『成熟時代のキーワード=お客様を育てる』ジェームズオオクボさんの日記

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“未来ある飲食店のための勉強代行業”のジェームズオオクボの勉強録

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ジェームズオオクボ (男性・東京都) 認証済

日記詳細

 今日は人の感じるおいしさという価値観について書いてみたいと思います。
題して、「成熟時代のキーワード=お客様を育てる」です。

(1) お客様を育てる 美味しさという食文化を育てる
 美味しさには、本当の美味しさと利用シーンに応じた美味しさがあります。
 本当の美味しさは頂点の美味しさです。利用シーンの美味しさというのは、多くの人は常に完璧なおいしさは求めず、時間や費用、雰囲気やその人自身によって使い分けるものです。その場にあったおいしさが利用シーンのおいしさです。

 例えば、家電製品を例に見ましょう。オーディオの機器は、プロ用の頂点の商品はかなり高いレベルです。音も最高で臨場感も違います。
しかし、そこまでのレベルを、CDを聞く人が必ずしも必要であるわけではありません。様々な機能や性能が付いていたらそれはそれでいいですが、一般ユーザーは音楽を聴くくらいなのでほとんどの機能や性能使いません。そのために、対価にあって、ある程度市場性があるスペックに機能や性能を“削り”商品として投入します。消費者にとっても、必要な機能や性能に絞り込むほうが使いやすいです。

 食べ物も同様です。利用シーンの多くは完璧なものは求めていないので、その都度、必要なおいしさをお客様が選択をしているのです。前回、美味しさに関して文化の階段というお話をしました。美味しさには、まず満腹中枢を満たすという万人共通の土台があります。この土台があって、各場面で、必要な美味しさの要素をオプションとして選択します。
例えば、マスコミで取り上げている情報、見た目がわかりやすい何かがある、トロや鮑など誰もがわかるグルメ食材を使っていると、単なる“餌”も立派に見えます。

 この三つを上手に組み合わせているのが「俺のイタリアン」です。「俺のイタリアン」は三大珍味、大きなフォアグラを低価格でドーンと載せ、メディアの露出を高めている。
「美味さ」は多種多様でバリエーションがあります。育った環境や、食体験、旅行、社交で多様性を身に着けます。多様な価値観があれば、楽しみかたにもバリエーションがありますが、利用者自身に多様性がなければ、限られた“満腹中枢の刺激”という餌性で美味しさを感じるのです。
したがって、美味しさの設計時に、ターゲットする客層が利用シーンや利用タイミング、利用頻度や利用時間など、諸々の要素を考慮して、どのような美味しさを求めている人なのかをしっかりみきわめて、メニューに落とし込まないといけません。

 そして、長い付き合いの接触の中で提案して、おいしさの多様性を身に着けていただきます。これが、美味しさの教育です。
 実は、生涯顧客づくりの重要なポイントはこの美味しさの多様性を作ることです。餌という部分で食事をする人は美味しいと感じるストライクゾーンが非常に狭いです。
おいしさの多様性がないからです。

 しかし、いろいろな食事を体験していくことによって、美味しいと感じるものが多様化していけば楽しみも増えます。店は接触する機会の中で新しい価値観を提供するのです。
 例えば、アメリカに行くと美味しいものが出てこないとおっしゃる方がいます。
確かに日本で食生活していて日本で食べているものが、アメリカでは全く違いますから、自分の持っている価値観からしてみればアメリカの食事は美味しくないということになりますが、アメリカ人もそういう風に感じているかもしれませんね。
しかし、アメリカに50回も100回も行ったらどう感じるようになるでしょうか?私のように海外視察に100回も行きますと、「さすがにこれは合わない」というものがありますが、それはそれで楽しむことができるようになっていきます。これが、接触回数が増えて美味しさの多様性が身についていくからです。
 お客様の教育とは、多様なものを受け入れ、いろいろなものを楽しめるようにすることです。狭い生活をしているのはつまらないですよね。そういう潤いにつながっていくことを提供するのです。

(2)餌マーケット拡大のわけ
 今、日本で餌マーケットが広がっているわけを考察してみましょう。
①可処分所得の減少
 ひとつは可処分所得の減少が大きいと思われます。所得の減少でお金を使いにくい環境になってきてしまっています。だから冒険してまで、いいお店に行ってみようという部分が弱くなっています。冒険するといのは多様性を身に着けるうえで非常に重要です。
しかし、選択肢があまりなかった時代と異なり今の時代は、ほどほどの金を出せば、ほどほどの店はたくさんありますから、便利すぎて、あえてそういうお店に行く必要性を感じなくなるのです。

