26回
2023/02 訪問
冬の鰻がおいしい! それも1月末から2月末までの鰻がじっとして動かず、餌喰いをせず、体内の脂肪を燃焼しながら枯れて香りが強くなった頃の "細口" 鰻が好き。
書き溜めた過去レビューを公開します。
"食" は人夫々好みの問題であり紛議する程のことではありません。
私は、以前から「冬の鰻は香りが良く、おいしい!」と感じ、肉厚で脂ギトギトの肌理の粗い白身魚の蒲焼みたいな鰻の蒲焼を好まないだけです。
親方曰く「細口だけ揃えようと思うと仕入れにバラツキが出てしまうので現在はひとつ上の細口を使っっています。それ以上太くなると逆に仕入れ値は安くなります。」とのこと。
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私は見たことも読んだこともないのですが、グルメアニメ「美味しんぼ」に登場する海原雄山は、北大路魯山人がモデルだそうで彼を高評価する食べログレビュアーは多いとのことです。私は学生の頃から無機化学としての陶磁器の製作と芸術品としての鑑賞と蒐集を趣味の一つとして多くのことを学びました。魯山人が絵付けだけをして施釉から窯焚きまで陶工に委ねた作品も知っています。それは稚拙で傲岸不遜の何ものでもありません。生涯に六度結婚するも全て破綻してしまうという人間性も好きになれません。
本屋や公設図書館へ行くと時間の許す限り隈無く見て歩くのが好きです。棚から興味のある本を取り出し汚さないように注意を払いパラパラと捲っては元に収めるのですが、文化学園文化出版局 発行「魯山人の料理王国」を立ち読みしていると「鰻の話」という項があり、自分と同じことを考えていることが分かり、上製本の単行本を購入しました。
「鰻はいつ頃がほんとうにうまいかと言うと、およそ暑さとは対照的な一月寒中の頃のようである。」と書かれており、私の考えと同じでした。
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割き〜串打ち〜白焼〜蒸し〜たれ浸し〜本焼き の行程を経る間(ま) を楽しむ鰻の蒲焼は重箱の蓋を取ると同時に立ち上る鼻腔を擽る香りによっって箸が止まらなくなるものですが、まずは眼福を楽しみゆっくり右下の蒲焼から食べ始めることが大事です。決して箸で重箱の底をコツコツと突付く音を立ててはいけません。この時、ご飯と一緒に頬張ると『溢してはいけない』と指先に緊張感が生まれるので香りを楽しみながら蒲焼とご飯は別々に食べたほうがおいしさをより深く得ることができます。理性のある人間は腹を空かした獣じゃないので「もう少しゆっくり味わって食べたほうがいいですよ。」と言いたくなります。
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文化学園文化出版局 発行「魯山人の料理王国」より転載
イワシごま酢漬(九十九里産) で加賀国 菊姫のぬる燗をやる
背鰭串
香り良く酒が蒸発する
白焼「ぬる燗 もう一本お願いします」
肌理の細かさが良く分かる
妻の うな重 (ろ、ひと串)
蓋を取って眼福
私の うな重 (は、ひと串半) 鰻の香りの邪魔になる山椒は振らない (好みの問題)
これは別の日の うな重 (ろ、ひと串) 私は右下の蒲焼から食べ始める。ご飯と一緒に頬張ると『溢してはいけない』と緊張感が生まれるのでゆっくり香りを楽しみ別々に食べる
2025/01/14 更新
2022/03 訪問
彼岸の墓参り後の精進料理ではなく、仏教の殺生禁断を傍に置いて鰻の蒲焼きを食べる
イタリアに滞在して間もなく二ヶ月目を迎えます。航空会社の都合により帰国が遅くなり、次に「信川円」の鰻を食べることができるのは、父の命日(六月下旬) 以降になります。過ぎ去った四十七年間の歳月を振り返れば一瞬のことのように思えてなりません。
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私の最終投稿 https://tabelog.com/rvwr/000124517/rvwdtl/B450571916/ (2022/06/08 訪問) は、海外レビューなのでスマートフォンでは開けずパソコンでしか読むことができません。
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彼岸の入りに姉夫婦と一緒に墓参りを済ましてから「信川円」へ向かいました。
殺生禁断である仏教の寺をお参りしてから鰻の蒲焼きを食べることに一抹の後ろめたさがあります。
義兄 「出発前に〇〇ちゃんは鰻を食べたかったのでしょ。」
私 「そうですね。すしは自分でも握ることができるけれど鰻の蒲焼は無理です。」
姉 「帰りは、私が運転してあげるから〇〇さんもお酒が飲めるわよ。」
いいですね、姉弟というのは。子供の頃から常に優しく、美しい姉です。
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料理については、何度も書いていますので添付写真とキャプションと過去レビューをご覧いただければ嬉しいです。
ところで、今回の撮影に使ったカメラは LEICA Q ではなく、iPhone 13mini のカメラ機能です。ようやくこの使い方に慣れてきて「写真モード」より、遠近感が強調される「ポートレイトモード」を使うことが多くなってきました。今回は人物が写らないように「写真モード」に設定して撮影しているのですが、どうしても画像がハッキリし過ぎて違和感があります。人間の目で感じる絵になっていないのです。Apple 社の技術(ハード、ソフト)は凄いと思うのですが、VR( virtual reality) を多用した映画を見ているようで馴染めません。
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「菊姫」ぬる燗
肝焼き、ひとり一本ずつ
一口目は串を持って、ふた口目以降は箸で串から抜いて食べる
肌理の細かい白焼き一尾を三人で分ける
私に半串を分けてもらう
うな重(い)、義兄は少食
私のうな重(は)
一串半、ご飯の量はうな重(ろ) と同じ
眼福 (今日の焼きは大親方)
木生地の本漆塗り重箱
小上がり
春の彼岸参り。山門をくぐる多くの檀家
2024/08/17 更新
2022/02 訪問
"うな重" とは関係ないのですが、iPhone 13mini で撮影した画質は好みではありません
「月の輝く夜に(Moonstruck)」https://dayslikemosaic.hateblo.jp/entry/2017/02/19/050000
https://www.youtube.com/watch?v=LySTnNxMRzY
シェール、ニコラス・ケイジ、オリンピア・デュカキス主演。アカデミー主演女優賞、助演女優賞、脚本賞受賞作品。「ディナーラッシュ(Dinner Rush)」のダニー・アイエロも出演しています。https://www.youtube.com/watch?v=rDOkCE1S5B4
女に対して常に成功を収める男の武器は、美貌でもなく教育程度でもなく、ましてや社会的地位や経済力ではまったくなく、ただただ言葉の使いようにあると思っているのは、私だけではないにちがいない。… 「おしゃれしてくれてありがとう」とは、ニクイ台詞だ。 - 塩野七生 著「人びとのかたち」より -
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「今日はメガネじゃないのですね。」
「ええ、こういう日もあるのですよ。」
今の時代、セクシャル・ハラスメントになり易い言動はしないようにしているのですが、この程度であれば許されるでしょう。
約束の待ち合わせ時刻に少し遅れて到着した相手の顔に普段より丁寧な化粧を認めた時、心の中で『おしゃれしてくれてありがとう』と、言いますが、これを口にすると 一線を超えてしまうような気がして、普段の私にそんな勇気はありません。(笑
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今回、料理の写真撮影に使ったカメラは、iPhone 13mini の " iPhone史上、最も先進的なデュアルカメラシステム" です。
https://www.apple.com/jp/iphone-13/
以前にもお知らせしましたが、私は日本政府が公式に提供する新型コロナワクチン接種証明書を取得するためにスマートフォンを買い替えました。デジタル庁の https://www.digital.go.jp/policies/posts/vaccinecert にはアプリのインストールに必要な動作環境が示されていて iOS 13.7以上とのこと。八年間愛用していたスティーブ・ジョブス好みの角っぽい iPhone SE (初代) では取り込むことができません。仕方なく Apple Store から iPhone 13mini を購入した次第です。
ポケットに入る iPhone 13mini は持ち運びに便利であり、"外食" ではこれを使って料理の写真を撮ることが多いのですが、写り過ぎてリアリティに欠けるのではないかと思います。 ICチップに組み込まれたソフトウェアによって処理される画像は「すべてがプロ。」なのかもしれませんが、人間の眼で感じる実際の姿ではありません。また、拡張子が食べログに投稿できない「.HEIC」High Efficiency Image File Format であり、都度、「.jpg(. jpeg)」Joint Photographic Experts Group に変換するのも面倒です。
料理については、添付写真とキャプションをご覧いただければ嬉しいです。
この日は、「紀ノ国屋 国立店」での買い物を兼ね、La macchina も一緒でしたので昼酒を楽しむことはできませんでしたが、同行の美しい人が食べたいと言う肝焼きも注文しました。やっぱり、冬の鰻 それも一番寒い一月末から二月末までの鰻がじっと餌喰いをせず、体内の脂肪を燃焼しながら枯れてきて香りが強くなった頃の鰻はおいしいです。(山椒を掛けたら勿体無い)
写り過ぎる iPhone 13mini の絵をご覧いただき お分かりだと思いますが、こちらの店が使っている "細口" の鰻は身の肌理が細かいです。「尾花」の https://tabelog.com/imgview/original?id=r8943565445853 の白身魚のように粗く、グラマラスな鰻は食べてみると香りが無く脂っぽいだけでおいしくありません。
「わっかるかなぁ、わかんねぇだろぅなぁ、ウェーイ♪」©松鶴家千とせ師匠 (©︎ムササビヒンソーさん) 巷では、これの分かる方を「通人」と、言うのだそうです。
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自家製こんにゃく
肝焼き
うな重(は) 一串半 5,650円(内税) 天然木に漆塗りの重箱
"細口" の鰻は身の肌理が細かく凄くおいしい! タレの掛かったご飯粒をゆっくり噛んで分かるのですが、少し反発しながら抗しきれず潰れていく。最高!
