2回
2025/09 訪問
串揚げの既成概念を覆す、六本木発モダン・クシガストロノミー
六本木「串揚げPyon」は、串揚げという日本の食文化を、洗練と革新の力で芸術的領域へと昇華させるレストランである。ここでは“揚げる”という行為が、素材の生命を輝かせる最上の技法へと変貌する。
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■ 店内の雰囲気
モノトーンを基調とした空間はモダンで都会的。計算された照明と質感のあるインテリアが、非日常の舞台装置として機能している。スタイリッシュでありながらも冷たさはなく、むしろ心地よい緊張感を孕む。六本木の夜を映す、知的で大人な空気が漂っている。
■ 料理について
串揚げは驚くほど軽やかで、油の存在を忘れるほどの端正な揚げ上がり。季節ごとに厳選された素材が、一口で旨みの爆発を迎える。例えば、甘海老はとろけるような甘さに香ばしさが重なり、肉厚な椎茸は大地の滋味を凝縮。和牛は熱の入り加減が絶妙で、肉汁が迸る瞬間に思わず息を呑む。
さらに特筆すべきは、巨峰やマスカットといった果実の串揚げ。熱を帯びた果汁が衣を破って弾ける瞬間、甘酸の香りが口内を満たし、揚げ物であることを忘れるほど清新な余韻を残す。
締めの二皿もまた秀逸。スパイスカレーは複雑でありながら輪郭の明確な香り立ちで、余熱の残る胃袋に鮮烈なアクセントを加える。そしてトマトとキムチ出汁を用いた冷麺は、潔くシンプルな構成ながら、清冽な酸味と辛味の調和が見事で、食後の幕引きにふさわしい。
■ スタッフの対応
スタッフの所作は流麗で無駄がなく、客の動きに呼応するような自然な気配りが光る。料理説明は端的かつ核心を突き、押し付けがましさを一切感じさせない。まさに洗練されたホスピタリティの典型である。
■ 注文内容、目的など
今回は「おまかせ串揚げコース」を中心に堪能。旬菜や海老、椎茸、和牛に加え、フルーツの串揚げなど意表を突くラインナップ。締めにはスパイスカレーと、トマトとキムチ出汁の冷麺をいただいた。
■ 素晴らしいと感じた点
最大の魅力は、串揚げを単なる食の快楽に留めず、五感を刺激する体験へと昇華させている点である。素材、調理、空間、サービスが一体となり、一つの劇的な「食の物語」を紡いでいる。食材の尊厳を守りつつも、革新の息吹を纏わせるその姿勢は、現代ガストロノミーの精神を体現している。
■ まとめ
「串揚げPyon」は、六本木における新しい美食の象徴である。ここでは、串揚げという伝統的ジャンルが、驚きと感動を内包した現代料理へと昇華される。訪れる者は必ず、「人生で最も洗練された串揚げ」という記憶を持ち帰るだろう。
2025/09/04 更新
洗練と遊び心が交錯する六本木の名店「串揚げPyon」。その一串一串は、ただの料理にとどまらず、まるで小さな劇場作品。創作性と技巧、そしてワインとの完璧なマリアージュが、舌と心を鮮やかに揺さぶる。
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■ 店内の雰囲気
六本木の喧騒を一歩抜けた静謐な空間に佇む「串揚げPyon」。暖色の間接照明が醸し出す柔らかな陰影は、食の舞台として計算された設計美を感じさせる。カウンター席を中心に据え、料理人との対話も楽しめるライブ感ある構成。内装はモダンながらも木の温もりを随所にあしらい、緊張感と寛ぎの絶妙なバランスが保たれている。
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■ 料理について
メニューからは、季節感と職人の感性が織りなす品々が並ぶ。
• ステーキ椎茸
• カニのベシャメルソース
• 有田牛タン
• 本日の鮮魚
• 子持昆布 生雲丹
• 藤九郎銀杏 松茸
• 春菊 肉巻き
• 鴨葱
• 車海老
• 海老芋
• 鰤大根
• ロマネスコ
• 太刀魚 ガーリックチーズ
• 子持ち茗荷
• 土佐赤牛ヒレ
• 大根コンソメ
食材ごとに揚げの温度や衣の厚みを変え、香り、食感、温度まで緻密に計算された串は、まさに「料理のインスタレーション」。特に「子持昆布と生雲丹」は、海のミネラルと舌に残る濃厚な甘みのコントラストが圧巻。また「太刀魚とガーリックチーズ」は、洋と和の調和が秀逸で、ソムリエ厳選の白ワインとの相性も抜群であった。
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■ スタッフの対応
決して前に出すぎることなく、しかし必要な瞬間には的確な距離感でサポートしてくれる接客は、まさに一流のホスピタリティ。料理の説明も明快で、押しつけがましさのない穏やかな語り口が心地よい。ワインの提案も的確で、料理とのペアリングに確かな知見が光る。
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■ 注文内容、目的など
今回はおまかせコースにて、旬の素材と殿堂入り串、そして日々の進化を感じられる創作串を堪能。価格帯としてはおまかせコースで25000円前後。ワインのラインナップも豊富で、グラスで数種を楽しみながらの食事となった。
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■ 素晴らしいと感じた点
一串ごとの完成度の高さは言わずもがな、特筆すべきはその“進化”への意志である。定番の串に安住せず、常に季節と感性を反映させた新作に挑む姿勢には、作り手としての矜持が宿る。ソースや付け合わせ、食材の組み合わせの妙に、独創性と経験の厚みが感じられる。
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■ まとめ
「串揚げ」という枠を遥かに超えた、芸術的で知的な味覚の冒険。Pyonは、ただの食事ではなく“食の体験”を提供する稀有な存在である。技術、感性、空間、サービス…そのすべてが一体となった、六本木に輝く珠玉の一軒だ。今後の進化も期待せずにはいられない。