4回
2024/10 訪問
朗らかな軍隊
7年ぶりの「ガストロノミージョエル・ロブション(JoëlRobuchon)」。2023年に関谷健一朗シェフが「フランス国家最優秀職人章(M.O.F. MeilleurOuvrierdeFrance)」を受賞したとの報を受け、ずっとお邪魔したいと機会を窺っていました。ちなみに「M.O.F.」料理部門では、フランス人以外では史上初の受章という快挙です。
シャンパンゴールドと黒で統一されたダイニング。香港あたりの成金レストランのようで好みは分かれる内装ですが、おおー、これこれ、これぞロブション、という謎のテンアゲモードに誘ってくれます。
ゲストの数よりも多いんじゃないかと思わせるサービス陣。接客は流石の一言で、きめ細やかながら慇懃無礼ではないという、絶妙の感じの良さです。昔は「香湯ラーメンちょろり」を仕事終わりの溜まり場としていましたが、最近は深夜営業をやめちゃったので、みんな何処で飲んでるんかな。
タブレットのワインリストからボトルを選ぶのですが、思いのほか良心的だなという印象です。外資系のホテルや港区あたりのちょづいたレストランのほうが数段割高なので、安心して注文しましょう。
アミューズに温かいゴーフレット。エビとウニのクリームが組み込まれており、初手から興奮に駆り立てる旨さ。あと20個は食べたいくらいです。
ロブションの代名詞とも言えるキャビアなひと皿。目を疑うようなキャビアの量であり、土台はカニとまさに瓊漿玉液。甲殻類の旨味の詰まったジュレになめらかなカリフラワーのクリーム、気が触れたかのように繊細なプレゼンテーション。これは単なる料理ではなく、食の芸術作品かもしれない。トライポフォビアのひと大丈夫そ?
続いてシマアジ。薄くスライスされた水茄子と共にミルフィーユ状に仕立てられており絵のように美しい。ソースには酸味を効かし、またグリーンマスタードの風味も心地よいアクセントです。
ちょっと攻めてグルヌイユ(蛙)をチョイス。コロッケ状態でやってくるので語感ほどグロくなく、骨をつまんで食べるあたりスナックのような軽やかさです。ほどよいニンニクの風味が食欲を刺激します。
おなじみの、レストラン内のベーカリーで特別に焼いたパンたち。ベーコンやアンチョビが詰まったオカズパンのようなものもあり、もうこれだけで無限に食べ続けることができる美味しさです。
お魚料理はマナガツオ。ふっくらと火が通ったマナガツオは口の中でとろけるような舌ざわり。パプリカのクーリ(ソースの一種)はどこかオリエンタルな風味を感じさせ、枝豆のニョッキとの色合いのコントラストがとても綺麗。複雑にして玄妙なひと皿です。
メインは仔羊。王道の調理で実直な味わい。付け合わせが凝っていて、茄子とトマトがケーキのような造形に整えられており、さらにラムの挽肉も含まれています。オマケのマッシュポテトもシンプルながら素晴らしい完成度。とにかく舌ざわりが滑らかで、口の中でとろけるよう。例えるなら、シルクのような、あるいは雲のような、そんな口当たりです。味覚についても、ジャガイモの自然な甘みが最大限に引き出されていて、バターのコクとミルクのまろやかさが絶妙に調和しています。
コースの中にチーズのワゴンサービスも含まれているので、腕まくりをして厳選します。私はブリアサヴァラン、ラングル、ヴァランセをチョイス。よく回転するためか状態も素晴らしく、これぞフランス料理の美点と評すべきワンシーンです。
デザートは最強かわいいピーチ・メルバを選択。旬の白桃が瑞々しく、上品な甘さと香りが口いっぱいに広がります。どシンプルなバニラアイスも玲瓏なること玉のごとし。
満艦飾のデザートワゴンがやって来ました。派手派手で豪華なだけでなく、それぞれがきちんと美味しいのが実に尊い。女子高生がこの場面に出くわせば、絶頂に達するのではなかろうか。お茶菓子もここだけサロン・デュ・ショコラ状態で、1週間分の糖質を摂取してしまう勢いです。甘いもの好きに生まれて本当に良かった。
