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夜の点数:3.5
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¥5,000~¥5,999 / 1人
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料理・味 3.5
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|サービス 3.4
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|雰囲気 3.6
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|CP 3.0
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|酒・ドリンク 3.4
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[ 料理・味3.5
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| サービス3.4
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| 雰囲気3.6
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薪の炎に導かれて――岩瀬、Port Pizza Naveという静かな航海
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2025/12/16 更新
岩瀬の町を歩くと、足音が自然と小さくなる。富山湾から届く湿り気を帯びた風、古い廻船問屋が連なる通り、そしてどこか懐かしい静けさ。観光地でありながら、観光に媚びないこの町には、時間が幾層にも折り重なって沈殿している。その通りの一角で、薪が燃えるかすかな匂いに呼び止められるようにして出会ったのが、Port Pizza Naveだった。
扉を開けた瞬間、まず視界に飛び込んでくるのは、存在感のあるピザ窯だ。無駄のない造形、使い込まれた表情、そして内部で静かに揺れる炎。木が燃える音は主張しすぎることなく、しかし確かにこの店の中心にある。まるでここが船のエンジンルームで、店全体がゆっくりと航行しているかのような錯覚を覚える。岩瀬の港町という土地柄も相まって、「Nave(船)」という名前が、妙にしっくりと腑に落ちる。
席に腰を下ろしているだけで、心の中の余白が少しずつ広がっていく。都会では、食事はとかく効率や目的に縛られがちだが、ここではその必要がない。薪が爆ぜる音を聞き、窯の前で職人が生地を扱う所作を眺めていると、食事とは本来こういう時間だったのだと思い出させてくれる。
運ばれてきたピザは、華美な装飾とは無縁だが、凛とした佇まいをしている。薪窯で焼かれた生地は、縁にほどよい焦げ色をまとい、中央に向かって柔らかく沈んでいる。ナイフを入れると、すっと刃が入る感触とともに、内部に閉じ込められた空気がわずかに逃げる。その一切れを口に運ぶと、まず香ばしさが立ち、その直後にもちもちとした食感が押し寄せてくる。弾力があるのに重くない。噛むほどに小麦の甘みが現れ、薪の香りが後ろからそっと寄り添う。焼きの技術だけでなく、生地そのものへの深い理解と愛情が感じられる一枚だ。
前菜の寒ぶりのカルパッチョは、冬の富山を語るに欠かせない存在だ。透き通るような身には美しい艶があり、箸を入れるとしっとりとした抵抗が返ってくる。口に含むと、脂の旨味は確かに濃厚なのに、決してくどくない。冷たい海の中で身を引き締めてきた魚だけが持つ、澄んだ味わいがある。オリーブオイルや調味はあくまで脇役で、寒ぶりそのものの力を信じている潔さが心地よい。これは料理であると同時に、富山湾への静かな賛歌だ。
そして、思いがけず心を掴まれたのが根菜のフリットだった。皿に盛られたそれは素朴で、派手さはない。しかし一口食べた瞬間、その印象は覆される。特に里芋。衣は軽く、噛むとほろりと崩れ、その奥から現れるのは驚くほどなめらかな食感と、ほのかな甘みだ。土の中で静かに育ち、寒さを越えてきた根菜ならではの滋味が、口いっぱいに広がる。脇役で終わらせるには惜しい、確かな存在感がそこにはあった。
Port Pizza Naveでの食事は、ただお腹を満たす行為ではない。薪の炎、土地の食材、人の手仕事、それらがゆっくりと溶け合い、ひとつの物語を形づくっている。食べ終えたあと、不思議と急いで席を立ちたくならない。窓の外に目を向け、岩瀬の町とその先に広がる海を思い浮かべながら、しばし余韻に浸る。
この店を訪れた記憶は、派手な驚きとしてではなく、静かな確信として心に残る。岩瀬という町に、この店がある理由がわかる気がした。Port Pizza Naveは、旅の途中で偶然立ち寄った港のように、後になって何度も思い返したくなる場所だ。