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【2016年2月訪問】
前回お邪魔した際に「こ、こんなレストランって、アリなんだ」と衝撃と感銘を受け、その場で今回の予約を入れました。それでも3ヶ月も間が空いており、オープン半年で東京を代表する「予約の取れない店」にのし上がりました。
今回は1Fのウェイティングスペースではなく、3Fのギャラリーに通して頂けました。スタッフ紹介の写真がクールにプレゼンテーションされています。こういうセンスは仲間に誇りを持っているのが伝わってきてすごく好き。 各人「Loves」ということで好きなものをコーヒーや読書などと記載しているのですが、支配人だけ「BubbleOtachidai」と書かれておりクスリと笑う。
永島シェフの生い立ちや当店を出すまでの経緯などがまとめられたカードたち。台湾と日本のハーフで、「やんちゃな高校」時代を過ごした後、海上自衛隊で艦上の料理番となり、除隊後は湘南でサーフィンに明け暮れ、働いていたスペイン料理屋でエルブジという存在を知り、そのままスペインに飛んじゃったという、思わず映画化したくなるような人生を送ってらっしゃいます。
シェフの描いた絵25万円也。私は彼のことを世界を狙える人物だと信じて疑わないので、25万円は意外とリーズナブルなのではないか。
開場。チケットブースで支払いを済ませ、フランチャコルタを受け取り席に着きます。今回はポップコーンは無し。
なんかしらんが、オシボリが生乾きのまま放置した洗濯物のように臭かった。どうしてこうなった。
支配人による挨拶。Mr. Bubble Otachidai です。ほとんどが常連だったためか、前回よりも説明が簡略化されていました。それでもスピーチの締めくくりが「料理をお楽しみください」ではなく、「永島の哲学と、チーム81の世界観をお楽しみ下さい」なのがジーンと来る。
ソムリエによるワイン解説と開演の号砲。
まずはズワイガニ。まあ、ズワイガニ味です。盛り付けは凝っているものの、味わいに甲殻類特有の臭みが残り、そこらで売ってるカニ缶と大差なし。試験管の中はぬるいリンゴジュースなのですが、結構ズワイガニに合う。自宅でも試してみようっと。
シェフ登場。今夜のテーマはバレエのジゼルひいては冬の夜から朝にかけての夜明けとのこと。相変わらず形而上的な話が多く何を言ってるのかようわからん。まあこれは想像力の追いつかない客のせいである。
タマネギのピュレ。ほんの少し塩を加えただけの、大地の甘さを追求した一口。美味しいが自然と口をついて出てきます。
スペシャリテのカルボナーラの再構築。カダイフの上に丁寧に座らせた有精卵。
チーズのソースとともにぐちゃくちゃに混ぜ込んで頂きます。前回よりもチーズが控えめで、バランスが良くなりました。わかり易い味わいで素直に美味しい。もっと振り切って、ムガリッツのゲスト全員で鉄のすり鉢をガンガン叩いて混ぜ込むような演出があっても良いかもしれません。
合わせるワインはドンペリニョンの06。ワインの逞しい味わいがカルボナーラの濃さにマッチしてこれは良い取り合わせ。なのですが、前回は12人で少なくとも2本は開けていたのに、今回は12人で1本。ほんの数口しか楽しむことができませんでした。明らかに物足りない感を煽ってしまうので、これならいっそのことドンペリなんか外しちゃって、その分を食材費に回せばいいのになあ。でも当店にとってドンペリニョンはアイコンだから、やめるわけにはいかないのかなあ。
白子。和のスープと共に頂きます。間違いなく美味しいのですが、本質的な味わいは街の寿司屋の白子の茶碗蒸しのそれと同じです。
合わせるワインは甲州。勝沼のイケダワイナリー。青リンゴの香りがあって悪くないのですが、ドンペリの頑強な味わいと価格から一気に10分の1ぐらいまで下がるので、落差がすごすぎて納得し難いです。
鯛に昆布をまとわりつかせ、削りたての鰹節をふんだんにまぶした上で、シラスと共に頂きます。
お湯をかけただけなのに大きく広がるカツオの芳しい香り。味そのものもセンテンススプリング級の旨さでした。
