ぼうずαさんが投稿した沁ゆうき(大阪/中津)の口コミ詳細

レビュアーのカバー画像

bowzの記録帳

メッセージを送る

この口コミは、ぼうずαさんが訪問した当時の主観的なご意見・ご感想です。

最新の情報とは異なる可能性がありますので、お店の方にご確認ください。 詳しくはこちら

利用規約に違反している口コミは、右のリンクから報告することができます。 問題のある口コミを報告する

沁ゆうき中津(大阪メトロ)、中津(阪急)、大阪梅田(阪急)/日本料理、居酒屋、海鮮

69

  • 夜の点数:5.0

    • ¥15,000~¥19,999 / 1人
      • 料理・味 5.0
      • |サービス 4.6
      • |雰囲気 5.0
      • |CP 5.0
      • |酒・ドリンク 5.0
69回目

2025/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

白子づいてないか?

時折、この店では、同じ食材が続けて姿を見せることがある。
どうやら大将の関心が、今は「白子」に向いているらしい。

先日の酢の物に続き、今夜は「鮨」と「コロッケ」。
皿が運ばれてくるたび、心の中で小さくつぶやく。
白子づいてないか、と。

まずは鮨。
海苔に包まれた白子は、とろりとほどけ、添えられた薬味が輪郭を与える。
酢飯の酸が甘みをきりっと引き締め、
あとには静かな余韻だけが残った。
主張しすぎず、それでいて確かに記憶に残る一貫である。

続いて、軟白ネギとホワイトソースを合わせた白子のコロッケ。
衣を割ると、中から白子が現れ、熱を受けて少しだけ表情を変えている。
ネギの甘みとソースのコクが重なり、
白子の旨みを別の方向から引き出していた。
揚げる、という選択がここではよく似合う。

ひとつの食材に、酢、鮨、揚げ。
手を替え、品を替え、可能性を探り続ける。
こうして引き出しを増やしてきたのだろう。
白子づいているのは、気まぐれではなく、探究の途中にすぎない。

2025/12/15 更新

68回目

2025/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

それぞれの行き先

河豚にしろ、鱈にしろ、白子の季節がめぐってきた。
同じ“白子”の名を持ちながら、その佇まいも、似合う料理もまるで異なる。

河豚の白子は、熱をくぐらせてこそ真価を見せる。
夏前にいただいた「昆布焼き」や「天ぷら」の余韻はいまも鮮やかだ。
張りつめた膜の下に潜む濃密さは、箸を入れた途端に溶けだし、
火を通すことでようやく、その力を惜しげもなく晒す。

一方、鱈の白子はそこまでの迫力を求めない。
むしろ、その“軽やかさ”が酢の仕事をきれいに受け止める。
最近の沁ゆうきでは、冷たい先付として
「鱈白子の酢の物」がそっと供されるようになった。

白子のとろみを酢のきりっとした酸味が引き締め、
昆布と柑橘の香りが静かに立ちのぼる。
強すぎもせず、弱すぎもせず、
冬の入口にふさわしい、控えめで端正な一皿だった。

白子は、調理法ひとつでその表情をがらりと変える。
だからこそ、季節の切れ目に出会う一皿が、ひそやかに楽しみなのだ。

2025/12/05 更新

67回目

2025/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

端境期の一椀

沁ゆうきの楽しみのひとつに、炊き込みご飯がある。
季節の移ろいをそのまま器に映し、ひと椀に“いま”を落とし込んでくれる存在だ。

四方竹が去り、食材の端境期へと移るこの頃。
冬が本気を出す前の、ほんのわずかな隙間――その静けさを埋めるように、
季節に縛られない炊き込みご飯がそっと姿を見せる。

代表格は鯛めし。
予約をしても、海の機嫌が悪ければ出会えない。
一期一会をそのまま煮含めたような、あの名物である。

そしてもうひとつ、昔から密やかに愛されてきた
「鶏とごぼうの炊き込みご飯」。
今夜は、その穏やかな一椀が〆を飾った。

鶏の旨みが米にゆるやかに染み、ごぼうの香りがふわりと立つ。
派手ではない。けれど、箸を運ぶたびに心のどこかがほどけていく。
端境期の夜には、こうした“季節に寄らない味”がよく似合う。

