狸.404さんが投稿したイグレック(兵庫/三ノ宮)の口コミ詳細

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イグレック三宮(神戸市営)、神戸三宮(阪急)、県庁前/ビストロ、ビュッフェ、洋食

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  • その他の点数:4.6

    • ¥8,000~¥9,999 / 1人

「豪華さ」ではなく「洗練された祝福」を味わう。北野ホテル『世界一の朝食』

ここ、北野ホテルの朝食は「世界一の朝食」と銘打ったモーニングを提供している。

世界一の朝食――そう聞くとキャビアやフォアグラなどの高価な食材を使用した豪華絢爛な朝食を思い浮かべてしまう。
だが実際の写真を見てみるとパン、ハム、ヨーグルト、フルーツ、ジュースなど、贅沢な食材……というよりはいつも身近にある料理が奇麗に並べられていることにすぐ気づく。

このメニューの何が世界一なのだろう?
これを食べて自分が感動できるのだろうか。
そんな疑念の中で性格の悪い自分はこの朝食を食べることにした。

テーブルには写真の通り、奇麗にメニューが並べられている。
うん。奇麗。本当に奇麗に配列されている。
が、やはりメニュー自体はそこまで特別ではない。
さっそく食べてみる。

■飲むサラダ
写真の中で最も目を引くのが5つのジュースだと思う。実はこれ「サラダ」なのだ。

1.黄色(マンゴー・かぼちゃ・パイン・パプリカ・セロリ・レモン)
2.橙(アプリコット・人参・サンギーヌ・紫キャベツ・ビーツ・レモン)
3.紫(フリュイルージュ・ザクロ・トマト・アサイー・レモン・チャービル・クレソン)
4.緑(青りんご・パッション・ほうれん草・ライム・ケール・ミント・ディル)
5.オレンジジュース

メニューとともに添えられたプリントには「飲むサラダ」として、以上のような説明が書かれていた。
その材料の多さに驚かされる。この4種のサラダを作るのに一体どれくらいの試行回数が積み上げられたのだろう。
飲んでみるとスムージーとジュースの中間くらいの食感覚。
そしてそれぞれ特徴のある味わいを楽しめるため、飽きずにすべて飲むことができた。
特に黄色のジュースは、マンゴーやパインの甘さと酸味の奥に、パプリカやセロリの青臭さが追いかけてきて、それら全てが胃に優しく染み渡る感覚を感じた。

■焼きたてのパンと3種のバター
着座した瞬間に鼻孔を刺激するもの……それが焼きたてのパンの薫りだ。
クロワッサンやパン・オ・ショコラ、フィナンシェなど、全部で6種類ほどの焼き菓子・パンが籠に盛られている。
食べきれなかった時のために紙袋が用意されているあたり、ゲストの「もったいない」という気持ちもきちんと拾ってくれている。

バターはトマト・パセリ・プレーンの3種類。
トマトは軽く酸味が立ち、パセリは香りがよく、料理的なニュアンスを加えてくれる。
結局、自分の好みとしてはプレーンが一番落ち着いたが「どのパンにどのバターを合わせるか」を考えながら食べ進める時間が、朝からちょっとした遊びになる。

■イチゴの生コンフィチュール

今回の食事で最も感動したもの、それが生コンフィチュールだ。
一般的なジャムとは違い、しっかり煮詰まってもいなければ、固まってもいない。
果実はそのままの姿で器の中に存在しており、窓から射し込む朝の陽ざしを受けてキラキラと輝くさまは、少し大げさに言えば、宝石を眺めているような美しさすらある。

スプーンを入れると、そのみずみずしさがよくわかる。
保存料などは一切使われていないとのことで、「その日、その瞬間、最も美味しく食べられるタイミング」で提供されていることが伝わってくる。

味も文句なしに良い。
安っぽい表現になるのを承知で言えば、イチゴ独自の「程よい酸味」と「程よい甘み」が高い次元でまとまっており、パンにもヨーグルトにも自然に寄り添う汎用性があった。

一般的なジャムが、保存性を重視した「加工された甘味」だとすれば、このコンフィチュールは「旬の香りそのものの、純粋な抽出」と言えるだろう。


■そのほかのメニューとサービス
一番だしスープやジャンボンブランと生ハム、タピオカオレやエッグカッターを使用する半熟卵、丹波・但馬の乳牛のミルクを使用したカフェオレなど、脇を固める料理たちも抜かりなし。

一番だしのスープは、過度な主張がなく、ほのかな塩味と旨味が静かに体へ染みていき、体中がほっと緩むような味わい。

ハム類はそのまま食べてもクオリティは高いが、バターを薄く塗ったトーストにのせて食べると、味がひとつ上の段階に跳ねる。
脂の甘み、パンの香り、塩味の余韻――全部が噛み合い、ひとつの料理となる。

半熟卵はエッグカッターのギミックも含めて「体験する楽しみ」を提供してくれているのがうれしいところ。全っ然うまくいかなかったけども!