シェール、ニコラス・ケイジ、オリンピア・デュカキス主演「月の輝く夜に」
2022/02/25 更新
2021/12 訪問
酒処 北陸四県 (新潟県、富山県、石川県、福井県) のおいしい酒「菊姫」で鰻を愛でる
現役の頃、米巨大IT企業のエンジニアが「oggeti、キクヒメ、シッテマスカ。 ワタシ、ダイスキデス。」と、教えてくれたのが、菊姫合資会社 https://www.kikuhime.co.jp を知る切っ掛けです。私はこれを "ぬる燗" にして手酌で盃を重ねるのが好きです。
ドイツにはワインにスパイスを加えて温めたグリューヴァイン(Glühwein) があり、クリスマスマーケット(Weihnachtsmarkt)には欠かせない身体を温めてくれる飲み物です。San Jose Almaden の研究所でミーティングを行った後、海外へ出たついでだから息子の様子を見に行くために米西海岸から大西洋を越えてドイツへ行ったことがあります。(世界一周) この時初めてクリスマスマーケット(Weihnachtsmarkt) を体験しました。
冬の南ドイツは冷たい空気がアルプスから吹き降りてくるため、北海にメキシコ湾の暖流が入り込む北ドイツより寒くなります。息子が住んでいたシュヴァルツヴァルト(Schwarzwald、黒い森) 地方は、昼間でもマイナス25〜30℃になり、凍った木の葉が風に揺れて擦れると チリン チリン と薄ガラスが触れるような音を立てます。迂闊にも米西海岸仕様の防寒服と手袋で出掛けたため、クリスマスマーケットの中でひとりガタガタ震えていると息子の友人の美しいフィアンセが、身に着けていたカシミアのマフラーを外して私の首に巻いてくれました。「私はドイツ人です。冬の寒さに慣れているから大丈夫です。」何と優しく逞しいのでしょうか。暖かく良い香りがしたのは グリューヴァイン(Glühwein) だけが理由ではありません。
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「今、JR立川駅にいるのですが、お伺いしても良いですか? 私、一人です。」
「はい、どうぞ。準備しますのでお召し上がりは何でしょう。」
「ありがとうございます。それでは、うな重 (は) をお願いします。」
午後一時を過ぎようとしていた時刻でしたので休憩時間(14:00〜17:00) 前に入店できました。
『そうね、今日はどういうものだか朝からうな重を食べたい気がしていたんだけれど。』(https://www.youtube.com/watch?v=yxfPWV9a9mk の 3:30/4:11 辺り) と身体が欲した時に食べることができる店というのは良いですね。何ヶ月も前から予約しなければならない "超高額予約困難各馬一斉ゲートインおまかせカウンター割烹料理" では味わうことのできない飲食の歓びがあるというものです。
料理については、添付写真とキャプションをご覧いただければ嬉しいです。
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柔らかい冬の陽射し
菊姫一合 550円(内税)
きも焼き 一串 420円(内税) で酒一合では足らない
串は左側に持ち手
天然木に漆塗りの重箱
うな重(は) 一串半 5,650円(内税) 表面が黒くなっているのは焦げているのではなく、姥目樫の備長炭で "焼けて" いるからです
お椀とお新香
二本目の菊姫(ぬる燗)
右下の蒲焼を肴にコピリンコ(©︎小泉武夫センセ)
背景は出入り口の引戸
品書き
古地図に武蔵国
JR国立駅前の大学通り。正面に三角屋根の国立駅舎
広い歩道
大学道路を挟んで東西に一橋大学の広大なキャンパスが配置されている
開設当時の旧省線 国立駅
平成に開業した多摩都市モノレール
2021/12/14 更新
2021/09 訪問
冬の鰻 それも一番寒い一月末から二月末までの鰻がじっと餌喰いをせず、体内の脂肪を燃焼しながら枯れてきて香りが強くなった頃の鰻が好き
皆さんは、食べた料理がいまひとつ気に入らず、同じ料理を別の店で食べ直すということはありませんか?
さすが同じ日にこれを敢行するということはできませんが、若い方ならラーメンのはしごを三軒やったとか、ハンバーガー店を五軒回ったとか、フルーツパフェ三軒+ソフトクリーム三軒という甘党の方もいらっしゃることでしょう。「いえいえ、私なんか朝九時から夜八時までケーキ屋を渡り歩いて三十個以上食べました」という強者まで出てきそうです。いいですね、これができるというのは若い時の "宝" です。
"量" で稼げない歳になると "質" で欲求を満たすのですが、おいしければ少量でも大満足でき、健康のために良いです。
そうでないものをいくら食べ続けても満足できず、結果としてアメリカ人に多い体形になる キガシマス (©︎KYTさん) ← お久しぶり。
http://inoyo.net/wp-content/uploads/2013/09/8737d4f07a54a02e76c6c62752ba20c4.pdf
https://www.youtube.com/watch?v=0RAt74v5S-s
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紀ノ国屋で買い物する回数は、月三回と決めているのでこのタイミングを計って「信川円」で二週間前の食べ直しをしました。
私は、冬の鰻。それも一番寒い一月末から二月末までの鰻がじっと餌喰いをせず、体内の脂肪を燃焼しながら枯れてきて香りが強くなった頃の鰻が好きです。一般的には、活動が活発になる秋から初冬の脂肪を蓄え、冬眠状態(天然物にに限る)になる手前の鰻が一番おいしいと言われていますが、太って脂ギトギトの蒲焼きというのが苦手です。同じく香りで食べる すし でも鮪(しび)のトロ、中トロ、鰤の腹身などは食べませんし、江戸前ではない喉黒の炙りは写真を見ただけで気持ち悪くなります。が、 "好みの問題" ですから、これらを好きな方は気になさらないでください。
料理については、添付写真とキャプションをご覧いただければ嬉しいです。
今回、一週間前に他所の店で食べた同じ料理をこちらで食べ直したのですが、馴染んでいる味ということを差し引いても「白身魚の蒲焼きみたいな鰻の蒲焼きでない」肌理細やかな細口の鰻は、九月に食べてもおいしく、一串半(ご飯の量は同じ)のうな重を一人でゆっくり味わい満足しました。
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こんにちは
九十九里産の "いわしの胡麻和え"
天然木の重箱
うな重 (は、一串半)
いつも通り、ここの蒲焼から食べ始める。ご飯は一緒に食べない。
これは八月末の孫が食べた白焼きご飯
夏の鰻は香りが弱い
夏仕立ての建具もそろそろお終い
文化出版局「魯山人の料理王国」
「鰻はいつ頃がほんとうにうまいかと言うと、およそ暑さとは対照的な一月寒中の頃のようである。」(偶然、私と同じ意見だった)
2021/10/07 更新
2021/07 訪問
鰻の白焼きで酒を楽しむ
この日、二回のワクチン接種を終えて充分な日数を経過した私は、JR立川駅南口ターミナル四番でバスに乗り、店近くの停留所で下車して徒歩二十秒の「信川円」の暖簾をくぐりました。目的は鰻の白焼きで酒を飲むことです。(いつもは車を使っているので)
「この時季、営業開始を店の外で待っているお客さんがいらっしゃいますので、十一時半にお越しください。」
指定された時刻ちょうどに到着すると既に四組七名の客が、暖簾が出るのを待っていました。繁盛で何よりです。
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ところで、私が使っているカメラは最終的にこの二台です。↓
・iPhone SE (2016JUN.〜) + iCloud
・LEICA Q (Typ116) (2018 FEB.〜)
SUMMILUX 28mm F1.7 ASPH. フルサイズCMOSセンサー 有効画素数:2420万画素
参考:http://yamashingallery.main.jp/blog/?p=7890
