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JW DANT 7年熟成 50年物
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80年前のバカラ
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チェイサー
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チーズ盛合わせ
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チーズにはワインを
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白も赤も
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50年前のコアントロ
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今のコアントロ
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キューバ製のシガー
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珈琲を入れてます
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ブラックローズ
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昆布茶
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レストラン エスカリエにタクシーを呼んで黒崎駅前に帰る。
抜群に美味い料理の後。否でも応でも気分は高揚すると言うものだ。
助手席に私。後部座席に乗り込んだ上機嫌の婦女子の会話が止まることはない。
ロック・オンした独身女子に何かと話しかける。段々といい雰囲気になって来る。
もう充分過ぎるほど大人のウキワ星人である。この女子を今夜どうこうではない。
ゆっくりと、ジックリと搦め手に獲り込んでいけば良い。「触れなば落ちむ」。それで良いのだ。
10分も車に乗っていただろうか、黒崎駅前の繁華街の中にある「三角公園」の処で降りる。
まったく初めて伺うお店。キョロキョロ探してしまった。それくらい目立たない静かなファザードだ。
多くのマイレビュアーさん絶賛のBARウォータークラブ。重厚な木のドアを恐る恐る開けた。
適度に暗い照明の手前に大きなテーブル。奥にカウンター。木造りの重厚な店内。
「いらっしゃいませ」。。。よく通る、しかし決してただ大きなだけではない「大人の声音(コワネ)」。
「カウンターでよろしいですか?どうぞこちらへ」 ピンと伸びた背筋。優しい笑顔。
(この人がマスターの柳原宏則さんか、なんかキザじゃのぉ~!)と内心で毒を吐く。
カウンターの左端に私。隣に独身女子、その隣に人妻女子。落ち着いた雰囲気が嬉しい。
「なににしようかな?」「やっぱりカクテルとか飲んでみようか?」婦女子2人は相変わらずの盛りあがり。
基本的にBARにあまり行かない私。ええカッコしたかったのだが何を呑むべきか浮かばない。
放ったらかしだった私達の処へマスターが来て呉れたのは数分経ってからだった。
先ず婦女子に別々のカクテルを提案。「はい!それいただきます!」
そして私の前に。この時まで一切目と目が合わなかった。放って置いて呉れたのだ。
「どう致しましょうか?」「そうですなぁ~。バーボン貰おうかなぁ~」
「それでしたら是非ともこれを!」クルッと回転してボトルをピックアップ。全く動作の軸がブレない。
「JW DANTはよくあるんですが、この50年物は滅多に手に入らないんです。ウチにもやっと3本」
「へぇ~!そんなんゼンゼン知りませんねんけど、任せますので」
「わざわざ東京からこれを飲みにやって来るバーテンも居るんですよ。香りが凄いです。」
「スビバセン、因みにそんな貴重なお酒。。。一杯いくらしますのん?高かったら・・・ちょっと・・・。」
「¥2500で飲んで頂いてます。どうですか?バーボンがお好きでしたら是非!」
※JW DANT 7年熟成 50年物 ¥2500
80年前のバカラのグラスで。「飲まなくて結構です。香りを味わって下さいね」とマスター。
素晴らしい酒だった。こんな芳醇な濃厚な香りのバーボンを私は知らなかった。
北新地の十年で飲んだリッジモンド・リザーブが今迄で一番と思っていたが、
それを大きく凌駕する代物だった。呑まなくてよくても呑んだ。
唇が溶けてしまうのではないかと思うほどの「纏わり付き」はまさに「悪女の深情け」。
この一撃で私は完全に毒気も骨も抜かれ尽くしてしまった。
日頃の疲れも、ストレスも、悩みも、邪まな烈情もすべて秘し沈められてしまったのだ。
※チーズの盛り合わせ¥1300とワイン
JW DANTは横に置いておくことにして、チーズを頂くことにする。
このチーズがまたメチャクチャ美味いのだから恐れ入った。
やっぱり美味いチーズにはワインが欲しい。悩む間もなくサッと出て来る。
しかもこのチーズには白ワイン、このチーズには赤ワインとゆうふうにサーブされる。
