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夜の点数:4.6
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¥10,000~¥14,999 / 1人
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2025/10/13 更新
ネオンが入り交じる夜の新大久保。その雑踏の奥に、静かに佇む一軒がある——「伝統韓国料理 松屋」。副都心線・東新宿駅のA1出口から歩けば5分、新大久保駅からなら10分ほど。路地を抜け、薄暗い建物の1階に掲げられた看板が、ようやくその場所を示してくれる。 
僕たちが訪れた夜、店先には控えめな灯り。扉を開けると、韓国料理らしい香辛料の香りと、煮込みの湯気が混ざった濃やかな空気が待ち構えていた。店内は広々とした空間ではなく、むしろほどよい密度感があり、隣席の声も届く。だがそれが、気負わずに酒と料理を楽しむ雰囲気を醸す。
この店が創業したのは1989年。新大久保コリアンタウンにあって、韓国料理の老舗の一角を担ってきた店だという。 
食べログによれば、35年以上の歴史を持ち、こちらは日本で最初に「カムジャタン(豚と芋の鍋)」を広めた店とも称されている。 
だから、ここに来ること自体がひとつの伝承への歩みなのだ。
この夜、僕たちは会社の仲間を誘って、久々の打ち上げを兼ねた宴を開いた。まずはチョミソル(韓国伝統焼酎)で乾杯。透明な液体がグラスの中で揺れ、口に含むとすっと喉を通る。冷たさと辛味、ほのかな甘みが微妙に混ざり合い、体の芯からじんわりと温度を立ち上らせる。酒はこの宴の旗艦であり、料理をさらに引き立てる伴侶である。
そして、いよいよ名物・**カムジャタン(豚と芋の鍋)**が運ばれてきた。鍋は鉄の器で、赤味を帯びたスープがぐつぐつと音を立てている。湯気の中に豚の脂、ニンニク、唐辛子、出汁の匂いが折り重なって立ち上る。それを目にした瞬間、僕たちの胃袋は一斉に目覚めた。
まず豚肉を一片。割りばしを差し込む手に力はいらない。火の通り具合は絶妙で、表面は軽く炙られ、中はしっとりと柔らかい。脂身は甘みを湛えていて、決してくどくはない。スープをまとって、口の中にじんわり染み込む。次に芋をひと口。ほくほくとした食感に、スープの旨みがしっかり沁みていて、噛むごとに甘みと辛味が交互に広がる。この鍋の味は、辛味・塩味・旨味のバランスが高い次元で調和していた。
僕たちは無言になる瞬間を何度も迎えた。鍋を囲むこと自体が祝祭だ。黙々と飲み、食べ、酒を注ぎ合い、語らう。そしてまた鍋に戻る。鍋の中の具材は次第に少なくなり、スープだけが深い色味を残す。そのスープの一滴一滴を味わうように、僕たちはレンゲを動かした。
酒が進むにつれ、空になったチョミソルの瓶がテーブルの端に並び、空の皿が重なっていく。女将が時折こちらを見て微笑み、「足りてるか?」と声をかけてくれる。その声が、この店の懐深さを物語る。華やかさはない。だが、いつまでも続くような料理と時間の密度を持つ店だ。
閉店近く、店を後にすると、新大久保の夜風が頬を撫でた。街のネオンと雑踏はまだ息づいている。だが僕の余韻の中には、あの鍋の温もりと香りが残っていた。それは、ただ満腹になる以上のもの。仲間との時間が、味の記憶と重なって胸に刻まれている。
伝統韓国料理 松屋——ここには料理の「老舗感」だけではない。年を重ねた職人の手の眼差し、鍋の中に宿る旨味、静かに流れる時間。そして、それを共有する人との距離が、ほどよく近しい。新大久保という喧騒の中で、ひととき静かに身体と心を預けられる“韓国の家屋”のような場所である。