以上のコース料理が3.5万円で、魅力的なワインを楽しんだのでお会計はふたりで16万円ほど。パーフェクトなディナーであり、下手な海外旅行よりもよっぽど満足度が高い。日本でのミシュラン刊行以来3ツ星を守り続けるトップランカーで食事を楽しんで、それほど飲まなければひとりあたり5万円でお釣りが来ることを考えれば実にお値打ちです。
サービス料は12%と高めですが、この席数を構えながら違和感を覚えた瞬間は1秒も無く、常に高いサービス品質を提供する朗らかな軍隊のような安定感があります。もちろん瞬間最大風速としてもっと美味しい料理は世の中にいくらでもありますが、この総合力と信頼性は何事にも代えがたい財産だ。
これは美点か欠点か、とにかく量が多いので、当店の真髄を堪能したいのであれば、なるべく内臓が元気なうちに訪れることをお勧めします。前回はフルフルのコースで臨み、しかも連れが途中でリタイアして殆ど独りでロッシーニを食べ切ったのですが、今回は前菜2皿メイン2皿コースでもう限界。もしも時計を巻き戻せるのであれば、二十歳前後の内臓全盛期に、死ぬほどバイトして来ておけば良かった。
■写真付きのブログはコチラ→ https://www.takemachelin.com/2024/09/robuchon.html
2024/10/04 更新
2017/03 訪問
出会って4秒でロブション
「久しぶり。ロブション行こうよ。ごちそうさせて。好きなワイン何でも飲んでいいから」コンビニに行くような手軽さである。候補日をいくつか返すと数分後には「予約完了」の連絡。出会って4秒でロブションである。
『ジョエル・ロブション』ブランドの中でも最高峰に位置づけられる『ガストロノミー“ジョエル・ロブション”』。泣く子も黙るミシュラン10年連続三ツ星店。
無事発刊に漕ぎついたゴー・エ・ミヨにおいても、カンテサンス、神楽坂石かわ、龍吟と並び20点満点中19点と最高位を獲得。世界に誇るフランス料理の頂点です。
シャンパンゴールドと黒で統一された空間が緊張感と昂揚感を掻き立てる。「やっぱりココって特別よね。あたし、この店に初めて来たの21歳だったんだけど、震え上がった感覚、今でも忘れない。あれからもう7年も経つのか…」。そう、彼女は28歳とヤングレディー。決してばびろんまつことかそういう類ではないので誤解なきよう。
グラスシャンパーニュで乾杯。ソムリエールがマグナムボトルを片手注ぎしてて驚きました。ものすごカチカチな二の腕や。
恭しくメニューが手渡される。しょ、食事だけでよんまんにせんえん…。「ああん、なんであなたに値段入っているほう渡すかなあ、今夜はあたしがホストだってきちんと電話で伝えたのに」ラール・エ・ラ・マニエールほど破滅的ではないにせよ、こういう最低限の事務処理ができないお店は意外に多いです。
アミューズ。極厚のトリュフを栗のペーストと溶かしたグリュイエールチーズで包み込み、ジャガイモで挟んだもの。先頭打者ホームラン。バカみたいに旨いです。「アミューズってさ、作り置きの冷えた一口が多いけど、ここはやっぱり凄いよね。調理したばかりで温かい」
折り目高に供されるパン。手前は蕎麦と山椒(?)風味、お米風味、ミニバゲット。パン職人としても名が高いロブション、天を仰ぎ見るクオリティです。蕎麦や米は企画モノではあるものの、繊維の1ミリ1ミリがいちいち旨い。バゲットも真正直な味。「おかわりはまたお持ちしますので!」とサービスにもパン対する矜持を感じます。こちらはフランス産の発酵バター。香り、味、風味の違いが明確。
ぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴー、なんだこのキャビアの量。支えるのはギッチギチに詰まったカニの群れ。ジュレは海老の出汁を凝縮したジュレに、様式美とも言えるカリフラワーのムース。この一皿に何人の料理人の手間と技術が結集されているのでしょう。さすがはロブションと思わず唸る。もうこの時点で今夜のポツダム宣言を受け入れます。
うーんうーんと頭を抱えながら、何万本のうちの1本を彼女がチョイス。ワインリストが厚過ぎて収拾がつかず、iPadでの検索です。選び抜かれた白ワインはPuligny-Montrachet1erCruLesPucelles2008と極上品。シトラスやリンゴの濃密なアロマに、花束を手渡されたかのような香り。樽香はエレガントでローストしたナッツの香りが優しい。滑らかな口当たりに清純な酸。濃い果実味と完璧なバランス。しばらくの間、黙り込んでしまいました。
1皿目が到着。定食のように大きなお皿に3品乗ってくるのは面白いプレゼンテーション。鰻とアンキモのミルフィーユ。名古屋の鰻を食べ尽くしたのでしばらくはいいや、と思っていた食材ですが、全くの別物。鰻の濃密な味覚を冷やし固めることにより軽やかな口当たりを表現。アンキモの濃密な脂と相俟って絶頂に達してしまいます。
つけあわせのリンゴと大根のサラダも究極的。こんなに旨い大根サラダがあるか?私は伝統的なフランス料理が好きだと繰り返し述べていますが、決して懐古主義であるわけではなく、実はモダンも大切にしているのです。ただし条件がひとつだけあって、原理的に美味しいこと。当店はその条件を朝飯前に悠然とやってのける。
インカのめざめカルパッチョ仕立て。へ?ジャガイモでカルパッチョとかやるんだと恐る恐る口に運ぶと実に爽やか。惜しみないトリュフの香りにエスコートされ、何でもないジャガイモが芸術品の域にまで昇華されます。
ビーツとリンゴを苦味のあるサラダに見立て、グリーンマスタードのソルベを合わせる。こんなサラダがあるか?味こそは純粋にビーツとリンゴですが、見た目に訴えかける手技に納得感がありました。
2emeService。わはは、まだ2皿目という扱いか。ロブションは味は確かながら量もとんでもないのです。カリフラワー。見目麗しく随所に光る美的センス。小さな小さな料理に何種類の素材が使われているのでしょう。
蝦夷あわびのソテー。肝のソースが絶品。瑞々しいカブにとろりとしたソースをまとわせ、あわびの食感と共に反芻する。旨い!
追加のパンがやってきました。百貨店などで普通に1個500円で売られている最高級品の山。
ロブションのパンと言えばやはりドライトマト。数年ぶりに食べましたが間違いの無い美味しさ。アンチョビのクロワッサンも絶妙な塩加減。これ単体で他のややこしい料理に比肩する味わいです。
3emeService。料理は2~3皿づつセットで届くので、トータルではものすごい種類の料理を食べることになります。ケール、ブロッコリー、ロマネスコ。素材のひとつひとつに個別具体的な調理が施されており、それぞれの長所が活きています。特にケールのホロ苦さが絶妙。なめらかなジャガイモのピュレもまとまりがあって凄くいい。
手長海老のラヴィオリ。中国の気前の良いエビシューマイ屋のように、手長海老がギュウギュウに詰まっています。ひたすらに旨い。節度のあるトリュフの香りやちりめんキャベツの甘さが心地よいアクセントに。
アーティチョークが最高の素材。それほど好きな食材ではないのですが、これは心から美味しかった。ヒヨコ豆のカプチーノソースもターメリックの香りが鳴り渡り痛快な味わい。
4emeService。前菜セット最後のサービスです。ロワールのホワイトアスパラガスにモリーユ茸。ちょっとアレに見えますが味は確か。素材から滲み出る旨味が入念に凝縮されています。セルフィーユ(チャービル)の爽やかな香りも心地よい。
