この口コミは、K.Jamesさんが訪問した当時の主観的なご意見・ご感想です。
最新の情報とは異なる可能性がありますので、お店の方にご確認ください。 詳しくはこちら
利用規約に違反している口コミは、右のリンクから報告することができます。
問題のある口コミを報告する
-
夜の点数:3.6
-
¥10,000~¥14,999 / 1人
-
-
料理・味 3.6
-
|サービス 3.3
-
|雰囲気 3.2
-
|CP 3.4
-
|酒・ドリンク 3.2
-
-
[ 料理・味3.6
-
| サービス3.3
-
| 雰囲気3.2
-
| CP3.4
-
| 酒・ドリンク3.2 ]
金曜の夜、三宿に灯る記憶――六甲園というご褒美
-
{"count_target":".js-result-ReviewImage-339502160 .js-count","target":".js-like-button-ReviewImage-339502160","content_type":"ReviewImage","content_id":339502160,"voted_flag":false,"count":0,"user_status":"","blocked":false}
-
{"count_target":".js-result-ReviewImage-339502183 .js-count","target":".js-like-button-ReviewImage-339502183","content_type":"ReviewImage","content_id":339502183,"voted_flag":false,"count":0,"user_status":"","blocked":false}
-
{"count_target":".js-result-ReviewImage-339502199 .js-count","target":".js-like-button-ReviewImage-339502199","content_type":"ReviewImage","content_id":339502199,"voted_flag":false,"count":0,"user_status":"","blocked":false}
2026/01/19 更新
金曜日という言葉には、不思議な魔力がある。
一週間という時間の重みをようやく肩から下ろし、少しだけ贅沢をしてもいいと自分に許しを与える日。そんな夜、会社の同僚と連れ立って、私は三宿まで足を伸ばした。芸能人御用達の街、という少しだけきらびやかな響きを持ちながらも、どこか生活の匂いが残るこの界隈は、夜になると静かな色気を帯びる。
目的地は、私がもう何年も通い続けている焼肉屋、六甲園。
気がつけば2025年、百名店という肩書きを得て、すっかり名の知れた存在になってしまった。正直に言えば、少しだけ寂しさもある。かつては知る人ぞ知る、という距離感だった場所が、世間に見つかってしまった──そんな感覚だ。
だが、扉を開けた瞬間、その懸念は静かに溶けていく。
空気、匂い、店の間合い。変わっていない。何より、味が変わっていない。それが何よりも尊い。常連である私には、いわば“私仕様”とも言えるような流れで、料理が丁寧に組み立てられていく。形式張ったコースではない。けれど、長年の信頼関係の上に成り立つ、即興性と必然性を兼ね備えた一夜限りのコースだ。
最初の一皿から、同僚の表情が変わるのがわかる。
「……うまいですね」
その一言に、私は心の中で静かに頷く。そうだろう、と。ここはそういう店なのだ。
シンシンは、赤身の旨みが研ぎ澄まされ、火を入れるほどに静かな甘みを放つ。ミスジは繊維のほどけ方が美しく、噛むという行為そのものが快楽に変わる。ハラミは言うまでもなく、肉のエネルギーをそのまま閉じ込めたような力強さがあり、いちぼは端正で、余計な装飾を必要としない完成度を誇る。
そして、忘れてはならない厚切り牛タン。
はさみを入れた瞬間にわかる、これは別格だという確信。表面の香ばしさと内部の瑞々しさ、そのコントラストが見事で、ただ焼いて食べるという行為が、ひとつの儀式のように感じられる。
ユッケは鮮度と技術の結晶であり、黄金レバーは名の通り、夜の記憶に金色の余韻を残す。どれも「美味しい」という言葉では足りない。後悔が一切残らない食事とは、こういうものを言うのだろう。
同僚は終始、感嘆の表情を隠さなかった。
「こんな店、知らなかったです」
その言葉を聞きながら、私は少しだけ誇らしい気持ちになる。良い店を知っていること、そしてそれを誰かと共有できることは、大人になってから得られる静かな幸福だ。
価格を考えると、なおさら驚かされる。このクオリティで、この値段。本当にいいのだろうか、とこちらが心配になるほどだ。アクセスは正直、決して良いとは言えない。だが、その不便ささえも、ここに辿り着いた者だけが味わえる特権のように思えてくる。
そして最後に、個人的に声を大にして言いたい。
キャベツがおかわり自由であることを、どうか忘れないでほしい。脂の旨みを受け止め、口の中を一度リセットしてくれる存在。主役ではないが、この夜を完成させるために欠かせない名脇役だ。
三宿の夜は静かに更けていく。
六甲園を出た後、満たされた胃袋と心を抱えながら、私は確信する。ここは、何度でも戻ってきたくなる場所だと。百名店になろうが、時代が移ろうが、この店がこの味であり続ける限り、私はまた金曜日の夜に、ここへ足を運ぶだろう。