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――懐かしい顔に、久しぶりに会った気分だ。 店の名は「北の富士」。もう何年も通っている。 変わったのは、値段くらいなものか。いや、そこは結構変わった。でも、味は――変わらない。 目の前のきしめんは、やわらかくて、幅広で、つるりとした喉ごし。 そして、透き通った鶏の出汁。クセがなくて、でも薄くもない。旨味の輪郭がしっかりしてる。どこまでも丁寧で、どこまでもまっすぐな味だ。 わかめと鶏肉、ネギ。シンプルな具材が、主役の出汁を引き立てている。 一口すすって、ふう、と息をつく。心がほどける感じがする。 ――値段が上がった? そうだな。 でも、この一杯を前にすると、不思議と納得してしまうんだ。 変わらないものがある。その尊さを、ここで噛みしめている。 ――ほんのり甘く、そしてスパイシー。 一口で冬の寒さがほどけていく。 旭川「北の富士 櫻屋」。 歴史を感じさせる暖簾をくぐると、重厚な器にたっぷりと注がれた「カレーきしめん」が現れた。 まず目を惹くのは、とろみのあるカレー餡。見た目は濃厚だが、香りは優しく、食欲を静かに刺激してくる。 一口すすれば、スパイスの輪郭がしっかりと感じられつつも、和風のだしがそれを包み込む。 味の構成は複雑だが、まとまりがあり、まさに「和」のカレーといった印象。 きしめんは平打ちでコシがあり、汁をたっぷり絡めて喉を滑る。具材の鶏肉は柔らかく、噛むほどに旨みが広がる。 トッピングの青菜が清涼感を添えて、バランス感も良い。 派手さはないが、ひとつひとつの仕事が丁寧で、カレーきしめんの完成度としては高い一杯。 寒さの厳しい土地だからこそ、この温かさが沁みるのだろう。 ――体の芯まで、じんわりとあたたまる。 この一杯が、今日の午後を少し優しくしてくれた気がした。
2025/05訪問
2回
――殻の中に詰まっていたのは、冬の海の濃密な甘みだった。 函館「海光房」。 活きのいい海鮮で有名なこの店で、今回頼んだのはカニの刺身盛り。 運ばれてきた皿の上には、透き通るようなカニの脚。 箸で持ち上げれば、ほんのりとしたぬめりと、繊維のしなやかさが伝わってくる。 その一口め。 口の中でほぐれていく身の甘さは、刺身というよりも果実に近い。 噛み締めるたびに、海のミネラルと旨味がじんわりと広がっていく。 鮮度の高さがストレートに舌を打つ。 ――醤油やわさびは、もはや添え物だった。 素材がすでに完成している。 昆布の香り、潮の気配、静かな余韻。 函館の海、そのものを食べているような体験だった。
2022/07訪問
1回
――旅の途中、新潟で立ち寄ったのは「ぽんしゅ館 魚沼釜蔵」。 駅直結の立地で、観光客にも地元の人にも親しまれる和食処。今回はお刺身御膳を注文。白米の横に丁寧に盛られた刺身は、どれも脂がのっていて驚くほど新鮮。中でも、白身魚がふわっととろけるようで特に印象的だった(何の魚かはわからなかったが…)。 小鉢や味噌汁にも手が込んでいて、定食としての完成度が高い。さらにアラカルトで頼んだカキフライは、大粒で衣が軽く、レモンをひと搾りすれば旨みが一層際立つ。 ――「新潟に来たらここで米を食べろ」そんな声が聞こえてきそうな一膳。 派手ではないが、誠実で滋味深い。土地の味をしっかり受け取れる、旅先での理想の和定食だった。
2025/08訪問
1回
――金属の皿に、ジリ…と油の音が残っていた。 香川名物「一鶴」の骨付き鶏。 見た目は無骨、けれど噛んだ瞬間に、皮目の香ばしさと肉汁の洪水が口の中で暴れ出す。 身は引き締まっているが、決して固くはない。 一噛みごとに溢れる旨み。じわっと後からくるスパイスの余韻。 白飯と一緒に食べれば、箸も会話も止まらない。 ――シンプルなのに記憶に残る、まさに“主役”の一皿。 香川を訪れる理由が、またひとつ増えた気がした。
2023/05訪問
1回
