2回
2025/09 訪問
鴨の余韻がふわりと残る一杯 — 八王子「中華そば 鴨福」の『塩そば』
東京・八王子に佇む、隠れ家のようなラーメン店「中華そば 鴨福」。
店内ではJAZZが静かに流れ、訪れただけで “ただならぬこだわり” が伝わってくる空間。
今回は、その期待を胸に『中華そば 塩』をいただきました。
お店はJR八王子駅北口から徒歩14分ほど。
センスある佇まいで、レトロな和モダン風の内装も相まって、ラーメン屋という枠を超えた “食体験” の場といった印象です。
澄んだ黄金スープに浮かぶのは、しなやかな手揉み麺。
青菜、貝割れ、葱の輪切りが彩りを添え、別皿には三種のチャーシュー、生卵黄、タレ、塩が並びます。
「このままでも、味変してもどうぞ」という心配りが嬉しい。
スープは、塩ダレの輪郭をやわらかく包み込みながら、“鴨だし” の豊かな旨みが芯にある。
魚貝と乾物の出汁が静かに支え、鴨が主役でありながら決して前に出すぎず、全体の調和を感じさせます。
麺は自家製の手揉み。
レンゲで掬うたび、スープの香りがふっと立ち、持ち上げた麺はしっかりとスープを纏いながら、噛むほどに心地よい弾力。
スープとの一体感が見事でした。
トッピングの別皿も印象的。
鴨のロース、豚チャーシュー、鶏チャーシュー。
三種それぞれの個性が際立ち、塩や卵黄を添えながら味の変化を楽しめます。
「ただのラーメンではない一杯」。
入口で感じた “ただならぬこだわり” が、食べ進めるほどに実感へと変わっていきました。
時間に余裕を持って臨みたい、八王子の名店です。
ごちそうさまでした。
2025/11/04 更新
八王子の住宅街に,行列を引き寄せる「中華そば 鴨福」がある.
ラーメンTOKYO百名店2024にも選ばれた,鴨だし中華そばの名店.
カウンターに腰を下ろすと,まず器の意匠に目を奪われる.
藍の筆致が走る丼に,鴨だしと胡麻の乳化したスープ,そこへ真紅の辣油が滲み込み,表面に複雑なマーブル模様をつくっている.
中央には,炒めた挽き肉に青菜,穂先メンマ,ラディッシュとカイワレが積層し,小さな庭園のように立ち上がる——ほんとに美しい.
ひと口すすれば,ベースにある鴨だしの厚みがすぐにわかる.
動物系の旨味の下層に,羅臼昆布や煮干し系のだしが静かに流れ,その上を胡麻のコクと辣油の辛味が滑っていく.
辛さはストレートに来るというより,鴨脂と胡麻の甘みを一度抱き込んでから,舌の奥でじわっと開いていくタイプ.
山椒を強めにしてもらえば,痺れのベクトルがもう一段立ち上がる.
麺は,もち姫小麦とセモリナ粉を合わせた平打ちの自家製麺.
幅広のリボンがスープの粘性をまとい,上下の面で胡麻と辣油をすくい上げる.
噛むごとに,鴨だしと小麦の甘さが同時にほどけていく感じが面白い.挽き肉や青菜と一緒に頬張れば,テクスチャーのコントラストが一気に増幅される.
別皿で供される肉の盛り合わせも,この店らしさの象徴だ.炭火の香りをまとった鴨ロースに,異なる火入れの豚のピースを添え,塩,山葵,マスタード,卵黄,醤油ダレで自在に組み合わせていく.
一口をそのまま頬張り,次の一口を担々スープに沈めると,肉の脂とスープの辛味が干渉し合い,味の位相が少しずつずれていく.
鴨の輪郭を,胡麻と辣油で再構成した担々麺.
中華そばの枠組みを保ちながら,旨味と辛味のバランスを極端なところまで追い込んだ一杯だと思う.
八王子で“鴨の現在地”を確かめたいなら,この担々麺を基準点にしてもよいかもしれない.
ごちそうさまでした.