ボタン海老のスープ。海老料理が続いて幸せ全開。しかしながらオリエンタルな味付けでありこれまでの料理とベクトルがガラりと変わる。食べ手を飽きさせない工夫。ターメリックとパクチーの香りも小気味良い。
ブラック・コッド(タラ)を香りよくキャラメリゼ。タラは貧弱な食材扱いされているのに、ロブションで出されるものは極上品。ワサビの風味が漂うホウレンソウも美味。圧巻の魚料理でした。
「よし決めた!飲もう!」と景気の良い掛け声と共にソムリエに注文を済ませる彼女。漆黒のボトルにシミひとつない真っ白なエチケット。そこに屹立する風格のある塔、ラ・トゥール。気絶しそうになりました。俺もう今夜抱かれてもいい。
細心の注意が払われたデキャンタージュに思わず見入ってしまいます。遠くからでもハッキリそれと解かる最上の香りが力強く芳醇で壮絶。口に含むと官能の極み。とろけるようなタンニンに心に沁みるミネラル感。駄目だ、これは語るほどにチープになってしまう。
申し合わせたように現れる肉塊。これで2人前と胃袋が試される瞬間。ツーマンセルでテキパキと取り分けられていきます。牛フィレ肉とフォアグラを抱き合わせてじっくりとロースト。こんなにも美しく洗練されたロッシーニがあるか?ポーションこそ迫力があるものの、肉質は極めてエレガントでありスイスイと食べ進めることができます。
先のラ・トゥールも状態が移り変わり、内向的で濃密な香りから飛び切りのカシスへと花開く。若干のトースト香も複雑の極み。タンニンはより一層の円みを帯びる。「こういうワインはボトルで飲まないとわかんないよね」
付け合わせのポテトまでいちいち美味しい。当店の厨房はどうなってんだ。料理人を何人抱えればここまでパーフェクトな調理を実現できるのでしょう。
チーズやデザートを見越してもギリギリ余裕があったので、追加のパンをふたつ。満腹状態でもきちんと旨い。近所にロブションのパン屋できないかなあ。
緻密に熟成されたチーズたちが届きました。ああ、フランス料理って楽しい。付け合わせのドライフルーツやナッツからも優美さが伝わってきます。シャウルスにマンステール、セル・シュール・シェールを選択。最高の味覚を噛み締めながらワインと共に胃袋へ。飲むたびに見事な精巧さと純粋さが伝わってくる。私のエルドラドは恵比寿にあった。
お待ちかねのデザート。ちなみに我々を除く全てのテーブルはお誕生日祝い。みんな笑顔。幸福な人間を生み出し続ける装置、ガストロノミージョエル・ロブション。
グァバのムースにカシスのソルベ。流れ着くソースはパパイヤ。ぶっ倒れそうなほど満腹でしたが、果物主体の現実的な甘味で一安心。マンダリンのソルベ。品の良い柑橘に香ばしい甘さを湛えるキャラメル。マンゴーの情熱とパチパチキャンディの遊び心が雅びやか。ライム風味のチーズケーキ。ダリアをあしらった色彩に目が引かれる。ショコラのソースがサラリと舌に吸い付く。
さらなるデザートワゴン。片足けんけんで胃腸のスペースを空ける必要があります。ショコラのアイスにフランボワーズのアイス、ベリーのタルト。腹が膨れて堪らないのですが、それを凌駕する味覚であるためついつい手が伸びてしまいます。完璧なコーヒーで胃袋を落ち着ける。
カーテンコールにミニャルディーズ。しかしまあ、呆れるほどの種類と量。ロオジエはパティシエが6人居ると伺い腰を抜かしましたが、当店も同程度に抱えていることでしょう。内臓が許せば全部食べてしまいたかったのですが、身を切られる思いで5つに留める。右上のギモーブが格別。ギモーブって、マシュマロみたいでそれほど美味しくなる余地のないお菓子だと思っていたのですが今夜から考えを改めます。
悠然と小菓子とコーヒーを楽しんでいると、タイミングを見計らって2杯目のコーヒーが供される。こういう細やかな気配りができる実質的なサービス能力はさすがのロブションクオリティ。ミントのキャンディでお口を整えてごちそうさまでした!
