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1～1 件を表示 ／ 全 1 件
上高地その他/そば
3.07
14人
夜-
昼￥1,000～￥1,999
昼の点数：3.3
暖簾をくぐった瞬間、ふわりと鼻先をくすぐったのは、だしの香りだった。派手さのない佇まい――「食事処 しもまき」。その名も知らぬ町角に、ぽつんと灯る小さな明かりのような食堂だった。 その昼、俺たちは二人。仕事帰りというより、午前のひと仕事を終えたあと、腹の虫に背中を押されるようにして歩いていた。炎天下を避けて、日陰を縫うように歩いていたとき、ふと目についたその店に吸い寄せられるように入った。 席に着くと、年季の入った木のテーブルが妙にしっくりくる。壁に貼られた手書きのメニュー、その端に「山菜そば」の文字を見つけたとき、妙に胸が高鳴った。注文を告げると、女将が一言、「はいよ」と、短く優しい声を返した。 やがて、運ばれてきた丼。透明に澄んだつゆの上に、山菜が無造作に、けれどどこか整然と盛られていた。椎茸、ぜんまい、わらび――その一つひとつが、まるで山の息づかいをそのまま閉じ込めたかのようだった。 ひと口すすると、体の奥が静かに解けてゆくようだった。塩梅よく効いた出汁が、喉を過ぎ、胃へと届く。その瞬間、張りつめていた何かが、すっとほどけていった。 「……うまいな」と相棒が呟いた。俺もただ黙って頷いた。 騒がしさも、飾りも、なにもない。ただ、ひと椀の山菜そばに、山と、時間と、人の手が宿っている。そんな気がした。 「食事処 しもまき」。またいつか、あの静かな暖簾をくぐりたくなる昼が、きっと来る気がしている。
2025/07訪問
1回
評価順
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暖簾をくぐった瞬間、ふわりと鼻先をくすぐったのは、だしの香りだった。派手さのない佇まい――「食事処 しもまき」。その名も知らぬ町角に、ぽつんと灯る小さな明かりのような食堂だった。 その昼、俺たちは二人。仕事帰りというより、午前のひと仕事を終えたあと、腹の虫に背中を押されるようにして歩いていた。炎天下を避けて、日陰を縫うように歩いていたとき、ふと目についたその店に吸い寄せられるように入った。 席に着くと、年季の入った木のテーブルが妙にしっくりくる。壁に貼られた手書きのメニュー、その端に「山菜そば」の文字を見つけたとき、妙に胸が高鳴った。注文を告げると、女将が一言、「はいよ」と、短く優しい声を返した。 やがて、運ばれてきた丼。透明に澄んだつゆの上に、山菜が無造作に、けれどどこか整然と盛られていた。椎茸、ぜんまい、わらび――その一つひとつが、まるで山の息づかいをそのまま閉じ込めたかのようだった。 ひと口すすると、体の奥が静かに解けてゆくようだった。塩梅よく効いた出汁が、喉を過ぎ、胃へと届く。その瞬間、張りつめていた何かが、すっとほどけていった。 「……うまいな」と相棒が呟いた。俺もただ黙って頷いた。 騒がしさも、飾りも、なにもない。ただ、ひと椀の山菜そばに、山と、時間と、人の手が宿っている。そんな気がした。 「食事処 しもまき」。またいつか、あの静かな暖簾をくぐりたくなる昼が、きっと来る気がしている。