台湾各地から厳選した香り高い特級茶を、高貴な宮廷菓子とともに。 : 徳也茶喫館

中華風建築様式の堂々たる駅舎が印象的な、台北車站(タイペイチャージャン)から、台北を東西に結ぶ大動脈・忠孝(チョンシャオ)路を少し東へ歩いていくと、シェラトン台北などが並ぶ、やや落ち着いた街並みが現れます。
忠孝路の広い通りから少しだけ路地に入った場所に、台湾のお茶や個性的な中華菓子を楽しめる茶藝館「徳也茶喫」(トーイエチャーチー)さんを訪ねます。
ここも、日本人観光客にはそれなりに知られた場所。
でも、偶々なのか、何度か訪問するなかで日本人に遭遇したことはなく、また現地の皆さんで混んでいるかというとそうでもない。
独特なレトロ感溢れる雰囲気の中で、ゆっくりと時間を過ごすことができる場所ですね。

ファサードは、台湾流モダンとでも言うべきでしょうか、個性的な趣です。
玄関先には玉石を敷き詰めた水たまりが設えてあって、井戸からはこんこんと清水が湧いています。
お茶に不可欠な、水とのかかわりの演出なのでしょうか。

玄関を開けると、レトロ感の趣が深い、建具や什器。
これらは、明朝時代の中国の風格を再現したものなのだと。
それに、壁際に設えた棚には、所狭しと並べられてた茶器類の数々。
中には販売しているものもあるようですが、多くは、此処のオーナーの貴重なコレクションなのでしょうね。
オーナーは、台湾でもかなり著名な、茶葉の研究者なのだと。

「茉莉花(ジャスミン)茶」(TWD200)。
凍頂烏龍などとともに、低温乾燥、低発酵度のお茶(清茶)に分類されるもの。
すっきりした飲み口で、ジャスミンの清々しい香りをのせた、日本でもお馴染みの爽やかなお茶ですね。
台湾の厳しい暑さの中で涼をとりながらいただくのは、また格別です。
ジャスミン茶というと、茶葉はあまり良いものは使わないと良く言われますが、実際のところ、どうなのでしょうね。

「白毫烏龍茶(東方美人茶)」(TWD300)
ポットの中で、茶葉がゆっくり開くのを待って、じっくり味わいます。
こちらは、高温乾燥、高発酵の、典型的な濃茶類に該当するのだと。
さすがにそれなりのお値段だけあって、深いですね。
目を瞑ると、幽玄な朝靄の森林風景が浮かぶような、実に爽やかで奥深い飲み口です。

最初の一杯を注ぎ終えて、ポットの中を覘くと、実に鮮やかな緑色の茶葉。
これを口にしてみると、実にまろやかで滋味深い。
日本の、良い玉露の出涸らし葉と同じような優しい味がします。
台湾では、茶葉と小海老と一緒に炒めたりする茶葉料理も有名ですね。

そして、これらのお茶請けが、また貴重な宮廷御用達のもの。
なんでも、1989年の開店にあたって、此処の職人は北京の「仿膳飯荘」に赴き、伝統的宮廷菓子職人としての修業を積んだのだと。

「驢打滾」(TWD150)
棗(ナツメ)餡をもち米を粗く搗いた求肥で丸く包み、ふわりときな粉がかかっています。
北京の宮廷菓子の流れで作られているのだそう。
砂の上で転がる驢馬(ロバ)をイメージして、この名がついたのだと。

「雪花糕」(TWD150)
ミルクと抹茶のムースに、ココナッツを塗してあります。
ご当地らしいココナッツの風味が何とも有り難く、材料の良さが判る、実に上品な味がします。

「荷花酥」(TWD150)
蓮の花を象った中華パイは広がる花弁が実に綺麗で、焼きたて、サクサク。
未だほんのり温かく、月餅でお馴染みの濃厚な濾し餡が包まれています。

テーブルの傍らの火鉢には湯が沸いていて、空になれば幾らでも注ぎ足してもらえます。
最初の一杯、そして二杯目と、表情を少しずつ変えていく。
そんな、本場のお茶の奥の深いところを、異国の風味の甘い菓子とともに時間をかけて堪能できるとは、何と贅沢なことか。
予定を立てて慌ただしく過ごす旅先ですが、一寸、こうしてゆっくり過ごす時間を確保してみるのも一興と言えそうです。
ちなみに、此処の値段がそれなりにするのは、長い時間店にいてゆっくりと過ごす対価なわけで、現地の人々は、茶を酌み交わしながら、延々と話をしています。
だから、余裕もないのに此処に立ち寄って、さっと茶を飲んで菓子を啄み、直ぐに立ち去って行くなど、愚の骨頂ということですね。

なお、此処では喫茶利用のほか、薬膳料理、茶を用いた料理などを中心に、ビジネスランチや夜のコースもあるので、何れは食事目的でも訪問してみたいものです。