訪問した飲食店での撮影がプロ並みに上手な方が多いこのSNSにおいて、カメラオタクでもなく、料理店で写真を撮るのが苦手な私は、古い iPhone SE を HDR (High Dynamic Range) モードに設定し、大きなシャッター音がしないようにして撮影しています。この小さな iPhone は、Steve Jobs が存命中にデザインされ、彼のアイデンティティーが凝縮したシンプルで角張ったスマートフォンです。iPhone 12 https://www.apple.com/jp/ も "早い話" これに回帰したデザインとなり、しかも先進的なハードウェアに最新のソフトウェアが搭載され、カメラ機能が充実していることは多くの食べログレビュアーの投稿写真を見れば明らかです。が、古いモノに拘る私は、今のところ買い換える気になりません。
LEICA Q はコンパクト・デジタル・カメラ (通称コンデジ) ですが、ポケットには入りません。テーブルの上には置かず、空いている椅子に待機させ、給仕に気付かれないようにさっと構えて撮るのですが、これが結構難しく、照度の足らないフランス料理店や懐石料理店では被写体にAFの焦点が合わず苦労しました。その後、一年半の間、キャビネットに眠っていたのですが、「南禅寺 瓢亭 日比谷店」「蕎麦懐石 無庵」に続き、今回の「信川円」が五回目の登場となりました。設定と撮影のコツを掴むと iPhone 12 搭載カメラのデジタル処理された作為的な画像とは異なり、Leica SUMMILUX 28mm f/1.7 レンズによる画面の歪みが少ない臨場感ある自然な描写力に驚かされました。
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さて、冬の鰻が好きだと言っている私が、土用を間近にした夏の鰻を食べるのは "味比べ" をする為なのですが、夏の鰻には別のおいしさがあることに気付きました。冬に餌食いが少なくなり体内脂肪を減らしている細口の鰻の凝縮された香りが好きなのですが、細口といえども水温が上がり餌をたくさん食べて太った鰻は食べ応えがあります。鰻食いが好きな方の殆どは、脂の乗った肉厚の "フワっとろっ" の蒲焼がお好きなのです。ガツンと来る旨味と口いっぱいに感じる甘塩っぱい脂塗れの幸福が好きなのでしょう。
鮪 (しび) のトロも中トロも、鰤の腹身も食べず、鰹は戻り鰹よりサッパリした初鰹を好む私こそ「アンタが変なんだよ!」と、言われるのを承知しているのですが、食べ物は "好みの問題" ですから致し方ないことです。
この日のハイライト "夏の鰻の白焼き" は、これも冬の鰻に比べてふっくら肉厚で食べ応えがあり、ぬる燗よりも冷酒 (常温でなく、冷やした酒) で口中の脂を拭いながら食べると「もう一本、ください。」と、言うことになり『そこの小上がりで横になりたいなぁ。』と思うのでありました。
料理については、添付写真とキャプションをご覧いただければ嬉しいです。
いつもは使わない山椒も夏の鰻には効果的であることが分かりました。なるほど、そうだったのか。
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まずは、焙じ茶(妻は "取敢えずビール" (とりビー) だったので手を付けなかった)
九十九里産の "いわしの胡麻和え" で "菊姫" ぬる燗を一盃
自家製こんにゃくで一盃
冷たく歯応え良く喉を抜ける
山葵で
白焼きで一盃
隠し味はナイショ
多摩の酒「澤乃井」冷酒
鰻重 (は) 一串半
蓋を取ると夏の鰻の優しい香りがする
冷めるので肝吸椀の蓋を戻す
右下方の蒲焼から食べ始める
ご飯もおいしいが、蒲焼とは別々に食べる
本日の串打ちは五本
珍しく山椒を振ってみるか
最後のご飯に山椒。イケるね、コレ。
手前は妻が食べた鰻重(ろ)の蓋。写真奥の重箱(は)の蓋は "本物" 木生地に漆
2021/07/14 更新
2021/02 訪問
秋から初冬の脂の乗った鰻より、冬に餌食いが少なくなり体内脂肪を減らしている細口の鰻の香りが好き
食は "好みの問題" であり、一緒に暮らしている家族でも各人それぞれの好き嫌いがあります。まして他所さんと一致するはずもなく、こちらがおいしいと思って贈った品でもお気に召さないことはあり、その逆もあり、推奨された店へ行ってもSNSで評判の良い店へ行っても期待外れであることの方が多い気がします。万事において育った背景が異なるのですから気にしても仕方のないことです。自分の味覚を信じることが大切です。
こちら「信川円」は、南千住の有名店のように開店前から大行列ができ、大衆受けする店ではありませんが、永く営業を続けられているということは、この店の鰻の味に馴染んだ客によって支持され続けているということです。
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マタギに仕留められて "月鍋" にされる脂の乗った熊もいますが、四ヶ月間もの冬眠から目覚めた熊がブレックファスト (break-fast = 断食を破る) として最初に食べるのは "蕗の薹" だと言われています。ほろ苦い山菜は漢方薬のように作用し、体調を整えるのに適しています。私は冬眠明けの熊肉を食べたことがありませんが、冬眠から目覚めた天然鰻のように枯れた良い香りがするかもしれません。
私は、この店のレビューに何度も「冬の鰻が好きだ」と書き、その理由を「冬場の鰻は、水温が冷たくなり動きが緩慢になり、餌喰いが少なく(天然物だと冬眠するともいわれる) 秋に貯めた脂肪を燃焼しながら生き長らえていますので、寧ろ、香りが良くなってきます。それは鰻本来の香りであって、餌の香りが残る脂が浄化され、洗練された香りです。」と記しています。
【この日 (二月中旬) いただいたもの】
・九十九里産の "いわしの胡麻和え"
・白焼き (半串)
・うな重 (は) 一串半
やはり、冬の鰻は おいしい!
脂が痩せていると言ってもパサパサになっているのではなく、ギトギトした滴るような鰻の蒲焼ではなく、しっとり全体を覆う適度な脂は香りが良く、匙で食べた方が良さそうな "フワっトロっ" ではなく、箸先を意識しなければ崩すことのできない程度の状態に焼かれた身を少しずつ口に運び、目を瞑ると春の香りが広がります。私はこれが好きです。
今回、車で来た為、酒も飲むことができないのに頼んだ "白焼き (半串)" は、予め温められた磁器の皿に盛られていました。当然と言えばその通りですが、このさり気ない配慮があることが一流の鰻屋である証です。姥目樫の白炭で丁寧に焼かれた白焼きは一手間かけられ、二倍も香りが良く、『次回は車ではなく、多摩都市モノレールを立川南駅で降りてバスに乗って来よう』と、心に誓うのでありました。
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九十九里産 "いわしの胡麻和え"
白焼き (半串) 皿も温められている
うな重 (は) 一串半
ここから、このように食べ始める。無理してご飯と一緒には食べない。箸先で重箱をコツコツ突くこともせず、音を立てないように静かにゆっくり味わう。
本棚に見つけた 2009年の雑誌に浅草「紀文寿司」の先代親方の写真が載っていた
2021/02/23 更新
2020/12 訪問
今年最後の "外食" は、「信川円」鰻の蒲焼でした。
今年、八回目の「信川円」レビューです。
"外食" の少ない私ですが、この鰻屋は投稿していない訪問もあり、季節毎に二回以上訪れたことになります。
この日、「紀ノ国屋 国立店」でお節料理の食材を仕入れるために出掛けました。嫁 (長男の連れ合い) と孫二人を誘って買い物を兼ねた "鰻食い" です。
冬場の鰻は、水温が冷たくなり動きが緩慢になり、餌喰いが少なく(天然物だと冬眠するともいわれる) 秋に貯めた脂肪を燃焼しながら生き長らえていますので、寧ろ、香りが良くなってきます。それは鰻本来の香りであって、餌の香りが残る脂が浄化され、洗練された香りです。
他所の人のことは知りませんが、私が好きな鰻の蒲焼は、二月から三月に掛けての脂が少なくなって香りが強くなった鰻であることが、一年間通して同じ店でうな重を食べ続け分かりました。来年も正月から毎月食べてこれを再度確認してみよう。
さあ、三日がかりのお節作りが始まる。我が家では代々引き継がれた味を守るのは司令塔の母を始めとする女性陣の仕事だ。
私の役目は例年通り、「買い物」「包丁研ぎ」と「大量の一番出汁、二番出汁 引き」だ。
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キミノマンリョウ
きも焼き
白焼き
うな重 (は、一串半)
白焼きご飯を食べる孫 (五歳男児)
内径290mmの大鍋でお節用の一番出汁を引く
香深の利尻昆布は、60℃-30分で旨味成分を抽出。
山のような鰹節削り節 (まるてん製の血合い抜き)
紀ノ国屋に用意してもらった慈姑
牛蒡の下茹で完了
