26回
2018/07 訪問
ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae) と日本人のDNA
イタリア滞在中、毎日のように午前6時頃から娘の愛犬(九歳のラブラドール・レトリバー)を連れて早朝散歩に出ていました。夏でもハンドクリームやリップクリームを使わなければならないほど乾燥していますので、陽射しの強い中を1時間歩いても汗でシャツが濡れることはありません。日本の平坦なアスファルト道路を歩くのと異なり、石畳や轍の残る農道も歩いていたので足首が鍛えられました。
テキトーに生きている私にジェットラグは発生せず、日本に戻っても同じように夜明けの頃から約1時間の散歩を続けています。公園のエゴノキ(野茉莉) の白い花が薄緑色の実となり風に揺れて時の流れを教えてくれますが、熱帯のように蒸し暑い日本では、散歩でびっしょり濡れたスポーツ着を脱ぎ、朝風呂 & The Sipsmith / London Dry Gin + Fever-Tree / Tonic Waterを楽しみます。https://tabelog.com/imgview/original?id=r4140569988947
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CAの笑顔に見送られ、飛行機に接続されたボーディング・ブリッジに出た瞬間、日本の蒸し暑さを感じ、額に汗が滲みました。
『この湿度のある空気が、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)やカツオブシカビ(Aspergillus glaucus) を育てるのだ。』と妙に感心しながら入国審査、バゲッジクレイム(baggage claim)、通関審査を済ませる間にも『イタリアのポー川流域には、 Parma や San Daniele があり、ポー川からの湿気が発酵菌の成長を促し、おいしいプロシュットやクラテッロ、サラーメが作られているよなぁ。』と考え続けていました。https://tabelog.com/imgview/original?id=r8303586825387
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私はイタリア滞在中、日本食を食べたいとは全く思わないのですが、娘家族のために鰹節、昆布、醤油、味醂、zuccheroで蕎麦ツユを作り、「かけそば」や「かつ丼」を調理しました。https://tabelog.com/imgview/original?id=r6307888875092
「ノンノの作る料理は全部おいしい!」と日本人のDNAが半分流れている孫娘に ”ニホンコウジカビ ”を理解する味覚が備わってことを嬉しく思い、『この子は将来どんな料理を作るようになるのかなぁ。』と考えるのも楽しいです。
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イタリアでは、プロシュット、クラテッロ、サラーメ、フォルマッジョ、アチューゲ、ワインなどの発酵食品を好んで食べ、『これらとパンがあれば、ナンも要らない!』と満たされていた私が、日本に戻ると無性に食べたくなるのが、「かけそば」「鰻の蒲焼」と「日本酒」です。
日本人が縄文・弥生の頃からこの地に生息するニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)に親しんでいたと推測するのは容易いことです。現代の醸造は、人為的に添加された麹菌によって効率良く行われますが、「食べてみたらおいしかった発酵物」は自然発生的に生まれたものであり、世界中どこの民族も固有の麹菌にょって作られた食品を食べ続け、その味覚はDNAに刻まれたはずです。
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前置きが長くなりましたが、東京でも猛暑日となったこの日、「信川円」へ行ってきました。
いつもの「は」(一串半、4,880円 → 5,320円に値上がり) と「手作りこんにゃく」(320円) です。
この店で使われている最上級の「細口」は、鰻の香りが素晴らしいです。
私は、”鰻食い” を「まとめ」た「おいしい (うな重/鰻) が見つかった(東京編)」に書いていますが、
1、細口の鰻を使うこと(太口の鰻は見た目に豪華だが、おいしい鰻は稀。鯛や鯵も他の魚も同じ)
2、姥目樫の備長炭(白炭)で焼くこと(ガス、電熱器では芯まで焼けず、香りが出ないうちに焦げてしまう)
3、鰻の香りが無くなるまで蒸さないこと
4、甘過ぎるタレ(かえし)は田舎っぽく、鰻本来の甘みを生かすスッキリした江戸前のタレであること
5、ご飯の硬さは好みだが、炊き立てであること
6、客を「待たせる」「待たせない」は、経営者の心構えの差であり、意図的に待たせる店に良い鰻店はない
7、子母澤 寛の著書「味覚極楽」に出てくる言葉「下手味(ゲテミ)」を感じさせること
(気取ったキザな店は江戸前ではない)
8、食べたい時に食べることのできる店であること
(お大尽が食べるものではないので、何ヶ月も一年も先の予約しか受け付けない店は論外。鮨屋も同じ。)
これを全て満たす「信川円」は、自身の「日本人のDNA」を再確認することのできる店です。おいしい!!!!!
