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夜の点数:3.7
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¥1,000~¥1,999 / 1人
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料理・味 3.7
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|サービス 3.2
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|雰囲気 3.3
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|CP 3.3
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|酒・ドリンク 3.0
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[ 料理・味3.7
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| サービス3.2
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| 雰囲気3.3
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| CP3.3
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| 酒・ドリンク3.0 ]
静寂の街角で出会う、調和と衝撃の一杯
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2025/09/11 更新
平日の夜。仕事終わりに後輩と二人、会社からの帰路をあえて遠回りし、心に決めていた「今夜は美味いラーメンを」と小さな探検へと歩みを進めた。人通りが絶えた閑静な住宅街。いや、閑静というより、むしろ「閑散」と言った方が正しいほどに静まり返った一角である。街灯に照らされた細道を抜けるたび、「本当にこんな場所に店などあるのか」と不安が胸をよぎる。だが、その不安は店先に伸びる行列によって一瞬で払拭された。ざっと十数人、寒気に身を寄せながらも確信に満ちた顔で待ち続ける人々。その姿は「ここはただ者ではない」と雄弁に語っていた。
およそ三十分。空腹感は限界を超え、もはや身体がラーメンを欲する器そのものとなった頃、ようやく暖簾をくぐることができた。注文は迷わず、後輩が塩、私は醤油。静かな店内に漂う湯気と香りが、これから訪れる至福の時間を約束してくれる。
着丼。まずはレンゲでひと口。言葉にならない。突出した個性で攻め立てるのではなく、利尻昆布や貝柱をはじめとした滋味が寄り添い、調和し、互いを引き立て合う。まるでオーケストラのように、一つひとつの音色が交じり合い、やがて大きなうねりを生み出す。スープとはかくあるべし、と静かに胸を打つ味わいだ。
麺は手打ちの力強さを宿し、すする度に小麦の香りと確かな弾力が舌を喜ばせる。スープを纏ったその姿は、ただの麺ではなく、この一杯を構成する大切な楽器である。メンマは控えめでいながらも心地よい歯切れを奏で、海苔は香りの余韻を残す。そして、圧巻はチャーシュー。ひと噛みで、肉の旨味と脂の甘みが溶け出し、燻るような香ばしさが鼻を抜ける。これはもはや「脇役」ではない。主役の座を奪い、堂々と丼の中心に君臨する存在感。私は思わず「これは化け物だ」と心の中で呟いた。
さらに驚かされたのは、サイドの卵かけご飯。濃厚な黄身が白米を包み込み、舌に絡みつく。ラーメンと交互に口へ運ぶことで、背徳的とも言える幸福感に浸ることができた。また、店が添える特製のお酢――利尻昆布と貝柱から生まれた一滴は、丼に新たな表情を与え、最後の最後まで飽きさせない。まるで劇の第二幕が突如開けたような鮮烈な変化だった。
気づけば、丼は空になっていた。スープを完飲するなど久しくなかったが、この夜は迷うことなく飲み干していた。外の冷気に触れたとき、心身に宿った満足感が再び全身を温める。久しぶりに出会った、「心の底から美味しい」と言える一杯。並んだ時間すら報われる、いや、その時間さえも含めて価値ある体験だった。
この街角に潜む小さな名店は、ただラーメンを提供するだけではない。訪れる者の心に「再び来たい」と静かに刻み込む魔力を持っている。次はぜひ、自ら塩を味わい、その奥行きを確かめたいと思う。