ひろえBANANAさんが投稿したTSUSHIMI（山梨/韮崎）の口コミ詳細

◎データ
ジャンル：イノベーティブ
アワード：ゴエミヨ3トック(2024他)、Tabelog Award Silver(2024)、フレンチ百名店(2023)
最寄り：韮崎駅からタクシー

◎雑記
・渋谷の予約困難店として知られた「TSU・SHI・MI」が山梨県へと移転し、一日一組のスタイルはそのままにローカルガストロノミーへと変貌を遂げたイノベーティブ。都志見シェフは10年を一区切りとして毎回営業スタイルや店舗を変えており、料理人人生の集大成と位置付けているのが同店です。

・コースは野菜を主軸としつつ、ベジタリアンではなく肉や魚を引き立て役として用いるという独特のスタイルをとっています。全体のごく一部の種が食べられている肉や魚と異なり、豊富な種類を日常的に食べている野菜にフォーカスし、その個性を調理技術で何倍も引き出すというシェフの着眼点が素晴らしく、頂くとその多彩な味わいに驚かされます。これこそイノベーティブと言える先鋭的で未知の味であり、食べると視野が広がるような料理の数々は強く記憶に残りました。

・ペアリングは自動でセットになっており、国産ワインで構成されたアルコールか自家製ジュースを中心としたノンアルコールから選択可能です。今回ノンアルコールを選択しましたが、いずれのドリンクも完成度が高く、料理にしっかりと寄り添います。既製品のセットを飲むだけというCPの悪さからアルコールペアリングを消極的にチョイスすることも多いですが、同店はノンアルペアリングの評判が良かったことから注文したところ、期待をはるかに超える内容であり、全体の満足度がさらに高まりました。

・食事の時間は5時間弱、食事中に休憩が挟まるなど異例とも言える長期戦でしたが、個人的には非常に良いバランスだと感じました。高級店での食事は味わう時間が必要であり、会話を楽しむ時間がおろそかになってしまうことも多いため、腰を据えてゆっくりと楽しむことが出来るこの空間はむしろ贅沢であると捉えました。一日一組であるためプライベートな話もしやすく、気を使わない相手との食事空間としては最高だと思います。

・自家菜園を始めベストな状態で揃えられた食材や料理の技術に加え、完璧なペアリングや行き届いたサービス、一日一組という非日常感など全ての要素が極めて高次元でまとまっており、終始感動が続く食体験でした。予約が非常に難しい点を除いても都内在住の場合は一日がかりの食事となりハードルは高いですが、間違いなく感動する一日になると思います。


◎料理詳細
特に美味しかったものは☆を記載。

⓪ウェルカムドリンク
トマトベリーとオリーブオイルのドリンク。清涼感があり、ウエルカムスペースで飲むとリラックス効果があるように感じます。

①”森のアロマ”（山梨　韮崎）
白州の水と13種の植物で取ったドリンク。ジュースや出汁とも違う深みある味わいは「アロマ」と呼ぶに相応しく、底知れない野菜のポテンシャルを感じます。

❶自家製レモングラスと信玄ショウガのカクテル

②新大蒜・あやめ蕪・じゅんさい・原木椎茸　…☆☆
1.あやめ蕪の擦り流し　フグの白子、麹とオリーブオイル、茎と葉
2.タルト　山梨の馬肉タルタルと若どりにんにく
3.じゅんさい　甘エビとそのオイル、生わさび
4.自家菜園しいたけ　スライスしてドライに、発酵黒ニンニクのペースト
四種からなる前菜盛り合わせ。敷地に生えていた大きな木を伐り出したという皿が美しく、気分を高揚させます。小さな品に技巧を凝らすというグランメゾンらしさも感じつつ、酸味や香味などを巧みに取り入れ多彩な味わいで華やかに仕上げています。

➋大滝蕪　酢漬けのジュース

③グリーンアスパラ（長野　蓼科）　…☆
おか上げしたアスパラに西洋ヨモギを入れたベアルネーズソースをかけ、山梨もちぶたの生ハムと共にスモークに閉じ込めて提供される一品。アスパラの青みある味をベアルネーズソースが引き立て、瑞々しい食感がフレッシュチーズのように生ハムと絡みます。シンプルながら鮮烈に心に残る一品です。