2018/07/15 更新
2018/01 訪問
今年、初めての外食は、うなぎの蒲焼だった。
今年初めての買い物(食料品)は、1月の第二週に入り、漁師が海に出て農家が野良仕事を始めて品が揃う木曜日(1/11)頃が良いのではないかと思います。
外食も同じです。
河豚や鮪、牛肉のように熟成させておいしくなるものは良いのですが、鮮度が大切な素材を使う料理を食べるのであれば、第三週以降に訪れるのが良いのではないでしょうか。その方が料理人も身体を休めることができます。
ということで、今年最初の外食は、活鰻を生簀で保管できる「うなぎの蒲焼」にしました。
ここ「新川円」では、今年入荷の鰻を食べることができます。
いつも通り、うな重 (は) (一串半) と 自家製こんにゃくです。
出来上がるまでの間、今日の仕事を息子さんに任せている親方と四方山話に花を咲かせ、途中からお内儀さんも加わり、冬の柔らかい日差しが入る店内に良い気が流れます。隅々まで清潔感のある静かな店内は、決して客に緊張感を抱かせるものではなく、優しさに溢れています。
それは、ちょっとした小道具や一輪挿しに生けられた花、本棚の雑誌類、柔らかい焼きの湯のみ茶碗、座布団の表地などから醸し出されています。
ここで使われる最高級の”細口”の鰻は、白炭(姥目樫の備長炭)で焼かれた品の良い香りと適度に蒸された上質の脂がタレによって昇華され、重の蓋を取った時から私を幸せにしてくれます。これに山椒を振ってしまったら勿体ないと思わせ、事実、食べ終わるまで一振りもしませんでした。
こちらのご飯は硬過ぎず柔らか過ぎず、そうかと言ってポロポロ箸から溢れてしまうほど纏まりのないものではありません。調理場で重箱にご飯を盛るのはお嫁さんの役目です。
一度この仕事を見る機会があり、具に観察すると、炊かれたご飯を杓文字で重箱に広げた後、長い菜箸で丁寧に隅々までふわっと均一になるように整えていました。思わず「このようにご飯が盛られているとは知りませんでした。」と声をかけると、傍に居たお内儀さんが、「そうなんですよ。うな重は蒲焼とご飯のバランスが大切ですから気を遣います。」「冬場になると重箱を少し温めてから盛るのですよ。」と教えてくれました。
やっぱり、鰻屋は大店より家族経営の小さな店の方がいいなぁ。
2018/01/18 更新
2017/10 訪問
独りでもゆっくり落ち着いて食べることのできる「心地良い鰻の名店」
この日、飛田給で用事を済ませ、『さて、昼食を何処で摂ろうかなぁ。』と思いを巡らせ、『そうだ 信川円、行こう。』
秋も深まり、鰻が一層おいしくなったはずですから確かめに行かなくてはなりません。
行かなくちゃ
君に逢いに行かなくちゃ
君の町に行かなくちゃ
雨に濡れ ♪ 思わず口ずさんでしまいました。
井上陽水の歌に「限りない欲望」があります。
あるものを手に入れたいという欲求は、それを手に入れるまで『欲しい、欲しい』と思っている時が一番楽しいのです。いざ手にしてみると最初のうちは良いのですが、些細な欠点が気になり始め、いつの間にか放ったらかしにしてしまうことがあります。
学生の頃、一緒にこの曲を聴いていた元カノ(現妻)は、子育てが上手でした。
新宿伊勢丹に自分の用事で出掛けた時、まず一緒に連れてきた息子のためにおもちゃ売り場へ向かい、好きなものを自由に選んでもらいます。
「ママ、これが欲しい。」
「あっそう、でもこのロボットは、この間、おじいちゃんが買ってくれた〇〇に似ているわよね。」
と言って買いません。