それと普段はブラック派の自分も、今日はメニューに言われるがままにカフェオレでキメておくことにした。いつもよりも尖りのない柔らかな味わいが心地いい。

ホールには落ち着きのある男性スタッフがつかず離れず心地よい接客をしていた。
エッグカッターで切った卵の出来栄えをユーモアを交えて誉めたり、食べ方に困っている客にさりげなく補助を入れたり、食事だけではなくホールスタッフが作り上げる食事体験もはたから見ていて非常に心地よかった。
食事の良し悪しは料理の味だけでは決められないものだ。

この朝食を食べ進めている内にふと気づいた。
ここで流れている時間は、自分の生活リズムより一歩ゆっくりだ。
時計は動いているのに、世界の速度だけが変わっている。いつぶりだろうか。こんな朝。

■世界一の朝食について
食べ終わった皿を前に、妙な余韻だけが残った。
満腹ではない。
でも、満たされている。

最初は「世界一の朝食」という言葉は大げさだと思っていた。
少し調べてみると、この朝食のルーツはフランス料理界の巨人、ベルナール・ロワゾーにあるらしい。
そしてそのロワゾーの朝食を、北野ホテルの総支配人であり総料理長でもある山口氏が、世界で唯一正式に継承しているという。

内容は驚くほどシンプルで、カフェオレ、クロワッサン、バター、そしてジャム。
フランスでは当たり前すぎるほどの朝食。
それを極限のクオリティまで磨き上げることに、ロワゾーは人生をかけた。

つまりこれは引き算の美学だ。
豪華さや希少性ではなく、ありふれた料理を究極の状態に仕上げる。
人を驚かすのではなく、じわりと幸福を染み込ませる。
その思想こそが、この朝食の核なのだと思う。

ロワゾーから山口氏への継承は、単なるレシピの受け渡しではない。
技術でも形式でもなく「エスプリ」、つまり精神の継承だ。
朝食とは一日の始まりの儀式であり、「朝食は、その日ゲストが最初に体験する幸福でなければならない」という哲学。
それが北野ホテルの皿の上に息づいている。

その象徴が、例の飲むサラダだ。
これはロワゾーの再現ではなく、山口シェフの創造だ。
レシピを守るだけならただのレプリカともいえるかもしれない。
だが彼は「日本人は朝にサラダを食べる」という文化に寄り添い、ロワゾーの精神を軸にしながら、新しい形の朝食を作り上げた。

この一点でわかる。
北野ホテルの朝食は、ただの再現でも、模倣でも、再演でもない。
そこにあるのは、伝統と魂を守りながら進化する意志だ。

食べ終えてわかった。
この朝食は、素材の豪華さや量で満足させるタイプじゃない。
静かに、淡々と、でも確実に心を満たしてくるやつだ。いつもの朝より少しだけ特別に感じられたのがその証拠だと思う。

「世界一? 言いすぎだろ」と思っていた自分が、食べ終わった頃には「うん。それはそれでそうなのかもしれないな」と思っていた。

今回は日帰りでの利用ではあったが、これは宿泊も兼ねることでより完成度の高い朝を楽しめるであろうという核心がある。

今度は宿泊で試してみようか。動機なら既にある。
エッグカッターが全然うまくいかなかった、そのリベンジだ。
隣のマッダームたちは奇麗にスパッと切れてたんだけどなー。

そんな他愛のないことを考えていると、いつもの朝食にも「ささやかな幸福」を見出すことの大切さに気づく。
まずはいつもの納豆ご飯にも感謝とリスペクトを届けたい。

  • 世界一の朝食

  • イチゴの生コンフィチュール

  • 飲むサラダ

  • 失敗したエッグカッター

お店からの返信

イグレック

2025/12/02

この度は当ホテルの『世界一の朝食』をご体験いただき、ありがとうございました。
日々の小さな幸福を追求し、それぞれにストーリーがある朝食をお楽しみいただけたようで、大変嬉しく思います。
次回はぜひご宿泊いただき、より充実した朝をお過ごしいただければ幸いです。

「また来たい」と思っていただけるようなホテルになれるよう精進してまいります。
またのご来店を心よりお待ちしております。

ダイニングイグレック

2025/11/30 更新

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