63度に熱を通し、仕上げに焼き目を付けた肉。肩から腕にかかる部位でトンビやトウガラシなどと呼ばれます。ポップコーンのパウダーは意図がよくわかりませんでしたが、チョコレートのソースは一見ギョっとするけど、肉の滋味に絶妙な取り合わせでした。
ナパのカベルネはカカオやエスプレッソの香りが漂い、甘みもたっぷりで抜群に美味しい。ちなみに「the D」というワインで、イニシャルがDの大変有名なワイナリーらしいのですが、非公表らしいです。イニシャルがDの蔵元で有名なところ、どこだろ。
7種のキノコのリゾット。ビンに食材をしばらくのあいだ閉じ込めておき、キノコの香りを濃密に含んだ空気をゲストの目の前で一気に開花させる。味はそこらのキノコ雑炊と大差ないのですが、良い演出だと思いました。
栃木のメルロ。これは残念賞。深みはないのにタンニンだけは立派。キノコにもそぐわない方向性でした。
デザートの前に供される温かいホワイトチョコとほうじ茶で作られた飲み物。スポイトでコニャックをお好みに注ぎます。わかりやすい甘さと駆け引きの無い味わいで美味しかった。
薔薇風味の温かいスープにヴァニラのパンナコッタ。これは全然美味しくなかった。ナリサワでも思いましたが、単一のお皿にふたつの温度帯って、苦手なんですよね。どうも脳がついていかない。
小菓子のメレンゲは味は悪くないのですが、その名の通り小さすぎる。ロオジエのフィナーレまでは求めないけれど、もうちょっと甘いものを食べたいなあ。
当店はバリスタの存在を推す稀有なレストランで、その割に前回は思ったよりも普通のコーヒー味でガッカリだったのですが、今回のコチラは珠玉の1杯。ひと口ごとに味わいが変化し手品のよう。全体を通じて本日最も素晴らしい一品です。
バリスタがなぜこのような液体が完成するのかを理論的かつ丁寧に解説してくれるのですが、あまりに科学的な説明にシェフの「ちょ、ちょっとスミマセン。こいつヲタクで、何言ってるかわかんないっすよねホントすみません」と止めに入る掛け合いがよくできたコントのようでした。
相変わらず愉快で魅力的なレストランでした。ただ、「今夜のテーマはバレエのジゼルひいては冬の夜から朝にかけての夜明け」と大見得を切った割に、夜の醍醐味である闇は光に満ち溢れた終わりを迎える、という点を表現できていないなと残念に思いました。無論、普通のレストランに対してそんなことは求めはしませんが、当店は普通では無いので、私はここまで求めます。
料理も個別具体的には悪くはないのですが、全体を通して美味しいとは言うことができません。脊髄反射で理解できる単刀直入な皿ばかりで、食べ進めていくうちにメロディのようにフレーバーが移り変わっていく、という体験が当店には欠落しています。
今のところ連夜の満席状態で、差し当たっては是非とも祝杯をあげて欲しいのですが、現在のゲストはレストランに一家言ある浮気性の好事家だらけなんですよね。食後に数ヶ月先の予約を入れてしまい、顔ぶれが入れ替わらずサロンのような空気感が醸成されつつあるのが気になるところ。ご新規さんをオプトアウトした状態がいつまで継続できるのかが今後の論点となるでしょう。
いずれにせよ、シェフは才能というどこまでも行ける切符を持っているのは確かなので、今後も行儀良く暴れ続けて欲しいと思います。クラブを貸し切って、ひとり50,000円で300人のゲストを迎え入れるパーティーとかやって欲しいな。
■写真付きのブログはコチラ⇒ http://www.takemachelin.com/2016/02/81.html
【2015年11月訪問】
81は、エルブジで修行された永島シェフが小笠原伯爵邸を経て要町にオープンした創作料理屋。ミシュラン1ツ星。ずっとずっと気になる存在ではあったのですが、池袋は私の生活圏から大幅に外れた地の果てであり、また、食べログの写真を見る限りエルブジ厨な雰囲気があったので、なんとなく後回しにしていたのですね。なのですが、向こうからコチラにやって来てくれるのであれば、ハイ喜んで。
