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宮崎県の中心市街と呼べるエリアにひっそりと佇む「鮨ひとつ」。その名のとおり、“ひとつひとつ”のお寿司に丁寧な仕事が施された、まさに職人の粋を感じられる隠れ家のようなお店です。外観は控えめで、うっかりすると通り過ぎてしまいそうですが、一歩暖簾をくぐれば、そこには温もりあふれる和の空間が広がっています。赤レンガ調の壁や、温かな木目のカウンター、間接照明の柔らかい灯りが優しく包み込む店内は、初めて訪れる方でも緊張せずに過ごせる心地よさが漂っていました。
12時開店で、店が空いたのは11時59分でした。12時ぴったりの到着が良いと思われます。
席数はカウンターが中心で10席。目の前で大将が一貫一貫、魚と向き合いながら仕上げていく姿を間近で見ることができ、そのライブ感もまたこのお店の醍醐味の一つ。大将は物腰が柔らかく、会話も押しつけがましくなく、ときに静かに、ときに丁寧に魚の背景や処理の仕方を教えてくださる姿がとても印象的でした。
今回いただいたのは「おまかせコース 9,900円」と「日本酒5種 4,950円」のセット。結論から言えば、これだけの質と量、そして丁寧な仕事が詰まってこの価格というのは、都内の同クオリティのお寿司屋さんと比べても破格と言ってよいほど。お寿司はもちろんのこと、日本酒のチョイスや提供の仕方にも細やかなこだわりが感じられ、通えば通うほど魅力が深まるようなお店だと感じました。
時たま出てくる方言も心地良い。
まず一貫目は 穴子。口に入れた瞬間にとろける柔らかさで、ふわふわとした身に程よい甘みのタレが絡み、絶妙なバランス。蒸し加減がとても良く、くどさは一切なく、まるで最中のように軽やかにふわっと消えていく印象。最初からこのクオリティで、思わず背筋が伸びるような感覚になりました。
続いては サワラ。こちらはスルメと昆布の松前漬けで漬けられているという、なんとも手間のかかった一貫。漬けられていることで生臭さは一切なく、旨味が何層にも重なって深い味わい。香りにスルメのニュアンスが加わり、噛み締めるたびに旨みがじゅわっと染み出してくる感覚。まさに“仕事をされた”お鮨の真髄を味わいました。
三貫目は 太めのコウイカ。見た目からして立派な厚みで、いただくとねっとりと舌に絡みつくような食感。イカ本来の甘みが濃く、包丁の細やかな入れ方によって歯切れもよく、見た目以上に繊細な口当たり。ここまで厚みのあるコウイカでありながら、重くないのは技術のなせる業ですね。
四貫目は 壱岐のヨコワ中トロ。美しい艶を放つ赤身は、口に含んだ瞬間に脂がすっと溶けて、赤身の力強さと中トロのなめらかさが同居する極上の味わい。シャリとの一体感も素晴らしく、ほんのり温かいシャリがネタの旨みを引き立てていました。壱岐産というのも珍しく、産地にまでこだわる大将の姿勢が伝わります。
五貫目は 石垣鯛。この時期は甲殻類ではなく海藻を食べているため、香りが良く味も清らか。まさに“旬”を感じる一貫で、春の海の澄んだ空気をそのまま味わうような清涼感のあるお寿司でした。皮目の処理も美しく、やさしくほぐれる身の繊細さが際立っていました。
六貫目は 日南のあかすえび。深いところに生息するため水分が多いとのことですが、昆布で締めることにより程よく脱水されており、ぷりっとした食感と海老特有の甘みが引き出されていました。市場にもなかなか出回らない希少な存在で、専業漁師がいないため「たまたま仕入れられた」とのこと。この偶然がもたらした一貫に、運命的な喜びを感じました。たまたま仕入れられるルートを持っているのが地元に根づいていて心に染みます。
七貫目は 有明の平貝。見た目からして艶やかで、かすかな香ばしさとともに平貝特有の歯ごたえが楽しめました。とにかく繊細な甘みと、シャリとの一体感が素晴らしく、食感のコントラストが心地よい。大きさもちょうどよく、品のある存在感でした。
八貫目は ヒラメ。しっかりとした身の質感と、噛んだときに広がる旨みが印象的。薄く切られているのに厚みを感じさせるのは、きっと熟成の具合と切りつけの巧さゆえ。シャリとのバランスも抜群で、さっぱりした味の中にも奥行きがありました。
九貫目は カツオ。宮崎ならではの甘めの醤油で漬けられており、上には粒マスタードがちょこんと添えられていました。この意外な組み合わせが驚くほど調和していて、カツオの鉄っぽさが一切なく、香り高く、まるでタパスのようなニュアンスも。日本酒との相性も抜群でしたが、赤ワインにも合いそう…そんな新しい発見のある一貫でした。
十貫目は 小肌(昆布のせ)。銀色に輝く身が美しく、酢締めの加減も絶妙で、酢の角がなくまろやか。昆布が乗っていることで旨味がさらに引き立ち、塩味とのバランスも絶妙でした。小肌好きにはたまらない仕上がりです。
十一貫目は 生ほっき貝。片面を炭でガリっと炙ってあり、香ばしさと甘さが同居した、印象的な一貫。食感はしっかりしているのにどこか滑らかで、香ばしい炭の香りが鼻を抜けるたびに幸福感に包まれます。
十二貫目は 八女の抹茶の卵焼き。一見シンプルですが、食べると抹茶のほろ苦さと卵の甘みが絶妙に絡み合い、まるで和菓子をいただいているような感覚。お寿司の流れを上品に締めくくる、大人のための卵焼きでした。
十三貫目、ラストは 霧島のうなぎ。うなぎですが、こちらは〆の一貫にふさわしい、香ばしさと柔らかさが極まった逸品。身は厚く、脂がじんわりと広がり、食後の余韻にぴったりでした。
お料理一つひとつにしっかりとした背景と意味があり、それを言葉にせずともお寿司を通して伝えてくれる大将の想いが、じわじわと胸に沁みてきました。量、質、空間、すべてがバランスよく整っていて、居心地の良さは抜群。女性一人でも安心して過ごせる雰囲気ですし、大切な人と過ごす特別な夜にもぴったりです。
宮崎で、記憶に残るお寿司体験をしたいなら、迷わず「鮨ひとつ」へ。訪れるたびに新しい発見がありそうで、これからも何度でも通いたくなる、そんな素敵なお店です!
男女2人で年間1000件ほど外食(カフェやお持ち帰り等含む)しながらレポしています。
【基準】
★5.0 コスパや味が最高ランク
★4.5 極めて感動した
★4.0 光るものがある
★3.5 価格に見合った満足、これからにも期待
★3.0 特筆すべき事がない(私達には合わない)
★3.0未満 私には合わないし、お勧めしない
味はもちろん、コスパにぶっちぎったお店なども本音でレビューしています。
来店前に知っておくと為になる情報があれば書いているので参考にどうぞ。