往年の露天小吃店の匂いを残す、杭州南路の名物小籠包。 : 杭州小籠湯包

台北の食べ歩きと言えば、「小籠包」(シャオロンパオ)は欠かせませんね。
細かく練られた肉餡と凝らせた肉汁スープを、小麦粉の薄皮に襞をつけて包んで蒸しあげる、上海起源の料理です。
熱々の蒸篭が運ばれてきたら、上手にてっぺんを箸でつまんで、レンゲにのせます。
間違っても、皮をつつきまわして極上スープを捨ててしまうような失敗だけは避けたいものですね。

台北で日本人にも広く知られる有名店といえば、永康街に老店のある「鼎泰豊」ですが、もともと小籠包は庶民の料理。
街なか、路地裏を探せば、地元の熱気あふれるお店もたくさんあります。
そんな名店を追々ご紹介したいと思いますが、まずは露天小吃店由来の人気店「杭州小籠湯包」から。
中正紀念堂の裏手にバラックが連なり、夜遅くまで煌々とともる明りは、かつてご当地の名所的存在でした。
再開発なのか、三年ほど前にすべて立ち退きを迫られて、現在では、数十メートル北側の立派なビルの中へ。
それでも、熱気あふれる店内と、冷蔵庫の小菜を取って来るスタイル等々、路邊攤(ローピータァ)的な匂いは十分残っています。

此処に来たら、小籠包だけではなく、いろいろと味わってみたいもの。
頼んだ小籠包が蒸し上がるまで、NTD50の小菜をいくつか摘んでみます。
この小菜、台湾小吃店の大きな楽しみなのですが、店によって内容も味付けももちろん違うし、地域性もかなり色濃く感じますね。
此処で旨いと思ったのが、あっさりと和えた若い蚕豆。
豆の豊かな味に、ビリッと赤唐辛子の効いた感じが何とも言えません。

さて、まずは基本メニューの「小籠湯包」(シャオロンタンバオ・NTD120)から。
数年前のNTD90から、現在はNTD120に値上がっていますが、台湾の経済成長もあって、やむを得ないところか。
これは、此処だけに限らず、台北のお店全般に最近感じるところです。

蒸篭の蓋を取ると、立ち上る湯気とともに良い香りがフワーッと。
襞のてっぺんを慎重に摘んでレンゲにのせたら、少しの香醋や針生姜とともにスープごと啜ります。
高級店のような特別感や繊細さとは少し趣が異なるかもしれませんが、基本メニューたる豚肉の旨み、野菜の甘みがとにかくしっかりしています。
永康街との価格差ほど、味の差など勿論ないし、全体的な評価としては本当に甲乙つけがたいですね。

今回は「蟹黃湯包」 (蟹みそ入り小籠湯包・NTD190)を奮発します。
忽ちフワーッと広がる、蟹みその味と香り。
さすがにちょっと高いけれど、せっかくだからこれは食べたほうが良いですね。
此処にはこのほか、角瓜蝦仁湯包という、海老と澎湖産ヘチマの小籠包もあって、さっぱりした味わいが印象に残ります。

次に、おかみさんお勧めの「三鮮鍋貼」 (NTD150)を。
所謂焼き餃子ですが、皮で餡を挟んで焼いていて、肉汁を湛えるタイプではありません。
これも甘辛いタレが独特で、挽肉のダイレクトな旨み、カリッとした焼き具合も良いですね。

「餅捲牛肉」(NTD130)。
モチッとした生地で牛肉や胡瓜を包み、甘味噌をつけるもの。
甘味噌と生地の具合が北京ダックを彷彿させますが、ずっと野趣溢れる、庶民的な旨さがあります。

「蝦仁燒賣」(NTD190)
細かく挽かれた餡の上に、プリッとした小海老。お馴染みの旨さです。
皮の包み方が個性的で、このお店だけのスタイルなのだとか。
皮は小籠湯包と同じ配合だそうで、口にするたびに海老の爽やかな香りが溢れます。

一息つきがてら「油豆腐細粉」(NTD70)を啜ります。
大きな油揚げ、海苔などの浮いた、春雨のスープ。
あっさりしていて、脂っこい食事の口直しにはうってつけです。
台湾の春雨は、この細粉や、麺径がやや太い冬粉があるのですが、スーパーでも手軽に買え、自宅用に重宝します。
原料は本来緑豆で独特なコシを醸すものですが、品物によってはスターチの配合率が高まるので、成分表や生産国を良く見て買った方が良いですね。

デザート代わりに、糬豆沙包(NTD90)を。
蒸篭で蒸されて出てくる、餡子の餅饅頭です。
小籠包同様の薄皮に包まれているのは、台湾にしては甘さ控えめの餡子。
小豆の味がしっかり感じられ、真ん中には台湾デザートでお馴染みの餅が入っています。

このお店の経営者は黄さんというご兄弟と、御歳80を優に超える名物おばあちゃん。
支店へ移転してからおばあちゃんのお姿を見かけなくなりましたが、それでもいまだお店の運営に采配を振るっておられるのだと。
日本語も達者で、毎日店に出て働く代わりに、毎年二回娘さんたちと行く日本旅行が何より楽しみだと仰っておられました。
いまだ、黄おばあちゃんは80歳の体で毎週市場へ行き、新鮮な食材を選んでいるというから凄いですね。

「鼎泰豊的實力、三六九的口味、 路邊攤的價格」・・・
お店がホームページの冒頭に掲げるキャッチフレーズが、この店の立ち位置を良く物語っています。
40年前、黄兄弟が上海で修業して以来、小籠包を、安くて誰でも食べられるものにしたいという強い信念を持ち、お店が運営されてきたのだと。
時代は変わり、建物が立派になっても、決して信念は曲げることなく、続けていってもらいたいですね。