1回
2025/07 訪問
彫刻的な配置がもたらす新しいラーメン体験——南船場「鶏Soba 座銀 にぼし店」で味わう『にぼし吟醸nigori＋肉寿司』
2025/12/10 更新
ランキングと口コミで探せるグルメサイト
グルメキュレーションサイト
毎日の外食が楽しくなるグルメ情報
南船場の裏通りで，ひときわ静かな異物感を放つ「鶏Soba 座銀 にぼし店」．
扉を開けた瞬間から，この店の“にぼし”は伝統ではなく概念だと悟る．
構造としてのスープ，物質としてのトッピングが，どれも不要な説明を排して迫ってくる．
今回いただいた『にぼし吟醸nigori』は，にぼしを乳化の極限まで追い込んだ“にごり”の世界．
表層に浮かぶ微細な油滴は光を乱反射し，粘度の高さが視覚だけで伝わってくる．
レンゲを沈めれば，とろみの抵抗が手に返り，まるでスープそのものが呼吸しているかのような質量感を持つ．
これは出汁ではなく“抽出の彫刻”だと感じた．
象徴的なのは，器から立ち上がるように配置された牛蒡チップ．
細長く，ひねりを帯び，熱と乾燥の軌跡がそのまま形になったような存在．
にぼしの濃度と衝突しながら，香りの軸を縦に伸ばしていく．
まさに，常識に回収される前の“食のオブジェクト”．
中央には水菜，白ねぎ，紫玉ねぎが控えめに浮かび，濃度の森にわずかな通気口をつくる．
そのまわりを，しっとり低温調理のチャーシューが円弧を描いて包む．
味よりもまず“質感の緩急”で語ってくる構成．
そして別皿の肉寿司．
噛む前からすでに“情報量が過剰”で，肉の甘みが舌でほどけていく．
座銀の一杯は，旨味を足し算で固めるのではなく，食材それぞれの“存在の仕方”をずらしながら，どこまで料理を構築しうるかという実験に近いと感じました．
境界線を越えた濃度と，彫刻的な配置がもたらす新しいラーメン体験．
良い意味で期待を裏切るような一杯に出会ってしまった．
ごちそうさまでした．