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夜の点数:3.6
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¥1,000~¥1,999 / 1人
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料理・味 3.6
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|サービス 3.3
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|雰囲気 3.2
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|CP 3.2
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|酒・ドリンク 3.0
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[ 料理・味3.6
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| サービス3.3
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| 雰囲気3.2
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| CP3.2
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| 酒・ドリンク3.0 ]
両国の夜に出会った、脳裏に刻まれる一枚のロースカツ
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2025/09/11 更新
まず最初に言う。私の投稿した写真では私自身美味しそうに感じないので、読者には本当か?と疑念を抱かせる覚悟で書いている。
平日の夜、ふとした思いつきで両国まで歩いてみることにした。都心の喧騒から少し距離を置き、夜風に吹かれながら歩く時間は、妙に心を解きほぐしてくれる。せっかくだから美味しいものをと、食べログを開きながら現在地に近い店を探す。導かれるようにしてたどり着いたのは、とんかつの名店と囁かれる一軒であった。
扉を開けると、いくつかの人気メニューはすでに売り切れ。それでも、ロースカツ(1,980円)がまだ残っていると聞き、迷いなくそれを選んだ。王道でありながら、その店の力量が最も顕れる皿。初めて訪れる店では、まず基本を味わうべきだという自分なりの習慣に従った。
小鉢が運ばれ、静かな期待の高まりのなかで、いよいよ主役の登場。黄金色に輝く衣は、光を柔らかに反射し、油の重さを一切感じさせない。箸でそっと持ち上げると、衣の軽やかさが伝わってくる。端のひと切れを口に含んだ瞬間――脳裏に稲妻が走った。衝撃的な柔らかさ、そして肉そのものの甘やかな旨味。これはただの美味ではない。「記憶に刻まれる体験」である。これほどの衝撃を最初の一口で覚えたのは、人生でも数えるほどしかない。
味わい方は塩、わさび、からし。それぞれが主張しすぎず、むしろ肉の個性を際立たせる脇役として寄り添う。塩は甘みを引き出し、わさびは脂を洗い流すように爽やかな風を運び、からしは香りの奥行きを加える。どの組み合わせも完成度が高く、不思議とソースに頼る気持ちが一度も芽生えなかった。
付け添えのキャベツは一見平凡。しかしそこにかかる自家製ドレッシングは驚くほどの存在感を放ち、酸味と旨味が絶妙に重なり合う。正直、これだけを瓶詰めにして持ち帰りたいと強く思ったほど。メインの圧倒的な力に寄り添いながら、食事全体を引き締める陰の立役者である。
ひと口ごとに、静かに自分の心が満たされていく。ふと、「この店は友人と語らいながら訪れるよりも、一人で食に真正面から向き合うための場所ではないか」と思った。料理と自分だけの対話。余計な雑音を排し、ただ美味という真実に没頭する時間。それこそが、この一皿を最大限に輝かせる方法なのだろう。
食後、会計を済ませた際に手渡された名刺には、東銀座にも支店があると記されていた。もしあの味が同じように再現されているのなら、今度は日常の延長としてふらりと立ち寄りたい。両国の夜に出会った感動を、日常のひとときに重ねられるなら、それほど贅沢なことはない。
とんかつは単なる食事で終わることが多い。しかし、この一枚は違った。ひと口が、ひとつの記憶となる。静かな夜道を歩いてでも、いや、わざわざ足を運んででも食べるべき一皿がここにある。