まる三日間かけて炊いた丹波黒豆。これから薄蜜に漬け、その後、濃蜜で仕上げる。
香深の利尻昆布
まるてん有限会社
初春を迎える準備万端かな
2020/12/31 更新
2020/11 訪問
鰻の蒲焼には 瓜の奈良漬だけでなく、ハヤトウリ (隼人瓜) の糠漬も合う。うなぎ、うり、うまい。
このSNSにおける私の食べ物のジャンル別訪問件数を調べてみたら、鰻屋が 27件、すし屋(江戸前)が 17件でした。
気に入った店は複数回訪れているのですから随分食べ歩いたものだと自分でも感心するのですが、"よく行くジャンル" のトップが "イタリアン" の114件、2位が "その他(食材)" で81件、鰻屋とすし屋は、どちらもトップ10に入っていません。
四十代までの若い頃と違って五十歳を越える頃から新しい店を開拓してまでも馴染みになりたいとは思わず、自分にとって居心地の良い、落ち着いた雰囲気の店を繰り返し訪れるようになりました。それらの店に共通するのは、代替わりしながら長く営業を続けているか、しっかりした後継者が育っていることです。中でも四百年続いている「瓢亭 本店」の十五代目当主は、十四代目高橋英一氏のご子息 高橋義弘氏です。日本料理の伝統を守るとは、暖簾にしがみ付くことではなく「伝統と革新」のバランスをとりながら時代に即した料理を作ることだと教わりました。
江戸前の鰻料理の歴史は江戸城を中心とした江戸の町造りのため全国から人が集まった頃に始まり、東京湾の干拓が行われ(日比谷一帯は入江だった)、たくさんの鰻が獲れ、これが地廻り醤油 (関西からの下り醤油に対して安房、上総、下総で作られた醤油) の生産と共に広まったと言われ、凡そ二百五十年の歴史があります。これに対して江戸前寿司(早寿司) は酒粕を原料に使った赤酢が生まれた後のことですから鰻の蒲焼より五十年ほど歴史が浅くなります。現在、すしの代名詞となっている「江戸前」という言葉は、早寿司ではなく鰻の蒲焼に冠されていました。
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「買い物の前に信川円で鰻の白焼きを頼んで一杯やろうよ。」
「あら、いいわね。寒くなるからコーヒーの鉢を植え替えようと思ったのだけれど、付き合うわ。」
【久振りの夫婦揃って外食 "鰻三昧" でいただいたもの】
・東京青梅市小澤酒造の酒 "澤乃井" 冷酒 300ml(妻だけ)
・自家製こんにゃく
・九十九里産 "いわしの胡麻和え"
・漬物 (大根、人参、胡瓜、隼人瓜の糠漬とキャベツの一夜漬け)
・鰻の白焼き (一串)
・うな重(ろ)× 2
妻のショーファー (chauffeur お抱え運転手) である私は、一滴も飲めず、只管、ロボットよろしく右肘関節の内側95度回転に努め、「東京のお酒もおいしいわね。」と、自家製こんにゃく、九十九里産 "いわしの胡麻和え"、漬物 (大根、人参、胡瓜、隼人瓜の糠漬とキャベツの一夜漬け)、鰻の白焼き (一串) で盃を傾けている妻の嬉しそうな顔を見ながら、『次は、ひとりで多摩都市モノレールに乗って来よう。』と、隼人瓜の糠漬をパリパリ音を立てながらお茶を啜りました。
鰻蒲焼に奈良漬(瓜) を合わせるについて科学的根拠を示した諸説ありますが、私が一番気に入っているのは単なる 語呂合わせ、言葉の遊び「う」の付く食べ物同士であるというやつです。信川円では瓜の奈良漬は付かないのですが、代わりに胡瓜の糠漬けが小皿に載っています。これは毎日お内儀さんが手入れしている大きな甕に漬かっています。この日は、特別に隼人瓜も出してくれました。うなぎうまし。
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矢印 : ハヤトウリ(隼人瓜)、 左 : 九十九里産の "いわしの胡麻和え"
白焼きの表面から漂ってくる甘い香りは蒲焼と趣が異なり、心をほっと落ち着かせてくれる。
先鋭的な香りとコリッとした歯触りが酒好きには堪らない 肝焼き
うな重 (ろ) 一串。この重箱は合成樹脂 (他は木地に漆塗り) 一番注文が多いからかなぁ。
ご飯の量は、うな重 (は) 一串半と同じ。だったら (は) にすれば良かった。
コーヒーの鉢を植え替えようと思ったのだけれど、付き合うわ。一年前、紀ノ国屋のコーヒーショップでもらった苗がこんなに大きくなった。
2020/11/27 更新
2020/09 訪問
夏が過ぎ、さらにおいしくなってきた九月の鰻
静かな店内に響く微かな鈴虫の音。
私たちが奥のテーブルに座って暫くすると入り口付近に置かれた甕から流れてきました。人の気配を敏感に感じるのでしょうか。
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脳と身体を行き来する神経は脳の下部にある延髄で左右が交差しますので、左半身不随になった方は右脳に損傷があります。また、左耳から入った情報は右脳へ、右耳から入った情報は左脳へ行くとのことです。さらに日本人は左脳 (言語脳) で虫の音を「声」として聞いているに対して、西欧人はこれを右脳 (音楽脳) で「ノイズ」として処理するか排除して聴こえないとのことですが、これは本当なのでしょうか? 参考:https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/nakaniwa/keisoku/brain.htm
これに対して目の構造はレンズの役割をする水晶体が凸レンズですから網膜で受けた視覚情報は上下左右逆になっていて、両眼とも上下左右が入れ替わってそれぞれ左脳と右脳に伝達されます。結局、両眼の視覚情報は右脳と左脳の両方で処理されます。
今年も八月末頃から私の家でも夜になるとコオロギの鳴き声が聴こえます。
ベッドで寝返りを打った時に左耳を塞ぐとコオロギの音が途絶える(右耳では聴こえない)ことに気づきました。上記の理屈からすると私の耳からの情報伝達構造は西洋人と同じということになります。コオロギ以外の同じ周波数の音は左右の耳でも感じる事ができますので難聴ということではないのですが、とても不思議です。ご専門のドクターにご意見をお伺いしたくなりました。
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さて、この日、嫁 (長男の連れ合い) を誘って「紀ノ国屋 国立店」で買い物をしました。
「買い物の前に信川円で鰻を食べようか?」
「コロナ禍で全く "外食" をしていないので嬉しいです。」
店は換気のため、入り口と窓が開け放されていて天井からのエアコン冷気が一層爽やかに感じます。
【いただいたもの】
・石川県の酒 "菊姫" ひや(常温のこと)(嫁だけ)
・自家製こんにゃく
・九十九里産の "いわしの胡麻和え"
・鰻の白焼きとご飯セット(孫向け)
・うな重(は、一串半)× 2
「うなぎはね、ゆっくり食べた方がおいしいよ。」
と、孫に伝えると箸を上手に使って少しずつ食べ始めました。
「〇〇ったらノンノに言われて、わざとゆっくり食べているのよ。」
と、母親に言われ、親子二人で顔を見合わせ、ニッコリ。
久し振りの三人での "外食" です。
帰宅後、嫁から WhatsApp にお礼のメッセージが届きました。こういう時期だからこそ、心のリフレッシュのできる "外食" の効用を感じた次第です。外食代は、"内食" では味わうことのできない「気分」のための舞台使用料かもしれません(©︎ MSSBHNSさん)
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2020/09/28 更新
2020/08 訪問
子母澤 寛 著「味覚極楽」竹越三叉氏の話「蒲焼の長命術」
食べ物に関する私の愛読書、子母澤 寛 著「味覚極楽」に竹越三叉 (歴史学者 竹越 與三郎) 氏の話「蒲焼の長命術」という項があり、お土産でもらった鰻の蒲焼を工夫しておいしく食べる方法が記されています。↓
「土鍋へいい酒をいれて、強い火の上にかけて、はしでどんどんかき廻している。熱くなるに従ってアルコール分がたって来るのを待ち、そこへマッチで手早くさっと火をつける。青い火がめらめらと燃えるが、またぱっと消える。また火をつける。それを幾度も繰返しているうちに、いくらマッチをつけても火が出ぬようになる。この前後が約三分から五分位。その熱いところへ蒲焼を入れて約一分。引き上げたら、静かにたれをかけて食べる。あたたかく、やわらかく、なかなかうまい。ただこれをやると、うなぎの味が少し軽くなる。私のようなやや淡白な味の好きなものはこれが一層結構であるが、味の濃いものを好むものは、中ぐしを食いたいのなら大ぐしをこうしたほうがよい。これによると、午前中にもってきたものを午後に食べても、少しも変わりない。」
