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| 店名 |
MANDARIN ORIENTAL BANGKOK
|
|---|---|
| ジャンル | ホテル |
|
予約・ お問い合わせ |
(+66) 26599000 |
| 予約可否 | |
| 住所 |
タイ48 Oriental Avenue, Bangkok 10500 |
| 営業時間 | |
| 予算(口コミ集計) |
|
| 利用シーン |
こんな時によく使われます。 |
|---|---|
| ホームページ |
http://www.mandarinoriental.com/bangkok/?htl=MOBKK&eng=google&src=local |
| 初投稿者 |
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「インスティテューショナル・インベスター」。
これは、私がタイに来始めた頃、ホテルのランキングにおける世界で最も信頼されていた金融の業界誌だが、ここ「マンダリン・オリエンタルホテル」はそのランキングにおいて不動の世界ナンバーワンだった。
私は今、バンコクに駐在している学生時代からの友人と、このホテルの「THE BAMBOO BAR」でくつろいでいる。
今日、久々にこのホテルを訪れたが、随分従業員の数が少なくなった感じだ。
以前は客室一室に対し従業員が4人いると言われた人海戦術と、「オリエンタル・スマイル」と言われた従業員のホスピタリティ、セキュリティーや顧客サービスの良さで他の追随を許していなかった。
私の部屋へのウェルカムフルーツやナイトサービスのチョコレートも全て好みのものにしてくれていたし、タクシーについては乗る時も降りる時も少しでも違和感があればすべて迅速に処理してくれていた。
友人の彼は私よりも若い頃から中国や東南アジアを飛び回っていて、私も海外に出向くようになってからは、よく彼と海外のホテルの情報交換を行っていた。
その彼も私も「マンダリン・オリエンタルホテル」については、少なくともバンコクでは一番のホテルということで一致していた。
だが、彼曰く「今はその頃ほどではない」という。
こんな話がきっかけで、私が昔体験したホテルでの話になった。
30年以上前、私が学生時代にヨーロッパを独りで貧乏旅行で廻っていた時、旅行の終盤に多少予算に余裕があると感じた私は、向学のために超一流ホテルに泊まってみようと思い立ち、その時に居たローマで誰もが知ってる有名ホテルに前日予約で泊まったものの、結果的にとても不快な思いを味わうことになった。
そんなことがあって、私は最終目的地であるギリシャのアテネで最上級のホテル「ホテル・グランド・ブルターニュ」でリターンマッチすることを決め、ローマから電話をかけ、私が「ホスピタリティ産業」を専攻している学生であること、スタンダードではなくひとクラス上のスーペリアタイプに泊まりたいということと、カードで支払うことを告げ、そのうえで「泊めてくれるか(ウェルカムですか)?」と確認して、この旅の最終泊をそこで過ごすことにした。
チェックイン時、着替えていない私は普段着のバックパッカーに近い出立ちでホテルを訪ねた。
ビシッとしたいかにも高級ホテルのフロントクラークが一瞬怪訝そうな顔をしたのは見逃さなかった。
彼は予約カードを確認しながら「ホテルを勉強しているのか?」と訊くので「(正確ではないが面倒なので)そうだ」と答えると、彼はおもむろに「今日、あなたが予約した客室は手違いで全て満室になってしまった」と不安でいっぱいの私に告げた。
「結局これかよ」
予約のための長時間の国際電話も無駄だったのかと思ったその時、彼は「なので、同じ料金で予約したタイプより広いツインルームを用意します。それで許してくれますか?」と言われたが、まだ疑心暗義になっていた私は「部屋を見させてください」と告げ、ベルパーソンとともにその部屋へ向かった。
部屋に入った瞬間私はびっくりした。
全面窓の広い部屋(スイートではないが)は、アテネの中心「シンタグマ広場」に面しており、その先には「パルテノン神殿」がバッチリ見える。
夜はライトアップされているのでベッドからでもとてもキレイに見えるだろう事は容易に想像できた。
その瞬間、部屋の電話が鳴った。
ベルパーソンから私が代わると、先ほどのフロントクラークが「いかがですか?」と確認してきたので、あまりに素晴らしいその部屋に、私は思わず「こ、この部屋でお願いします」と答えるしかなかった。
思えば、ローマの時も、滞在中の不満(明らかにホテル側の不手際なのだが、夜間責任者がそれを認めなかった)をチェックアウトの時に「私は学生だが勉強のために勇気を出して泊まったのに、こんなひどいレベルのホテルに泊まったことをとても後悔している」と思いっきり抑えて文句を言った(というか、当時の私の英語力ではこれが限界だった)ら、マネージャーらしき人が初めて非を認めて謝罪してくれた。
そのうえで「何か我々にできることがあったら何でも言ってください」というので、本当は「じゃあ返金しろ!」とでも言いたかったが、またカッコつけて「私が次にここに来る時(そんなことは当分無いのに)はベストなホスピタリティで迎えてください」と当たり前のことを言って、先方に「もちろんです、サー」と言わせた後に「昼食の後で着替えをしたいのでその場所を貸してください」と、大したことではないが断れない面倒なリクエストをした。