季節の一椀を追うのも楽しい。
だが、その橋渡しを静かに受け止める一椀こそ、沁ゆうきらしさでもある。

今夜はただ、その優しい炊き込みご飯をゆっくりと味わった。

2025/12/04 更新

66回目

2025/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

静かに始まる冬

沁ゆうきは、いまやコースのみの店だ。
もっとも、来店頻度によってその景色は変わる。
だから私は、二十年近く通い続けているのだろう。
「いつものコース」であって、「同じコース」ではない。

冬メニューが始まった。
ここ数年で定番になりつつある「熊」。
昔からの主役である「河豚」。
季節が深まるほどに、皿の表情も静かに変わっていく。

そんな中で今日選んだのは、正式にメニューへ載った
「河内鴨入りメンチカツ」。
試作の頃に何度か口にしているが、“正式採用”としては初めてだ。

メンチに箸を入れると、ふわりと鴨の香りが立つ。
脂はくどさがなく、旨みがゆっくりと滲む。
薄い衣は控えめで、かえって鴨の味をくっきりと際立たせる。
デミグラスソースと絡むと、コクがさらに深まり、
試作のときより輪郭がひとつ上がったことがわかった。

こうして冬が本格的に動き出す。
沁ゆうきの季節は、今年もまた、静かに始まった。

2025/11/27 更新

65回目

2025/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

冬への小さな合図

季節が進む。
沁ゆうきの献立にも、冬がそっと顔をのぞかせはじめた。
今、店に並ぶのは「河豚」「海老芋」「せこガニ」。
それぞれが、冬の入口を知らせる小さな合図のようだった。

河豚は薄造り。
噛むほどに静かな甘みがひらき、淡いのに、どこか芯のある余韻を残す。
色よりも辛味の強い紅葉おろしが、その淡さをきりりと締めてくれた。

海老芋は唐揚げで。
外は軽く香ばしく、中はほろりとほどける粘り。
芋というより、上品な甘さをまとった“柔らかな衣”に出会ったような食感だった。

せこガニは茹でで。
小ぶりな殻の内側に、ぎゅっと詰まった内子と外子。
ひと口で、冬の海の深い香りがふわりと広がる。

寒さが深まれば、熊の出番が訪れるのだろう。
まだ少し先の、静かな楽しみだ。

河豚、海老芋、せこガニ。
ひとつずつ味わうたびに、季節がまた一歩、冬へと進んでいくのがわかった。

2025/11/14 更新

64回目

2025/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

秋を告げる竹

沁ゆうきの楽しみのひとつに、季節の炊き込みご飯がある。

この季節は、四方竹。
ここでしか食べたことがない。
高知県で秋を告げる竹で、断面が四角いことからその名がついたという。

柔らかすぎず、かといって硬くもない。
噛むたびにほのかな甘みがにじみ、出汁を含んだ米とともに、秋の香りがゆっくりと広がる。

春には豆ごはんや筍ごはん。
夏にはとうもろこし。
そして予約しても入荷がなければ出会えない鯛めし。
季節ごとに、ほんのひとときだけ現れる一椀がある。

季節を感じながら食べるというのは、
単に旬を味わうことではない。
今という時間を、確かに生きているということだ。

今夜の四方竹もまた、そんな“今”の味がした。

2025/11/12 更新

63回目

2025/10 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

野菜は皿だ

とあるCMで、古田新太さんが叫んでいた。
「野菜は皿か!」
肉ばかり食べて野菜を残す人への嘆き――
その言葉を、沁ゆうきの一皿で思い出した。

この日のメインは、ハンバーグ。
かつてはメンチカツとして姿を見せたが、今回は原点への帰還。
写真を見たとき、輪切りのカボチャにミンチを詰めて焼いたものかと思った。
けれど違った。
カボチャは“皿”だったのだ。