④高原レタス（長野　原村）　…☆
日本でも有数の高地である原村（はらむら）の高原レタスを主役とし、レタスに昆布水を浸透させたものをソースとし、間には生ウニを挟み「ウニレタス」仕立てにした一品。仕上げに「たここ」（タコの卵巣を干したもの）をかけて完成という独創性の高い品ですが、レタスとウニの食感のコントラストや味の調和、「たここ」の塩気の塩梅など方向性が綺麗にまとまっており、古くから確立された一つのレシピと言っても信じてしまいそうな完成度でした。

⑤ヤングコーン（山梨　甲斐）　…☆☆☆
地元山梨産のヤングコーンの一品。トウモロコシのポレンタで巻いて焼き上げ、甲州和牛の炙りと合わせて頂きます。コーンの風味を同じトウモロコシで作ったポレンタが補強し、ヒゲごと頂くことでトウモロコシが持つ味を余すことなく頂くような感覚を覚えます。また、ある意味主役以上に驚かされたのは和牛の炙りで、年間数頭のみの出荷という甲州和牛をチョイスしているだけありそのまま頂いても非常に強い旨味を感じるのですが、コーンと共に頂くと牛肉の旨味や塩気の主張が絶妙に隠れ、コーンの味を彩る脇役へと変身します。同店のコンセプトを最も強く感じたのがこの一品であり、シェフが感じた可能性に共鳴するかのような料理でした。

❸ハーブティー　ビオラ

⑥ビーツ（山梨　小渕沢）　…☆山梨のビーツを石焼きにし、ビーツと共に猪の肉を煮込んだものと合わせてボルシチ風にした一品。石焼による遠赤外線効果によるものか、ビーツの持つ土の味のようなえぐみが綺麗に取れており、まるでさつまいものような優しい味に仕上がっています。猪もジビエらしい癖は抑えつつも旨味はしっかりと閉じ込められており、自家製のネギマスタードが良いアクセントとして全体を締めています。

⑦ルッコラセルバチコ（山梨　韮崎）　…☆☆☆
自家菜園のルッコラとセルバチコ、エディブルフラワーなどで彩られた野菜類を自家製ベーコンと卵黄で石焼にし、三良坂フロマージュの「花かご」というチーズとその場で挽く胡椒をかけて「カルボナーラ」に仕上げた一品。目の前でシェフが仕上げていき、最後に自分で混ぜ合わせて頂くというライブ感にワクワクします。野菜を石焼にするというありそうでない調理に半ば半信半疑で口にしますが、卵・チーズ・胡椒が過不足なく野菜たちをドレッシングし、ルッコラとセルバチコの苦味や辛味にかっちりと噛み合い脅かされます。チーズの風味が素晴らしかったため調べたところ広島のチーズ工房が作る貴重なハードチーズとのことで、シェフの審美眼に敬服する一品でした。

❹甲州ワイン　デアルコール、セリ、甘夏

⑧Noen2（山梨　他）　…☆☆
80～90種類の野菜を7～8通りの手法で調理し一つずつ盛り付けたスペシャリテ。ミニチュアサイズに盛り付けられた野菜は一品一品すべて違う品種であり、準備には数時間を要するという狂気すら感じる一品です。すべて適切な調理が施されているためか、美味しさは勿論のこと野菜を食べ続けても全く飽きないという驚きの一品であり、野菜の持つポテンシャルを限界まで引き出した一皿だと言えます。

❺あけの町麦茶とコーヒー

⑨蕨（山梨　甲斐）
蕨を発酵レモンとオリーブオイルで蒸し焼きにし、手打ちそばと合わせた一品。蕎麦は玄蕎麦とゆめかおりで打った二八蕎麦で、ホロホロ鳥のガラ・塩・湧き水で取った出汁をつゆ代わりに頂きます。蕨の苦味は嫌に感じない程度に残しつつ、鶏白湯のように澄みつつも力強い出汁と良くマッチしています。蕎麦仕立てにしているため、Noen2でゆっくりになった食事のリズムを良い感じに弾ませる一皿です。

