,980円であり、プラス490円で定食になります。

こちらは特上ヘレカツ。なんなんだこれは。腰を抜かすほど旨い。今まで食べてきたトンカツ、いや肉料理の概念を覆す味覚です。油で揚げられ水分が抜けていると思いきや、しっとりと鮮魚のような瑞々しい食感。気品あふれる上質の脂から滲み出る豚肉特有の甘さ。私はこれまでトンカツという料理をそれほど好んでいなかったのですが、その曲がった根性をイチから叩き直したくなるぐらいの衝撃がありました。

こちらは鹿児島黒豚のロース。これは想定の範囲内。よくあるトンカツ有名店のよく出来たロースと同等の味覚です。私は特上ヘレカツのほうが5倍くらい好き。

白米も重要な登場人物であると言わんばかりの品質です。ツヤには艶やかさが垣間見え、粘りと甘味のバランスも素晴らしい。縁の下の力持ちにここまでのクオリティを求めるシェフは相当の求道者とみた。ごはんもおかわりOKで、20代前半と思しき隣客が「このメシ、旨い!」と叫びながら何杯もおかわりしていたのが微笑ましい。

赤出汁までいちいち美味しい。豚のスジ肉で3~4時間出汁を摂り、具にはタピオカ・粒山椒が入っています。赤味噌ながら下品にならない調味であり、三つ葉の香りも絶妙な爽快感。高級和食店においても、ここまでのレベルの赤出汁はそう巡り合うことはできません。

オマケで肉じゃがコロッケも注文しました。これがまた210円ながら実に旨い。滑らかなジャガイモに程よい噛みごたえの肉。並の定食屋のコロッケとは別次元の美味しさがここにあります。

いやあ、旨かった。トンカツはもちろんのこと、ごはんや漬物、赤出汁、サラダ、ドレッシング、調味料に至るまで全てのレベルが極めて高い。シェフはたまたまトンカツの道に入ったわけですが、他のジャンルの料理人であったとしても大成していたことでしょう。それぐらいのセンスを感じるトンカツ定食です。

この日は8:20に並び始めて料理にありついたのは14:20と実に6時間待ちであり、全盛期のトイストーリーマニアを彷彿とさせる人気っぷりですが、一旦記帳さえしてしまえば後は自由行動という意味で、待ち時間の割に不思議とストレスが少ないです。地元民は朝に名前を書いて、一旦家に戻って、夜にのんびり食べに来れるのか、羨ましい。

わが心のトンカツランキング、ダントツの1位です。オススメ!

■写真付きのブログはコチラ⇒ http://www.takemachelin.com/2018/04/manger.html

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