お土産のパンはふたりでひとつ。「旦那に見つかると面倒だから、持って帰って。送ってく。車向かわせるね」と神対応。このとき私は幸せの絶頂に達しました。
19時に入店し、24時過ぎに退店。人生で最も記憶に残ったディナーでした。私の人生が伝記としてまとめられるのであれば、『ロブションの2017』は必ず一章設けて欲しいところです。なんて素敵な世界に生まれたのだろう。全てが光に満ち溢れている。
■写真付きのブログはコチラ⇒ http://www.takemachelin.com/2017/03/robuchon.html
2023/01/24 更新
2009/05 訪問
季節ごとにお邪魔したいレストラン
ミシュラン三ツ星。ガーデンプレイスの奥にある建物で、なんだか安っぽいおもちゃの屋敷みたい。内装は黒×金だらけでセンスが悪。バカラのデカいシャンデリアもなんだか下品。直感的に香港の飲茶レストランを想像してしまいました。
昔はタイユヴァン・ロブションというレストランで、タイユヴァン(パリの三ツ星レストラン)がサーヴィスを、ロブション(パリの三ツ星レストラン)が料理を、というコンセプトがうまくいっていたと思うのですが、いつの間にか経営がフォーシーズ(ピザーラの会社)に変わって、店名も"ガストロノミージョエルロブション"になってました。料理業界は難しい。
やたらホールスタッフが多くて、さらに全員黒づくめ。マトリックスの悪い奴らに囲まれた気分で非常に落ち着かない。ワインの色を見るにも、テーブルクロスが黒くてちょっとね。
と、食事が始まるまでは印象最悪でしたが、肝心の料理はうめーうめー、超うめー!
カレーに見立てたアミューズ。こういうの結構好き。
こういうお店で忘れてはいけないのがパン。高級店では、こういう地味な料理(?)の質が際立つ。クロワッサンなんてもう絶品。今まで世界一ウマいクロワッサンは、ハレクラニのそれだと思っていたのですが、今回をもってロブションが王座につきました。ドライトマトやらケシの実やら、色んな味を用意してあるのもすごく良い。
単においしいだけじゃなくて、春キャベツ、ふきのとう、などなど、季節の食材が嬉しいですね。
サワラのコンフィに、サーヴィスの方がブイヨンをかける。「最近の料理の最先端はスペインなので、スペイン料理っぽくしてみました」だと。なんて柔軟。
メインはラム。色使いが素晴らしすぎる。こういうセンス欲しい。
デザートはマンゴーのコンフィにルバーブ(アロエみたいなやつ)を甘く煮たもの。どれも美味しい。
ミニャルディーズ(小菓子)もレベルが高く、エスプレッソを2杯も飲んでもうた。最高に幸せな気分でごちそうさま。お土産にパンまで持たせてくれて、翌日の朝食に頂いたのですが、これもまた美味。完璧だ。季節ごとにお邪魔したいレストランです。超オススメ!
■写真付きのブログはコチラ⇒ http://www.takemachelin.com/2009/05/blog-post.html
2016/01/13 更新
先日お邪魔したロブションが大変素晴らしかったので、訪問する頻度を上げることにしました。この日は初夏の気持ちの良い夜で、高い空に雲も少ないロブション日和です。
シャンパンゴールドと黒で統一されたダイニング。前回お邪魔した際は外国人ゲストが大半を占めたのですが、この日はフルで日本人でした。日によって波があるのかもしれません。サービスは程よくカジュアルで、一見ゴージャスであるもののゲストに緊張を強いることは一切ありません。客を委縮させる接客はなく、リラックスさせる雰囲気づくりです。
ミシュラン3ツ星のグランメゾンとしてはワインの値付けは良心的で、何なら1万円を切るボトルも用意されているくらいです。この日は1998年生まれのギャルとお邪魔したので、同年のモンローズを目玉として頂きました。タバコ、革、土、スパイスといった複雑なアロマが広がり、骨格のしっかりした力強いタンニンと優れた酸がバランスを保ちます。