⑩花人参（山梨　韮崎）　…☆☆
花を食べる専用に自家菜園で育てた人参の花を主役に据えた一品。シェアウッドのスパイスを使ってカレー風味のフリットに仕上げ、下部には薪焼きにした人参と地蛤の出汁のピューレと蛤の身を忍ばせています。ピューレにした人参は甘味が凝縮されており、蛤が一層風味を引き立てています。一方で人参のフリットはクリスピーかつスパイシーに仕上がっており、スナックのように軽い感触です。全く違う印象を受ける二つの層ですが、元が一つの食材のためか不思議と調和が取れており驚かされました。

❻白いちごとシャルドネ

⑪Breadと山胡桃（山梨　韮崎）　…☆
焼きたての自家製パンを、料理の付け合わせではなく食事として頂く一品。食事用というだけあり、餅米を混ぜ込んだモチモチのパンを作り、甘酒やバターでフレンチトーストのように仕上げたリッチなパンです。胡桃の持つどこか素朴な風味も感じる不思議な一品で、通常のパンではあり得ない密度や深みがあります。グランメゾンでもパンは食事の合間やソースを拭う用途に過ぎないことが多いため、パンを印象に残すという面白い試みであったと思います。　

⑫スナップえんどう（山梨　白州）
えんどうとキンキの一皿。キンキは皮目を薪焼きにし、キンキの頭と湧き水、レモン汁で作ったソースをかけてクラタペッパーと焦がし香味野菜のオイルで仕上げています。ベースのキンキを澄んだ味にすることで香味の輪郭が浮き彫りになり映えている印象です。プチプチとしたえんどうの食感も良いアクセントです。

❼カベルネソーヴィニオン　フェンネル　コリアンダー、ジュニパーベリー

⑬淡竹（山梨　甲斐）　…☆
メインは七谷鴨とタケノコを熾火で長時間焼いた一皿です。長時間優しい火入れを施すことにより鴨肉はしっとりと水分を含んだまま焼き上げられ、タケノコは旨味を失うことなくえぐみが綺麗に取れている印象です。薬味代わりには発酵黒豆味噌の焼き味噌、ソースは鴨ガラのジュースとなっていますが、これらを合わせて頂くと正に三位一体と言えるような噛み合い方で感動を覚えます。ワインをデアルコールした後にスパイスを加えたドリンクとの相性も抜群であり、メインらしい重厚な味わいを楽しめました。

⑭紅秀峰（山梨　穂坂）
贈答用にも使われる品種である、紅秀峰を使ったアヴァンデセール。スパイスとバニラで作ったハーブティーでコンポートしたサクランボや生のサクランボを並べ、サクランボのリキュールシロップをかけています。スプーンに添えられているのは桜の花の塩漬け、下部にはスイスリコラのクリームが入っており、小さなグラススイーツながら手の込んだ一品です。自家製ハーブであるスイスリコラをゲストが自分で千切って仕上げる仕様や、スプーンがミルクチョコ製で食べられるなど遊び心のような仕掛けも非常に好みでした。

❽焼酎「川越」のデアルコール

⑮熟成シルクスイート（山梨　韮崎）　…☆☆
さつまいもを薪焼きにしたあと落ち葉と共に壺に入れて香りをつけ、それを絞って客席の目の前でケーキに仕立てるという贅沢さ、ライブ感の二面において素晴らしい一品。焼酎のクレームシャンティ、フロマージュブランのアイス、松の実のクランブル、紫芋とホワイトチョコで作った板チョコを散りばめて仕上げています。いい意味でサツマイモとは思えないほどの滑らかなクリームに仕立ててあり、サツマイモが火入れのみで極上のスイーツへと変身しています。フロマージュブランの酸味や焼酎のニュアンスなど周囲のパーツもサツマイモとばっちり合い、過不足なく彩っています。

❾コーヒー・紅茶

⑯お茶菓子
1.ブーニュ（リヨンの伝統菓子）とルバーブ乗せ
2.ガトーショコラロワイヤル　ヴァローナのカライブで作ったチョコに4種のベリー
3.信玄餅のバニラキャンディー　黒豆きなこ
4.アイスプラント　パートドフリュイと生のもの
5.マシュマロ
ラストを飾るのは5種類のミニャルディーズ。一口サイズではあるものの、1つ1つ丁寧に作られているのが伝わるような品々です。5時間に渡る超ロングコースを思い返しながら最後まで楽しい食事を楽しめました。

◎滞在時間
約5時間


◎料金
¥100,000/2人
(コース¥50,000×2)