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平日夜の銀座は、不思議な顔をしている。昼の緊張感と、週末の浮き足立った華やかさのちょうど中間。スーツの肩から少しだけ力が抜け、街全体が「よくここまで来たな」と小さく頷いてくれるような時間帯だ。そんな夜、会社の人間五人で、年末のねぎらいを兼ねたすきやきへ向かった。 この店に通い始めて、気づけば十年弱になる。初めて訪れた日のことはもう曖昧だが、今では名前を告げれば通じるし、休日に自宅近くのスーパーで店員さんとばったり遭遇することすらある。それくらい、生活の一部に溶け込んだ店だ。銀座という土地にありながら、こちらの時間の流れに合わせてくれる数少ない場所でもある。 暖簾をくぐると、変わらぬ空気が迎えてくれる。騒がしすぎず、静かすぎない。鍋の立つ音、グラスが置かれる音、笑い声。それらが自然に混じり合い、すきやきという料理が持つ「場を和ませる力」を改めて実感する。今宵は赤身希望。選んだのは佐賀牛だ。脂で押すのではなく、肉そのものの旨味を味わう夜にしたかった。 この店の何がありがたいかといえば、客は会話に集中していればいいという点に尽きる。すきやきは、意外と気を遣う料理だ。焼き加減、割り下の量、野菜を入れる順番。だがここでは、すべてを店側に委ねられる。鍋の前で黙々と焼かれる肉を見ているだけで、不思議と安心する。 肉は一枚ずつ、丁寧に丸めるようにして焼かれる。外側は香ばしくカリッと、中はほとんどレアのまま。そのコントラストが、この店の真骨頂だ。卵にくぐらせた瞬間、赤身の旨味がふっとほどける。派手な驚きはないが、「ああ、これだ」と体が思い出す味。十年通っても、毎回きちんと美味しいというのは、簡単なことではない。 今回はワインのボトルも開け、ビールもたらふく飲んだ。仕事の話も、どうでもいい話も、すきやきの湯気の向こうで自然に転がっていく。長く通っている店だからこそ、これまでの景色がふと重なる。異動前の送別会、昇進祝い、何気ない残業明けの夜。鍋の中には、そのすべての記憶が、薄く溶け込んでいるような気がした。 そして、この店に通い慣れた者だけが知る、最後の注意点がある。締めの卵とじ麺だ。ここで忘れてはいけない合言葉がある――「新しい卵を使ってください」。これを言い忘れると、皆が使ってきたすきやき用の卵が、そのまま投入されることになる。理屈では問題ないのかもしれないが、感情としては、正直かなりきつい。これは声を大にして伝えたい、常連からの実用的アドバイスである。 満腹で、少し酔って、外に出ると、銀座の夜は相変わらず静かに輝いていた。特別な演出はない。だが、変わらぬ味と変わらぬ距離感で迎えてくれるこの店は、確実に人生の節目を受け止めてくれる。すきやきとは、こういう時間を食べる料理なのだと思う。年末に限らず、また理由をつけて訪れたくなる。そんな一軒である。
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