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昼の点数:4.5
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¥10,000~¥14,999 / 1人
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料理・味 -
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2025/12/02 更新
店に足を踏み入れた瞬間、どこか異国の小さな寺院に迷い込んだような、
静かで澄んだ空気が漂っていた。
油の熱気や香辛料の刺激は影を潜め、代わりに、野菜や香草の持つ柔らかな香りが、
ゆっくりと呼吸に馴染んでいく。
「中華の店に来たのに、身体が先に安心してしまう」
そんな不思議な感覚に包まれながら、席に着いた。
最初に運ばれてきたのは、まるで上質な海老の清炒めのような一皿だった。
白と橙が混ざり合う“エビらしき食材”が、アスパラやパプリカ、銀杏とともに
白い皿の上に静かに並んでいる。
見た目だけなら、どこに出しても立派な中華の海鮮料理だ。
箸を入れた瞬間、その“あり得なさ”に思わず笑ってしまった。
植物性で作られた代替食材なのに、噛んだときの弾力、
舌に沿って弾き返すような繊維の感じが、本物の海老と錯覚させるほどだ。
ただ、後味だけが違う。
海老特有の重さがまったくない。
旨味はあるのに、食べ終えたあとの胃が驚くほど軽い。
まるで料理そのものが、食べ手の身体を気遣っているような優しさを帯びていた。
続いて出されたのは、角煮のように見える大豆ミートの一皿。
彩鮮やかなトマトやパプリカ、大根おろし、紫蘇が織り成す
“和の気配をまとった中華”。
皿の上の食材たちは、それぞれが静かに自己主張しながらも、
ひとつの景色として調和していた。
ひと口食べると、そこでまた驚かされる。
大豆ミートとは思えないほどのコクと旨味。
ただ濃いだけではなく、香りと深みが何層にも重なるように広がっていく。
そこへ大根おろしの清涼感がすっと入り、紫蘇と香草が余韻を引き締める。
味が“縦”にも“横”にも伸びていくような感覚。
料理人の技巧というより、
“食材そのものの声を聞き、その最も美しい形を引き出した”
そんな一皿だった。
その合間に、特製のビーガンワインが注がれた。
透明度の高い赤紫の液体がグラスの中で揺れ、
香りはどこか柔らかく、ブドウの輪郭だけが静かに浮かび上がるようだった。
口に含むと、
重さはないのに芯がある。
余計な強さがなく、野菜との相性が驚くほど自然だ。
普段飲んでいるワインとは違う、
“料理の邪魔をしない存在”という立ち位置が、逆に新鮮だった。
料理を一つひとつ味わうたびに、
「中華料理とはこうあるべきだ」という自分の中の固定観念が
少しずつ剥がれ落ちていくようだった。
重い、油っぽい、翌朝に響く――
その常識が、この店では意味をなさない。
皿が下げられ、最後にグラスの残りを飲み干した頃、
身体のどこにも重さがなく、
むしろ深く整った静けさだけが残っていた。
まるで旅先で、偶然立ち寄った寺院で食べた精進料理のように、
料理が心まで澄ませていく。
店を出ると、夜風が頬をかすめ、
街の明かりがゆっくりと戻ってくる。
その光景を眺めながら思う。
――ビーガンだからではない。
――中華だからでもない。
ただ“美味しいものとは、こういうものだ”と、
静かに教えてくれる店だった。
Vegan Veggie 嫦娥。
中華の美しさを、別の角度から照らし出す一軒だ。