焼き上がったハンバーグの肉汁を、カボチャがすべて受け止めている。
甘みと旨みが重なり、フォークを入れるたび、香りがふっと立ちのぼる。
この皿に限っては、野菜は脇役ではない。
むしろ、主役を支えるもうひとつの舞台。

あのCMでは、「野菜は皿じゃない」と嘆いていたけれど――
この夜ばかりは、そう思った。
やはり、野菜は皿だ。

2025/10/30 更新

62回目

2025/10 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

季節を譲る夜

沁ゆうきの楽しみのひとつは、選べるメインだ。
いつも悩ませてくれる。

寒くなると、メニューも少しずつ衣替えを始める。
「熊」と「河豚」が顔を出すころ、誰かがそっと姿を消す。

今年、去っていくのは「鴨すき」だった。
それを聞いた夜、迷わず名残の一皿を選んだ。

鍋の中では、脂ののった鴨がゆっくりと色を変えていく。
長ねぎの甘みと出汁の香りが、ふわりと湯気の中で重なる。
箸を入れれば、肉はしっとりと柔らかく、旨みがほどけて広がる。
そこに日本酒をひと口。
冷えた夜の空気までもが、静かに溶けていった。

「熊」や「河豚」に季節を譲りながらも、鴨すきは去り際まで美しい。
春になれば、また会えるだろうか。

湯気の向こうで、そんな思いだけが静かに残った。

  • 昨年の冬メニュー

2025/10/25 更新

61回目

2025/10 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

ウイスキー“も”、お好きでしょ

お酒は好きだ。
苦手なものが、無いわけではない。
けれど、気づけばいつも何かしらの盃を手にしている。

今でこそ日本酒が多いが、私のお酒人生はバーボンに始まり、やがてスコッチへと進んだ。
氷が鳴る音。
琥珀の香り。
その頃の夜には、まだ若さの苦みが混ざっていた気がする。

この夜の沁ゆうきでは、隣の客と会話が弾み、日本酒が思いのほか進んだ。
だが、揚げ物が出てきたところで、ふと切り替える。
――角ハイをください。

グラスの中で弾ける泡を眺めながら、不意に流れる旋律。
石川さゆりさんの「ウイスキーが、お好きでしょ」。
思わず小さく笑ってしまう。

そう、日本酒も好きだが、
ウイスキー“も”、お好きです――と答えながら。

2025/10/16 更新

60回目

2025/10 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

定番という特別

ひとりで訪れることも多いが、大切な人をもてなすときにも、この店を選ぶ。
この夜は、いま抱えているプロジェクトのメンバーを誘った。

こういう日ばかりは、私用の少し変わったコースではなく、この店の定番を並べる。
冷・温の先付に始まり、お造りの盛り合わせ、焼き物、箸休め、そしてメインと〆、デザートへ。
その流れの中で、料理が静かに店の物語を語り出す。

メインと〆はそれぞれが選べる。
「何がお勧めですか」と問われ、私は笑って返した。
――好きなものを選びなさいよ。
全部食べたからこそ言える、「何を食べてもおいしいよ」。

私は今日は「ねぎま鍋」と「トロたく巻」。
湯気の向こうで、それぞれが自分の一皿を楽しみ、穏やかに笑っていた。

誰かを連れてきたくなる店。
私にとってそれは、いつも変わらぬ定番であり――
少しだけ特別な場所なのだ。

2025/10/15 更新

59回目

2025/10 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

丼の記憶

ふと記憶をたどると、「にのま」にあった一品が甦る。
名を「うにとろいくらのちょっと丼」といった。

その名の通り小ぶりで、うに、まぐろ、いくらが散りばめられた、愛らしいちらし寿司。
一口ごとに贅沢さと可笑しみが同居していて、だからこそ心に残ったのだろう。

そしてこの夜、沁ゆうきで供されたのは、その記憶を呼び覚ますような一椀。
ただし今回は“ちょっと”ではない。

器は中川自然坊の作。
飯茶碗にしては小さく、酒器にしては大きい、あの曖昧さをそのまま抱えた器に、
盛られていたのは──にのまの頃よりも少し大振りに仕立てられた丼だった。