ワインの銘柄なんて覚えていない。チーズの名称と特徴も忘れた。
しかし満腹だったはずの胃袋にスンナリ収まってしまう上等なチーズであったのは確かである。
同行の婦女子もあれやこれやとマスターのお奨めカクテルを嬉々として味わっている。
他にカウンターに4人。テーブルにも3人の客。皆が気持ちよく酔っている。そう、マスターに。
斯く言う私もマスターの挙措動作から目を離さない。
決して私に衆道の趣味・性癖が有るのではない。粗探しをしていたのだ。
普通はたとえ一瞬でもホッとして背中が丸くなったり、鼻をホジッたり、怖い顔で従業員を睨んだり、
なにかしら隙とゆうか、「地」みたいなものが垣間見えるものである。
しかしこの柳原氏にはそれがない。完璧だ。まさにパーフェクトなのだ。
その引き締まった体はとても40代半ばのそれとは思えない。よほど鍛えてるのか聞いてみると、
「今日はスパーリング・パートナーを6ラウンドやって来たんですよ」と事も無げに言われた。
なるほどラフに捲くったシャツから出ているあの腕はボクシングで鍛えられたものだったのか。。。
シェイカーを振る、そこからカクテルをグラスに注ぐ、あのグルグル巻の長いスプーンで味見をする、
もうその一連の動作のキザなこと!見事なこと!まさに「蝶の如く舞い 蜂の如く刺す」。
※キューバ産のシガーとコアントロ
時々大阪のオールドインペリアルバーでシガーをやるとゆう話しをする。
「もしよかったらウチでも是非どうぞ、シガーありますよ」
「マジですかいな!?そしたら頂きますわぁ~!」
キューバ産のシガー。キャンドルで火を点けて呉れるマスター。。。カッコ良すぎる。。。
「シガーにはコアントロが合うと思います。この二種類を飲み比べてみて下さい」
今世の中に出回っているコアントロと50年前のコアントロを飲み比べる。
こんなもの見た事あっても飲んだことなどない。
「50年前の方が断然美味いです!コクってゆうかゼンゼン違いますわ」
「そうでしょ、口の中でシガーの苦味と相まって何とも言えない味わいになりますから」
マスターの言うとおりだった。。。次からシガーをやる時はこれに限るではないか!
「マスター、何でもイイので僕に合いそうなの作ってもらえないですか?」
「分かりました。暫くシガーの香りとJW DANT の香りを楽しんでおいて下さいね」
ここからまた放って置かれてしまう。注文が多くて手が回らないのではない。
「慌てないで、ゆっくりと、味わって、過ごしなさい」と言うマスターのプロデュースなのである。
大体において中途半端にキザな男は大嫌いだし、世の中、そうそうカッコいい男など居るものではない。
況してや私は人一倍、妬み・嫉み(ノネミ)の心が強いので、この店のマスターみたいなタイプは、
まさに「不倶戴天の敵」であり、虫唾が走るほどに大・大・大嫌いなのである。
そう、大嫌いなはずだったのだ。。。
※ブラック・ローズ
「さぁ、それでは今夜の総仕上げのカクテルを作りましょうね」
言いながら珈琲を入れ出したマスター。ユックリとユックリと糸を引くような少量づつの湯をドリップする。
その香しい珈琲とエスプレッソ・コーヒーリキュール、そしてラム酒をシェイク!
今までもちろん未経験だったカクテル「ブラック・ローズ」が出来上がる。
ここまでのストーリーを見事に完結させる「黒い薔薇」が咲いた。
気が付けば同行独身女子はもう完全にマスターの虜になってしまっている。目の形がハートじゃないか!
もう一人の同行人妻女子は何とかいう聞いたこともないスコッチで陶然となっている。
私はと言えばブラック・ローズを呑んでしまって、あとほんの少しのJW DANTが残っているだけになった。
「帰ります」なんて一言も言ってない。しかし、「お茶にしましょう、昆布か梅かどちらがイイでしょう?」
時間的にも、酔い具合も、丁度良い頃合いだった。何から何まで完璧なタイミングだ。
何処にでもある粉末を溶かす昆布茶ではない。高級塩昆布が茶の中に入っている。美味~い。
若い時には東京で修行をされ、独立してこの店を開業して今年で24年になるそうだ。
お店もマスター本人も、そんな年数を経た古臭い雰囲気が全くない。
長年続けて来られた事による油断も惰性も、微塵も見せることはない。
だからと言って堅苦しいような雰囲気はぜんぜんない。笑いの絶えない楽しい店である。
嬉々として酒を造る。ワクワクと料理を提供する。
七面倒臭い薀蓄を語るのでもない、長年培って来られた知識や経験を振りかざすのでもない。
徹底して自然体。多くの客のハートをガッチリ掴んで離さない魅力溢れるマスターなのだ。
その立ち居振る舞いはクドいようだが、あくまでも洗練され、キザである。徹底してキザである。
しかしそれは「嫉妬深い」ウキワ星人がそう思うだけであって、普通は「一流」と言うに違いない。
「ここは是非!割り勘でお願いしますね!」
同行女子たちの強い主張により、その意向に従う事にする。
御勘定のメモを見て目を疑った。「¥7000.-」。。。シガーだけでもこれ位はするぞ!
最後の最後まで、やられっ放しだ。半ば呆けて店を出て来た。
柳原マスターが送り出してくれる。独身女子の目は相変わらずハート型のまま。
私も思わず「今日は誠に恐れ入りました」と口走ってしまった。
レビュー投稿に際して「こんな時に向いている」の欄。「デート」にはチェックしない事にした。
同行した婦女子がマスターに首ったけになっても、私のせいではない。