母親としては、早く自分の用事を済ませたいのですが、この遣り取りを1時間ぐらい繰り返し、最後に手ぶらで戻ってきた息子に「何か欲しいものはあったの?」と訊き、「ううん、何も要らない。」と言うまでじっと待ちました。一時の欲求とはそんなものです。お陰で息子は ”もの” を大切にする習慣が身に付き、今でも質実な生活をしています。
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夏が過ぎ 風あざみ
誰のあこがれにさまよう
青空に 残された 私の心は夏模様 (井上陽水「少年時代」)https://www.youtube.com/watch?v=s3PcMIcB10Q
夏のブラウス姿の女性に眩しさを感じていた私ですが、秋らしい装いと化粧をして颯爽と街を歩いている姿に女性の誇らしさを感じます。素敵です。
秋になると鰻が一層おいしくなります、というか、バラツキが小さくなります。
中でも良い鰻は、香り、味、脂の乗りが増し、蒲焼にすると頬っぺたが落ちそうです。
店の奥のテーブル脇にピンクの秋バラが一本挿してありました。この残酷なほどに儚い美しさを女性にたとえ、オードリ・ヘプバーンが良いのか、妻のようにホドホドに愛おしいのが良いのかボンヤリと考えていたら、自家製のこんにゃくが運ばれてきて、都合の良いことに推考は中断しました。「花より団子」です。いつもながらおいしい!!!
奥の調理場からパタパタと団扇を叩く音が聞こえてきます。
姥目樫から作る白炭(紀州備長炭)で、割いて蒸した鰻を焼いている音です。
「この炭は、お札を燃やしているようなものです。」とご主人。
一俵(四貫目、約15kgが18,000円)だそうです。生産も流通も少なくなり値上げの話が出てきているとのことです。おいしい食べ物を維持するのは大変なことです。
うな重「い」「ろ」「は」の「は」は、鰻一匹半です。
天然木塗りの重箱に入っているご飯の量と鰻の質は変わらないのですが、これを食べると満足します。「い」だったら香りを楽しんでいるうちに食べ終わってしまうのではないかと思います。
いつも通り、山椒は振らず蒲焼のおいしさを充分味わいながらいただきました。
秋になって一層、おいしい!!!!!
次回は、些細な欠点もあるけれど長い付き合いの、私の愛おしい妻を連れて二人で来よう。
お銚子が何本空くのかな。
2017/10/28 更新
2017/06 訪問
好物だった鰻の蒲焼きを食べ、父を偲ぶ
この日、父の四十三回目の命日にあたり、母と一緒に墓参りをしました。
多くの人々に慕われた父の好物は、鮨と鰻でした。
「おい、〇〇、ここの鰻は旨いぞ。」と、父に誘われ、二人で食べた最後の外食は、鰻の蒲焼きでした。
今でも、その時の情景を鮮明に覚えています。
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イタリアから戻って一週間、出汁の香りと酢飯の滑らかさを確認するように「神田まつや」と「弁天山美家古」で日本の味を食べました。残る日本の味は「鰻の蒲焼き」と「ラーメン」です。日本家屋で食べる懐石料理も良いのですが、京都まで行く余裕がなく、和製イタリアンや和製フレンチはあり得ません。
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母は、「い」(半串)、私は、「は」(一串半) 。
いつも変わらぬ香りと味。
重箱の蓋を取り、姥目樫の白炭で丁寧に焼かれた”細口の鰻”から立ち上る独特な香りが、日本に居ることを意識させます。
いつも通り、まずは右下の蒲焼きだけを箸で掬って口に運びました。美味しい!!!
