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この口コミは、あのミシュラン星付き店、あの赤提灯屋に弟子入りしなさいさんが訪問した当時の主観的なご意見・ご感想です。
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1回
夜の点数:4.2
2025/03 訪問
夜の点数:4.2
素材の水分と温度の最適解
2025/04/03 更新
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偶然にも予約が取れた平日の18時半、静かな住宅街に佇む「美かさ」を訪ねた。玄関をくぐるも、店内の動きが一段落していたのか、数分間は誰にも気づかれずに待機することとなった。接遇面においてはやや温度差を感じたものの、店内に一歩足を踏み入れれば、凛とした空気と整えられたカウンターが広がる。ただ、天井の低さゆえか、たまたま居合わせた三人組の談笑が響き、静謐な空間を求める者にとっては少々気になるところであった。
料理はまぐろの造りから始まる。わずかに水分を含むが、酸味のバランスが良く、口の内をやわらかく起こしてくれる。天つゆには大根おろしがたっぷりと添えられ、これは途中の口直しとしても重宝する。
最初に供されるのは、八寸のような位置づけの一品。むかご、酒粕といった酒呑みに嬉しい素材が揚げられ、その香りと旨みには思わず言葉を失う。ここで供される海老の足が二匹分——この日の海老が二尾であることを、何気ない構成から察する。
主役ともいえる海老は、衣がごく薄く、まるで温度と水分の調整のみに使われているかのよう。中は絶妙なレア加減で、火入れの妙が生む甘みには、訪店の甲斐があったと実感させられる。続いて供される菜の花は、口に残る渋みと春の香りが重なり、歳月の積み重ねを感じさせる。白魚は繊細な味わいを塩で引き出し、蕗味噌餅は苦みのアクセントが利いた一品。いずれも酒との相性がよく、杯を進める喜びがある。
惜しむらくは二品。子持ち昆布は食材の性質上、高温短時間の揚げが求められるが、衣がやや生っぽく、技術的な難しさを垣間見た。また、雲丹の天麩羅は苦味が際立ち、食材そのものの質による部分も大きいだろう。
それでも、全体としては極めて完成度の高く、技術と経験に基づかれた最適解の天麩羅、店主の趣が感じられる。都心から少し離れた場所に位置するが、わざわざ足を延ばす価値がある一軒である。
ぜひ、また訪れるべき名店と言える。