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2020年は、1月23日、4月16日、4月28日、7月21日、8月2日、10月25日、11月6日と七回の土用の丑の日があり、夏季の7月21日「一の丑」も 8月2日の「二の丑」でも鰻の蒲焼は食べず、立秋を過ぎ鰻屋が落ち着いたこの日、母とふたりで「信川円」の暖簾をくぐりました。
「前回、鰻の蒲焼きを食べた後、とても身体の調子が良かったのよ。」
母の苦手な食べ物は、鶏肉、蟹、貝類、そして鰻だったのですが、91歳になった去年、この店で生まれて初めて "うな重 (い、半串)" を食べてからとても気に入り、豊富なビタミンA、ビタミンB群、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸) を吸収することによって頭脳明晰、記憶力抜群は衰えることなく、福耳は益々大きくなり、孫や曾孫たちにとってもたいへん結構なことであります。
私は、いつも通り うな重 (は) 一串半を注文し、出来上がるまでの凡そ三十分間を自家製こんにゃくを摘みながら母と四方山話をして待つのですが、この "待ち" が鰻食いの醍醐味であります。
独りで座った時は、店に備え付けの雑誌や手持ちの文庫本を読むことはありますが、スマートフォンを開いてこれを操作しながら出来上がりを待つというのはビジネスライク過ぎて風情がなく、やったことがありません。
複数人で入った場合は、当たり障りのない話題がよく、お金に纏わる話、政治・経済・宗教に関する話題、病気の話、人事、他人や飲食店の悪口は顔つきが悪くなるからご法度です。
「おまちどうさま。」
母のうな重 (い) の載った盆が先に運ばれ、続いて私のうな重 (は) です。
鰻を食べるのを急いてはいけません。まずは、眼福。
盆の全容をしみじみ眺め、肝吸いの入ったお椀、その上方にひっそり佇む香の物の盛られた小鉢、そして堂々と鎮座在します大きな重箱 (一串半入り) 。これらをひと回り二回り眺め、『まず、何処から手を付けようかなぁ。』と考えると同時に両の手は重箱の蓋に伸び、ゆっくりこれを開くと芳しくも醇なる正統派蒲焼の香りが立ち上り、思わず箸をつけたくなるのですが、ぐっと堪え、匂いによって呼び起こされた大脳皮質にある味覚野の記憶を辿り、前回食べたもの前々回食べたものとどのように違いがあるのか比較します。
この店のレビューは今回で十五回目です。訪れているのはその三倍ぐらいあると思いますが、八月に食べる蒲焼はこのレビューを手繰ってみても今回が二回目です。如何に私が天邪鬼だか分かります。
八月を避けている理由は様々あるのですが、今回いただいた蒲焼を一言で表すならば「瑞々しい」であります。焼いて蒸してタレ漬け焼きをして供される鰻が "瑞々しい" とは、これ如何に。生の夏野菜や果物のような瑞々しさとは異なり、敢えて例えるならば皮ごと焼いた "焼き茄子" のように火が通っているのですが、鰻の身からじわっと溢れる旨味は、一般的に表現される「フワっトロっ」とした脂が先行するものではなく、蒸し工程で蓄えられた水分がタレ漬け焼きの段階で表皮に閉じ込められ、箸を入れた時に溢れ出てきた感じなのです。これは、おいしい!!!!!
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一緒に来れなかった妻のため "お持ち帰り" うな重 (ろ) 一串 をぶら提げて、
「ただいまー。」
「わぁー、ありがとう。私の夕飯はこれとお酒ね。」
となり、昼に滋養をたっぷり蓄えた私たちも軽く "冷やしきつね" で済ませ、冒頭の「味覚極楽」竹越三叉氏の話「蒲焼の長命術」に従って、 "お持ち帰り" うな重を温めると「昔の人は食いしん坊だったね。」と、皆で口を合わせることとなりました。
現代は、スチーム機能付き電子レンジという便利なものもあるそうですが、私は調理をするのに電磁波で水の分子を振動させ短時間で加熱するという原理が好きではなく、これを使うと素材の香りや味が減衰してしまうので使いません。明治・大正・昭和初期に活躍した歴史家 竹越 與三郎が存命であったらならどのような顔をしたのでしょうか。
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お茶
小さな醤油差しは、手作りこんにゃく用
うな重 (は)、一串半
妻への土産 "持ち帰りうな重"
発砲プラスチックの重箱入り
鰻だけ温めてそのまま食べる
妻は粉山椒が好き
子母澤 寛 著「味覚極楽」を読みながら KILCHOMAN
竹越三叉氏の話「蒲焼の長命術」
日本の料理としては本当に自慢できるものは、まずこのうなぎ、それから天ぷらにさしみ。
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端っこの
一口をもらう。おいしい!
昼に鰻を食べた母と私の夕食は、冷やしきつね と
「魚谷 清兵衛」の 蒲鉾、しらす干
食後に KILCHOMAN 【マキヤー ベイ MACHIR BAY】に
「青柳正家」の天下一羊羹を合わせる
2020/08/14 更新
2020/05 訪問
"五月の鰻" を食す。臨時休業中かと思っていたが、昼のみの営業を続けていたことを知る。
「吾唯足るを知る」「吾唯知足」
京都の臨済宗妙心寺派大雲山龍安寺にある「知足の蹲踞 (つくばい) 」に彫られています。
この蹲踞は徳川光圀の寄進によるものと伝えられ、仏陀の最後の説法の記録「仏垂般涅槃略説教誡経」の「知足」= 何でも得たもので満足すること (分相応のところで満足すること) の教えです。
過度の快楽 (美食、貪食を含む) が不適切であるのと同様に、極端な苦行 (絶食、貧食を含む) も不適切であると悟り、毎日を平穏に暮らすことができればこんな幸せはありません。除夜の鐘を百八回衝いたぐらいでは煩悩を滅することができない私は、この歳になっても身も心も乱れることが多く嘆かわしいかぎりです。
この日、母を連れて 同病相憐、同じ主治医の検診を受けました。
「お陰さまで元気に暮らしております。」と、謝意を伝えると、
「今は、何がおいしいんでしょう?」と、先生に問われ、
「アスパラガスがおいしいです。」
「https://tabelog.com/imgview/original?id=r68154130173924 のようにして食べるのが一番です。」と、答え、
「シュパーゲル (Spargel) ですね。」と、返され、
『さすが、先生!』と内心驚き、煩悩に気づきつつもこれを避けることができない己の愚かさに嫌気がさしてしまいました。
「診察が終わったら、何を食べましょうか? 信川円のうな重 (い、半串) がいいかしら。」と、検査のため朝食を抜いた母。
てっきり臨時休業中かと思っていたのですが、電話で外出自粛期間も昼間だけ営業を続けていたことを知り、ハンドルを国立市へ切りました。(休まず営業を続けることで技を維持していた)
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毎年この時期は日本を離れているので "五月の鰻" を食べたことがありません。
餌食いの細い "冬の鰻の香り" が好きな私は、その理由を下記のように考えます。
「春の苦味」として多くの美食家に好まれる天然物の山菜は、冬に積もった雪を割り芽を出し、大地に染み込んだミネラル分を吸い上げているから苦味があるように、"冬の鰻” は、寒く動きが鈍いだけに同じようにミネラル分を体に蓄えていて独特の香りがあるのではないかと思っています。
私が嫌いな 北大路魯山人の文章に「うなぎはいつ頃がほんとうに美味いかというと、およそ暑さとは対照的な一月寒中の頃のようである」の行があります。(前々回のレビューに書きました)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/49959_37782.html
では、 "五月の鰻" はどうかと言うと「水が温み動きが活発になり、アクが抜けて味が穏やかになった。」です。どうも煩悩を滅することができない鰻の方が、私の好みのようです。
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九十九里産の "いわしの胡麻和え"
品書き
うな重 (は) 5,650円
米の一粒ずつまで おいしい!!!!!