コートヤード広尾という、官舎をリノベーションしたマンションの1室が当店。18時と21時の2部制。「レストランという概念を超えた舞台」を標榜し、「第1回公演」「第2回公演」と呼んだりしているのは軽く中二病。
開演前は1階のウェイティングスペース(別の店?)で待つ。時間になると順番に2階の真っ黒な小部屋にご案内。ウェルカムドリンクを頂きながら先払い。食べ物と飲み物が込みで先払いって明朗会計でいいですよね。財布を気にせず気持ち良く飲める。
支払いを済ませるとダイニングに案内されます。コの字型テーブルに12席。手元すら見辛い程の暗さにクラブミュージックが鳴り響く。写真は低照度モードで撮ったため何となく写ってますが、実際はもっともっと真っ暗です。
ちなみにウェルカムドリンクはフランチャコルタ。少なくなればガンガンに追加で注いでくれるので、実質飲み放題。このスタイルは私の最も得意とするところである。下戸にとっては地獄の一夜となるであろう。
劇場または映画をシャレてか、最初にポップコーンが供されます。なのですが、これがコンビニで売ってるような普通の塩味で全然美味しくなかった。これは致命傷。こういうシャレが美味しくないと、ただの滑った料理となってしまう。
開演。スポットライトが点され、支配人より挨拶。LEONからそのまま飛び出て来たようなチョイ悪オヤジ。真っ暗な部屋は死をイメージとか、テーブルは御影石で作られていて墓石をイメージとか何とか言ってましたがようわからんかった。
ソムリエを始めとするスタッフも色気のある男女ばかり。81というキャラクターを徹底的に構築するための人選にぬかりなし。
シェフ登場。このチャラさ、パーフェクト。両腕タトゥ、ヒゲ、ロン毛、ピアス、黒のコックコート。EXILEにうっかり紛れ込んでいても暫くは気づかないクオリティ。
さらに口調がジャングルポケットの斉藤慎二と双璧をなすほどクドい。ここまで振り切った立ち振る舞いは見事としか言いようがありません。低く良く通る声に扇情的な台詞回しは舞台役者そのもの。少しでも恥じらいが感じられれば途端にウソ臭く映るのでしょうが、全く照れることなくハッタリを言い切る姿勢。ミスターパーフェクト。脇を固めるスタッフたちも、軍隊のように統率された一糸乱れぬドラマティックな立ち振る舞いで美しい。
さて、劇場型のお食事会の始まり始まり。まずは秋、すなわち枯れ葉をイメージしたお皿。生ハムとジャガイモとグリッシーニ。お察しの通り、特に美味しくはない。なのですが、一皿一皿にあわせて選曲したり、焚き火の香りを部屋中に満たしたりと、五感をフルに刺激する斬新な食体験。
枯れ葉、ならびにその周辺の土をイメージしたスープ。ポルチーニのエキスに醤油。賢明な読者であればご理解頂けるとは存じますが、はっきり言って不味い。まあ、タパスモラキュラーバーとベクトルは同じという意味では想定の範囲内。
秋の味覚ということで、上海蟹。うーん、普通。冷凍のワタリガニのほうが旨味に溢れて良かったりして。
続く泡はドンペリニョンの06。ちょっと前にナリサワで05を飲んだばかりなので、05のほうがコクがあって好きだなあ、とか生意気なコメントしちゃったりして。だがしかし当店はおかわりOK。わずかな味の違いよりも量が優先されるのである。てゆーかこんなのポコポコ開けて原価大丈夫?普通に当店の経営状態が心配になりました。
フォアグラのチョコレート包み。フォアとチョコが上手に融合。ただしドンペリニョンとマッチするかというと、どうでしょう?ドンペリ厨であれば間違いなく喜ぶ演出だと思いますが、移転したばかりのこの時期に当店を訪れるゲストは食にうるさい人ばかりであり、今更「ドンペリ+フォアグラ」という構図に尻尾を振ることは無いと思うんだけどなあ。
「カルボナーラの再構築」という名のスペシャリテ。カダイフの上に有精卵が置かれ、トリュフがまぶされた鳥の巣状態。
卵を割ると香りが爆発。白トリュフのオイルを注射器で注入しているとのこと。器の底にはチーズ主体のコクのあるソースがたっぷり。間違いの無い組み合わせで、文句なし。