少し辛めの”かえし”が白炭で燻蒸され、鰻の脂と混ざった香りが鼻腔を抜け、追いかけるように鰻そのものの甘みが口いっぱいに広がり、『あ〜ぁっ、日本人で良かったなぁ。』と思わせます。炊きたての富山県土遊野の棚田米コシヒカリは、この店の蒲焼きとの相性が良く、一体となり、心の込もった”うな重”に仕上がっています。
2017/07/02 更新
2017/03 訪問
二代目から三代目へ引き継がれる伝統の味
戦中派。そのバイタリティで日本の戦後を復興させ、経済発展を支えてきた大正から昭和初期生まれの現役料理人は稀です。1925年(大正十四年)生まれの小野二郎氏が最高齢だと思いますが、お二人の息子さんが二代目として跡を継がれ、客の誰もが、すきやばし次郎をどのように「革新」させるのか見守ることでしょう。多くの後継者は、先代が偉大であればあるほど批判されることになりますが、それを覆すだけの力量と反骨心と優しさを持っていることが大切です。運は努力によって引き込むものです。
ここ信川円では、十五年ぐらい前から二代目と三代目とが一緒に調理場に立っています。この間、二代目が目を光らせながら三代目に業を教えて来ましたので、今では大半の仕事を三代目に任せているようです。
この日、私のテーマである「鰻の蒲焼」探訪に間が空いてしまったことに気づき、自身の基礎となる味を確かめるため、引き戸を開けました。
「こんにちは、お久しぶりです。」
「いらっしゃいませ。みなさんお元気でいらっしゃいますか?」
「はい、母も達者です。」
「そうですか、それはよかった。先日、妹さんがご家族でいらっしゃいましたよ。」
「あっ、そうですか。あれは姉なんですよ。(笑 ) 」
こんな笑顔の会話で迎えられ、いつもの「は」(4,880円)を選び、「手作りこんにゃく」(320円)を頼みました。
(「い」2,155円、「ろ」3,330円 )
1年以上、間が空いてしまった理由を考えてみると、直近の二度とも三十年以上維持されてきた味に変化が感じられたことにあります。『あれ、少し醤油がきつくなったぞ。』
今回訪れ、その理由が分かりました。
「最近の気候変動は、甕に漬けているタレの味も変えてしまうんですよ。従来より寝かす年数を1年短くしました。」
「注ぎ足す基本のタレは毎年、今の時期にまとめて仕込むのですが、蒲焼にした時の塩からさが強くなっているので熟成期間を短くしました。」
これで納得です。
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熾した時、炎が上がらず、灰が少なく、鰻の芯まで火が通る備長炭は、材が密で硬い姥目樫の最高級品が使われていますが、一俵(4貫目、約15kg) の値段が、18,000円ぐらいするそうです。
ここの鰻は、鹿児島産と愛知産の細やかな味のする「細目」が、使われています。若い方に好まれる脂が強い「太目」は、重箱に盛られた時のインパクトはあるのですが、風味が負けると言われています。鰻も個体差があるので、これを見極め、蒸しと焼きの時間を微妙に調整することが、鰻職人の腕の見せ処であり、真骨頂でもあります。
三代目が、焼いて蒸してタレに漬けて焼いた蒲焼の写真をご覧ください。
二代目のものと比べるとほんの少し焼きが強いと思いましたが、食べてみると完璧な仕上がりでした。
蓋を開けて漂ってくる鰻の香り、香ばしいタレの匂い、口に含んだ時の滋味溢れる旨さ、最適な状態に炊かれたご飯、掛け過ぎていないタレの染み具合、完璧に近いと言えますが、強いて挙げるなら左側の腹身に串を抜いた時の崩れがほんの少し出たところぐらいです。美味しい!
「昔ながらの手の掛かる仕事をやりたがらない現代人」と言われますが、ここ信川円においては、きっちり伝統の技が伝承され、丁寧な仕事がされています。
あらためて、自分の「鰻の蒲焼」の原点がここにあったのだと再認識した次第です。
2017/03/07 更新
【ゾクゾク感が背筋から首筋に走り脳に到達するシリーズ Vol.3 】
おいしい!!!!!