うにの濃厚な甘みが舌を覆い、まぐろの旨みが静かに寄り添う。
いくらの弾ける塩気が全体をきりりと引き締め、口の中で調和と変化が繰り返される。

懐かしさとともにいただくその丼は、過ぎ去った時間を呼び戻し、
新しい「丼の記憶」として、器の中に静かに刻まれていた。

2025/10/03 更新

58回目

2025/09 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

いちじくの記憶

記憶を遡れば、いちじくとの最初の出会いはバーのカウンターだった。
琥珀色の酒に寄り添うように置かれたドライフルーツ。
ねっとりとした甘みと、かすかな酸味。
それが強いアルコールをやわらかく包み込んでくれたことを、今も覚えている。

やがて季節が巡り、生のいちじくにも出会う。
単体で食べることは少ないが、和食の白和えにひっそりと紛れ込む。
淡い甘みと瑞々しい食感が、胡麻や豆腐のまろやかさに寄り添い、静かに調和していた。

そしてこの夜、沁ゆうきで供されたのは、焼き魚の横に豆腐ソースをまとったいちじく。
胡麻の風味が魚の塩気をやさしく引き立て、盃を手にするたび、過去の記憶がふっと甦る。
料理の合間に、いちじくの話をしていたからだろうか。

最後に出てきたのは──ドン、と一皿のいちじく。
その存在感の前では、言葉は要らなかった。
ただ頷きながら、古い記憶の隣に、新しい記憶が静かに添えられていった。

2025/09/26 更新

57回目

2025/09 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

未完の完成

何かを形にしようとするとき、頭の中には「完成形」という像がある。
けれど、試作を重ねるたびにその輪郭は揺らぎ、気づけば手の届かぬまま霞んでいく。
では、どこで試作を止めるのか──。
実はそれこそが、一番難しい問題なのだ。

この夜、私に出されたのは四作目。
もっと前に、あるいは他の客には、さらに多くの試作が並んでいたのかもしれない。
皿の底には香味野菜がしっとりと敷かれ、その上に赤く艶めく魚。
鰹か、あるいは鮪か。
さらに春巻きの皮がカリリと添えられ、三味が口の中でひとつになる。
脂と酸味と青みとが、不思議な均衡を保ちながら。

「これで一応の完成かな」
そんな大将の声が聞こえる気がした。
私に出されたのは、数ある試作のひとつにすぎない。
だが、その形は確かに完成の一歩手前まで辿りついていた。

もっとも、大将のことだ。
また何か思いつけば、すぐに改造は始まるだろう。
そう予感しながら口にした一皿は、やはり「一応の完成形」と呼ぶにふさわしかった。

2025/09/18 更新

56回目

2025/09 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

ソースが選ぶ夜 ~封じられたハンバーグの行方~

ハンバーグを揚げたら、それはメンチカツになるのだろうか。
そんな素朴な問いかけから始まった試みは、思いのほか早く結末を迎えた。
最終的にメニューに残ったのは、ハンバーグではなくメンチカツだったのである。

理由は単純だ。
カリッと揚がった衣がデミグラスソースをよく絡め、口に運べばサクッとした食感のあとに、肉の旨みとソースのコクが一体となって広がる。
焼き目の香ばしさを誇るハンバーグも悪くはない。
だが、ソースとの相性を考えるなら、やはり衣をまとったメンチカツに軍配が上がる。
しかも厨房の段取りにおいても、焼くより揚げる方が自然に馴染んだ。