②便利になりすぎて時間がない
 携帯電話やスマホの普及で便利になりすぎてしまい、かえって、時間に余裕がない、そのため食事時間が取れないことがあるでしょう。
例えば、携帯電話が普及するのはいいことですが、昔は電話を受けるために事務所にいたりしなくてはいけないことなどがありましたが、今は外にみんなが出てしまうようになりました。
極論事務所に誰かスタッフがいて、受付の人が必要だったのが、今は受付のスタッフを雇わないで携帯電話やEメールでやり取りしたり出来ます。便利になるとどうなるかというと、時間がなくなります。時間がなくなりますと、時間を有効に使用したいという事を考えた時に、大切な人と食事には長時間食事時間を割きますが、そうではないときは、タイミングよく食事をしようと思います。タイミングよく食事をしようとすると短時間で食事をすることになります。例えば30分しか食事時間がないと、普通の定食屋に行ったら30分で食べられるだろうかと考えてしまいますので、そうすると確実に30分で食べられる牛丼屋などのファーストフードなどに行ってしまいます。
つまり、便利になると、非常に効率を追求して生活をしていくようになります。効率を追求していくと、効率の中の一コマとして物事を当てはめようとするので、結果、餌を求めるのです。

(3) 餌マーケット拡大に余波
 このような餌性の高い食事は、基本的に満腹中枢への刺激です。満腹中枢への刺激というのは非常に研究されており、お客様に短時間で胃袋をボコっと膨らませて、塩分をパンっと取らせて、糖分をパッととってもらって、満腹中枢を刺激して、血圧上昇、心臓バクバク、お腹いっぱいというのを効率よくできるようになっています。それが、お客様の満腹中枢をかなりの強さで刺激して、美味しさとなって伝わります。この繰り返しで、餌性の刺激への快楽が習慣化し、慣れ、自然に受け入れます。もはや、「大変満足だ」というところまでに行き着かなくとも、「これはこれでOK」という話になってしまいます。

 そういう日常マーケットを狙う外食業界の流れが、日本の生活習慣が食事をどんどん変えてしまっています。マーケット志向で満腹中枢を満たす外食が増えると、スタッフもレベルが低下していきます。すでに述べました食の多様性を教育できるスタッフが現場には不在となります。
「最近の若者は食生活がなっとらん!」と国も食育を推進しておりますが、世の中の生活習慣がそうなってしまっているわけですから、止められません。
餌マーケットについて理解した上で、人間としての成長の過程で食文化の多様性を体得していくという、食の性質をこの人たちは理解しないといけません。その人たちが目指す本当の食事はその階段の上の部分なのです。食育を主張する人と食育されるべき人の間で、生活環境にズレがあり、食育などといきなり言われても、受け手には的外れである場合が多く、うまくいきません。

 そういうギャップを埋めることが店に求められる要素なのですが、そういうことがわかっていて教育できるスタッフというのは日本では恐らくほとんどいないわけです。
したがって、スタッフに食の性質について教育をし、理解したうえで、お客様にいろいろなことをお伝えできる機会を設けるべきです。しかし、現状としてはアルバイト・パートさん主体のぎりぎり経営をしている場合が多いですので、難しいでしょう。
しかし、これからビジネス環境は変わってくると思いますので、皆さんその方向性を考えたほうがよいでしょう。

 これからのお店のありかたのひとつとして、現状、餌マーケットがベースにあるお客様に時間をかけて、長いつきあいの信頼関係の中で生涯顧客としてのお付き合いの中で多くのオプションを提示していくことが大切です。
お客様は提示されたオプションに対して、「それはいいね!」「私も賛成よ」と共感が生まれ、そんな中から価値観の多様性が生まれます。
 多様な価値観が生まれれば、今までは生活習慣のように餌マーケットで食べていた人たちも、「まぁ毎日こんな食事をするよりも一回ぐらいはいいかな」というように、消費のスタイルが変わってくるでしょう。そのような教育を担える店がお客様を育てる、美味しさという価値観を育てる店です。これは重要なキーワードとなるでしょう。

(大久保一彦ファンクラブ2012年6月会報より)
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