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夜の点数:3.7
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¥3,000~¥3,999 / 1人
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料理・味 3.7
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|サービス 3.3
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|雰囲気 3.5
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|CP 3.5
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|酒・ドリンク 3.5
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[ 料理・味3.7
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| サービス3.3
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| 雰囲気3.5
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| CP3.5
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| 酒・ドリンク3.5 ]
夜の迷宮で出会った幻 ― サイコジェリーのカレー
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2025/09/30 更新
富山駅から歩いて十分。夜の街はどこか眠たげで、路地を抜けるたびに時間がゆっくりと後ろへ巻き戻されていくようだった。行き着いた先に、小さな看板の灯が浮かんでいる。「サイコジェリー」。何度も通り過ぎながら、いつも立ち止まることのできなかった扉。その前には「酔っ払いお断り」の札が、まるで見張り役のように掛かっている。
その夜は偶然が導いた。駅前のバーで、ノンアルコールのグラスを手にしていた僕に、隣の客が囁いたのだ。
「ここはね、カレーが特別にうまい」
それは呪文のように響き、僕の中の小さな迷いを消し去った。
扉を押すと、時間の流れが変わった気がした。店内には強面のマスター。だが、その視線はどこか遠くを見ていて、僕を透かしているようにも感じられる。ハワイアンの音楽が低く流れていた。北陸の夜に似つかわしくない旋律は、むしろ現実感を淡く溶かし、夢の入り口を開けてしまう。
注文を告げると、マスターはただ「少し時間がかかる」とだけ言った。その声は、井戸の底から響いてくるようだった。僕は席に座り、漂う香りを待った。
やがて皿が運ばれる。白い湯気が立ち昇り、空気が震える。その瞬間、世界の色調がわずかに変わった。スプーンでひと口。――電撃。口の中に広がる熱は、単なるスパイスの刺激ではなかった。夏の夕立、忘れた誰かの声、遠い国の海辺。断片的な記憶が次々と立ち上がり、僕の内側で渦を巻く。
クリームチキンカレーは、なめらかな夢の地層のようで、食べ進めるごとに深く潜っていく。エビプラオは黄金の粒がきらめき、潮騒の音を遠くに響かせる。ひと口ごとに、僕は別の場所に立っていた。
気がつけば、BGMのハワイアンは子守唄のように聞こえ、トロピカルなドリンクの氷は、星の瞬きのようにゆっくりと溶けていた。外の夜はもう遠く、ここが富山の街であることさえぼんやりとしていた。
食べ終えた時、胸の奥に残ったのは不思議な確信だった。人は札ひとつに怯えて、長い時間を無駄にすることがある。けれど、扉を開けてみれば、そこには別の世界が待っている。僕はそのことを、この小さな店の一皿から学んだのだ。
次にここを訪れるのは、現実の旅の途中か、それとも夢の続きか。どちらであれ、また扉を開ければいい。サイコジェリーはきっと、今夜の幻をもう一度見せてくれるだろう。