その夜、隣の席の客がぽつりとつぶやいた。
「結局、残ったのはソースに選ばれたほうってことだね」

なるほど。
勝者は料理そのものではなく、デミソースが導いた相棒の方だったのかもしれない。

2025/09/12 更新

55回目

2025/08 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

三人揃えば、まぐろ三兄弟

子供のころ、鮪を食べることは少なかった。
両親が好まなかったからだ。

だから鮪の魅力を知ったのは、大人になってから。
今はもう無い、あのバーの一階にあった寿司屋。
そこで初めて、赤身の凛とした酸味に目を開かされた。

沁ゆうきで出会うのは、また別の顔を持つ鮪だ。
〆に供されるネギとろ巻は、ほどける脂をシャリがやさしく受け止め、すっと消える。
トロたく巻は一転して沢庵の歯ざわりが加わり、濃厚と軽快が同居する。
そして、ごく限られた日にだけ現れる鉄火巻。
赤身の潔さがまっすぐに響き、三兄弟の長兄らしい風格を放つ。

もし三人で訪れ、それぞれが一巻ずつを頼み、三人でシェアすれば――。
一晩にして三兄弟を制覇できる。
そんな夜は偶然ではなく、巡り合わせの妙。
誰にとっても忘れがたい祝祭となる。

2025/09/04 更新

54回目

2025/08 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

封印される前に

きっかけは、一皿のデミグラスソースだったらしい。
どこかで出会ったその深い味わいに触発されて、大将は思った。
――このソースにふさわしい料理を作りたい、と。

まず試みられたのは、やはり定番のハンバーグ。
皿の上で立ちのぼる湯気に、濃厚なソースをまとわせる。
添える卵は目玉焼きか、それとも半熟卵か。
いや、昔ながらの洋食屋を思わせるカットしたゆで卵もありではないか。
そんな議論だけで、一夜が過ぎてしまうほどだった。

だが結局、メニューに残ったのはメンチカツ。
デミソースを受け止めるのは、肉の塊ではなく、衣の力強さだと判断されたのだろう。

となれば、このハンバーグはしばらく封印される運命にある。
私が口にしたのは、その封印前のほんのひととき。

偶然ではなく、通い続けてきた者だけが与えられる一皿。
――常連の特権とは、きっとこういう瞬間を指すのだ。

2025/09/03 更新

53回目

2025/08 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

夏の粒々

夏という季節が来るたびに、どうしても思い出してしまう食材がある。

トウモロコシ──甘くて、香ばしくて、そしてどこか懐かしい。 屋台の焼きとうもろこしにかぶりつくのも、もちろん嫌いじゃない。けれど、料理人の手にかかると、この夏の実りはまったく別の表情を見せるのだと、この夜あらためて知った。

たとえば、温かい先付。茶碗蒸しの上にとろりとかかった出汁餡。その中から、つぶつぶのトウモロコシが顔を出す。出汁の香りとともに、ふわりとした甘みが舌に触れ、ひと口目から季節の輪郭がゆっくりと立ち上がってくる。

揚げ物は、豆のコロッケ。断面に、黄色い粒がいくつも覗いていた。豆の香りに包まれながらも、噛むたびにじんわりと甘みを広げていくトウモロコシ。主張は控えめでも、確かな存在感を放っていた。

〆には、とうもろこしごはん。湯気の中にふわりと浮かぶ黄色の粒。蓋を開けた瞬間、ひと夏ぶんの陽差しが、茶碗の中に射し込んだようだった。塩とほんの少しのバターが、その甘みを引き出して、まるで計算されたかのような余韻を残す。

思えばこの夜は、「トウモロコシづくし」というほどではなかった。けれど、どの皿にも、その甘みと気配が静かに息づいていた。
名脇役?──いや、違う。 和食の世界でも、主役を張れる。そう思わせる、確かな一夜だった。

2025/08/20 更新

52回目

2025/08 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

試作の脇道

沁ゆうきの大将には、時折、突発的に“中華の風”が吹き込むことがあるらしい。以前は海老チリ。あの完成度を前にしては、常連もただ黙って箸を伸ばすしかなかった。だが今回、その風が向かった先は──春巻き、だった。

メニューにはまだ載っていない。けれど、裏では着々と試作が進んでいるという。そしてある夜、ふらりと出てきたのは、その副産物だった。余った春巻きの皮をカリリと揚げ、その上にたたきの魚と香味野菜。ただそれだけの即興。けれど、その皮の上で、味がひとつにまとまっていた。

