3回
2024/12 訪問
冬の京都、間人蟹と向き合う
毎年、間人蟹の季節が来ると、自然とここに足が向く。
その年の冬が始まったという実感とともに、緒方の暖簾をくぐる。
ここで味わえるのは、火入れの温度、切り方、盛り付けのすべてにおいて、精度の極みともいえる料理。
理屈ではなく、身体が自然と「美味しい」と反応してしまう感覚がある。
そして何より、間人蟹そのものの「鮮」と「甘」が、最大限に引き出されていた。
引き算すぎず、足し算すぎず、
調味料も最小限で、ただただ素材の力を信じているような一皿たち。
季節の美しさを、そのまま口に運ぶような体験だった。
緒方で冬を迎えること、
それ自体が、自分にとって一年の大切な節目なのかもしれない。
2025/05/04 更新
数ヶ月に一度、京都を訪れる大きな理由のひとつが「緒方」。この店の予約が近づくと、自然と日常に張りが生まれ、旅の始まりから心が浮き立つ。緒方さんの料理にまた出会えるということが、何よりの楽しみだ。
この日の印象的な一皿は、奈良から届いた花山椒。控えめでありながら、口に含むとふわりと広がる香り。尖らず、長く残るその余韻に、箸が止まらない。緒方さんは、食材の持つ個性をそっと引き出す名手。決して飾りすぎず、重ねすぎず、素材が一番美しく感じられる瞬間を見極めている。
その根底にあるのは、「侘び」の哲学。削ぎ落とすことで、輪郭がくっきりと立ち上がり、味が深まる。その精緻な手仕事と構成力が、一皿ごとにしっかりと伝わってくる。
派手さはない。けれど、心にじんわりと染み入るような、静かな幸福がある。今回もまた、「来てよかった」と心から思えた夜だった。