senpumさんの行った(口コミ)お店一覧

レビュアーのカバー画像

都市を歩き、皿を旅する。

メッセージを送る

行ったお店

「富山県」で検索しました。

これらの口コミは、訪問した当時の主観的なご意見・ご感想です。

最新の情報とは異なる可能性がありますので、お店の方にご確認ください。詳しくはこちら

11 件を表示 1

万葉の里 高岡

西高岡、高岡やぶなみ/レストラン、カフェ、コロッケ

3.35

154

~¥999

~¥999

定休日
-サイトの性質上、店舗情報の正確性は保証されません

昼の点数:4.0

旅の途中で立ち寄った「万葉の里 高岡」。北陸道を走り抜ける車の窓から差し込む光は、どこか柔らかく、夏の名残と秋の予兆が入り混じるような曖昧な気配を孕んでいた。目的地に向かう途中、ふと目に入った道の駅の看板に導かれるようにハンドルを切ったのは、偶然ではなく必然だったのかもしれない。そこに待っていたのは、ただの一杯のラーメンではなく、人生の記憶に深く刻み込まれる“黒の一杯”だった。 富山ブラック。名前だけは耳にしたことがあった。だが、観光地のご当地ラーメンにありがちな、話題先行の一品に過ぎないのではないか――正直、そんな先入観を持っていた。しかし、その一杯を前にした瞬間、考えは一変する。漆黒のスープはただ濃いだけではない。深い艶をたたえ、丼の中で静かに揺れるその姿は、まるで夜の日本海を覗き込むかのような神秘を感じさせた。 レンゲを沈め、口に運ぶ。第一撃で、身体が震えた。濃口醤油の鋭さが舌を打ち、続いて広がるのは幾重にも折り重なる旨味の層だ。しょっぱいのに、もっと飲みたくなる。塩辛さに隠された甘みとコクが、じわじわと口内を支配し、喉を駆け抜けていく。まるで力強い演奏の中に繊細な旋律を潜ませる名匠の音楽のように、一口ごとに新しい表情を見せるのだ。気づけば、レンゲを持つ手が止まらない。 そして麺。中太でしっかりとした歯応えがあり、このスープに負けていない。噛むたびに小麦の香りが立ち、漆黒のスープを纏いながら喉の奥へ消えていく。麺をすする音が、まるで心臓の鼓動のように、自分自身を覚醒させていく。濃厚なはずなのに、次の一口を欲してしまう。そのリズムが止められない。 トッピングのチャーシュー。これがまた圧巻だ。肉厚でありながら柔らかく、歯を立てると繊維がほろりとほどけ、スープを吸い込んだ肉の旨味が口内に溢れる。黒胡椒の辛みがその旨味をさらに引き立てる。ラーメンに添えられた白飯を思わず追加したくなる衝動を、必死に抑える。だが、次に来た者にはぜひ伝えたい。このラーメンは、白飯と共に味わうべきだと。 食べ進めるうちに、奇妙な感覚に襲われる。普通なら塩分が強すぎて途中で飽きるはずなのに、むしろ終わりが近づくほどに名残惜しくなるのだ。残すつもりなど毛頭なかったが、それでも自分が最後の一滴までスープを飲み干してしまうとは思っていなかった。丼の底が見えた瞬間、妙な達成感と、少しの寂しさが押し寄せた。まるで長い旅を終えた後のように。 店を出るとき、口の中にまだ残る余韻に気づいた。しょっぱさでも苦味でもない。あの一杯にしかない、複雑で濃密な後味が、自分の舌に、胃袋に、そして記憶に刻み込まれている。旅先で偶然出会ったはずのラーメンが、まるで必然の出会いだったかのように思えるのは、きっとそのためだ。 この日の「万葉の里 高岡」の富山ブラックは、ただの食事ではなかった。生きてきた中で“最高”と断言できる一杯だった。ラーメンという枠を超えて、自分の旅路の風景のひとつとして、永遠に刻まれることだろう。

2025/08訪問

1回

ページの先頭へ