夕刻ホテルに戻ると、ベテランのベルパーソンが着替え場所として客室に案内してくれた。
ものすごいゴージャスな部屋にびっくりしていると、部屋の電話が鳴り、マネージャーが「その部屋がこのホテルの最上級のスイートルームです。お泊りいただけないのは残念ですが、あなたの勉強の助けになれば幸いです」と言ってきた。
私は、アテネのホテルマンも、私が学生だと知った上での意図的な計らいなのだと確信した。
夕食の時、アテネ最後の夜をこのホテルのメインダイニングでゆっくりたっぷり独り飯を楽しもうとした私は、アラカルトでスープ(パスタ)・魚・肉を食べてやろうとオーダーした。
ギャルソンからは「本当に独りでそれを食べるのですか?」とも言われたが、この旅のせっかくの「最後の晩餐」にして大食いに自信のある私は「そうです。何か問題ありますか?」と言ってしまった。
食事が始まると、無いと思ったアミューズ(これがまた結構な量)から始まったので、スープ(パスタ)の段階でかなりお腹は満たされていた。
一品一品の量も想像以上に多かったので、魚料理を食べ終えた時にはすでに満腹になってしまった。
最後の肉料理を味わうこともできずにやっとの思いでお腹に押し込むと、途端に先程のギャルソンがまるでスキップでもするかのようにサッとやって来て「デザートは何にしますか?」とメニューを渡された。
「もう結構。あなたは正しかった。私のお腹はもう満杯で空きはない。まるでこのホテルのように」と冗談交じりに答えると、すると彼は、
「私の友人にイタリア人が居て、その彼が今日のあなたと同じメニューを食べようとしたが、その友人は食べられなかった」と返した上で「だから私がコーヒーをご馳走します」と付け加えた。
そんな話があるわけがないのはすぐに分かったが、彼は、ユーモアを交えた泣き言に対してウィットに飛んだ見事な切り返しで私を気持ち良くさせた。
見ている限り彼はこのレストランの責任者でも何でもないただのギャルソンだった。
ちなみに、ヨーロッパではイタリア人は「大食漢」の代名詞で語られる事があるというのは知っていた。
そして、バーや散歩を楽しんで、いよいよライトアップされたパルテノン神殿を眺めながら翌日の南回り(古っ!)の長時間フライトに備えて就寝しようとした時、外が急に騒がしくなった。
ベランダへ出てみると、シンタグマ広場がまるで暴走族の集会のようにけたたましいクラクションやエンジンの空ぶかし音であふれている。
ただ、二人乗りのバイクや乗用車だけでなく、タクシーまでクラクションを鳴らしている。
しかも、そのタクシーも広場の周りをただぐるぐる回っているだけ。
私はコンシェルジュに電話して何が起きているのか尋ねた。
すると…、
「実は・・・今夜サッカーの試合がありまして・・・、不利だと思われたギリシャが番狂わせでスウェーデンに勝ったのです。だから・・・皆お祝いをしているのです」
「えっ?」・・・絶句。
「それじゃあ仕方ないね」と言って電話を切ろうとした時、そのコンシェルジュがこう付け加えた。
「もし良ければあなたも一緒に祝ってあげてくれませんか」
人によっては不快に思うかもしれないこのひと言だが、存在が認められた気がした独り旅の私は何とも言えない嬉しい気持ちになった。
「このひと言が言えるサービスがなかなか存在しないんだよな」
私がつぶやくと、友人は「国民性の違いじゃない?」と言う。
「そうなのかなあ?」
だが、私は「TPO」をわきまえてこういったひと言を言えるか言えないかが「一流と超一流の違い」なのかもと思っている。
不安でいっぱいの学生を最大限のウェルカムで迎えて安心させたフロントクラーク。
無謀な若者のギブアップ宣言をウィットで恥をかかせなかったレストランのギャルソン。
孤独な一人旅の若者に余計なひと言で仲間に引き込んで気持ちよくさせたコンシェルジュ。
これらは、たったひとつのホテルでの1日だけの出来事である。
この出来事は、私のその後のキャリアにも大きな影響を与えた。
今、小さいながらも専門家の集団をまとめているのはこの日の出来事と無関係ではないと思っている。
実はこの後、私は3度「グランド・ブルターニュ」に滞在する機会に恵まれた。
貨幣価値が1/4になり物価が2倍以上になったときには、かつて素晴らしい観光立国の国民だと思っていたアテネの人々と同じように、このホテルも荒み切っていた。
オリンピックを控えユーロ景気に沸いたころは、このホテルもきれいに改装され、とんでもない値上がりとは裏腹に多くの人でにぎわっていた。
有名な「ギリシャ暴動」の1年前には、このホテルは大手ホテルチェーンの一員となり、マニュアル化されたグローバルスタンダードなホテルになっていた。
でも、初めて訪れた時に感じたこのホテルの素晴らしさを再び感じることは一度としてなかった。
「世界一のホテル」
その基準が何かということは人それぞれだと思うが、ここ「マンダリン・オリエンタル」は長きにわたってその座に君臨し、多くの人に数々の感動を与えるホテルだったのだろう。
彼も私もお世話になったうちのひとりかもしれない。
私たちは、いまそのホテルのバーで初めての異国での旧交を温めている。
私にとっては、このホテルは今でもとても居心地が良い。