我が家のオリーブ cipressino 種の開花も進んだ
グミも色付き始めた
龍安寺 (2016年1月訪問時に撮影)
龍安寺「知足の蹲踞 (つくばい) 」はこの画面の左側にあるが写っていない
秀吉の植えた侘助椿
これは、近くの公園にある「知足 (吾唯知足) の蹲踞」(撮影地は東京)
蹲の隣では、小鴨が水中の藻を啄んでいた
2020/09/17 更新
2020/03 訪問
国立市大学通りにも「桜咲く」
国立市は、JR国立駅から南に延びる広い大学通り沿いに一橋大学と私立の名門 桐朋中学校・桐朋高等学校を抱え学園都市と言われています。通りの両側に植わっている桜の花が満開になるのは暖冬の所為で今年はかなり早そうです。
https://sp.jorudan.co.jp/hanami/spot_147.html
皆さん既にお気付きだと思いますが、この春は日本の空気の透明度が上がって何十年振りかの強い陽射しになっています。新型コロナウイルスの蔓延によって中国の経済活動が停滞し火力発電所を初め多くの生産工場が停止しているお陰です。私が子供の頃のような空が戻ってきました。今年の春野菜は日の出から燦々と浴びる太陽光線によって、きっと、おいしくなることでしょう。
汚れた空気の中で育った若い方は分からないでしょうが、私は以前から「おいしい野菜を作る為に日本の空気をきれいにするには、中国に公害対策をしてもらわなければ解決しない。」と、このSNSで書いています。今回の騒動でこれが立証されました。「空気清浄度と食べ物のおいしさの相関」について、グレタ・トゥーンベリさんにもお知らせしなければなりません。(笑
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妻が義妹と実家の墓参りをし、私は菩提寺へ行きました。
強い陽射しの中、高齢者を含むたくさんの墓参者が絶え間なく訪れています。マスクを掛けた方が殆どですが、スギ花粉症対応なのか新型コロナウイルス対策なのかは分かりません。厳しい外出禁止令や飲食店の営業停止令は出ていない日本ですが、日本人の清潔を好む国民性によってウイルス拡大は最小限に抑えられるのではないかと思っています。楽観的ですがそう願っています。
さて、いつもの通り「墓参」と「信川円」は、セットです。
この日は、運転手がいましたので「酒が飲める飲めるぞー 酒が飲める。」と張り切っていました。いただいたのは、石川県の銘酒「菊姫」https://www.kikuhime.co.jp/story/story_index/ です。「oggetiさん、菊姫を召し上がったことはありますか?」と、取引先の方から頂戴したのはもう二十年以上前のことです。活性炭による濾過を最小限に留めた日本酒本来の旨味を残した酒はほんのり黄金色をしています。私のフォッサマグナから西の酒が好きなことを知っての贈り物でした。
"肝焼き" をお茶で食べるなんて、そんな勿体ない話はありません。
調理場から肝焼きの載った皿が運ばれる途中から香ばしい匂いが鼻を擽り、思わず猪口の酒の残りを確認してしまいました。ぬる燗を継ぎ足し、手に串を持ってひと齧り、「Hmmmm, おいしい!!!!」。ここでコピリンコ (©︎小泉武夫 日経コラム、食あれば楽あり)。いいね!サイコー!
春の細口鰻の蒲焼は、餌食いが活発になってきた分、少し肉が付いてきました。
前回、前々回のレビューと比べていただければお分かりになると思いますが、肥えてきた分、味が穏やかになりました。春の鰻を "桜鰻" とは呼ばないと思いますが、季節毎に変化する鰻の味を一年間を通して確認しようと思います。
この日も満席になった家族経営の「信川円」。いつまでもこの味を守り続けていただいたいと願うばかりです。帰りしなに息子さんとお嫁さんにも挨拶をして外に出ると眩しい光によって一瞬クラッとしたのは菊姫の飲み過ぎではないと思うことにして車の後部座席に身を沈めました。
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画像処理していない抜けるような青空
肝焼き三串
石川県の酒 "菊姫" ぬる燗
肝焼き二串
店内
うな重(は) A
うな重(は) B
うな重(は) C
うな重のご飯として最高の炊き方
障子にコントラストの強い陽射し
入り口
彼岸の墓参り
境内の蕾
2020/03/21 更新
2020/02 訪問
"冬の細口の鰻" と富山県 "山田村 (現:富山市) の米" の組み合わせは、最高においしい!!!!!
前回のレビューで「私は、ほとんどの料理を自分で作ってしまうので "外食" して、心から『おいしい!』と、感じる料理に出会うことが少なく、『これだったら自分で作ったほうがおいしいよ。』と、かなり "傲慢" な感想を抱いてしまいます。ところが、自分で作ろうと思わない料理があり、それは正統なフランス料理と細口の鰻の蒲焼です。」と、うっかり "本音" 書いてしまいましたが、ここ「信川円」で静かにゆっくりアスペルギルス・オリゼ (Aspergillus oryzae、ニホンコウジカビ) 由来の日本の味を堪能していると日本人で良かったなぁと心から思うのであります。
傲岸不遜(奢り昂って相手を見下す様)、傲慢無礼(思い上がって謙虚の無い様) と言われた北大路魯山人は、「美味しんぼ」に登場する海原雄山のモデルだそうですが、この漫画を一度も見たことがない私は、陶芸家・書家としての魯山人しか知りません。陶芸を少しだけ勉強した私は、職人任せの魯山人の稚拙な仕事を全く評価していません。自ら筆を持った書についても一見上手そうに見えますが心が籠もっていません。
ところが、MacBookに「魯山人+鰻」とキーワードを入力すると https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/49959_37782.html がヒットしました。この "鰻の話 - 北大路魯山人" という文章の中に「うなぎはいつ頃がほんとうに美味いかというと、およそ暑さとは対照的な一月寒中の頃のようである」の行があります。
私は、この店のレビューに何度も「冬の鰻が好きだ」と書き、その理由を「冬場の鰻は、水温が冷たくなり動きが緩慢になり、餌喰いが少なく(天然物だと冬眠するともいわれる) 秋に貯めた脂肪を燃焼しながら生き長らえていますので、寧ろ、香りが良くなってきます。それは鰻本来の香りであって、餌の香りが残る脂が浄化され、洗練された香りです。」と記しています。
図らずも "鰻のおいしい季節" に関して大嫌いな魯山人と意見が一致したことは、自身にとって "放って置けない" こととなりました。
料理の詳細については、添付写真のコメントをご覧いただけると嬉しいです。
【お願い】
「鰻の蒲焼は "ゆっくり" 味わってください。待たされたからといって決して "急いて" はいけません。」
「おいしく香りの良い鰻の蒲焼は、山椒を振らずに食べてください。」
「蒲焼だけに着目せず、ご飯の炊き具合と盛りの妙味についても関心を寄せてください。」(鰻とご飯は別々に食べる)
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柔らかい白萩の筒茶碗
香りの良い自家製こんにゃく
うな重 (は)、5,650円、一串半(強めの焼き加減だが、焦げているのではなく焼けているだけ)
去年8月に食べた白焼きの最適な焼き加減 (串打ちは四本、焼きは息子さん)
いつも通り右下から蒲焼とご飯を別々に "ゆっくり" 食べ始める(微妙な水加減の必要なご飯を炊くのは親方、菜箸で並べるのはお嫁さん)決して急いて食べないこと。
品書き
焼き上がるまで雑誌を読んで楽しむ
"在来種" という蕎麦
妙高こそばの紹介
2020/03/01 更新
2019/12 訪問
寒くなって脂の乗った12月初旬の "細口の鰻" を食べる
四ツ木で鰻を食べた翌日に訪問しました。
鰻の連荘(麻雀用語、連チャン)。
私は、ほとんどの料理を自分で作ってしまうので、 "外食" して心から『おいしい!』と、感じる料理に出会うことが少なく、『これだったら自分で作ったほうがおいしいよ。』と、かなり傲慢な感想を抱いてしまいます。ところが、自分で作ろうと思わない料理があり、それは正統なフランス料理と細口の鰻の蒲焼です。
この店のレビューは、今回で十一回目ですから多くは語りませんが、「信川円」は、私の一番好きな鰻屋です。
この日、平日にも関わらず多くの客で賑わっていました。調理場を覗くと息子さんの姿がありません。『今日も親方が焼くのかなぁ。』と、漠然と考えていて備え付けの雑誌「サライ」と捲っていたら興味のある「かけそば」と「日本酒の家飲み」について特集した2019年1月号であることに気づき、『なんだ、ことし7月にレビューに載せた記事だ。』と分かったのですが、蒲焼が出来上がるまでの間、これを再度読み直しました。「かけそば」と「日本酒の家飲み」イイですね!
因みにこの焼き具合から判断して『今日は息子さんが焼いた』と、確信し、帰り際に厨房を覗くと炉端に立っていたのは親方ではなく息子さんでした。おいしいです!!!!
