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海沿いのドライブをしていると、不意に現れる看板に「ミルキーウェイ」と書かれていた。その名の響きにどこか旅情をくすぐられ、ハンドルを切って店先に車を停めた。潮風に混じってただようラーメンの香りが、空腹の僕を吸い寄せるように店内へと導いていく。 暖簾をくぐると、窓一面に広がるのは紺碧の海。テーブルに腰を下ろすと、視線の先には波が白く砕ける光景が広がり、店の静けさと相まって、まるで自分だけがこの海を独占しているような錯覚に陥る。そんな絶景を前にして選んだのは、迷わず「岩のりラーメン」だった。 丼が運ばれてきた瞬間、視界が緑に染まった。これでもかと盛られた岩のりが、スープの上でこんもりと山を成している。その佇まいは、まるで荒波に打たれた磯の風景をそのまま器に閉じ込めたかのようだった。箸で岩のりをそっとすくいあげると、磯の香りが鼻をつき、記憶の奥底にしまい込んでいた夏の海水浴の記憶を呼び覚ます。 スープを一口すすると、醤油の奥に隠れた出汁の柔らかな旨みが広がり、そこに岩のりが溶け込み、海の滋味を一層引き立てる。塩辛さではなく、自然な磯の香味。舌の上に残る余韻は、まさに海そのものを飲み込んだかのような深みだった。麺をすするたび、岩のりが絡みつき、しなやかな小麦の甘みと磯の香りが混ざり合う。これほど調和のとれた一杯に出会ったのは、いつ以来だろうか。 岩のりは噛むごとにじわりと旨みがにじみ出て、スープとの一体感を増していく。具材の一つとしてではなく、むしろ主役として君臨している。チャーシューやメンマも確かに存在しているのだが、この一杯においては岩のりが全てを支配していると言っていい。 窓の外に目をやると、陽光に照らされた海面がキラキラと光を跳ね返している。ラーメンの熱気に頬を火照らせながら、この光景を眺めると、不思議と心がほどけていくのを感じる。海を見ながらラーメンをすするという行為が、ただの食事を越え、旅のハイライトに変わっていく。 潮騒がBGMとなり、口の中では磯の香りが響きわたる。ふと丼を覗き込めば、最後の一滴まで残したくない衝動に駆られる。気がつけばレンゲは止まらず、スープを飲み干していた。器の底に残った小さな岩のりの欠片までもが、まるで海からの贈り物のように尊く感じられた。 店を出ると、目の前には果てしなく広がる水平線。胃の奥にじんわりと広がる満足感と、潮風が頬を撫でる感覚が重なり合い、この日の記憶を深く刻みつけてくれる。 「ミルキーウェイ」という名の店で食べた岩のりラーメン。それはただの一杯ではなく、海と共に味わう壮大な物語だった。食の記憶が旅の記憶と一つになり、僕の心に銀河のような軌跡を描いている。 ──この一杯に出会うために、再びこの海沿いを訪れたくなる。そう思わせる力が、この岩のりラーメンには確かに宿っていた。
2025/08訪問
1回
海沿いを走っていると、道の脇に小さな看板が目に入った。「リーフキッチン」とある。特別に目立つわけではない、控えめな佇まいのその店名が、なぜか旅人の足を止める魔力を持っていた。車を降りると、潮の香りが強く鼻腔をつき、遠くに広がる水平線が真っすぐに僕を誘う。扉を押し開けると、そこはまるで海と空を切り取ったような、光に満ちたカフェだった。 窓際の席に腰を下ろす。視界いっぱいに広がるのは、どこまでも続く青。波のきらめきが、まるで時間の流れをゆっくりと解きほぐすかのように輝いていた。そんな空間で注文したのは、ソフトクリームとほうじ茶カフェラテ。甘美と渋み、その両極を併せ持つ組み合わせに、この店のセンスが透けて見える。 まず運ばれてきたソフトクリーム。その姿は、白銀の塔を思わせる端正なフォルム。ひと口すくった瞬間、舌の上で滑らかに溶け、濃厚な乳の甘みが全身に広がっていく。単なる甘さではない、牧場の新鮮なミルクを思わせるピュアなコク。夏の陽射しで火照った体に、それはまさに救いのように沁み渡る。窓の外に揺れる水平線の景色と、この冷たさが重なり合うと、ただのソフトクリームが一瞬にして詩的な体験に変わる。 続いて口にしたのは、ほうじ茶カフェラテ。カップから立ちのぼる香ばしい香りが鼻をくすぐる。ほうじ茶特有の焙煎の深みと、エスプレッソの苦味が絶妙に溶け合い、そこにミルクの柔らかさが寄り添っている。ひと口飲めば、心の奥底に静かな温もりが広がっていく。甘やかさではなく、凛とした余韻。それは海の静けさと響き合い、心をゆるやかに揺らす波そのものだった。 ソフトクリームとほうじ茶カフェラテ、冷たさと温もり。この二つを交互に味わうたび、味覚のコントラストが鮮明に浮かび上がる。甘みが全身を包み込み、香ばしさが心を引き締める。その繰り返しは、まるで潮の満ち引きのようで、やがて僕の内側に穏やかなリズムを刻んでいった。 窓越しに眺める水平線は、刻一刻と表情を変えていく。光の加減で青は濃淡を変え、時折吹く風が海面に模様を描く。その景色を前にして口にする甘味と香りは、単なる飲食を超え、五感を解き放つ旅の一場面となる。リーフキッチンが提供しているのは、もはや「メニュー」というより「風景と一体になった体験」そのものなのだ。 気がつけば、ソフトクリームは跡形もなく消え、ラテのカップは温もりだけを残して空になっていた。だが不思議と寂しさはない。むしろ心は満たされ、景色と一緒に味わった時間が深く刻み込まれている。 店を出ると、潮風が頬を撫でた。その瞬間、胸の奥に湧き上がったのは「また来たい」という衝動だった。ただ甘いものを食べに、ただカフェラテを飲みに――ではない。海と空とともに流れる時間を、再びこの場所で味わうために。 リーフキッチン。ここで過ごしたひとときは、旅の途中に差し込む柔らかな光のようだった。食べること、飲むこと、それが風景と溶け合ったとき、記憶は銀河のように無限に広がる。その体験を僕は、きっと何度も思い返すことになるだろう。 ──水平線を眺めながら口にしたソフトクリームとほうじ茶カフェラテ。それはまさしく、海と時間を味わうための最良の組み合わせだった。