一方で、スッポンのスープは風味に乏しくイマイチでした。順序、逆じゃない?あんなチーズでろでろな皿の後に、こんな繊細な一品はどだい無理無理。
日本酒「貴」を用いたカクテル。柚子の風味が日本酒独特の臭みを上手にマスキングしている一方で、日本酒特有の甘味は見事に引き出しており、素晴らしい一杯でした。というか3杯ぐらい飲みました。
先ほどの試験管に入ったスープを用いたリゾット。5種のキノコが使用されており、複雑な味わいで結構好き。スープ単体だと不味かったのに不思議なもんですな。量もたっぷりで申し分ありません。
白は、、、失念しました。品種すらも思い出せない。特徴に乏しく水のように接してしまったのかもしれません。
サーモン。「左から食べよ」との指示。左から右へ徐々に脂と旨味が強くなるように設計されているとのこと。ソースは柿。なのですが、説明が長い割に退屈な味でした。まずくはないけれど、高級レストランで食べる料理でもない。
イクラと梨。こちらもイクラの味そのものが薄い上、梨の水分が希釈の追い討ち。がっかりだ。
メインはシャラン鴨。赤身の火入れは悪くないのですが、皮と脂身がゴムのように硬く、気持ちよく味わうことができませんでした。付け合せをコーヒーの香りで工夫したりと、チャレンジングな姿勢は評価したいのですが、いかんせん美味しくないのである。
赤ワインはレバノンから。シラー、カベルネ、フラン、メルロが25%づつというセパージュ。美味しゅうございます。たぶんそんなに高いものではないと思うのですが、発掘してきたソムリエ氏に拍手。
シェリーとヴィオニエのカクテル。うーん、こちらはどうでしょう。互いの特徴が溶け合ってしまい凡庸な一杯となってしまっている。
デザートはチョコとチーズケーキ。チョコは甘さが控えめで軽やか。歯ごたえもあり良かった。チーズケーキは印象なし。ローズマリーは意味不明。
バリスタが最高のタイミングで飲むことができるよう、ぴったりに焙煎!!!したらしいのですが、別に普通のコーヒーでした。ウチのアパートのロビーの自由に飲んでいいコーヒーと大差なし。
小菓子も特筆すべき点はありません。当店は甘味が全然ダメですね。味はともかく、独創性も何もない。
カーテンコールよろしく拍手でスタッフ全員をお迎え。ゲストの前に並び〆の挨拶。
食後はゆっくりとくつろぎながらシェフやスタッフと言葉を交わす、と思いきや、若干のさっさと帰ってくれ感があります。手元の時計を見ると開始からちょうど100分。そう、思ったよりも皿数が少なく短時間に終わります。胃袋と肝臓にはまだまだ空きスペースあり。もうちょっと食べたかったな。
キッチンツアー。そう、火は無くIH。これで12人一斉皿出しをするにはどうやったって料理に限界がありますな。
「今日はDJの子がお休みなので、ボクが回してました!」とシェフ。両腕に燦然と輝く緑の刺青とtwo-fingersalute。由緒正しき英国式ファックユーサイン。
どうせエルブジをこじらせた奇をてらっただけのレストランでしょ?という軽い気持ちでお邪魔しましたが、意欲的で、躍動的で、色々と感銘を受けました。TheWorld's50BestRestaurantsが目を付けそう。
正直、料理は全然美味しくないのですが、それは取るに足らない問題だと思います。値上げして直接材料費に充てればある程度のレベルには引き上がるだろうし、何なら腕の良い料理人を引き抜いて来れば良い。料理の方向性は同じだけれど味がきちんとしているサン・セバスティアンのセルーコぐらいにはすぐに追いつくはず。
一方で、シェフのラリったキャラクターは天賦の才であり、金や努力で解決できる問題ではありません。賛否両論あるものの、彼の世界観は物語を作ることができ、東京の食シーンを巻き込んで引きずり回すパワーがある。
この鬼才にレストランの未来を見ました。期待と応援の気持ちを込めてその場で次の予約を入れると、空いていたのは3ヵ月も先。1日24人しか入れないとはいえ、オープン2ヶ月でここまで予約を埋めるとは、ううむ。今後が楽しみです。
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