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2019/12/08 更新
2019/08 訪問
白焼きと肝焼きで "菊姫" の "ひや (常温)" をコピリンコ (©︎ 小泉武夫「食あれば楽あり」)
この日(8/12)、菩提寺で施食会(せじきえ、曹洞宗の施餓鬼) が行われました。
煩悩だらけの人間である私が、功徳を積み悟りの境地に至ることができるのでしょうか。「五十六十は洟垂れ小僧」と言われていますので、あと二十年ぐらいしたら何事に対しても「腹六分目」の生活ができるのかもしれません。
と、分かっていてもDNAに刻まれたアスペルギルス・オリゼ (ニホンコウジカビ、Aspergillus oryzae) 由来の醤油、味醂、酒の味の誘惑に抗しきれず、ひと月半の間に三回目の訪問となりました。
この日は、いつも白炭の積まれた炉の前に立っている "割き" "串打ち" "焼き" "蒸し" ”焼き” を担当している息子さんの姿がありません。夏休み中のお子さんを連れてプールにでも行っているのかもしれません。親方はいつも店に居てにこやかにお話をしてくれるのですが、殆どの仕事を息子さんに任せた親方の焼く "鰻の蒲焼" を食べるのは、二年振りぐらいです。
午後一時手前でしたので入店した時はほぼ満席で、親方は炉の中の白炭を火箸で積み替えていました。
「こんにちは。」
「おっ、いっらしゃい。」
「あれ、今日は親方が焼いているのですか。」
2019年3月2日 (土) に放映された NHK BSプレミアム「和食の神髄をデータ化せよ」において、鮎焼きの名人と称されえる「瓢亭」十四代目 高橋英一 氏の "山積み" と 一般的な "平積み" の違いが検証されていましたが、鰻の "焼き" においても同様に何らかの工夫があるのだと感じました。 https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92042/2042479/index.html
この日は、"菊姫" の "ひや (常温)" をいただき、白焼きと肝焼きもお願いしました。
こちらで白焼きを食べるのは今回が二度目です。割いた鰻を"菊姫" に浸した後、写真のように焼き上げるのですが、夏の鰻の脂が適度に落とされ、表面が酒でコーティングされ、それが蒸発して焼かれ一体となった旨味というのは酒飲みには堪らない贅沢な肴であります。
徳利が空いた頃、女将が「おまちどうさま、肝焼きです。」と、これをテーブルに置き、こうなれば「もう一本(菊姫のこと)ください。」となるのは必然であり、煩悩の赴くままであり、夢幻の如くなり。
いつもは、一串半の(は)を食べるのですが、白焼きを頼んだので一串の(ろ)にしました。ご飯の量はどちらも同じだと思われます。重箱の右下の蒲焼を箸で分け、これだけを食べ、もう一回蒲焼だけを食べ、ここで私はご飯をゆっくりいただきます。待ち時間があったとはいえ、決して勢いよくガツガツと食べてはいけません。「できるだけゆっくり味わって食べる」これが鰻のおいしい食べ方です。また、”鰻” と "かえし" の渾然一体となった香りを楽しむには、余分な香りの山椒は不要です。
会計を済ませ、親方に、
「久しぶりにいただきました。親方の焼きと息子さんの焼きはどちらもおいしいのですが、微妙な差があるのですね。」
「あ〜、それは僅かな差であって、たぶん、数秒の違いだと思います。」
添付写真に両方を並べましたので、その僅かな差がお分かりになると思いますが、"かえし" のメイラード反応の進み具合に違いがあります。数秒の違いは、白炭で焼かれる火加減の差も影響し、"かえし" の入った壺に浸す時間、引き上げるスピードも指しているのだと、店を後にしてから考え続けて納得したのであります。
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2019/08/20 更新
2019/07 訪問
夏仕立ての建具に囲まれ、うな重が出来上がるまで雑誌サライの "かけそば" 特集を読む
日本人なら「アスペルギルス・オリゼ (ニホンコウジカビ、Aspergillus oryzae) 由来の醤油、味醂、酒の味だよ!」と、帰国後、体内に棲みつく酵素を補充するが如く日本酒を補充している oggeti209 です。
三ヶ月間もイタリアにいるとすっかり身体がイタリア人になってしまうことも『いいなぁ』と思うのですが、生活の基盤を日本に置いている私としては諸手続きもしなければ日本から追い出されてしまうし、トランジットで四泊したウィーンでリムジンタクシーの代金を払って手持ち現金(ユーロ)を使い切ってしまったことを思い出し、『どうしてトリノ到着三日目に現金の3/4が無くなってしまったのか』と、反省するも『娘や孫娘の成長の為になるのだったら仕方ないね』と、納得するのであります。それにしても日本でステイタスなクレジットカードは単なる "見栄" でしかなく世界標準ではなく、一般的なVISAやMASTERが一番有効であることを知ったのは、かれこれ10年以上も前のことです。カード会社 ゴメンナサイ。
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車の示す温度計が 41℃にもなった "土用の丑の日" を外したこの日、帰国後二度目の「信川円」です。
月初めに訪れた時は、障子の建具だったのですが、この日はすっかり "夏仕立て" になって外気の暑さを忘れる素敵な空間が出来上がっていました。江戸時代から地方出身者の塊である東京の飲食店は野暮ですからアサガオの鉢が置かれるのは良いほうで、京都の料理屋のような "夏仕立て" を設えに備えている店は少ないです。 日本人の生活の工夫、いいですね!
料理については書き尽くした感がありますので、過去レビューをお読みいただきたいのですが、私は、うなぎの蒲焼に関して「冬の鰻が好き」と、書いているように水温が下がり冬眠状態になって年を越して枯れた鰻が好きです。夏季の "土用の丑の日" というのは、皆さんご存知のように平賀源内のキャッチコピーであり、本当においしいのは冬眠に備え脂肪を蓄えた初冬の鰻だと言われています。
私は、この脂肪を燃焼して枯れてきた立春頃の香りが凝縮してきた鰻が好みです。巷で珍重されている "脂ぎった鰻" は、テカテカした小太りのオヂサンのようで好きではありません。
ところが、この店で使っている "細口" の鰻の場合、餌喰いをして太リ始めた今頃でも其れなりに香りがあり、「Hmmmm、おいしい!!!!!」となるのでありました。
すっかり先代親方から技を受け継いだ息子さんが、(割き−串打ち−下焼き−蒸し−タレ付け~仕上げ焼き) した鰻の蒲焼は、そろそろ名人の域に達しているのではないかと思われます。伝統の味を引き継ぐ人が存在している店は、『自分の子や孫の世代になっても通うことができる』という安心感があり、自然に足が向いてしまいます。
うな重 (は) が出来上がるまで捲っていた雑誌「サライ」に "かけそば" 特集がありました。嬉しい!
蕎麦好きな方が語る "もりそば" のおいしさも理解するのですが、アスペルギルス・オリゼ (ニホンコウジカビ、Aspergillus oryzae) に拘る私は、夏でも "かけそば" です。同じ感覚を持った編集者が "小學館" に居たことに日本の出版業界の目利きの良さを思わざるを得ませんでした。(単純に賛同者がいて喜んでいるだけ)
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"夏仕立て" 1
"夏仕立て" 2
うな重 (は)
自家製こんにゃく
山葵だけで食べるとこんにゃく芋の香りがよく分かる
雑誌「サライ」小學館
歌川豊国の浮世絵
並木藪蕎麦
"かけそば" 秘伝のつゆ
瓢亭の夏仕立て
或るapartamentoの夏仕立て
午前七時の光
「サライ」に倣って "寒河江そば" で "ぶっかけ" を作ってみた
車の温度計、外気温41℃
2019/07/30 更新
2019/07 訪問
温かいそば → TKG → 家庭料理 → うなぎの蒲焼
「出発前に食べておこう Vol.□」シリーズの逆をやっている気分ですが、「神田まつや」→「紀ノ国屋 インターナショナル」→「信川円」と辿り、出発前にアップしませんでしたが「弁天山美家古寿司」と「ほかけ」があり、ラーメンの「タンタン」を食べれば、 "ふりだし" に戻ります。
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この日、父の墓参りをした帰り道、国立(クニタチ)に寄りました。44年前と同じ肌寒い梅雨空です。
「こんにちは。」
「ほっぉ、お久しぶりですね。」と、ご主人。
「こちらの蒲焼を食べたくなりました。」と、私。
帳場のお内儀さん、姥目樫備長炭を使った炉に立つ息子さん、お重盛り付けのお嫁さん、皆さんが笑顔で迎えてくれます。この日は座敷に座り、青梅の小澤酒造「澤乃井」辛口の冷酒を頼みました。
"手作りこんにゃく" と "肝焼きふた串" を肴に妻と二人でキューとやると「もう一本頼もうか。」となり、適当に下地が出来上がった頃合いを見計らったように、
「お待ちどうさま。」と、お内儀さんが私の「うな重 "は" 」(ひと串半) を座卓に置き、蓋を取ればご覧の景色、まずは眼福。
立ち上る蒲焼の香りをじっくり楽しみながら『日本人で良かったなぁ。』と、アスペルギルス・オリゼ (Aspergillus oryzae、ニホンコウジカビ) は、この梅雨の湿度があるから育まれるのだと日本に戻って次第に馴染んでいる自身の体調を思い、『初めてのコンクリートの長屋 (Apartamento、所謂マンション) 住まいは、エアコンの除湿機能を使えば快適だ。』と、イタリアでの日常を懐かしむ。
合わせて添付写真のコメントをご覧いただけると嬉しいです。
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"肝焼きふた串" は、苦味、甘味、旨味のバランスが素晴らしい!