つらつら考えて、自分の好きな食べ物は何なんだろうか。
和の出汁を引くのは日常茶飯のこと。フュメ・ド・ポワソン (fume de poisson) 、頑張ってフォン・ド・ヴォー (fond de veau) を引くのも楽しく、すしも握るし、天ぷらも揚げ、脆皮焼肉 (ツイ・ピー・シャオ・ロウ) は、おいしくできたものの 中華料理を得意としませんが、それ以外でしたら結構、本格的な料理を作ってしまう私です。
ところが、「内食」で正しく作ったことがないのが、”鰻の蒲焼” です。
殻牡蠣や帆立貝の蓋を開けるぐらいなら貝柱の抵抗を気にしなければ良いので問題ないのですが、活けの車海老に串を刺したり、殻を外す時はググッと掌に伝わる最期の意思を感じてしまうので得意ではありません。活け造りのヤリイカの表面が虹色に変化したり、真鯵の口がパクパクしているのもいろいろ想像してしまうので好みません。まして 氷で冬眠状態にすれば楽ですが、活けの鰻を背開きにするのは専門家にお願いした方が良いと思っています。
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暑い季節には避けていた”鰻の蒲焼” ですが、水温も低くなり餌食いが良くなってきた11月に入ると脂が乗ってきておいしくなります。真冬の頃の鰻の香りも良く好きなのですが、動きが緩慢になり、ほぼ冬眠状態に入り、皮が厚くなるので調理にひと工夫が必要です。
いつも通り一串半の「は」(5,320円) 。
こちらで使っている鰻は、「細口」です。巷では「太口」が好まれ、これをフワッ、トッロッ に焼き焦げを付けずに仕上げた蒲焼を「旨いうまい!」と言いながら一気に掻き込んで食べる人が多いです。「食」は "好みの問題" ですから ご当人が満足されれば誰も何も言えないということになりますが、秘伝のタレと称してMSG(Mono Sodium glutamate)の力を借りている鰻屋もあり、これは鰻本来の味のバラツキを調整するには便利な添加物となっています。(煎餅も同様)
「お待ちどうさま。」
盆に載った木生地の重箱、右側に置かれた同じく蓋付きの椀、右上の香の物。障子越しの柔らかい光がこれらを照らし、日本の美を感じます。
蓋を取り、まずは眼福。
気持ちいつもより配膳に時間のかかったこの日の鰻重は、特別 気合が入っているように見えました。既に仕事の大半を三代目に任せているこの店の焼き手は、店主の息子さんです。二代目に比べると若干当たり強めに仕上がっています。その差は3%増し程度の僅かな差なのですが、どちらもおいしいです。
いつも通り右下の蒲焼だけを横一文字に箸で切り分け、背身腹身一体 (丸めると寸胴型)を口に近付けると「細口」鰻の良い香りがします。覆い被さるように甕でニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)によって熟成された "かえし" の日本独特の香りが追いかけます。ここで一回目のゾクゾク感が、背筋から首筋に走り脳に到達しました。
蒲焼を口に含むと、「細口」鰻の決して厚くない身から滲み出る上質な脂が口中に広がり、舌の味蕾を覚醒し、ゆっくり咀嚼した後、嚥下すれば喉の上側にある味蕾が忽ちに反応し、二回目のゾクゾク感が、背筋から首筋に走り脳に到達しました。「ひつ粒で二度おいしいグリコ」ではありませんが、鰻の蒲焼の食べ方としては、掻き込まず "ゆっくり味わう" ことをお奨めいたします。
お嫁さんが菜箸を使って丁寧に盛り付ける炊きたてのご飯、塩加減の良い肝吸い、これらが渾然一体となって至福の時はゆっくりと流れていきました。
日本に居て自分の好きな食べ物は、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)によって熟成されたさまざまな食べ物であることを再認識した一日でありました。
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