――迷い込んだ先にこそ、本当にうまい店がある。 そんな予感が的中したのが、渋谷の奥にある「虎視眈々」。 細い路地のさらに先。店構えも控えめで、知らなければ通り過ぎてしまうような場所。 けれど、昼時には必ず人が並んでいる。その理由が、席に着いてすぐにわかった。 今回頼んだのは、炭火焼き鶏の定食。 香ばしく焼かれた鶏は、プリッとした弾力としっとりとした脂を兼ね備えた絶妙な火入れ。 薬味のミョウガやカイワレが爽やかに後味を引き締め、ご飯が進む、進む。 そして何より、ご飯おかわり自由。 うまい米が、遠慮なく食べられるというのは、満足感に直結する。 ――わかりづらい場所、決して広くない店内。 でもそのすべてが、あの一膳の記憶をより深くしてくれる。 渋谷の喧騒を抜けた先に、静かに並ぶ理由が確かにあった。 虎視眈々。また来る、そのつもりで場所をしっかり覚えた。
2025/01訪問
1回
――昼の喧騒を忘れるような、ゆったりとした空気が流れていた。 「キッチンパパ」京都の老舗洋食店。 この日はハンバーグとチキン南蛮のコンビプレートを注文。 洋食屋に行くとつい頼んでしまう、王道中の王道。 ナイフを入れると、ハンバーグの中からじゅわっと肉汁があふれ出す。 デミグラスソースは濃すぎず、やさしい甘みのある味わい。 そこにふわっと香るバターのコクが重なり、なんとも懐かしい気分にさせてくれる。 対するチキン南蛮は、外はカリッと、中はジューシー。 そして、主役を引き立てながら自らも主張してくるタルタルソース。 玉ねぎの甘みと酸味のバランスが絶妙で、まろやかさの中にもキレがある。 これは…タルタル単体でもご飯が進むタイプ。 ――ふたつの主役が、皿の上で静かに共演する。 派手さはないけれど、しっかりと記憶に残る、そんな味だった。 「また来よう」と思わせてくれる場所が、京都の街角にひっそりと存在している。
2023/02訪問
1回
――道玄坂の喧騒に溶け込むように、目立たぬ入り口がぽつりとある。 薄暗い階段を降りた先に、「三太夫」は静かに佇んでいた。 干物で知られる店だが、この日はあえて豚肉の炭火焼定食を注文。 目を引くのはその一本まるごとのロース肉。 炭火で焼き上げられた香ばしさが立ちのぼり、食欲を刺激する。 外はこんがり、中はしっとり。余計な脂は落ちていて、旨みだけがしっかり残っている。 ナイフで切り分け、まずはそのまま一口。 口の中でじゅわっと広がる豚の甘み。 柚子胡椒を少しのせれば、風味に輪郭が生まれてさらに箸が進む。 添えられた白米も、もっちりとしていて完成度が高い。 “ごはんが進む”という言葉の本質を教えてくれる、そんな組み合わせだった。 味噌汁や漬物も丁寧な仕事ぶりで、全体のバランスが心地いい。 ――決して派手ではない。でも確実に満足をくれる定食。 道玄坂の地下で、炭火と米の力強い競演に出会えた一食だった。
2019/03訪問
1回
――渋谷の喧騒を抜けてたどり着いたのは、赤の濃淡が美しいマグロの海だった。 「オートロキッチン 渋谷」。 店名の“オートロ”に少し身構えたが、店内は明るく入りやすい雰囲気。 注文したのは、インドマグロの丼。 運ばれてきた丼には、赤身と中トロがそれぞれ丁寧に並べられていた。 まずは赤身。キュッと締まりがありながらも、筋張った感じは一切なく、瑞々しい。 噛むごとにじわじわと旨味が広がる。インドマグロ特有の濃い味が、心地よく舌を包む。 続いて中トロ。脂が程よく乗っていて、赤身とのコントラストが鮮やかだ。 舌の上でほんの少しとろけながら、くどさのない後味を残して消える。 酢飯はふっくらと炊かれており、酸味は控えめ。マグロの存在感を立てる役回りに徹している。 わさびのツンとした香りとともに、海苔の香ばしさが食欲をさらに引き立ててくれる。 ――派手さはない。でも、確かに満たされた気持ちが残る一杯。 “高級感”というより“良質感”。これが、渋谷でこの価格で食べられるとは。 気取らず旨いマグロ丼。 今日の渋谷は、いい赤に出会えた。 ――赤い、赤い、どこまでも赤い。 まぐろ好きにはたまらない空間だった。 