3回
2025/10 訪問
東岩槻の住宅街にひっそりと佇む「オランダ軒」。
初めて訪れたときの衝撃はいまでも忘れられない。丼の前に立った瞬間に感じたのは、生姜の香りがふわりと立ち上がるあの独特の湯気。そしてレンゲを口に運ぶと、まるで醤油と出汁の旨みが波のように広がってくる。しょっぱさではなく、包み込むような丸みのある味。食べ進めるほどに身体の芯が温まり、スープの一滴まで飲み干したくなるほどの完成度。「ここが日本一の醤油ラーメンだ」——そう感じた瞬間だった。
それからというもの、東岩槻という決して便利とは言えない場所にもかかわらず、どうしても足が向いてしまう。電車を乗り継ぎ、店に着くとすでに長い行列。平日でも一時間は待つのが当たり前だ。それでも、店の前に立っただけで生姜醤油の香りがかすかに風に乗って届き、その瞬間に「今日も食べられるんだ」と思うと自然と気持ちが高まる。二度訪れたが、どちらも満席。丼を前にしたときのあの高揚感、レンゲを入れた瞬間に広がる香り、全てが記憶に刻まれている。
そして今回、あの味を自宅で再現できる「宅麺」で注文してみた。正直なところ、最初は半信半疑だった。あの店の熱気、湯気、音、そして空気の密度までは再現できないだろうと思っていた。しかしいざ届いて、湯煎を終えてスープを丼に注いだ瞬間、その考えは一瞬で変わった。立ち上がる香りがまさにオランダ軒のそれ。生姜の清涼感がふわっと広がり、醤油の甘みがすぐに追いかけてくる。香りだけで、もう満足してしまいそうになる。
実際に口に運んでみると、スープのキレはやや穏やかになっているものの、味の方向性は完全にあのまま。生姜の辛みが穏やかになった分、醤油のコクがより際立ち、家庭で食べるにはむしろちょうど良いバランスになっている。出汁の厚みと醤油の甘みが共存し、体にすっと馴染むようなやさしさがある。それでいて、きちんと芯が通っている。スープをひと口、またひと口と重ねるたびに、記憶の中の東岩槻が蘇る。
麺は中太ストレート。つるっとした喉ごしとしっかりした弾力があり、スープとの相性が抜群だ。口に含んだ瞬間に小麦の香りが広がり、飲み込むたびにスープの旨みを引き連れていく。レンゲでスープをすくっては麺をすすり、そしてまたスープを飲む——その繰り返しのリズムが心地よい。
チャーシューも見事だった。冷凍とは思えない柔らかさで、脂の部分はとろりと溶け、赤身はしっかりとした旨味を残す。スープに沈めて少し温めると、さらに風味が増して、口の中でとろけるよう。お店で食べた時とほとんど変わらない完成度に驚かされる。
この一杯を家で食べながら、ふと笑ってしまった。
「なんでこんなに遠くの店の味を、家で再現できるんだろう」と。立地が微妙でなかなか行けないけれど、こうして家で食べられるなら、それだけで幸せだ。生姜の香りが部屋に満ち、食べ終わる頃には体も心もぽかぽかになる。食後の余韻も変わらない。まるで現地で食べたかのような満足感に包まれる。
何よりこのラーメンには、「特別な派手さ」はないのに、心に残る深さがある。キレでも、濃厚さでもなく、“調和”で勝負している。それができる店は本当に少ない。結局のところ、また食べたくなるのはこういう一杯なんだと思う。
オランダ軒は、やはり自分の中で日本一の醤油ラーメンだ。店で食べても、宅麺で食べても、その本質は変わらない。いつかまた現地で、あの生姜の香りに包まれながら、静かにレンゲをすくう日を楽しみにしている。
2025/10/19 更新
2023/11/04 更新
宅麺で「オランダ軒」のしょうゆラーメン(◎)を注文。結論から言うと、この店の醤油は自分の中で“基準”として残り続ける存在。食べ始めた瞬間に、その評価が揺るがないことまで確定する一杯。
レンゲを入れた瞬間、まず立ち上がるのは醤油の強さ。ガツンと効いた輪郭が一発で決まり、味の方向性が最初から最後までブレない構造。濃いとかしょっぱいという単純な話ではなく、醤油の芯がまっすぐ通っている感覚。輪郭が立つのに、雑味が出ない説得力。
そして、この強さを“強さのまま終わらせない”のが生姜。醤油の押しが前に出たところで、ふわっと香りが差し込み、後味をすっと整える役割。香りで飾るのではなく、醤油の圧を締め直す効かせ方。飲むほどに口が重くならず、むしろレンゲが進む設計。
麺は中細〜中太のちぢれ麺で、ここが噛み合った瞬間の一体感が大きい。つるっとした口当たりの中に凹凸があり、スープを“ちゃんと掴む”仕様。すすった瞬間に醤油の旨味がまとわりつき、麺が味を運んでくる。ストレート麺の軽さでは出せない、濃口醤油との噛み合わせ。麺とスープが同時に完成する感覚。
具材も抜かりがない。チャーシューは脂で派手に押すタイプではなく、しっとりと肉の旨味を残す設計で、醤油の主役感を邪魔しない立ち位置。細部が整っているからこそ、主役の完成度が一段強く見える構造。
宅麺でこれだけ伝わる時点で、店の凄さが逆に浮き彫りになる。湯気の香り、スープの立ち方、麺の茹で上がりの瞬間――その場の空気まで含めて完成するタイプの醤油であることが、手元の一杯からでも透けて見える。だからこそ、久しぶりに店舗で食べたくなる引力が残る余韻。
醤油ラーメンは誤魔化しが効かないジャンル。そのど真ん中で、強さと繊細さを両立させ、食後に「やっぱりここだな」と腹落ちさせる一杯。自分の中で一番と言い切れる理由が、食べ終わったあとにも残り続ける存在。次は岩槻の店舗で、この完成度を改めて味わいたい。