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沼津の「ココス インター店」。正直に言って、ここは思っていた以上に“使える”場所だった。 この日、朝から東名を走って移動しっぱなしで、やっとの思いでたどり着いた沼津。時間は午後2時過ぎ。小腹も空いてきたし、同行者との打ち合わせの場も必要だし、なにより静かで気を張らずに話せる場所が欲しかった。そんなときにふと思い出したのが、インター近くにあったこの「ココス」だった。 ファミレスというと、子ども連れが多かったり、学生がワイワイしてたりと、落ち着いて話すには不向きな印象が強い。でも、このココスは違った。平日ということもあったのか、店内は驚くほど静かで、柔らかい照明とソファ席がなんとも心地よい。まるで「どうぞ、ここでしっかり話し合ってください」と言われているような錯覚すら覚える。 案内された席は、通路から少し奥まった半個室のようなボックス席。これが絶妙だった。隣の会話も気にならないし、自分たちの声も適度に吸収される。テーブルの広さも充分で、ノートPCを広げても余裕があったし、資料を並べても雑然とせず、すんなりと作業に入れた。 最初に頼んだのは、ドリンクバー。ここはビジネスファミレス利用者のマストアイテム。コーヒー、紅茶、炭酸、気分に合わせて変えられるのがありがたい。特にアイスコーヒーは苦味がしっかりしていて、頭を切り替えるのにちょうど良かった。何度かお代わりして、カップを手に話の展開を練っていく。自然と会話が進み、アイデアが湧いてくる。不思議だが、そういう空間だった。 料理はパスタを選んだ。重すぎず、軽すぎず、打ち合わせ中にフォークをくるくる巻いて食べるにはちょうど良い。そして、熱々でちゃんと美味しかった。ファミレスだからと侮っていた自分がちょっと恥ずかしくなった。 何より印象に残ったのは、スタッフの対応。派手じゃないけど、目配りが行き届いている。空いた皿の片付けも、ドリンクの補充も、絶妙なタイミング。こちらがビジネスの話に集中しているのを察してか、必要以上に話しかけることはないけれど、ちゃんと気にかけてくれている感じがした。あれは、なかなかできることじゃない。 話し合いが終わって、ふと時計を見ると、もう2時間半以上も経っていた。まったくそんな時間が過ぎたようには感じなかった。居心地の良さに、すっかり時間の感覚を忘れていたのだと思う。こんなにも落ち着いて話ができるファミレスがあったなんて、と少し驚いた自分がいた。 帰り際、レジで「ありがとうございました」と笑顔で見送られた時、思わず心の中で「いや、こっちこそありがとうだよ」とつぶやいていた。 次に沼津で打ち合わせをするときも、またこのココスを選ぶだろう。いや、きっと選ぶ。ここには、ただの食事以上の価値がある。ビジネスとリラックス、そのどちらも叶えてくれる、ちょうどいい“居場所”だった。
1回
浜松の夜は、湿気を帯びながらもどこか開放的な空気を漂わせていた。新幹線口を抜け、駅前の雑踏に身を沈めるようにして歩いた先に、その店はあった。看板には力強く「ごっつぁんです」と書かれていた。店名に似つかわしく、まるで相撲取りが肩で風を切って出迎えてくれるような、そんな威勢のいい佇まいだった。 のれんをくぐった瞬間、店内の熱気に包まれる。カウンターの奥では焼き台の煙が立ち上り、ホールを駆け回る店員の威勢の良さに、こちらも自然と声が大きくなる。そうだ、こういうざわめきの中で、久しぶりの仲間と杯を交わすのは、何よりの酒の肴だ。 テーブルにはすぐにジョッキが並び、ビールの泡が弾けた。乾杯の音が鳴ると、会話が一気にほどける。誰かが冗談を飛ばし、誰かがそれに大笑いする。そのやりとりの向こうで、焼き鳥がじゅうじゅうと音を立てる。塩がきいたぼんじり、タレが絡んだねぎま。頬張るたびに、浜松の夜が濃くなっていく気がした。 ふと耳を澄ますと、隣のテーブルからも笑い声が聞こえる。知らぬ誰かと肩寄せ合いながら、同じ時間を分かち合う。そこに理由も肩書きもいらない。ただ美味い肴と、熱い言葉があれば、それでいい。 焼酎のグラスを傾けながら、仲間のひとりがぽつりとこぼした。「また来たいな、こういう店」。その言葉に、みんなが黙って頷いた。 終電間際、表に出ると、空気は少しだけ涼しくなっていた。店の灯りが、まるで「また来いよ」と言わんばかりに、駅前の路地をほのかに照らしていた。
2025/07訪問
1回
帰り道の高速道路。西に傾いた陽が、リアウィンドウから淡く車内を照らしていた。 ラジオは流れていたが、誰も聴いていなかった。運転席の男がハンドルを握ったまま、ぽつりと言った。 「ちょっと、何か食ってくか」 その一言が、疲れた体の中に静かに響いた。助手席の男が頷き、俺は後部座席から景色を見つめながら、なんとなく目を閉じた。午後と夕暮れの境い目を漂うようにして、車は走る。 次のパーキングエリア。そこに、俺たちはふらりと吸い込まれるように入った。 広い駐車スペースには、県外ナンバーの車が並び、家族連れや単身の男たちが行き交っていた。 そして、その一角に、白地に黒文字で「らぁ麺モリズミ」と書かれた暖簾が風に揺れていた。 ただのフードコートではない。そこだけが異質な空気を纏っていた。 「ここにしよう」 誰ともなく言った。 カウンター席に三人並ぶ。注文はそれぞれ違ったが、俺は迷わず、特製ラーメンを頼んだ。 店内は無駄な装飾のない、静謐な空間だった。厨房の中では、若い男が黙々と仕事をしていた。 やがて運ばれてきた一杯のラーメン。 澄んだスープの表面に浮かぶ油の粒が、まるで水面に反射する月光のように揺れていた。 箸で麺をすくい、静かに口に運ぶ。 ──これは、うまい。 節系の香りが鼻を抜け、舌にじわりと広がる旨味。動物系のコクと魚介の繊細な出汁が、互いを邪魔せず、調和している。 麺は中細のストレート。コシがありながら喉越しは軽やか。 チャーシューは噛むごとに脂がとろけ、炙った香ばしさがほんのりと残る。 目の前の丼に、静かに没入していく。 まるで誰かの語りをじっと聞いているような、そんな感覚だった。 「……これは、なかなかだな」 隣の男が呟いた。 俺は答えなかった。ただ、心の中で、そうだと強く頷いていた。 外の喧騒も、高速のエンジン音も、この一杯の前では意味を成さない。 日常と旅路の間にある、ほんの一瞬の“静けさ”が、このラーメンにはあった。 食べ終わったあと、誰もスマホを取り出すことはなかった。 店を出て、車に乗り込んでも、しばらくの間、三人とも口を閉ざしていた。 エンジンがかかり、再び走り出す車内に、少し遅れてラジオの音が戻ってくる。 しかし、それももう耳には入らなかった。 思えば、旅というものは、目的地だけでは成り立たない。 こうして、偶然立ち寄った場所で出会う、一杯のラーメン。その味、その時間、その沈黙。 それこそが、旅の“芯”なのかもしれない。 後部座席の窓の外に、赤く染まった空が広がっていた。 俺は目を細めながら、それを見つめる。 「また、来てもいいな」 心の中で、誰に言うでもなく、そんな言葉を呟いた。