訪れたのは「オートロキッチン」。 まぐろ料理に特化した専門店で、壁からメニューまで、何もかもが“まぐろ尽くし”。 まずはランチのまぐろ丼。 大ぶりに切られた赤身がこれでもかとご飯の上に乗り、見た目も食べごたえも圧倒的。 とにかく量が多い。だが、筋っぽさはなく、しっとりと舌に寄り添う上質な赤身。 これだけで丼が完結しているのに、価格も良心的。まぐろ丼界のコスパ王者と呼びたい。 そして圧巻なのは、まぐろの5点盛り。 頭、赤身、ほほ肉、中トロ、大トロ――それぞれが明確に異なる表情を持ち、まぐろという魚の奥深さを改めて知る。 各部位2切れずつというのも嬉しく、一人でも、シェアしても楽しめる設計になっている。 ――安くてうまいまぐろなら、どこでも食べられる。 でもここは、その先を見せてくれた。 「まぐろって、こういう味もあるんだ」と思わせる体験。 オートロキッチン、ただの専門店ではなく、まぐろの“テーマパーク”だった。 次は炙りや漬けにも手を出したい。食欲が赤く燃え上がっている。
2025/07訪問
2回
――これがランチか、と一瞬目を疑った。 テーブルいっぱいに広がる皿の数々。昼とは思えないほどの迫力だ。 ここは「万作」。宮崎料理の専門店。 ランチで頼んだのは、炭火焼き地鶏、天ぷら、刺身、小鉢に味噌汁までついた贅沢な定食。 値段は2,000円前後と、少し背伸びした価格だが、それでも納得できる内容だった。 地鶏の炭火焼きは、香ばしさとしっかりした歯ごたえ。 噛むほどにジワジワと旨味が広がる。 刺身は新鮮で、特にまぐろがとろけるような質感。 天ぷらもサクサクと軽く、箸を運ぶごとに違う楽しさがある。 ご飯はつやつやで甘みがあり、何を乗せても合う。 そして味噌汁をひとすすりすれば、胃袋がじんわりと落ち着いてくる。 ――食後の満足感は、価格以上。 「ランチでこれだけ出すなら夜は…」と思ってしまうけど、むしろ昼にこのクオリティを味わえるのがうれしい。 渋谷のビルに入った場所で、宮崎を感じるひととき。 贅沢な昼ごはんだった。再訪、確定。
2024/11訪問
1回
――まるで、刺身の山に登るようだった。 小ぶりの丼に、これでもかと盛られた鮮魚のスライス。 赤、白、ピンク。魚ごとに異なる色とツヤが、美しく重なり合っている。 その山頂に、ネギと白ごまがさらりとかかって、見た目からして食欲を引き寄せてくる。 ここは、“魚の旨い店”。 ご飯はおかわり自由、大盛りも無料。 しかも、後半はお茶漬けにもできるという二段構え。 刺身はどれも新鮮で、歯ごたえと旨みがしっかりある。 醤油を少し垂らして頬張れば、ご飯が止まらない。 そして最後は、熱々の出汁を注いでお茶漬けに。 サラッとした口当たりの中に、魚の旨みがふわりと広がる。 ――難点があるとすれば、店の狭さ。 カウンター席に案内されたときは、身動きすら一苦労。 だが、この味と満足感の前では、それすらも些細なことに思える。 また来たい。 次は、どんな魚の山に出会えるだろうか。
2025/05訪問
1回
――鉄板の焼ける音が食欲を誘う。目の前に広がるのは、大阪の粉もん文化の王道。 「ゆかり」ホワイティうめだ店。 改札を抜けて人の流れを潜り抜けた先にある、地下街の人気店。 この日も例によって行列ができていたが、予約のおかげでスムーズに入店できた。 通されたのは広めのテーブル席。目の前の鉄板には、じゅうじゅうと音を立てながら焼きあがるお好み焼き。 表面はカリッと香ばしく、中はふわっと軽やか。 そのバランス感覚が絶妙で、ソースやマヨネーズがたっぷりかかっていても重さを感じない。 具材のキャベツはしっかりと甘みがあり、豚肉の旨みと合わさって、口の中で優しい一体感を作り出す。 ときおり香る鰹節の風味が、また食欲をそそる。 ――観光客向け、と思って油断していたら、実力で黙らされた。 これは、地元の人が日常使いしているのも納得の味。 ゆかり。並ぶだけの価値は、確かにそこにあった。次は焼きそばも試してみたい。
2023/02訪問
1回