アミューズは温かいゴーフレット。サクサクとした食感が心地よく、続いて次にエビの凝縮された旨みとウニ特有のクリーミーで磯の香り豊かな甘みが口いっぱいに広がります。先頭打者ホームランな美味しさです。
スペシャリテの「キャビア・アンペリアル 」。たっぷりのキャビアに旨味の強い蟹のほぐし身、濃厚な甲殻類のジュレ、まろやかなカリフラワーのピュレが美しく層をなして盛り付けられています。素材の旨みが凝縮された贅沢で芸術的なひと皿ですが、時節柄、ミャクミャクに見えなくもない。
ロブションのパンは旨すぎるので、後続の料理やスイーツの量を勘案し、戦略的に臨む必要があります。トマトの旨味が詰まったクグロフは相変わらずの美味しさで、ベーコンやチーズを用いたオカズ風のパンも素晴らしい。ああ、もっと広大で深遠な胃袋が欲しい。
仔ウサギとフォアグラのテリーヌ。仔兎の繊細な旨みと、フォアグラの濃厚なコク、そしてルバーブの爽やかな酸味が絶妙なハーモニーを織りなします。仔兎のあっさりとした肉質の中に、とろけるようなフォアグラの豊かな風味が溶け込み、しっとりとした舌触り。雑なフランス料理店の焼きっぱなしのフォアグラとは段違いのクオリティです。
リコッタチーズを詰めたラヴィオリ。口に含むとラヴィオリの中からクリーミーでほのかな甘みのあるリコッタチーズがとろけ出します。グリーンアスパラガスのヴルーテを追加で注ぎ、半径3メートルにアスパラガス特有の青々しい香りが広がる。香水として売り出したいくらいです。
お魚料理は太刀魚とホタルイカ。太刀魚は身が繊細で淡白ながらも上品な旨みがあり、ふっくらとした仕上がり。ホタルイカは濃厚な旨みと、プチッとした独特の食感が魅力的。内臓起因の濃厚なソースも堪らなく旨く、日本酒が欲しくなるひと品です。
メインは仔鳩をお願いしたのですが、思いがけないスタイルで登場しました。仔鳩の胸肉と内臓をキャベツで優しく包んでおり、内臓特有の深みとコクが、キャベツの甘みと共に溶け合い、滋味深い味わいです。これは世界最強のロールキャベツかもしれない。仔鳩の多様な魅力を凝縮した傑作です。
付け合わせに滑らかなマッシュポテト。単なる付け合わせ以上の存在感があり、選び抜かれたジャガイモを丁寧に裏ごしし、バターやクリームなどを贅沢に加えて作られるため、驚くほど口当たりが良い。料理全体のバランスを整え、より一層美味しく引き立てる、まさに究極の脇役と言えるでしょう。
お待ちかねのチーズワゴン。相変わらず状態が良く熟成度合いも完璧で、フランスチーズの多様な魅力を凝縮しています。私はエポワスにロックフォール、ヴァランセとブリアサヴァランを注文。個性豊かなチーズが香りと味わいをモンローズと共に愉しみます。
デザートにスフレ。オーブンで焼きたてならではのフワフワとした優しい口当たり。シャルトリューズのリキュールが香る軽やかで温かい味わいで、添えられたピスタチオとの相性も抜群。ハーブの香りとナッツの風味が互いを引き立て合い、洗練された大人の味わいです。
思わず歓声が上がるデザートワゴンが2台も登場します。1台目はオペラやミルフィーユ、タルトやアイスなどのごっつい系で、2台目はチョコやマカロン、焼菓子などのミニャルディーズ。腕まくりをして注文に臨み、甘味だけで5千キロカロリーは摂取したかもしれません。
上質な紅茶と共にフィニッシュ。ごちそうさまでした。しっかりと食べ、上質なワインも頂いたのでお会計はひとりあたり10万円。高価ではありますが質も正比例しているので、ある意味では非常にリーズナブルな食体験と言えるでしょう。
帰宅後は2時間ほど気絶し、シャワーを浴びた後も朝までぶっ通しで寝続けました。「ロブションに30歳までに行けたらイイ女」という都市伝説がありますが、あれは単に20代の内臓でないとロブションの神髄を堪能できないことに由来する気がする。美食にも体力が必要なのだ。
■写真付きのブログはコチラ→ https://www.takemachelin.com/2025/06/robuchon.html