本来は鰹だが、私の好みを知ってか、まぐろで供された。

そもそもこれは、春巻きという“本道”の試作から、ふとこぼれ落ちた“脇道”の料理にすぎない。けれど、沁ゆうきという店は、そうした寄り道の先で、思わぬ定番を見つけてきた場所でもある。

完成へ向かう道の途中で、思いつきで踏み込んだ脇道。だが、その一歩の先にしかない景色が、たしかにある。料理とは、そういうものかもしれない。

2025/08/07 更新

51回目

2025/07 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

封じられた記憶、すくい上げる旨味

この店で供される「旨出汁ゼリー」を、初めて目にしたときのことを、いまでもよく覚えている。透きとおるゼリーの中に、生湯葉がたゆたい、その上に雲丹といくらが彩りを添える──まるで一皿の中に季節と贅を封じ込めたような、そんな佇まいだった。

だが、これは突然生まれた料理ではない。聞けば、大将が修行していた店に、原型ともいえる夏の一品があったという。焼き茄子とオクラを使った、涼味を極めた旨出汁ゼリー。喉をすべり落ちるその味は、修業時代の記憶とともに、いまも大将の中に息づいている。

「沁ゆうき」のゼリーは、その記憶に、湯葉のやわらかさと、雲丹・いくらの華やかさを重ねたものだ。ひと口ごとに静かに、しかし確かに伝わってくるのは、原点を忘れず、けれどそこに留まらないという意志。受け継ぎ、変え、磨き上げる──それは、料理における進化の形であり、店の姿勢そのものでもあるのだろう。

過去があるから、いまがある。そして、“いま”が、また誰かの原点になる。そんな循環を、この小さなゼリーが静かに物語っている気がした。

  • 茄子・オクラ

  • 茄子?

  • 生湯葉

2025/07/31 更新

50回目

2025/07 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

コロッケをどうぞ、ふたたび

コロッケに季節を感じるなんて、少し前まで思いもしなかった。

そら豆のコロッケに出会ったのは、春の名残がまだ風に残る頃。衣の中に閉じ込められた香りが、青く、ほの甘く──あの一皿には、たしかに季節が息づいていた。

そして今夜、ふたたび。
供されたのは「ぼんちゃ豆のコロッケ」。山形・鶴岡の在来種と聞く。箸を入れれば、衣の裂け目から立ちのぼる湯気。その瞬間、鼻腔を射抜くのは、濃い緑の香り。豆でありながら、まるで若葉のようでもある。むしろ、山の土をまとった草の気配さえ感じる。

舌の上では、ほっくりとした餡が静かにほどける。甘みは控えめで、香りの奥に沈んでいる。そう、香りが主役なのだ。一口ごとに鼻を通り、静かに余韻を残していく。

素材を包み、形を変えるのがコロッケだとしても──この店では、素材が“語りかけてくる”。衣の向こうで、確かに何かが息づいている。

だから、やっぱりこう言いたくなる。

コロッケをどうぞ──ふたたび。

2025/07/29 更新

エリアから探す

すべて

開く

北海道・東北
北海道 青森 秋田 岩手 山形 宮城 福島
関東
東京 神奈川 千葉 埼玉 群馬 栃木 茨城
中部
愛知 三重 岐阜 静岡 山梨 長野 新潟 石川 福井 富山
関西
大阪 京都 兵庫 滋賀 奈良 和歌山
中国・四国
広島 岡山 山口 島根 鳥取 徳島 香川 愛媛 高知
九州・沖縄
福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄
アジア
中国 香港 マカオ 韓国 台湾 シンガポール タイ インドネシア ベトナム マレーシア フィリピン スリランカ
北米
アメリカ
ハワイ
ハワイ
グアム
グアム
オセアニア
オーストラリア
ヨーロッパ
イギリス アイルランド フランス ドイツ イタリア スペイン ポルトガル スイス オーストリア オランダ ベルギー ルクセンブルグ デンマーク スウェーデン
中南米
メキシコ ブラジル ペルー
アフリカ
南アフリカ

閉じる

予算

営業時間

ページの先頭へ