――海鮮丼に大事なのは、見た目の華やかさだけじゃない。ひと口目に感じる「鮮度」がすべてだ。 「海鮮山」池袋。 駅近のにぎわいを抜け、ふと目にした海鮮丼の写真につられて入店。 注文したのは、マグロといくらがたっぷりのった豪快な一杯。 まず驚いたのは、マグロの質。 赤身と中トロの中間のようなバランスで、脂がさっぱりしていて食べやすい。 切り方も程よく、ご飯との一体感がある。 これは当たりだ、と最初は思った。 しかし、そこに追い打ちをかけるように盛られたいくら―― 見た目は立派だが、口に入れると弾けない。 プチッという食感も、塩気の奥行きもなく、妙に水っぽい。 マグロの完成度が高かっただけに、このいくらの弱さが目立ってしまう。 味噌汁や付け合わせは標準的で、全体のボリュームとしては申し分ない。 ただ、丼の主役がふたりいるなら、どちらにも全力を尽くしてほしかった。 ――海の幸は、誤魔化せない。 そう思いながら、マグロだけを丁寧に箸で追っていた。
2025/07訪問
1回
――香ばしさが、皿から湯気となって立ち上っている。 「鳥林(とりばやし)」今治の焼き鳥屋。 目の前に現れたのは、どこか懐かしさを感じる玉ねぎの輪と、串に刺さったネギマ。 玉ねぎの断面を見ただけで、思わず唾を飲み込む。 じっくり焼かれた表面は、タレをまとい、照りと艶を放っている。 箸を入れた瞬間、じゅわっと広がる甘さと熱。 玉ねぎが、こんなにうまかったなんて。 焼き鳥はシンプルに塩。鶏の脂がネギに染みて、これもまたいい。 ――主役を張る肉もいいが、こういう脇役の力強さに出会うと、旅先の味の深さを思い知らされる。 今治の焼き鳥、侮れない。
2023/05訪問
1回
――鉄板の上でカリッと焼き目をつける音、立ち上るソースの香り。 自分のペースで焼いていく、それがまた嬉しい。 ここは「緒駕多(おがた)」。 店内の壁には有名人のサインがびっしり。きっと、皆この鉄板に魅せられたんだろう。 この日は王道のお好み焼きを注文。 自分で混ぜて、自分で焼いて、自分でひっくり返す。 生地の中に空気を入れながら、じっくり火を通していく作業は、食べる前からすでに楽しい。 焼き上がりにマヨネーズ、ソース、青のり、かつお節。 湯気とともにゆらゆら踊るその姿がもう、食欲を刺激してくる。 カリッとした外側と、ふんわりとした中身のコントラスト。 シンプルだけど、これ以上に完成された食べ物はそうない気がする。 ――ただの“粉もの”じゃない。 体も心も温まる、鉄板越しのごちそう。 緒駕多、また自分の手で焼きに来たい。あの音と香りが、もう恋しい。
2024/05訪問
1回
――焼く前から、すでに満足感がじわじわと迫ってくる。 そんな焼肉があるとは、思ってもみなかった。 ここは三軒茶屋の「まめ牛」。 コンロを囲んで、手頃な価格でがっつり焼ける焼肉屋。 食べ放題じゃないのに、満腹になれる安心価格。 肉もサイドも遠慮なく頼めて、財布の心配はほとんどいらない。 そして注目すべきは、飲み物の値段。 え、これ利益あるの? と疑いたくなる設定。 それでいて、ちゃんと冷えててうまい。 焼肉に炭酸、そして甘いドリンク――無敵の布陣。 ユッケやキムチも味がしっかりしていて、酒が進む。 テーブルの会話も弾むし、箸も止まらない。 こういう店を知ってしまうと、もう食べ放題には戻れないかもしれない。 ――三茶で焼肉。 今夜はここにして、正解だった。 うまくて安くて、気持ちよく帰れる。そんな夜の焼肉、まさに理想形。
2025/03訪問
1回
――炭の香りと、静かに立ちのぼる湯気。 五感がじわじわと満たされていく。 ここは「ひしゅうや」。 外観は、正直くたびれている。 だが、暖簾をくぐればその印象はがらりと変わる。 ここには、“本気のうまさ”があった。 目の前に置かれたのは、小さな七輪と網。 その上に乗せられた肉厚な椎茸が、じんわりと焼かれていく。 みずみずしさを失わず、香ばしさをまとうその姿。 ただの椎茸じゃない。これはもう、主役だ。 焼き上がったところで塩をちょんとつけてひと口。 じゅわっと広がる旨味、ほんのり残る炭の香り。 しみじみと、「ああ、うまい」としか言葉が出てこない。 ――見た目に騙されちゃいけない。 こういう店が一番、記憶に残る。 「ひしゅうや」、覚えておく価値のある一軒だった。
