客家独特の文化「擂茶」(レイチャ)でのんびり。 : 水井茶堂

最近台湾でも盛んにニュースになっているのが、わが日本の新幹線技術を生かした「台湾高鐡」の経営危機。
建設当初、輸送需要を多く見込み過ぎて、累損が既に深刻なレベルなのだと。
それは大変、今後のベトナム、タイ、インド等々への技術輸出に、悪い影響があってはいけません。
外は雲ひとつない青空、さっそく高鐡に乗って出掛けることにします。

高鐵新竹(シンチュー)站は、台北から僅か31分。
最近では、周辺に高層マンションが建ち並んでいて、台北への高鐡通勤者もいるとか。
新竹は、東京圏でいうなら熊谷や小山よりも余程近いような距離ですから、まさに住宅難の台北でも、かつて東京でも持て囃された「新幹線通勤」という選択肢が出てきているというわけですね。
新竹と言えば、ビーフンの産地として昔から知られる一方、最近では半導体の研究生産拠点「新竹科学工業園区(サイエンスパーク)」ができて、日本からも多くの関係者が此処を訪れるとか。

さて、区画整理された駅前広場から「台湾好行」と呼ばれる高鐡連絡バスに乗って約40分、客家人が多く住むことで有名な街「北埔」(ベイプー)へ出掛けてみます。
山懐に入った小さな町だから、さぞかしのんびりした風情が楽しめるかと思いきや、休日の街は、溢れんばかりの人の波・・・

街随一の廟は大勢の人が集って大賑わい。
名物の干し柿などを商う、物売りの声をかき消すほどの喧騒・・・・
廟裏手から続いている静かな石畳の路地から、古い家並みを訪ねてみると、雰囲気は一転。
時おり出会う街歩きの人たちと会釈を交わしながら、台湾ならではの田舎町情緒を満喫します。
路地裏では、キンキンに冷やした東方美人茶(膨風茶)が売られていて、喉を癒やしてみると、これが何とも清々しい。
北埔鎮をはじめ、近隣の峨眉郷などは、この東方美人茶の一大産地というわけです。

路地裏の一角で出会ったのが「水井茶堂」と名付けられた茶処。
日治時代に端を発する、1930年に建てられたという古い日本家屋は、円形の大きな窓など、昭和戦前のアールデコ建築の影響が色濃く感じられ、洋の要素を微妙に取り入れた雰囲気が、何とも素晴らしいものです。

古い建具をくぐって中に入ってみると、昔の家具を所々そのまま取り入れた什器には、見ているだけでも楽しい茶器の数々、そして様々な茶葉やドライフルーツも並んでいます。
値段もさほど高くないから、気に入ったものがあれば土産にはうってつけですね。

奥の板の間へ通され、姿勢を崩してのんびり。
使いこまれた床板には敷居が残り、床の間の造作や、昔ながらの天井と、長い時を経た温もりは、まるで子供の頃に舞い戻ったかのようです。
注文したのは、此処ならではの「擂茶」(レイチャ)体験。
家族３人で、500TWDでお釣りがきたと思いますから、場所代込みで考えればかなりのお得感が。
早速、店のおかみが擂り鉢や陶器等々、我々の前に持ってきてくれます。

擂り鉢の底を見ると、南瓜種、白黒の胡麻、落花生、それにドライフルーツの一種を刻んだもの・・・
これら滋味豊かな穀類、ナッツ等々を、擂りこぎで力いっぱい擂り潰すのだと。
ぐるぐるゴリゴリ！！
もう良いでしょ？という表情でおかみを見つめるも、まだまだ！・・と。

頃合いを見て、緑豆を潰し入れた湯を注ぎ、また擂ります。
最後に、煎り米(要はポン菓子)をたっぷり加えて、これで完成なのだと。

それぞれ湯呑、というより広口の小鉢に注ぎ分けて。
台湾流の作法は良くわからないから、一応上品そうに両手を添えて、静かに啜ります。
穀類ごとじっくり味わうように飲んでみると、これが自然で大人しい甘さがあって、実に滋味豊か。
渇きを癒やすだけでなく、栄養豊かな食事の要素を兼ねる、客家独特の文化なのだと。

お茶菓子は、唐土様の穀類を焼き固めた、一見スナック菓子のようなもの。
これが香ばしくて、とても素朴なもの。
それに、糯米の風味が良い餅菓子「客家麻糬」(単品ならTWD50)を小鉢に山盛りで。
ピーナッツ(花生)と砂糖を振りかけてあって、実に旨く、あとをひきます。

同席の台湾人客と片言の日本語で話をしていると、今台湾では、空前の日本旅行ブームなのだと。
こうして異国の地で懐かしい日本の雰囲気に浸りながらも、窓枠や建具に塗られたペンキの色は、やはり台湾ならではの色使い。
開いたドアから時折吹いてくる亜熱帯の風を感じながら、鸚鵡と戯れる店の子供を見ていたら、ついうとうとと眠りこんでしまいました。