"手作りこんにゃく" も蒟蒻芋の香りが口いっぱいに広がる。おいしい!!!
醤油は使わない
「うな重 "は" 」(ひと串半)
慌てずゆっくり食べる。細口のウナギが一番おいしい。身のきめ細やかなこと。山椒は使わない方が、より蒲焼のおいしさが分かる。
2019/07/09 更新
2019/03 訪問
冬の鰻が好き
このSNSの皆さんや料理人の中には、今年3月2日に放映された NHK BS プレミアム「和食の神髄をデータ化せよ」をご覧になられた方も多いと思います。見逃した方は、こちら↓のオンデマンドで確認するという方法もあります。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019095786SC000/?capid=nte001
ー 以下、番組案内よりコピペ ー
まさに門外不出!一子相伝のぐじ焼きの技をカメラ前で初公開! ▽400年の歴史を刻む老舗料亭十四代目の美学あふれるあゆ焼きの、常識破りの技とは? ▽牛フィレ肉に秋の香りをまとわせる技にひそんでいた、思わぬ落とし穴とは一体? ▽「焼く前の塩=うま味が増える」は勘違い?解き明かされた“うま味が増える技”のナゾ ▽船遊びがテーマの天井、質素静ひつな茶室、着物映えのする内装…各個性が光る最上級のもてなし空間
出演は、進行役の菊乃井三代目主人 村田吉弘氏 そして、瓢亭十四代目主人 高橋英一氏 、木乃婦三代目主人 高橋拓児氏 、一子相伝なかむら六代目主人 中村元計氏 、菊乃井統括料理長 辻昌仁氏 、そして、調理科学者の川崎寛也氏 の各氏でした。
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92042/2042479/index.html
***
和食における "焼き" に焦点を当てた番組でしたが、瓢亭十四代目主人 高橋英一氏の発せられた「私は絶対、鮎 と 鱧 と 鰻 は、炭火に限ると思うておりますんでね。」の言に甚く共鳴いたしました。
お札を燃やしているぐらい高価な姥目樫の備長炭を使っている信川円のご主人からも同じ話を聞いています。
「一時、経費節減を考え、下焼きだけに電気炉を使ったことがあるのですが、どうしても鰻の芯まで上手いこと焼けないのです。」
表面をパリッと焼いて中がフワッとしている鰻の蒲焼は、鰻という魚そのものの香ばしさとタレとが混ざったメイラード反応によって堪らないほどの食欲を誘います。これを口に含んだ時に唇や舌に当たるようでは単なる焼き魚です。箸で摘まんでスッと切れるぐらいの表面の焼け具合とその下にある身の柔らかさとが一体になることが大切です。
多くの "鰻食い" は、「焼け焦げが無く、フワッ、トロッと柔らかくておいしかった。」と蒸し工程の入った関東割烹背開きの蒲焼を表現しますが、果たして、それは本当においしいのでしょうか?
鮎焼きに関して、料理人仲間からも当代随一と呼ばれる瓢亭十四代目主人 高橋英一氏は、「バリッというくらい表面を焼いた鮎を頭から食べていただきたい。」と鮎塩焼きの醍醐味を語っています。その熱源は、電熱器でもガス火でもありません。姥目樫の備長炭なのです。
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この日、うな重「は」(一串半) と「肝焼き」をいただきました。
冬場の鰻は、水温が冷たくなり動きが緩慢になり、餌喰いが少なく(天然物だと冬眠するともいわれる) 秋に貯めた脂肪を燃焼しながら生き長らえていますので、寧ろ、香りが良くなってきます。それは鰻本来の香りであって、餌の香りが残る脂が浄化され、洗練された香りです。
この"細口" 鰻から取れる肝も小さいのですが、香りと旨味は素晴らしく、一串だけでお銚子二本が空になってしまうのではないかと思うくらいのおいしさです。
これは、アメリカにもヨーロッパにもない、日本が世界に誇ることのできるニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)由来の料理と酒です。おいしい!!!!!
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山椒は不要、2018年11月末
山椒は不要、2019年1月末
山椒は不要、2019年3月初め
山椒は不要、肝焼き、おいしい!!!!!
自家製こんにゃく
鰻は、大ぶりのものではなく180gぐらいの細口が特においしい
小上がり1
小上がり2
四人掛けテーブル席×4
2019/03/05 更新
気持ちが安らぐ店。それは、料理と同じく夫々 "好みの問題" です。
私のトップページにある「おすすめレストラン TOP10」↓ は、何度訪問しても心が穏やかになる佳い店です。
1、Schwarzwaldstube(ドイツ バーデン・ビュルテンベルク州)
2、瓢亭 本店(京都 蹴上)
3、Il Salumaio di Montenapoleone(イタリア ミラノ モンテ・ナポレオーネ通り)
4、レストラン 代官山小川軒(東京 代官山)
5、Ristorante SCAT_TO(イタリア トリノ Piazza San Carlo)
6、The Four Seasons Hotel Milano(イタリア ミラノ モンテ・ナポレオーネ通り)
7、Ristorante Taverna San Martino(イタリア Piemonte Saluzzo)
8、空也(東京 銀座)
9、信川円(東京 国立)
10、Cantine Barbaroux(イタリア トリノ Via Giuseppe Barbaroux)
これら10店の内 6店はドイツとイタリアに滞在した時の店ですが、ナチュラルな笑顔で迎えてくれます。それはCAや連鎖店のようなマニュアル通りの表面的な笑顔ではなく、心からの微笑みです。「瓢亭 本店]」の茶懐石を基礎として400年余りの歴史を育んできた静かな "くずや" に座し、茶の湯の所作に則した対応を受けると『人としてこれらが理解できるようになり良かった』といつも感じます。
日本に限らないのですが覆面調査員による人事考課は、売上高・契約高や生産性など数値で表される職種だけでなく CA やホテルマン、レストランで働くフロア係にも実施され、これを意識するとぎこちなく過剰な笑顔になることは避けられません。心からの微笑みは余裕のある経営と店としての矜持があればこそ自然に生まれます。
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この日、「白焼で酒を飲もう」と妻を誘い、店近くのバス停で降り暖簾を潜ると、親方、女将さん、息子さん、お嫁さん がいつも変わらぬ笑顔で迎えてくれました。良いですね、家族経営の店は。
この店の投稿は今回で26回目になり、料理についてはたくさん書いてきましたので過去レビューをお読みいただくとして、今回は、割き〜串打ち〜白焼〜蒸し〜たれ浸し〜本焼き の長い行程を経る鰻屋での "間(ま)" の楽しみについて少し書きます。
私は食いしん坊なものですから "おひとりさま" で食べるのが好きです。
同席者が自分と同じ味覚を持っていて "寡黙" な妻であれば料理を食べることに集中できるので問題ないのですが、会話をすることが目的で料理屋へ入るのが苦手です。気の合った仲間三人以上で訪れていれば自分だけ黙っていても場は保たれますので問題ないのですが、接待を行うあるいは受けるという場合は気遣いが先行して表面的な味しか分からなくなり、正しく味わうことができず料理人に対して申し訳ないと思うのであります。
料理の楽しみは暖簾を潜る前から始まり、挨拶して、席に座り、注文を伝え、料理が出てくるまでの "間(ま)" が楽しいです。
鰻屋 "おひとりさま" の場合、先付け程度のつまみで盃を重ねながら30分程度 文庫本を開き、鰻の蒲焼が仕上がるのを待つというのが一般的な景色であり、スマートフォンを開くのは野暮の極みです。ここ「信川円」では南に面した窓下に小さな本棚が据えられ品格のある雑誌類が置かれています。パラパラと捲り、そこに描かれた世界に浸りながら待っていると「おまちどうさま。」と女将さんの優しい声と共に 鰻重 (は) 一串半 が運ばれてきます。まずは全容を眺め、ゆっくり重箱の蓋を取ると寒い季節のため餌喰いが少なくなった分、洗練された鰻の香りが立ち上り鼻腔を擽ります。決して忙しなく食べてはいけません。逸る気を抑えながらじっくりと味わい最後までゆっくり箸を運ぶと食べ終えた時の満足感が一入です。
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