2025/04訪問
1回
――鉄板焼きというと、どこか“ハレの日”のイメージがある。 でも、ここ「鉄板二百℃」はその敷居をぐっと下げてくれる。 まずは牛肉のガーリックソテー。 焼き加減は絶妙で、表面はカリッと香ばしく、中はジューシー。 にんにくの香りが食欲をくすぐり、下に敷かれたパンがその肉汁と脂をしっかり吸っていて、これがまた旨い。 そして、焼き野菜。 彩り豊かなブロッコリー、ズッキーニ、トマト、エリンギ――どれも丁寧に焼かれ、素材の甘みと香ばしさが際立つ。 目の前の鉄板で焼かれる音、香り、立ち上る湯気。五感で味わうひとときだ。 さらに驚くのは、その価格。 鉄板焼きという贅沢が、飲み放題までついてこのカジュアルさで楽しめる。 肩肘張らずに楽しめる鉄板焼き、まさに“ちょうどいい贅沢”。 ――高級ではないけれど、満足度は高い。 鉄板二百℃、ここは気軽に通いたくなる“平日のご褒美”だった。
2024/12訪問
1回
――まるで海の中でそのまま捌かれたかのような、透明な美しさ。 「いか清」函館。 観光地としても名高いが、味の本気度は観光客向けの枠をはるかに超えている。 目の前に運ばれてきたのは、透き通ったイカの活造り。 吸盤がまだ動いており、鮮度の高さに思わず息を呑む。 コリッとした歯ごたえ、噛むたびに広がるほのかな甘み。 透明だったイカが、徐々に白く変わっていくその変化もまた、味の一部に感じられる。 何もつけずとも美味しいが、ほんの少し醤油をつけると旨みがさらに引き立つ。 そして嬉しいのが、ゲソ部分を希望すれば唐揚げや塩焼きなどにしてくれること。 今回は唐揚げをチョイス。サクサクに揚がった衣の中から、弾力あるゲソが顔を出す。 これだけで酒が進む。 ――函館に来たら、必ずもう一度行きたい店。 イカの概念が一つ変わる、そんな体験だった。
2022/07訪問
1回
――鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てるソースの香りだけで、ご飯が食えそうな気がしてくる。 ここは両国「もへじ」。 月島流のもんじゃが楽しめる店――浅草流とは違い、具材を土手にせず混ぜ込んでから焼くスタイルだ。 今回はあえて、お好み焼きからスタート。 表面はしっかりカリッと焼かれ、中はふわふわ。 ソースとマヨネーズが溶け合って、青のりがふんわり香る。 鉄板の上で焼かれたソースの縁がパリパリになっていて、そこがまた旨い。 焦げ目の香ばしさと、中のしっとり感。このコントラストがクセになる。 じわじわと広がる甘辛ソースの香り、そして鉄板の熱。 食べているというより、鉄板を囲む“体験”をしている感じだ。 ――月島に行かなくても、ここで味わえる。 そう思うと、両国にもまた一つ、通いたくなる理由ができた気がした。 次は、王道のもんじゃを試してみよう。焼き方にもこだわりたくなる店だった。
2024/12訪問
1回
――ジンギスカンには、ちょっとだけうるさい自分がいる。 ここは「羊一」。 目の前に運ばれてきたラム肉は、きれいなサシとしっとりとした艶。 脂身も控えめで、いやな臭みもまるでない。 北海道出身の俺にとって、ジンギスカンはソウルフード。 だけどここは味付けじゃない。焼いてからタレにつけて食べるタイプ。 最初は「おや?」と思ったが……一口で納得した。 柔らかくて、甘みがあって、クセがまるでない。 だけど、ちゃんと羊の旨味は生きている。 専用のタレも濃すぎず、肉の味を邪魔しない絶妙なバランス。 鉄鍋でジュウジュウと焼きながら、口に運ぶたびに思った。 「これは、地元にあっても通ってたな」って。 ――“また来たい”と思えるジンギスカン。 それだけで、十分価値がある。 ここは確かに、羊の旨さを知っている店だった。