3回
2025/11 訪問
レチュード(L’Étude)@三重県伊賀市──地方フレンチの最高到達点。伊賀くんだりにわざわざ来る理由として十分すぎる体験⸻
・桜エビのキッシュとアーモンドのサブレ・サレ
一口目から、レチュードの重力に引き込まれる。
桜エビの香ばしさが鼻腔を突き抜け、サクサクの生地が頬を撫でる。バターの香りは芳醇だが決して重くない。
サブレ・サレの塩気が余韻を引き締め、もうこれとクリュッグだけでいいんじゃないか?と思うほどの充実感。
「ここ、伊賀市ですよね?」と大事なゲストも何度も確認したくなるほどの上々のスタート。
・バターナッツかぼちゃのポタージュ
滑らかなポタージュの黄金色は、もはや“液体の絹”。
上には泡立てたムース、下には玉ねぎのクレームブリュレ、そしてコーヒーのジュレ。
ピスタチオオイルが全体に香りのベールをかける瞬間、「甘さ」と「苦味」が手を取り合う奇跡が起こる。
スプーンを入れるたびに層が変わり、味が変わり、心がほどけていく。
器もまた秀逸。まるで伊賀焼の深みに誘われるようだ。
・富士山サーモンの燻製と白鳳梨のヴィネグレット
富士山の清冽な湧水で育った鱒をスモークし、酸味の効いたソースと様々な野菜と合わせた逸品。
この素材をここまで繊細に調理できるのは、信頼関係と感性の賜物。燻製の香りは静かに立ち上がり、野菜の瑞々しさと白鳳梨の酸味が弾む。ラヴノーのブランショ2009を合わせると、静謐なミネラル感と酸味が引き立ち、震えんばかり。
・伊賀牛のタルタル 焼き茄子・フォワグラ・コンソメジュレ
この皿こそ、伊賀と山本シェフの真骨頂。
和の感性とフレンチの精密さが、見事に結ばれている。
軽く表面を炙った伊賀牛のタルタルは甘く、さらにフォワグラが舌の上でとろける。
焼き茄子の燻香が立ち上がると、まるで深夜の薪ストーブの前で飲むブルゴーニュ。
透明な伊賀牛コンソメんlジュレの中に閉じ込められた旨味の粒子が、時間を止める。
本領を発揮してヨーグルトのニュアンスをたたえ出したラヴノーとも旨みを最高に高めあうが、ここにメオカミュゼのクロ・ド・ヴージョ2018を注げば、味覚が完全に昇天。
・オオモンハタのポワレ アオサ海苔ソースとマコモダケのベニエ
皮目パリッ、中ふんわりの神業で火入れ。
アオサの香りが磯の詩を奏で、アワビの旨味も加わり、マコモダケのベニエが軽やかに踊る。
ブランショのミネラルと合わせると、海がワイングラスの中に広がる。
・小鳩のロースト 里芋のグラタンドフィノワ サルミソース
美しく官能的な皿。
小鳩の肉はロゼ色に輝き、サルミの深紅のソースが滴る。
銀杏やヘーゼルナッツ、里芋のグラタンドフィノワを添える。ナイフを入れると、肉汁が静かに溢れ、香りが立ち昇る。クロ・ド・ヴージョの黒果実が溶け合うと、タンニンがサルミソースと完全に溶け合い。まるで秋の森で恋をしているような錯覚。
・いちじくのキャラメリゼ カルダモンのクレームブリュレとほうじ茶アイス
焦がしの香ばしさ、カルダモンの異国感、ほうじ茶の余韻。
冷温・甘苦・香静の三位一体。
メレンゲの軽やかさが構造美を生み、フィグの果肉が官能を誘う。
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• Krug Vintage 1998:黄金の泡が、まるで時間の粒子のように立ち上る。熟成の深み、ヨーグルトの余韻、完璧。
• François Raveneau Chablis Grand Cru Blanchot 2009:静寂そのもの。ミネラルと酸味の緊張感からのヨーグルトへの昇華は感動。
• Méo-Camuzet Clos de Vougeot 2018:若いが完璧な風格のブルゴーニュグランクリュ。小鳩に寄り添うタンニン、後味の甘みは唯一無二のベストマッチだった可能性。
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東京でもパリでもない。
伊賀という「ど田舎くんだり」の中で、高次元のフレンチが体験できる。素材は地元、器は伊賀焼。だが、プレゼンテーションも味の構成も完全に世界基準。
シェフのセンスに訪問の度に感服しきり。
最低でも季節に一度は訪れるべき名店であると全ての人に勧めたい。
2025/12/21 更新
2018/06/10 更新
伊賀市にあるフレンチ Létude(レチュード) 。
この日のテーマは《Menu Truffe Blanche》。白トリュフとワインを楽しむ会。
コースの始まりは、ベーコンのキッシュ 椎茸 サブレ・サレ。香ばしさと旨味がきちんと整理され、白トリュフの存在を自然に受け入れる土台になっている。続くクロックムッシュ モンドール 伊賀牛では、チーズの厚みと伊賀牛の滋味が前に出すぎず、静かに重なる。ここでも白トリュフは“香りの層”として機能していた。
イシダイ エリンギ、白子のムニエルと魚料理が続く流れも穏当で、火入れは抑制的。素材の輪郭を崩さず、トリュフの香りがふわりと立ち上がる余白がきちんと残されている。
伊賀牛のコンソメは、この日の一つの要所。透明感のある味わいで、熟成ピークのセラファンのジュブレシャンベルタンVV2010が進む。
後半の白甘鯛、ピエ・ド・ムートンのグラティネでは、熱いグラタンによって白トリュフの芳香が立ち昇る。重さはあるが、余韻は軽い味も素晴らしい。
メインの天然真鴨も、力強さと端正さを兼ね備え、白トリュフの香りと並走していて、好ましい。
デザートの紅玉 バニラは、甘さを抑え、酸味を活かした静かな締め。
白トリュフを主役にし、それに寄り添った料理とワインで素晴らしい時間が過ごせた。
伊賀という土地で、このレベルのフレンチを成立させている点に、山本シェフの成熟を感じた。白トリュフの香りとともに記憶に残る一夜だった。